税理士事務所の採用で、適性検査は役に立つのか?
- 斉藤永幸
- 11月16日
- 読了時間: 7分
更新日:11月24日

採用のお手伝いをしているとき、よくある質問があります。
「面接のときに適性検査ってやったほうがいいの?」というもの。
そこで今回は、税理士事務所での適性検査について考えてみたいと思います。
一般企業では非常に多くの企業で取り入れられており、就職みらい研究所『就職白書2022』によると、87.8%の企業が筆記試験・適性検査を実施しているといいます。
税理士事務所でもかなりの大手はもちろん、採用に積極的な中小規模の事務所でも実施しています。
しかし実施率は非常に低いですね。
特に中途採用、経験者採用では、中小の税理士事務所で実施する割合は2~3割程度といったところでしょうか。
ではなぜこのような状況が生まれるのでしょうか。
そもそも適性検査とは、大きく分けて2種類あります。
・働くうえで必要となる能力を図る「能力検査」
・応募者の性格・人となりを把握するための「性格検査」
です。
まず税理士事務所で採用を行う場合、この「能力検査」については、基本的には資格や経験によって判断されることが多いです。
一般企業で入社後、研修を繰り返し時間をかけビジネスパーソンに育てていく環境と異なり、中小規模の税理士事務所では実務能力が重視されるからです。
求職者の能力を診断するといっても、適性検査ですべての能力を図ることはできません。
それならわかりやすい資格や経験が重視されるというのは、当然といえるでしょう。
そもそも入社してどんな仕事を頼むか、そのために必要な能力は何か、といったことが明確なので、「能力検査」でポテンシャルなどを図っても、そこまで意味はないのです。
(もちろん新卒・第二新卒や実務未経験の人材を、ポテンシャル採用しようとする場合は、この能力検査も非常に有効です)
ではこの「性格検査」はどうでしょうか?
実はこの性格検査、使い方によっては税理士事務所であっても非常に有効だと感じています。
雑誌やネットなどに転がっている「性格診断」などは、結果に対してそこまで根拠はありません。
単なる<楽しむもの>です。
しかし採用の際に使うものは、そんな子供だましなものではありません。
多くの企業が時間をかけ、論理的根拠に基づいて作成されています。
そのため求職者の性格・傾向をしっかりと浮き彫りにすることができるのです。
そのため性格検査だけ見ても、適性診断はそれなりに実施する意味はあるといえるでしょう。
ただ、費用も掛かりますし、手間も発生します。
それだけの価値はあるか、ということになります。
適性検査は繰り返すことで効果が高まる
このように適性検査は、ある一定の効果はあります。
適性検査を受けた求職者の性格的な傾向を知る、ということは大木に意味があるのです。
ただ、それだけで採用・不採用を決めるのは、適切ではありません。
先ほど、ある程度の精度はある、と言ったことの反対になってしまいますが、あくまで適性検査なのです。
あくまでも傾向などがわかりますが、それで求職者がどれだけの価値があるのか、というのはなかなか測ることはできません。
価値観のような強固なものはあまり左右されませんが、検査を受けたときのメンタリティによって結果が左右される部分も大きいです。
また、税務会計業界にカスタマイズされたものではないため、指標が業界のものとずれていることもあります。
そのため中小税理士事務所では、必ずしも実施する必要はないけど、余裕があればやったほうがいいのではないかな、くらいのものです。
ただ、この適性検査が効果を発揮するのは、繰り返し実施した時です。
数年に一度、欠員が出たときだけ募集をする、という事務所では単に「この人は良さそうかな」くらいの効果でしょう。
しかし、年何回も募集を行ったり、定期採用をしている税理士事務所になると、ぜひ採用のプロセスに適性検査を取り入れた方が良いでしょう。
その理由は、繰り返すことでデータを蓄積することができるからです。
適性検査の結果というのは、あくまでデータにすぎません。
ただ、一つのデータでしかわからないものであっても、それがいくつも積み重なることで大きな意味を持つことがあります。
この適性検査はそうしたものといえるでしょう。
単に「この人は良さそう」というものでも、実際に採用してみたら思ったような働きができない人もいます。
そうなれば次はこの数値の人はそこまで期待できない、などがわかります。
それが積み重なれば、客観的なデータとなり、採用の基準の一つにもなりえるのです。
他業界の企業では優秀な人材でも、自分の事務所では実力を発揮できない、逆に自分たちの事務所でなら輝ける、そんな人材もいます。
適性検査でデータを積み重ねると、そうした傾向が見えてくるのです。
適性検査が所内の改革につながることも
こうしたデータが積み重なると、その価値は単に採用の可否基準だけにとどまりません。
自分たちの事務所で活躍するのはこういう人材、というものがわかれば、そうした人材がより進化を発揮できる環境を作るにはどうすればいいのか、ということが逆算できるのです。
例えば、今活躍しているスタッフが、自分のプライベートなどを大切にしている、という傾向を持っていた人材だとします。
その場合は、社内の業務の効率化を進め、定時内での集中力を高められる環境を用意することで、より生産性を高めることができます。
逆に、集中力が低めという傾向があれば、休憩時間を一定時間ごとに設けるなど勤務体制や労務環境整備などのヒントとなりえるのです。
同時に、資格や経験によらない採用戦略を立てることも可能になります。
税理士事務所の多くが、採用の基準として資格と経験を重視します。
そして面接などで求職者の性格などをしっかりと見抜くことは、経験を積んだ人事のスペシャリストでも難しいのです。
その結果、面接を行う所長や代表、マネージャーの「好み」に合う人材ばかりになってしまう、ということが往々にしてあり得ます。
しかし適性検査を実施することで、主観的ではなく客観的なデータに基づき、今回はこうした傾向の人材を採用し、次の採用ではまた別の傾向の人材を採用しよう、というようにある程度の戦略を立てることができます。
組織が大きくなると、均一的な人材ばかりでは成長が難しくなります。
だからこそあえて主流な傾向から外した人材も必要になってくるのです。
これを面接だけで行うのは、非常に難しいのです。
そんなときに指標となるのが適性検査なのです。
このように一度や二度、適性検査を実施するというのは、やってもいいけどやらなくても問題ではない、くらいです。
しかしある程度組織が大きくなり、年に1回以上採用を行うようであれば、ぜひ採用プロセスに取り入れることをお勧めします。
年に一度のペースでは、真価を発揮するまで7~8年、長ければ10年近く時間がかかるかもしれません。
しかし、採用の確度が上がり、組織が成長していけば、採用する頻度は増えるので多くの場合数年で徐々にデータを集めることができます。
適性検査自体はそこまで費用も高額ではありませんし、実施する負担もそこまで大きくはありません。
そのため(徐々にでも)事務所を大きくしていきたい、その場合は適性検査を実施することは意味があると思います。
逆に、事務所はそこまで成長させなくてもいい、今いる人材だけで規模などは維持できればいい、という場合が実施しなくてもいいのでは、と考えます。
このように採用プロセスの細かい部分でも、アドバイスできることがあります。
採用に関する疑問などございましたら、お気軽にこちらよりご連絡ください。
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