税理士事務所の都市部と地方の採用事情
- 斉藤永幸
- 11月12日
- 読了時間: 8分
更新日:11月24日

税務会計業界の地域間格差
税理士事務所は従来、地場産業です。
地域に住んでいるお客様に対し、地域の税理士事務所がサービスを提供する。
それが当たり前でした。
近年では法律が改正され、税理士法人化なども進み、Web広告が活発になったことで全国から集客し、成功を収めている税理士事務所もあります。
しかしそれはごく一部。
これを実現するには専門的なスキルを持つ人材と設備、いわゆる資本がなければなりません。
そのためほとんどの事務所は今後も、基本的には地域で活動を続けていくでしょう。
問題なのが地域間格差です。
都市部と地方の経済力格差は大きくなり、その影響を一番に感じているのが地方で活動をしている税理士事務所ではないでしょうか。
それがお客様の売り上げ低下に伴いサービス単価の下落や、倒産・廃業などによる顧問契約の停止、など事務所の運営に大きな影響を及ぼしています。
そのため税務会計業界であっても、地域間格差が広がっていると考えた方が良いでしょう。
しかしその隙間を埋めるための方策を採っているところはほとんどありません。
それが大きく表れているのが、採用のシーンです。
地方での募集に応募する人材が非常に少ないのです。
都市部でも税理士事務所の人手不足は深刻です。
だからこそWeb広告などで税理士事務所の求人広告は増加しており、逆に求職者は減少しているため、極端な売り手市場になっているのです。
それでも東京を中心とした首都圏、大阪・京都、名古屋近辺はまだましです。
地方に目を向けると、さらに深刻です。
地方では、新規で業界に入ってくるスタッフが減少。
求人広告を出しても人が集まらず、ハローワークなどを経由して入社するのは年齢の高い人が多い、という状態が続いています。
若い世代は地元志向が強まっており、就職した後も地元で就職する、という割合が徐々にではありますが増えています。
日経新聞2020年7月21日の記事によると、『日本では近年、生まれ育った地元で暮らし働こうという「地元志向」が強まっています。新型コロナウイルスに伴うテレワークや新しい生活様式の普及などから、この地元志向のトレンドがさらに強まりそうです。』とあります。
経済の地域間格差は広がっているといいますが、求人ではWebメディアが発達し、都市部の大学などに在籍していても、地元の企業に就職活動ができるようになりました。
また、地方の企業も都市部で就職説明会を開いたり、地元に若者を呼び戻そうとする施策を打ち出し、なんとか人口の流出を食い止めようとしています。
もちろん一気に過疎化が進む地域もありますが、地域の中核都市や規模の大きな県庁所在地などでは、効果が徐々に出ているところもあります。
しかし税務会計業界を見てみると、こうした地元志向は他業界に比べると弱いように見えます。
以前から都市部で経験を積み、地元にかえって独立開業、という人は多かったのですが、それでも地元でスタッフとして実務スキルを身につけようとする若い人材は一定数いました。
そうした人材が税務会計業界ではなく、企業に就職を選んだり、地元を離れ都市部の事務所に就職するなど『地元の中小税理士事務所』が選ばれなくなっているのです。
ではなぜこうしたことが起きるのでしょうか?
情報の鮮度が差を生み出す
実は、こうした就職における差は、事務所によって強弱があります。
地方でも規模の大きな事務所はやはり強いので別格としても、注目すべきはTKCやfreeeなどを活用している事務所は健闘していることです。
ここから導き出されるのは、 情報の差、です。
言わずと知れたTKCは全国的な組織で、事務所間のつながりは強いです。
freeeはクラウド会計で躍進しましたが、顧客の紹介などで強いつながりを持っている事務所も多いですね。
そうした事務所は地方部にあっても、都市部の状況がどのようなものであるか、ある程度の認識が広がっているのではないでしょうか。
税務会計業界を目指す人の多くは、TACや大原などの専門学校に通い、資格取得を目指します。
そうした学校は地方でも中核都市に多く、近年ではWEBでの受講なども定着し、若い人材は都市部の情報などをしっかり把握しています。
しかし地方の中小税理士事務所はどうでしょうか?
税務会計業界を取り巻く環境は、ここ10年で激変しました。
四大事務所と呼ばれる世界的な事務所をはじめ、都市部の大手や全国的な支店展開をしている税理士法人、専門性の高いサービスを提供しノウハウやスキルを身に着けることができる事務所など、いわゆる求人市場で競争力の高い税理士事務所でも採用に苦労しています。
そのため税理士事務所のスタッフをとりまく環境は大きく変わったのです。
例えば担当件数だけみても、私がこの業界に携わり始めた2010年代前半では、1人が40件、なかには50件持っている事務所もありました。
しかし今では(ごく一部にはそうした事務所も残っていますが)都市部ではほとんど見られません。
また残業時間についても、以前は広告に載せることができる月45時間は当たり前、という状況で、月20時間というと「残業が少なくていい事務所だな」という印象を受けたものです。
社保完備が求職者へのアピールポイントでもありました。
しかし今では、担当件数も無理のない数字になり、残業ゼロをうたう事務所も増えました。
もちろん社保完備は当たり前、雇用・労災だけだとマイナスイメージですね。
大手の事務所は福利厚生を充実させています。
こうした流れは年々加速しています。
都市部の中小規模の税理士事務所であっても、競争力を高めるために様々なコストを投資しています。
しかし地方の中小税理士事務所はどうでしょうか?
地方の中小税理士事務所は、そもそも求人を行う機会が少ないでしょう。
そのため10年ぶりに新規で人材を募集する、といったとき、適切な情報がなければ最初から勝負にならないのです。
そして税理士事務所のスタッフは、都市部でも地方でも、仕事の内容自体は変わらない、というところが多いのです。
それならより環境が整った都市部で、と思うのは必然なのです。
地方の中小事務所が盛り上がらないと、その地域は衰退する
この状況が続けば、さらに地方はまずい状況になります。
そもそも税理士業界の平均年齢の高さは、以前から指摘されていました。
それでも少しずつ下がってきてはいますが、現在でも平均年齢は60代。
都市部では若い税理士の開業などもありますが、地方ではこの高齢化の傾向が地方ではより強いですね。
ある地方の税理士会では、最年少が40代後半、若い人がまったく入ってきていないのです。
税理士業は定年などないため、体が元気で頭がしっかりしていればずっと働き続けることができます。
しかしそれにも限界があります。
小規模な事務所は税理士一人で、税理士法人化もされていません。
順次承継が行われるのではなく、急に税理士が廃業したらどうなるでしょうか。
この先、どこかのタイミングで一気に限界を迎えることが予想されます。
地方の中小税理士事務所などの税理士事務所が一気に消滅し、地域によっては税理士の空白地帯が生まれてしまう危険性があるのです。
地方でも儲かっている企業や規模の大きな企業は、都市部の大手税理士事務所が引き受けるでしょう。
しかし地方を支えているのは、そうした企業だけではありません。
そうした利益率の低いクライアントは、優先度がかなり低くなってしまうかもしれません。そうなると出てくるのは、いわゆる『税理士難民』です。
経理に人手を割けるところはまだしも、社内の体制が整っていない企業は負担が重くなり、廃業などに追い込まれるかもしれません。
これは地方経済の崩壊を意味します。
だからこそ地域で小規模なお客様でも、しっかり支えてきた中小税理士事務所が力をつけることができる、そんな状況を作っていかなければならないのです。
そのために必要なのは、情報格差、ひいては意識格差の解消です。
これまでになかった価値観などが入ってくることになるので、最初は抵抗感があるかもしれません。
実際、このお話をさせていただくと「そこまでスタッフに媚びないといけないの」と漏らした所長もいました。
しかしそれは媚びているとかではなく、新たな関係性の構築です。
現在地方で税理士事務所を運営をしている所長・代表にはがんばってもらいたいですね。
情報の格差なら、ちょっとした意識で埋めることができます。
そのためのサポートなども行っておりますの。
興味を持っていただけましたらこちらより気軽にご連絡ください。
関連記事



コメント