足りなくなってからではもう遅い~採用のタイミングとは~
- 斉藤永幸
- 10月26日
- 読了時間: 6分
更新日:11月24日

税理士事務所が破綻する原因
税理士事務所は非常に安定した職場です。
一般的な企業のように、いきなり破綻するといったことはほとんどありません。
あるとすれば、不法行為による営業停止や免許はく奪くらいでしょうか。
お客様からの評判が悪化し、売り上げが減る、ということもありますが、その場合は緩やかに減少していくため、どこかでしっかりとした手を打っておけば破綻までは行きにくいのです。
また、大手の企業と契約しているところでは、売り上げの大部分をその企業が占めており、そこで問題が起きれば破綻するかもしれません。
しかし中小の税理士事務所では、やはり中小企業のお客様が大部分というところが多く、売り上げが分散しているためリスクは低いといえるでしょう。
そうした中でも、世の中には毎年破綻的状況に陥る税理士事務所があります。
その原因は何でしょうか?
ある税理士事務所の悲劇
これは自分が相談された時には、手の打ちようがなく、結局は事務所がほぼ破綻状態に追い込まれたケースです。
そこは設立から10年、税理士2名、正社員のスタッフ10名、アルバイト4名の、トータル16名のいわゆる中堅税理士時法人でした。
取り立てて特徴のない事務所で、スタッフ一人当たりの担当件数は30件ちょっと、給与はそこそこ、ただ問題はちょっと残業が多いことでした。
一か月平均で30時間を超え、代表もそろそろまずいと思ってスタッフの増員を行おうとしていた矢先、新規で規模の大きな案件が入ったのです。
代表の税理士はそちらに回り、今まで代表が担当していた案件をスタッフで分担する、となったタイミングでスタッフの一人が精神的にバランスを崩し、勤務続行が不可能になってしまったのです。
そこから崩壊の連鎖が始まりました。
働けなくなったスタッフの分を急遽、他のスタッフに割り振ったのですが、あきらかに過重労働に。
慌ててWEBで採用しようとしたのですが、掲載まで10日前後、それから応募があって採用に至るまでに1か月弱はかかります。
幸い、一人経験者を採用できたのですが、すぐに働けるという人を優先させた結果、性格などをしっかりチェックできず、入社後トラブルに。
その影響で入社、2週間で退職してしまったのです。
この段階で皆の残業時間は月45時間を超えており、これで決算が集中する月に突入したらとスタッフは危機感を募らせていました。
しかし状況は数か月後の決算月まで持ちませんでした。
サポートをしてくれていたパートスタッフにも当然、荷重がかかっており、残業が増えた結果家庭に支障があるからと辞めていく人が続出。
これまで会計データの入力などはパートが担当していたので、その分のしわ寄せもスタッフに来ると、ここで一気に皆の限界が訪れました。
あとは耐えきれなくなった人から辞めていく、という状況が続きました。
この段階で自分に相談が来たのですが、ここから巻き返すことは不可能でした。
結局、スタッフは2名まで減少、パートは全員辞め、税理士2人も喧嘩別れとなり税理士法人は解消。
それぞれが個人の税理士事務所を構えることで、再出発となったのです。
最初のスタッフが働けなくなってから、税理士法人解消までわずか半年の出来事でした。
状況に対応では足りない
上記のようなケースで、どのように対応すればよかったのでしょうか?
自分なら、最初に新規で案件が飛び込んできた段階で、まずは派遣でもパートでもいいので増員します。
案件がスタートし、人手が足りなくなってから増員、では実際にうまく動き出すまでに時間がかかってしまいます。
余裕がないからこそ、自分に合った正社員を採用することができず、傷を広げることになってしまいました。
そのためまず採用などに力を割く「余裕」を無理やりにでも作り出す必要があったのです。
ただ、そもそも残業が常態化している状況自体が、この崩壊を招いたとも言えます。
税務会計業界は以前から残業が多い、と言われています。
近年でこそ多くの税理士事務所が残業削減に取り組んでいますが、2010年代前半までは当たり前のように月50時間以上の残業、繁忙期では100時間を超える、というところもありましたね(今ではそうした事務所はなくなったと思いたい…)。
しかし今でも、余剰人員などという考え方は気にせず、人が足りなくなったら採用する、という考え方がほとんどではないでしょうか。
ある税理士事務所の所長がこんな考え方で採用のタイミングを決めていると聞かせてくれました。
「月176時間が標準的な勤務時間のスタッフ数が5人だとすると、平均の残業時間が35時間を超えると一人分の労働時間換算になる、そのタイミングで新しい人を採用するんだよ」
つまり残業時間のトータルが一人当たりの労働時間を超えてから採用する、というのです。
こうした考え方は、低価格を売りにしている税理士事務所に多いですね。
ただ、これは非常に危険です。
以前のように、買い手市場で経験者でもすぐに採用することができるような状況ならともかく、今のような売り手市場では採用活動は長期化しやすいのです。
売り手市場では、少々スキルやキャリアが足りなくても採用せざるを得ません。
それをフォローしたり教育したりする人材が必要なので、しばらくは一人前の働きはできず、それどころか既存のスタッフにさらなる荷重がかかることもあります。
人手不足で新規採用しても、過重労働が常態化していて雰囲気も悪く、放っておかれた結果定着せずすぐに退職、その結果人手不足は解消されない。
そのような状況が続けば、既存のスタッフも辞めていく。
無駄のない組織は理想的ですが、人である以上常にタイムラグは発生します。
だからこそ「足りない」という状況が生まれてしまった時には、すでに遅いタイミングといえるのです。
組織が小さいうちは、余剰人員を抱えておく余裕はないかもしれません。
しかしある程度の段階に来た事務所でしたら、余剰人員=リスク管理としてあらかじめ先手を打つ採用を考えてみてはいかがでしょうか。
採用のお手伝いでは、そうしたサポートも行っております。
興味を持っていただけましたら、こちらよりお気軽にご連絡ください。
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