税理士事務所の顧問料値上げを成功させる“心理設計”完全ガイド
- 斉藤永幸
- 1月7日
- 読了時間: 11分

確定申告の繁忙期が近づき、税理士事務所は慌ただしさを増しています。しかし所長やマネージャーは、目の前の業務だけに集中できません。
年度替わりを前に「顧問料値上げ」をどう進めるか——
これが大きな悩みになっている事務所も多いのではないでしょうか。
しかし、この顧問料の値上げは税理士事務所の所長にとっては頭痛のタネとなっていることも多いようです。どうやって切り出したらいいんだろう。そんな悩みを抱えている方も多いのです。
そこで今回の記事では、この顧問料の値上げをどうやってスムーズに進めていくか、について考えてみました。
1.顧問料値上げは”心理戦”
税理士事務所にとって「顧問料値上げ」は、単なる価格改定ではありません。どれだけ正当な理由があっても、所長の心の中には必ず3つの不安がよぎります。
嫌われるのではないか
離脱されるのではないか
うまく説明できないのではないか
実はこの不安こそが、値上げを難しくしている最大の要因です。値上げは“技術論”ではなく、心理設計が9割。どれだけ合理的な説明を用意しても、伝える順番や言い方を間違えるだけで、顧問先は「コストが増える」という印象だけを受け取ってしまいます。
一方で顧問先もまた「なぜ値上げされるのか」と知りたがっています。理由に納得できない時には「余計なコストが増えた」と感じる顧問先も、理由がわかれば納得します。この納得を引き出せれば関係はむしろ強くなります。
値上げは事務所と顧問先の関係を再設計する絶好のチャンスでもあるのです。
この記事では、顧問先が自然と受け入れやすくなる”心理の順番”と、摩擦を最小限にするための具体的なステップを体系的に説明しています。読み終えるころにはあなたの事務所に合った「納得される値上げ」の設計図が手元に残るはずです。
2.値上げがうまくいかない事務所の共通点(心理のズレ)
「値上げ」は立場によってどう捉えるか、が違います。
「値上げ=コスト増」と捉える顧問先
「値上げ=正当な対価」と捉える事務所
この“認知ギャップ”が摩擦を生む原因です。
図にすると以下のようなイメージです。

そもそも事務所にとっては、これくらいの業務量だとこれくらいの相場、というものがあります。それに合わせた値上げをお願いするのだから、それは正当だと思うでしょう。しかし顧問先からすれば、税理士に頼む費用が高くなるだけ、としか考えていません。余計なコストが増える=利益が減る、と考えまず拒否感から入ります。
だからこそどうやって伝えていくか、が重要です。
ここで多くの事務所がやりがちな失敗例を見てみましょう。
価格だけ伝える
タイミングが急
理由が抽象的
顧問先の不安に触れていない
このような伝え方ではお客様の拒否感を大きくするだけで、値上げによって関係が悪くなり、最悪顧問契約がなくなってしまうこともあります。
重要なのは拒否感を減らすよう、値上げをしなければいけません。
3.顧問先が納得する”心理の順番”
ではどのように伝えればお客様は値上げに納得していただけるのでしょうか?
実はこうした値上げ交渉の研究は昔から多く、ある程度の順番が決まっています。それが、
① 安心 → ② 理由 → ③ 未来 → ④ 価格
というものです。
この順番でお客様に伝えることにより、ある程度スムーズにお客様を納得に導ける、と言われています。これを一つひとつ見ていきましょう。
①安心|人は安心がないと情報を受け取れない(心理的安全性の原則)
値上げをお願いする際、しっかり理由を伝えてもお客様が納得しない、という経験をほとんどの型がお持ちでしょう。ではなぜ納得できないのでしょうか?
理由の前に「安心」を持ってくる、それだけで相手の反応はだいぶ変わってきます。これは値上げの話を聞いた瞬間、顧問先の脳は「防御モード」に入るからです。これは心理学でいうところの脅威回避という状態です。この状態ではどれだけ合理的な説明をしても、相手は内容を理解する前に「イヤだ」「損だ」と感じてしまいます。
だからこそ最初に必要なのは”あなたの立場は守られていますよ”という安心感を提示する必要があります。
・関係性は変わらない
・サポートは継続する
・今まで通りに伴走する
こうした一言があってはじめて、相手の脳は「聞く準備」が整うのです。
②安心の次に“理由”を伝えると納得が生まれる(認知の整合性)
「安心」を伝えることで、ようやく相手の脳は話を聞く体制が整います。そこで次に来るのが「理由」です。
値上げはコストが増えるので多くの顧客が嫌がるのは当然、と考える方も多いでしょう。しかし心理的には「理由がわからないことが不安」という状態が最も多いといわれています。だからこそ「安心」で防御反応を下げた後、”なぜ必要なのか”を説明すると、相手は自然と納得しやすくなります。
重要なのは「事務所都合」ではなく「顧問先視点」に翻訳する必要があります。
例えば、「人件費が上がったから」といった理由はNGです。これは顧問先には関係のない話。これでは「理由がわからない不安」が増大してしまうのです。
より具体的に、顧問先視点に翻訳していきましょう。
例えば、
人件費が上がった(NG)
→品質維持のための体制強化(Better)
→あなたの月次をもっと早く正確にするために(Best)
というようにより顧問先視点に寄せていくのです。
③ 理由の次に“未来”を提示すると、相手は前向きになる(価値の再定義)
理由だけだと顧問先も「値上げも仕方がないか」で終わります。値上げ自体は受け入れられても、どうしてもマイナスイメージが残ってしまうのです。しかし値上げを次の段階へのステップとするには、「未来」を提示し、ポジティブな印象に切り替える必要があります。
値上げによって未来が良くなる、という提示ですね。
例えば、
月次の精度が上がる
相談しやすくなる
経営判断に使える情報が増える
デジタル化のサポートが強化される
理由→未来の流れは、“値上げ=負担”から“値上げ=投資”へ認知を変える効果があるのです。
また、この流れで数字などの根拠を出せるとさらに強いですね。
例えば「現在、スタッフは月〇時間あなたの事務所の月次に時間をかけています。ただ、値上げをすることで×時間かけることができ、より質の高いサービスを提供できるようになります」といった具合です。
④ 最後に“価格”を伝え抵抗を最小化(アンカリング効果の逆利用)
多くの事務所が失敗するのは、最初に価格を言ってしまうことです。最初に金額を出すと、相手の脳は「高いか安いか」だけで判断してしまいます。これをアンカリング効果といいます。
しかし、安心→理由→未来、の順番で土台を作ってから価格を伝えると、
「まあ妥当だよね」「それなら仕方ない」「むしろ良くなるからいいか」と心理的抵抗が大幅に下がるのです。
4.値上げを成功させる“心理設計”の5ステップ
値上げに対する顧問先の心理の流れについて説明しましたが、どのように感じましたか?値上げは単に価格を変えるだけでは成立しません。顧問先の心理に配慮し、納得と安心を生む設計が必要なのです。
ここからは、実際に値上げを進めるための“実務ステップ”です。お客様に合わせ摩擦を最小限に抑え、信頼を深めるための心理設計の5つのステップを紹介します。
STEP1:顧問先を3タイプに分類する(心理耐性の違い)
すべての顧問先に同じ伝え方をしても、うまくいきません。まずは心理的な反応傾向で分類し、それぞれに合わせたアプローチを設計しましょう。
顧問先タイプ | 特徴 | 推奨アプローチ |
A:ロイヤル顧客 | 関係性が強く、値上げしても離れない | 未来価値を中心に伝える |
B:中間層 | 説明次第で納得する | 理由とメリットを丁寧に伝える |
C:価格敏感層 | 金額に敏感で離脱リスクあり | 選択肢を提示し、納得感を重視 |
STEP2:値上げ理由を“顧問先視点”に翻訳する
これは先ほどの②の「理由」の作業となります。値上げの理由は、事務所都合ではなく「顧問先にとっての意味」に変換していきます。
「人件費が上がったので」→ ❌(負担感だけが残る)
「品質を維持するための体制強化が必要」→ ⭕(納得しやすい)
「御社の月次をもっと早く正確にするため」→ ✅(自分ごと化される)
理由は“相手のメリット”に変換して伝えることで、納得感が生まれます。
STEP3:値上げ後の“未来価値”を言語化する
値上げによって「何が良くなるのか」を明確に伝えることで、顧問先は前向きに受け止めやすくなります。
月次の精度向上
相談しやすい体制
経営アドバイスの強化
デジタル化のサポート
「値上げ=投資」と感じてもらえるよう、具体的な未来像を提示することが重要です。これは特にロイヤル層や中間層にとっては非常に重要なステップなので、あらかじめしっかり考えておきましょう。
STEP4:伝えるタイミングと順番を設計する
値上げの成功率は「いつ・どう伝えるか」で大きく変わります。
タイミング:年度末・決算後など、心理的に受け入れやすい時期を選ぶ
順番:事前告知 → 個別説明 → 文書通知 の3段階で進める
注意点:「突然の値上げ」は避ける。準備期間があるだけで印象は大きく変わる
STEP5:離脱を恐れない“代替案”を用意する
値上げに対する抵抗を減らすには、「選択肢」を提示するのが効果的です。
プラン分け(ライト・スタンダード・プレミアム)
オプション化(追加サービスを別料金に)
サービス範囲の明確化(何が含まれるかを明示)
「選べる」という感覚が、心理的負担を軽減し、納得感を高めます。価格敏感層は値上げに対しての抵抗感が強いのですが、この代替案を選択肢として提示すると、かなり効果が高いですね。
5.実際に使える:値上げ説明テンプレート(心理設計済)
これは私に送られてきたあるサービスの料金値上げの通知です。
ダメな例としてご覧ください。
料金改定のお知らせ
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●●様
いつもご利用いただき、ありがとうございます。この度は××の会費改定についてご連絡申し上げます。
2025年●月〇日、××の会費を以下の通りに改定させていただきます。
月間プランの会費: 18,000円 (税込) → 20,000円 (税込)
年間プランの会費: 200,000円 (税込) → 210,000円 (税込)
既存の××会員のお客様には、2025年●月〇日以降、次の更新日に新しい価格が適用されます。これに伴い、お客様側での手続きは必要ありません。
引き続き、××をよろしくお願いいたします。
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いかがでしょうか?
ここまでお読みいただいた方には、いろいろと問題のある値上げの告知だとおわかりいただけるでしょう。
・価格だけ伝える
→負担だけが増えるという印象を与える
・タイミングが急
→心の準備ができず拒否反応が強まる
・理由が抽象的
→本当の理由を隠しているのでは?という不信感につながる
・顧客の不安に触れていない
→一方的な事情だけ押し付けられたと感じる
これだと心理的抵抗感が最大にまで高まってしまいます。
では心理的な摩擦を減らし、税理士事務所が値上げを通知するとしたら、どのようなものにすればよいのでしょうか?このテンプレは、先ほど説明した「安心 → 理由 → 未来 → 価格」の心理順序に沿って構成しています。
1. 冒頭の安心メッセージ
「これまでと変わらず、御社の経営を支えるパートナーであり続けたいと考えています。」
2. 理由の提示(顧問先視点)
「月次の精度向上と、より迅速な対応を実現するために体制を強化しています。」
3. 未来価値の提示
「これにより、経営判断に使える情報提供のスピードと質が向上します。」
4. 価格提示
「そのため、◯月より顧問料を◯円に改定させていただきます。」
このような順番で通知をすると、印象は大きく変わるでしょう。
安心のメッセージ、理由、未来価値の提示、があったうえで価格提示があれば、抵抗感は抑えることができるのです。
6.値上げ後に“信頼が深まる”フォロー設計
値上げをしたら、そのあとのフォローが顧問契約継続のカギです。
特に中間層をしっかりフォローできれば、ロイヤル層に移行するお客様も出てきます。そのため事前に、値上げ後のフォロー設計をしておきましょう。
小さな成果報告を積み重ねる
コミュニケーション頻度を一時的に増やす
「値上げしてよかった」と思わせる体験を作る
ここでは担当者だけでなく、所長が自らフォローをしていく、というのも一つの手です。
担当者任せではなく、しっかりと事務所として向き合ってくれている、という印象を持ってもらえるとその後の信頼関係は強くなりますね。
まとめ:値上げは“価格変更”ではなく“関係性の再設計”
値上げ、というと庶民の私としてはどうしても拒否感が先に立ってしまいます。しかしビジネスにおいては避けて通れない話。ここをうまく乗り切れるかで、成長か停滞かが決まってしまいます。
だからこそ値上げをお願いすることは、ストレスになります。
ただ、今回の記事で取り上げた心理設計を理解していただければ、摩擦は最小限になるのではないでしょうか。値上げは単なる「お願い」や「通知」ではなく、しっかりと納得していただくことで顧問先との関係を深めるチャンスでもあるのです。同時に、あらかじめ所長やマネージャーが設計をしておけば、実際にお客様に値上げのお願いをするスタッフのストレスも緩和されます。
次の値上げのタイミングでは、ぜひこの心理設計に取り組み、お客様との関係を深めていただければ、と思います。
もし「自分たちの事務所に合った値上げの心理設計を作るのは難しい」と感じる方がおられましたら、無料相談から気軽にお声をおかけください。
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