税理士事務所の生産性を劇的に上げる3つの設計戦略
- 斉藤永幸
- 1月18日
- 読了時間: 14分

先日、税理士事務所の求人原稿を作成して気づいたのですが「当事務所は業務効率化を進めており、生産性を高めています」という表現を使っている事務所が多くなってきていると感じました。
その実態を見てみると、単に毎月訪問していたものをZoomなどで移動時間を削っただけ、といったものも多く、中には効率化の名のもとにスタッフに過度の負担を押し付けていた、というケースも。
そうした事務所では、
「忙しいのに利益が増えない」
「月次が終わらない」
「新人が育たない」
そんな声も多いですね。ただ、中にはしっかりとIT化や業務の見直しなどを行い、生産性向上に努めているところもあり、それを外から判断するのは非常に難しいですね。
玉石混交の税理士事務所の生産性。
これをどうやって上げていくのが正しいのか。
そこで今回は、この税理士事務所の生産性について考えていきたいと思います。
1.なぜ今、生産性向上が必須なのか
そもそもなぜ今になって、多くの税理士事務所が生産性という言葉を使いだしたのでしょうか。
最大の理由は人手不足・採用難にあります。
生産性の低い事務所は、入社時の給与がどうあってもそこからなかなか上昇しません。しっかりと利益を出しているからこそ、給与を上げることができるのです。生産性が高い=給与や待遇がアップする、というアピールでもあるのです。
ただ、業界全体で見ると、Webで全国から集客する事務所が多くなっていることから競争が激化。顧問料は全体として上昇しています。しかし電子帳簿保存法やインボイス制度で税理士事務所の作業量は増加しています。だからこそ”人がやるべき仕事”に集中できる体制が必要となってきました。
生産性の向上は単に求人の一つのアピール手段や働き方改革などではなく”事務所の生存戦略”となりつつあるのです。
では、実際に税理士事務所の生産性はいくらくらいが適切なのでしょうか?
税理士事務所の生産性は、以下のようにして計算されます。
1名あたりの生産性=売上高 ÷ 職員数
1人時(1名1時間)あたり生産性=売上高 ÷ 総労働時間数
この売上高ですが、総務省統計局の2021年経済センサスによると、税理士事務所のスタッフ1人当たりの平均は936万円です。
税理士事務所 従業員規模別 | 従業員1名あたり 売上(収入)金額 |
平均 | 936万円 |
1名から4名 | 888万円 |
5名から9名 | 871万円 |
10名から19名 | 1,008万円 |
20名から29名 | 957万円 |
30名から49名 | (データなし) |
50名以上 | 1,266万円 |
1年間の労働時間は平均で2,148時間つまり税理士事務所のスタッフ1人当たりの生産性は、
936万円 ÷ 2148時間=4358円
となります。
実際に多くの税理士事務所の平均は3500円~5000円と言われているので、当てはまる数字といえるでしょう。ただ、これを高いとみるか、安いとみるか、です。
経済センサスで税理士が入る学術研究・専門・技術サービス業のカテゴリで見ると、大企業の生産性は6000円を超えています。まずはこの数字を目標に、生産性を上げていく取り組みが必要ではないでしょうか。
三行まとめ:
採用難が続き、人手不足が常態化
事務所を成長させるには生産性の向上が重要に
税理士事務所の生産性は一人当たり6000円が目標
2.税理士事務所の生産性を下げている根本原因
生産性を向上させるのためには、大きく分けて2つの手段があります。
1つは売り上げを上げる方法。もう1つは労働時間を増やさず作業効率を上げる方法です。
まず売り上げを上げるためには、顧問料の引き上げが考えられます。
ただ、これは顧客との関係性が重要となります。これについては過去記事でも書きましたが、心理的ハードルも高いため難しい、という事務所も多いでしょう。
ただ、顧問料の適正化の取り組みは、継続的に取り組んでいく必要があるでしょうね。
ではもう1つの手段である作業効率の向上を考えていかなければなりません。
ただ、ここでも税理士事務所ならではの”上げられない”理由があります。
① 入力・転記などの作業依存
② 属人化した業務フロー
③ コミュニケーションの非効率(確認・催促・共有)
多くの税理士事務所が、この3つの要因によって、なかなか効率を向上させることができません。
多くの事務所では今でも会計データを手入力しており、それを別のソフトに転記したりする作業が多く発生しています。また、月次業務などは担当者任せで事務所として標準化が進まず、やり方はバラバラ。効率的に働けている人と非効率な人との差が出てしまっています。さらに顧客マターで作業が進むことも多いため、コミュニケーションが非効率になっているシーンをよく目にします。
この3つの根本原因を解消しなければ、税理士事務所の生産性向上は難しいのです。
三行まとめ:
生産性を上げるには収入を増やすか効率を上げるか
税理士事務所は効率を上げにくい理由がある
根本原因から解消しなければ生産性向上は難しい
3.生産性向上の基本戦略:業務棚卸をして3階層で考える
まずはボトルネックとなっている3つの要因に対し、同列扱うと改善は進みません。どのようにアプローチをしていくべきか、については3つのレイヤーに分けて考えていく必要があるでしょう。
● レイヤー1:作業の自動化(RPA・AI・OCR)
→ 手作業を減らす
● レイヤー2:業務の標準化(マニュアル・チェックリスト)
→ 誰でも同じ品質でできる
● レイヤー3:コミュニケーションの効率化(チャット・ワークフロー)
→ 無駄な確認・催促を減らす
この3つを同時に進めると効果が最大化します。
そのうえで、業務の棚卸を行います。
1.月次、年次、スポットの業務を洗い出す
2.作業時間、頻度、ストレス度で分類
3.自動化・標準化・削減の3軸で仕分けを行います
※場合によっては”やらない業務”を決めることも重要です
例えば、下の図のようなマトリクスを使って分類していきます。

これを行うことで、どんな業務が事務所の効率化を阻んでいるのか、が見える化されるのです。
ストレス度が高く、作業時間の大きなものは「やらない」や「外注」によって事務所の業務から切り離しを行います。そのうえで、作業時間が大きいものは自動化を行ったり、標準化を行う、などして整理をしていきます。
まとめ:生産性向上でまず取り組むべきは業務の棚卸
4.税理士事務所で効果が大きい自動化ポイント
税理士事務所の業務は、実は“自動化しやすい作業”が非常に多い分野です。ルーティン業務のほとんどは、RPAやAIで自動化できます。ここでは、特に効果が大きいポイントを RPA と AI に分けて整理します。
■ RPAで自動化できる業務(手順が決まっている作業)
RPAは「決まった操作を正確に繰り返す」ことが得意です。人がやると時間がかかる単純作業ほど、RPAに任せると効果が大きくなります。
● 銀行明細・売上データの取得
毎月のダウンロード作業は、担当者の負担が大きい典型例。RPAなら、ログイン → ダウンロード → 保存までを自動化できます。
● 顧問先フォルダの自動作成
新規顧問先のフォルダ作成や、月次フォルダの生成など、「毎月同じ構造を作るだけ」の作業は完全自動化が可能です。
● 電子申告控えの自動保存
電子申告後の控えPDFをダウンロードし、所定のフォルダに振り分ける作業もRPAが正確に処理できます。
● 年末調整の書類仕分け
提出書類のPDFを顧問先ごとに振り分けたり、ファイル名をルールに沿ってリネームしたりする作業も自動化できます。
■ AIで効率化できる業務(判断・文章・知識の活用)
AIは「ゆらぎのある情報処理」や「文章生成」が得意です。人が判断したり、考えたり、説明したりする部分を強力にサポートします。
● 仕訳推論・異常値チェック
AIが過去データを学習し、仕訳候補を提示したり、異常値やミスの可能性がある箇所を自動で指摘できます。
● 月次コメントの自動生成
月次報告書のコメント作成は、担当者の負担が大きい業務。AIに「今月の数字のポイント」を説明させることで、担当者は“仕上げ”に集中できます。
● 顧問先への説明文作成
制度改正の案内文、メールの下書き、提案書の文章など、「書くのに時間がかかる仕事」をAIが一瞬で作成します。
● 社内FAQボット
新人やスタッフからの質問にAIが一次回答することで、ベテラン職員の時間を奪わない仕組みが作れます。
● マニュアルの自動生成
業務手順を文章化するのは手間がかかりますが、AIなら「この作業の手順をまとめて」と指示するだけでマニュアルのたたき台が完成します。
■ まとめ:RPAは“作業”、AIは“判断と文章”を担当させる
RPA → 手順が決まっている作業を自動化
AI → 一次判断・文章・説明を効率化
この役割分担を意識すると、税理士事務所の生産性は一気に向上します。
5.標準化で「属人化」をなくす
税理士事務所は放っておけばどんどんと属人化が進みます。ある意味、構造的な欠陥といえるでしょう。小規模なうちは属人的な部分があるからこそ、スピーディーに成長もできるのですが、一定の段階で大きな足かせとなってしまいます。
生産性を意識するような段階に来たら、標準化を行い属人化を防ぐ必要があります。
チェックリストの整備
月次レビューの基準化
業務マニュアルのテンプレ化
新人教育の仕組み化
“誰がやっても同じ品質”を作る
こうした標準化については、過去記事『税理士事務所の月次が終わらない理由と解決策【属人化をなくす4つのポイント】』で詳しく述べているので、そちらも参照してみてください。
6.コミュニケーションの無駄を削る
このコミュニケーションは、ある意味現場のストレスが一番溜まっている部分です。それだけ税理士事務所の生産性を下げている要因の一つともいえるでしょう。作業そのものより”やり取り”に時間を奪われているケースは非常に多いのです。
コミュニケーションを整えるだけで、事務所全体のスピードとストレスが大きく改善します。
■ チャットツールの一本化
メール・チャットワーク・LINE・Teamsなど、複数のツールが混在すると、「どこに連絡が来ているか探す時間」が発生します。
まずは事務所内の連絡手段を1つに統一することが重要です。
連絡の見落としが減る
情報が散らばらない
新人でもすぐにキャッチアップできる
ツールの選定よりも、「一本化する」という意思決定のほうが効果が大きいポイントです。
■ 依頼・確認・完了のルール化
コミュニケーションのムダの多くは、依頼の仕方がバラバラなことから生まれます。
何をしてほしいのか
いつまでに必要なのか
どこに保存するのか
これらが曖昧だと、確認の往復が増え、作業が止まります。
そこで、依頼・確認・完了のフォーマットを決めてしまうと劇的に改善します。
例:依頼 → 期限 → 保存先 → 補足この4点を必ず書くルールにするだけで、やり取りの回数が半分以下になります。
■ 進捗管理の可視化
「今どこまで進んでいるのか」が見えないと、確認のためのチャットや声かけが増え、職員の集中が途切れます。
月次の進捗
年末調整の進捗
申告書のレビュー状況
これらを一覧で見える化するだけで、“聞かないとわからない”状況がなくなり、コミュニケーション量が大幅に減ります。
ツールはExcelでもクラウドでもOK。大事なのは「全員が同じ画面を見る」ことです。
■ 顧問先とのやり取りもテンプレ化
顧問先とのコミュニケーションも、実はムダが多い領域です。
毎月の資料依頼
年末調整の案内
決算前の確認事項
制度改正の説明
これらは毎年ほぼ同じ内容なので、テンプレ化してしまうのが最も効率的です。
テンプレがあると、「書き方に悩む時間」がゼロになり、職員間の品質差もなくなります。
■ 「聞かないとわからない」をゼロにする
最終的に目指すのは、“聞かなくてもわかる仕組み”を作ることです。
どこに何があるか
どう進めればいいか
何を確認すればいいか
これらが明確になっていれば、コミュニケーションは“必要なものだけ”に絞られます。
結果として、集中できる時間が増え、ミスも減り、ストレスも激減します。
ただ、ここで重要なのは何でも効率化すればいいというわけではありません。
例えば所長とスタッフが行う 1 on 1 などはその一つ。効率化するために削ってしまったり、何かのツール越しだと伝わらないことも出てきてしまいます。同様に、お客様訪問を大切にしている事務所が、急にZoomなどでしかお客様とのやり取りをしません、となると事務所の方向性や特色が失われ、ブランド価値を再構築しなければなりません。
自分たちの事務所が何を大切にし、何が無駄になっているのか。それをしっかりと取捨選択していく必要があります。
まとめ:コミュニケーションの無駄を省くことで、生産性が向上しストレスも減る
7.生産性向上に成功することで得られる未来とは
生産性の向上は事務所の利益に直結する問題、と考えられがちです。または、残業時間削減など働き方改革と結び付けられることも多いですね。しかし生産性向上の取り組みは、ある意味事務所での働き方の最適化です。
だからこそ生産性の上がった事務所では、利益が上がった、残業が減った、以外にも様々な効果が生まれます。実際、TaxOffice-Supportにも生産性向上に取り組んで事務所から、以下のような声が届いています。
入力・転記はほぼゼロ、AIが一次レビューをして人が最終判断
人は「説明・提案」に集中できるので業務品質が高くなった
職員のストレスが減り、離職率も低下
顧問先満足度が向上
有休の取得率が増え、仕事に前向きなスタッフが増えた
新規顧客獲得の余力が生まれ、事務所の規模も拡大傾向
ただ、こうした生産性向上に成功する事務所がある一方で、取り組んでみたけど失敗する事務所もあります。では生産性向上に成功するにはどうすれば良いのでしょうか。
成功する事務所がやっている3つの共通点
小さく始めて、成功体験を積む
ITリテラシーに合わせて段階導入
自動化後の業務フローを再設計する
事務所の改善・改革では他の分野とも共通するのですが重要なのは「小さくはじめる」ということが重要です。一気に改革しようと思っても、スタッフはついてきません。まずは成果の上がるもの、成果が見えやすいものから始めることで、スタッフの理解が進み、協力を得られるようになります。
また、ITリテラシーも重要です。
これは所内でIT人材育成なども同時並行して進めるとかなり効果が高いですね。
(IT人材育成についてはこちら『税理士事務所のIT人材不足は「育成」でしか解決できない理由』も参照してください)
そしてツールは導入しただけだと、効果は限定的です。効果を発揮できるよう、業務フローの再設計は必須といえるでしょう。
このように生産性向上は、経営と現場が同じ目標を共有し、一丸となって取り組む必要があります。だからこそ段階を踏みながら、一歩ずつ、しかし確実に進めていく必要があるのです。
三行まとめ:
生産性向上は事務所の業務の再設計化
成功する事務所には理由がある
段階を踏んで一歩ずつ進めることが重要
8.まとめ:生産性向上は“技術”ではなく“設計”
生産性向上というと、RPAやAIといった“最新ツール”に目が向きがちです。しかし、実際に成果を出している税理士事務所は、技術そのものよりも「業務の設計」を重視しています。
どれだけ優れたツールを導入しても、・業務フローが複雑なまま・人によってやり方が違う・情報が散らばっているこうした状態では効果が半減してしまいます。
生産性を上げるための本質は、「人がやるべき仕事」と「機械に任せる仕事」を再設計すること」ここに尽きます。
しかし、AIなどのツールと、標準化、コミュニケーションの改善が同時に回り始めると、事務所全体のスピードと品質は一気に上がります。これは体感してみないとなかなか理解していただけない部分かもしれませんが、 自動化 × 標準化 × コミュニケーション改善がまさに”掛け算”で聞いてくる領域です。
実際、私がこれまで支援してきたある事務所も、なかなか成果が表れませんでした。まずは属人化の解消、次にコミュニケーションの改善に取り組みました。この段階で半年以上かかりましたね。そして7か月目くらいにAIの導入で一気に事務所のIT化を進めたところ、劇的に改善しました。
ツールの導入だけでは起きない変化が”設計”を変えることで初めて大きな効果を発揮したのです。
ただ、いきなり全体の最適化を目指すのは不可能です。むしろ最初の一歩は「1つの業務の棚卸し」をするだけで十分です。
どんな作業があるのか
どこにムダがあるのか
自動化できる部分はどこか
標準化すべきポイントはどこか
この“見える化”が、すべての改善の出発点になります。
生産性向上は、特別な才能や大きな投資が必要な取り組みではありません。正しい順番で、正しい設計をするだけで、事務所は確実に変わります。
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