税理士事務所の経験者採用が失敗する本当の理由と成功の条件
- 斉藤永幸
- 1月30日
- 読了時間: 10分

税務会計業界の求人は、その多くが実務経験者の募集です。欠員補充が中心で、「すぐに戦力になってほしい」という事情があるからです。しかし、いざ採用できても定着してくれない、期待したほど活躍してくれない──そんな悩みを抱える事務所は少なくありません。実際、この段階になって私のところへ相談に来られるケースも多いのですが、ここまで進んでしまうと打てる手は限られてしまいます。
そもそも、経験者採用には“前提の誤解”が多くあります。未経験者の採用は人物の見極めが難しいからと、経験者を選ぶ事務所もありますが、「事務所に合う人材を採用する」という観点では、経験者のほうが何倍も難しいのです。
経験者を採用したのに、思ったほど活躍してくれない
採用できたのに、すぐに辞めてしまう
新しいスタッフが事務所に馴染めない
これは経験者採用では典型的な“あるある”です。そして、これらの問題は採用段階からの準備と見極めで、かなりの部分を防ぐことができます。
そこで今回は、経験者採用で特に注意すべきポイントについて整理していきたいと思います。
1.経験者採用が難しい理由
税務会計業界では、欠員補充を目的とした“即戦力採用”が中心です。
しかし、経験者を採用したにもかかわらず、思ったように活躍してくれない、事務所に馴染めない、早期離職につながってしまう──こうした悩みを抱える事務所は少なくありません。むしろ、経験者採用だからこそ起きる問題が多いと感じています。
その理由は、スキル不足ではなく、事務所ごとの文化や仕事の進め方の違いにあります。
税務会計の実務はどこも同じように見えて、実際には「月次の進め方」「申告書の品質基準」「顧客対応のスタンス」「ITツールの使い方」など、事務所ごとに“当たり前”が大きく異なります。
ここを理解しないまま採用すると、入社後にギャップが生まれやすくなるのです。
実際に私がこれまで多くの事務所を見てきた中でも、
前職のやり方をそのまま持ち込んでしまう
事務所のルールに馴染めず孤立してしまう
所長が期待する“即戦力像”と本人の認識がズレている
といったパターンが繰り返し起きています。
こうした背景があるため、経験者採用は一見簡単そうに見えても、実はしっかりポイントを押さえないと難易度が高いのです。
2.よくある失敗パターン
経験者採用で特に多いのが、「採用したのに思ったように活躍してくれない」「すぐに辞めてしまう」といったミスマッチです。これは決して珍しいことではなく、多くの事務所で繰り返し起きているパターンです。ここでは、その中でも特に目立つ3つの失敗例を紹介します。
① 前職のやり方をそのまま持ち込んでしまう
経験者は、前の事務所で身につけた“当たり前”を無意識に持ち込みます。
月次の進め方、申告書の作り方、顧客対応のスタンス、チェック体制──これらは事務所ごとに大きく異なるにもかかわらず、「前のやり方が正しい」と思い込んでしまうケースが多いのです。
経験者はそのやり方に慣れてしまっているため、以前のやり方の方が”効率よく”感じられてしまうことも、この問題を根深くしてしまっています。
その結果、
事務所のルールに馴染めない
スタッフとの摩擦が生まれる
所長の意図とズレた仕事をしてしまう
こうした問題が起きる理由は、経験者が前職の基準を無意識に持ち込むからです。
② スキルの“見立て違い”が起きる
面接で「できます」と言われたことが、実際には“その事務所の基準ではできていない”というケースは非常に多いです。税務会計の実務は、同じ業務名でもレベル差が大きく、
月次の精度
決算の組み立て方
申告書の品質
顧客対応の深さ
など、事務所によって求める基準がまったく違います。
そのため経験者は面接では嘘をついているつもりがなくても、事務所からすれば適当なことを言って入社してきた、と決めつけてしまいます。採用側が「即戦力だ」と判断しても、入社後に「思ったほどできない」というギャップが生まれやすいのです。
③ 所長と本人の“期待値のズレ”
経験者採用で最も多いトラブルが、この期待値のズレです。
所長は「即戦力としてすぐに活躍してほしい」と思っている一方で、本人は「最初は教えてもらえるはず」「前の事務所と同じように進めればいい」と考えていることがあります。
このズレが放置されると、
所長は「思ったより使えない」
本人は「思っていた職場と違う」
という不満が積み重なり、早期離職につながってしまいます。
こうした失敗パターンは、どれも“採用段階での確認不足”が原因です。
裏を返せば、採用前にしっかり見極め、入社後の受け入れ体制を整えることで、多くの問題は未然に防ぐことができます。
3.採用前にどこまで確認できているか
業界の問題点として前々から感じていることが、採用の面接ノウハウを持っていない事務所がほとんど、ということです。
本来であれば面接でしっかり確認すれば防げるミスマッチが、確認していなかったために入社後に大きな問題となって表れる。そんな”採用前の確認不足”が原因となる問題が非常に多いのです。
特に経験者採用では、その傾向が顕著です。
『経験年数』や『職の担当件数』で実務スキルを、税理士試験に何科目合格しているかで『知識レベル』を判断してしまうことが多いのです。これらは一見便利な物差しですが、誤解を生みやすい基準です。
ここでは採用前に必ず押さえておきたい3つのポイントを整理していきましょう。
Point1:実務スキルの棚卸を”具体的に”行う
「月次できます」「決算できます」という抽象的な言葉ほど当てにならないものはありません。同じ“できます”でも、事務所によって環境も、求めるレベルが大きく違うからです。
そのため、採用前には以下のように具体的な行動レベルで確認する必要があります。
月次はどこまで自走できるのか
決算の組み立てはどの程度任せられるのか
申告書の品質基準はどのレベルか
顧客対応はどこまで経験しているのか
ITツール(会計ソフト、クラウド、チャット)の扱いはどの程度か
「どの業務を、どのレベルで、どれくらいの頻度でやっていたか」を棚卸しすることで、入社後のギャップを大幅に減らせます。
Point2: 前職の業務フロー・担当件数・品質基準を確認する
税務会計の仕事は“同じように見えて、事務所ごとに全く違う”という特徴があります。そのため、前職の環境を深く理解しないまま採用すると、文化ややり方の違いが原因でミスマッチが起きやすくなります。
例えば、
月次の締め日や進め方
決算のチェック体制
申告書の作成手順
顧客との距離感(訪問頻度・対応手段・対応範囲)
担当件数と難易度
チーム制か個人担当制か
こうした“前職の当たり前”を丁寧に聞き出すことで、「うちの事務所のやり方に適応できそうか」を判断しやすくなります。
Point3:仕事の進め方・価値観の相性を見極める
スキルが高くても、価値観が合わなければ長く働くことはできません。経験者採用で特に重要なのが、この“仕事観の相性”です。
例えば、
スピード重視か、品質重視か
顧客対応をどこまで踏み込むタイプか
チームで動くのが得意か、個人で完結したいタイプか
変化に柔軟か、ルールを重んじるか
新しいツールややり方に抵抗がないか
これらは履歴書では分からず、面接で丁寧に対話しないと見えてきません。ここを曖昧にしたまま採用すると、入社後に「思っていた職場と違う」という不満につながりやすくなります。
4.経験者が定着する事務所の共通点
経験者採用で成功している事務所には大きく分けて2つのパターンがあります。
・しっかりとした制度設計を行っている事務所
・時間をかけ、所長やマネージャーがケアを行っている事務所
です。
特に、制度設計をしている事務所は、経験者を次々に採用し、急速に拡大することも多いですね。東京都中央区にある事務所はこの制度設計が整っていたので紹介します。
この事務所がすごいのは、様々なものがしっかり明文化されているということ。
口頭で伝えるだけでは絶対に漏れが生じます。業務のフローが細かく言語化され、マニュアルとして整えられています。チェックリストや図解で共有されているので、共有にとられる時間も最小限で済んでいるのも大きなポイントですね。
ケアをしっかり行っている事務所は、比較的規模の小さい事務所での成功パターンです。
こうした事務所は距離感が近いため、すり合わせミーティングをやりやすいという特徴があります。どこまで任せるのか、どこを確認するのか、をミーティングを重ね、しっかり共有していくことで価値観や期待値のすり合わせが行われ、定着しやすくなります。
他にも、以下のような事務所は経験者の定着率が高いようです。
情報共有の仕組みが整っている
「質問しやすい空気」がある
属人化が少なく、業務フローが見える化されている
ITツールが整理されている
最初の3つは皆さんも納得していただけるでしょう。ただ、4つめのITツールが整理されているとなぜ経験者の定着率が高くなるのか、については少し補足説明が必要です。
実務経験者がストレスに感じるポイントに、ITツールの混乱があります。
どのツールを使えばいいのかわからない、同じ情報が複数に散らばっている、ルールが曖昧で人によって使い方が違う……。このような事務所では、経験者はついつい以前在籍していた事務所と比較してしまい「転職は失敗だった」と感じてしまうのです。
そのため、
・ツールの役割が明確
・情報の置き場所が統一
・最低限のルールが整備されている
・スタッフが全員同じ使い方をしている
このような事務所は定着率が高まりますね。
経験者が定着する事務所は、
「スキルの高い人が勝手に活躍してくれる」のではなく、
「活躍しやすい環境を整えている」という共通点があります。
採用の成功は、採用後の環境づくりで決まります。
まとめ:経験者採用は“即戦力採用”ではなく“文化適応採用”
経験者採用は、一見すると「即戦力が手に入る」ように思えます。「スキルがあるから安心」「即戦力としてすぐに活躍してくれるはず」という前提で進めがちですが、それで失敗した事務所を数多く見てきました。
経験者採用は事務所ごとの文化ややり方の違いが大きく、未経験者以上にミスマッチが起きやすい採用です。スキルだけで判断すると高い確率で失敗するということです。
税務会計の実務は、どの事務所でも同じように見えて、実際には“やり方・文化・価値観”が大きく異なります。月次の進め方、申告書の品質基準、顧客対応のスタンス、ITツールの使い方──こうした「事務所の当たり前」にフィットできるかどうかが、経験者が活躍できるか、早期離職につながるかを大きく左右します。
つまり、経験者採用の本質は、“スキルを見る採用”ではなく、“文化に適応できる人を見極める採用”だということです。
同時に、入社後の受け入れ体制、情報共有の仕組み、質問しやすい空気づくり──こうした“環境の整備”ができているかどうかで、経験者が活躍できるか、すぐに辞めてしまうかが大きく変わります。
この採用前後のコミュニケーションがしっかり設計されている事務所ほど、経験者スムーズになじみ、長く活躍してくれます。
結論:経験者採用を成功させる鍵は、即戦力を求めることではなく、事務所の文化に適応できる人を迎え入れ、その人が活躍できる環境を整えることにあります。
もし今、
「採用したのに活躍してくれない」
「すぐに辞めてしまう」
「事務所に馴染めないスタッフがいる」
といった状況があるなら、早めの対処が効果的です。経験者採用の失敗は、放置すればするほど深刻化します。逆に、早い段階で手を打てば、事務所の安定性は大きく変わります。
事務所の状況をヒアリングし、改善の方向性をご提案できますので、まずは無料相談より一度ご連絡ください。
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