税理士事務所の“期限ギリギリ問題”を解決する方法|仕組み化・見える化・ルール化で残業ゼロへ
- 斉藤永幸
- 5 日前
- 読了時間: 11分

「資料が来ない…」
「またギリギリ…」
「このままだと残業確定だ…」
繁忙期になると、こんな声が事務所内に増えていませんか。
多くの税理士事務所を悩ませ、スタッフのストレスの原因となっているもの。それが”期限ギリギリ問題”です。税務の業務、そのほとんどがお客様から証憑などが送られてこなければ、仕事に着手することができません。比較的余裕のある時期ならまだしも、それが繁忙期ともなるとお客様が原因の遅れが積み重なり、残業が増えてしまう事務所も多いでしょう。
そんな期限ギリギリのお客様をいかにマネジメントするかは、税理士事務所にとって“永遠のテーマ”の一つです
これを”仕方のないこと”として受け止めてしまえば、同じことが毎年のように繰り返されます。しかしお客様にどのように伝え、注意するべきか、悩んでいる事務所も多いのではないでしょうか。
確定申告を控えたこの時期だからこそ、この”期限ギリギリ問題”について改めて考えてみたいと思います。
1. “顧問先の行動パターン”を分類する
まずこの問題を考える時、やってはいけないことが「お客様」を変えようとすることです。
あまりきつく注意すれば顧問契約は解除になってしまうのでは、という恐れからどうしても指導は柔らかくなってしまい、効果は薄くなります。そのためお客様に対し、何度も注意を行い、指導に指導を重ねてようやく改善されるといった感じでしょうか。これをスタッフレベルで行うことは非常にストレスがかかるため、所長案件となることも多いですね。
時間も労力もかかるため、お客様を変えようとするのは”割が合わない”のです。
だからこそ「顧問先を変える」よりも「事務所側の仕組みを変える」方が圧倒的に効果が出る領域です。
ではどのように事務所の仕組みを変えていけばよいのでしょうか。これは一律に”こうすればよい”というものではありません。なぜなら期限ギリギリになる理由は、お客様ごとに違うのです。
そこでこの”理由ごとに分類”することが実務的なアプローチの第一歩となります。
この分類を見るだけで、どの顧問先にどんなアプローチをすべきかが一瞬で判断できます。
お客様のタイプ | 特徴 | 対応策 |
①忘れているタイプ | 悪気はない、催促すれば出す | リマインドの自動化 締め切り前の定期通知 |
②後回しタイプ | 優先順位が低い | 期限の前倒し設定 提出しないリスクを明確化 |
③そもそも準備できていないタイプ | 管理体制が弱い | 記帳代行・クラウド化・月次支援の提案 |
④期限ギリギリでも困らないと思っているタイプ | 事務所の負担を理解していない | ルール化 ペナルティ設定 |
まずはこうした分類をすると、管理が一気に楽になり、スタッフのストレスをかなり減らすことができます。
では次に、事務所で行う”対策”について一つひとつ見ていきましょう。
2. “提出状況の見える化”が最優先
全ての期限ギリギリ問題に対する完全に対応する対策はありません。しかしそのうち8割はこの”見える化”だけで解決することができます。
この期限ギリギリ問題に対する見える化は、一覧でお客様を並べ、期限ギリギリにならないと提出されないのか、それともしっかりと余裕をもって提出されるのか、を一目でわかるようリスト化するものです。
このリストには次のような特徴があります。
顧問先ごとの提出状況を一覧化
色分け(未着・部分・完了)
スタッフ別の担当状況
期限までの残日数
優先度(A:要注意、B:普通、C:優良)
私がお勧めするやり方は、お客様情報の基本となる顧問先マスタと、月次提出チェックリスト、期限管理リスト、リマインド管理リスト、”遅れ常習顧問先”の個別リスト、などをリンクさせたものです。
これを事務所の事情に合わせてカスタマイズしていきます。
①顧問先マスタ(基本情報)
お客様の属性を整理する台帳です。
提出状況確認の土台となるものです。
項目 | 内容例 |
顧問先名 | 株式会社〇〇 |
担当者 | 佐藤 |
月次区分 | 毎月/隔月/四半期 |
提出方法 | メール/LINE/チャットワーク/紙 |
経理体制 | 自計化/記帳代行 |
要注意区分 | A(遅れ常習)/B(普通)/C優良 |
備考 | 経理担当の変更、などの情報 |
②月次提出チェックリスト
事務所がこの問題で一番使うリストです。
色分け+残日数+ステータスの3点セットがポイントとなります。
顧問先名 | 担当者 | 必要資料 | 提出状況 | 最終提出日 | 残日数 | ステータス | コメント |
株式会社A | 佐藤 | 通帳・請求書 | 未着 | ー | 12 | 🔴 未着 | 毎月遅れがち |
株式会社B | 鈴木 | 売上データ | 部分 | 2/3 | 5 | 🟡 部分 | 追加資料待ち |
株式会社C | 田中 | 全資料 | 完了 | 2/1 | ー | 🟢 完了 | ー |
● ステータスの色ルール
🔴 未着:資料ゼロ
🟡 部分:一部のみ
🟢 完了:すべて提出済
③ 期限管理(事務所締切 × 法定期限)
“本当の期限”と“事務所の締切”を分けて管理するリストです。
顧問先名 | 法定期限 | 事務所締切 | 残日数(事務所) | 残日数(法定) | リスク度 |
株式会社A | 3/31 | 3/10 | 12 | 33 | 高 |
株式会社B | 3/31 | 3/15 | 17 | 33 | 中 |
株式会社C | 3/31 | 3/20 | 22 | 33 | 低 |
④ リマインド管理(自動化前提)
顧問先ごとに「いつ・何を送るか」を一覧化します。
顧問先名 | 月次通知 | 1週間前 | 3日前 | 当日 | 備考 |
株式会社A | 送信済み | 予定 | 予定 | 予定 | LINE自動化 |
株式会社B | 送信済み | 送信済み | 予定 | 予定 | メール |
株式会社C | 送信不要 | 優良顧客 |
⑤ 遅れ常習顧問先の個別管理
改善策を“見える化”して、担当者のストレスを減らします。
株式会社A
顧問先名 | 遅れ理由 | 類型 | 改善策 | 次回アクション | 担当者 |
株式会社A | 経理担当が忙しい | ②後回し | 事務所締切の前倒し | 3月に面談 | 佐藤 |
株式会社B | 経理体制が弱い | ③準備できない | 記帳代行提案 | 見積送付 | 鈴木 |
これはあくまでもテンプレの例ですが、こうしたシートを作っておくと提出状況の見える化を行うことができます。 見える化は「感覚の管理」を「事実の管理」に変えるため、スタッフのストレスが激減します。
Excelで工夫して作っても良いのですが、RPAで入力の手間を省けるようにしておくと、さらに効率は高まりますね。
また、ここで作ったシートを元に、次のような対策を組み合わせていきます。
3. リマインドを“人”から“仕組み”に置き換える
誰かに何かを催促する、というのは精神的に負荷がかかります。この期限ギリギリの問題でも、お客様にスタッフが催促するというのは、ストレスがかかる業務です。そのため、この催促=リマインドを仕組み化して、自動で行えるようにしておくと、職場の負荷は軽減されます。
前述④のリマインド管理のシートと組み合わせることで、仕組み自体は簡単に構築することができます。このリマインドの仕組み化は、以下のような手法が考えられます。
LINE公式・Chatwork・メールの自動リマインド
月初に「今月必要な資料一覧」を自動送信
期限1週間前・3日前・当日の自動通知
提出フォーム(Googleフォーム等)で回収
催促の心理的負担がゼロになるだけで、スタッフの離職防止にも効果があります。
4. “期限前倒し”を事務所ルールとして設定する
期限ギリギリ問題を解消する鍵は「事務所締切」の設定にあります。
税務の世界では、法定期限が絶対的な基準として存在します。しかし、実務の現場では 「法定期限ギリギリに資料が届く」 という状況が日常化し、スタッフの残業や精神的負担につながっています。
実はこの問題、顧問先の性格や意識の問題ではなく、事務所側の“締切の設計”で大きく改善できます。
問題なのは、多くの顧問先が、「期限ギリギリでも事務所が何とかしてくれる」という認識を持っているということ。
これは顧問先が悪いのではなく、資料などを提出した後事務所でどのような業務が行われているのか、が見えていないからです。そのため確定申告の締め切り2~3日前に資料を提出すればいいだろう、という発想になってしまうのです。
そこで必要なのが、法定期限より10〜20日前に“事務所締切”を設定すること。
事務所締切を設けることで、
スタッフの作業に余裕が生まれる
顧問先の提出行動が前倒しになる
期限ギリギリの駆け込みが激減する
ミスやチェック漏れが減る
といった効果が得られます。
重要なのは、この事務所締切を「暗黙の了解」ではなく「明文化されたルール」にすること。
契約書
月次のご案内
年間スケジュール
初回面談資料
メール署名の下部
LINE公式の固定メッセージ
など、複数の接点で繰り返し伝えることで、顧問先の行動が自然と変わっていきます。
特に効果的なのは、「なぜ前倒しが必要なのか」をしっかりと理解してもらうことです。
税務調査リスクや金融機関対応、決算遅延の影響などを説明することで、”遅れ”がお客様のデメリットになる、という認識を持ってもらう必要があるのです。
5.“遅れ常習”の顧問先には、個別戦略が必要
こうした”見える化”などの仕組みの整備すれば、8割のお客様は改善に向かうでしょう。しかしどれだけ仕組みを整えても毎回のように資料提出が遅れるお客様は、一定数存在します。
このタイプの顧問先に対して、「もっと早く出してください」と言い続けても改善は期待できません。なぜなら、遅れる理由は顧問先ごとに異なり、“一般的なルール”ではなく“個別の戦略”が必要な領域だからです。
■ 遅れ常習の顧問先は「原因別」に対策を変える
遅れの背景には、次のようなパターンがあります。
経理担当者がそもそも業務を理解していない
経理体制が弱く、資料が揃わない
会計ソフトが合っていない
社内で経理が後回しにされている
事務所が“何とかしてくれる”と思っている
これらは、顧問先の努力だけでは解決できません。だからこそ、事務所側が “サービス内容を調整する” という発想が必要になります。
① 記帳代行への切り替え提案
自計化をしているお客様の中で、経理担当者が弱い、資料が揃わない、入力が遅い──こうしたケースでは、自計化を維持すること自体が顧問先の負担になっている 可能性があります。
記帳代行に切り替えることで、
提出資料が「必要最低限」に絞られる
事務所側でスケジュール管理ができる
顧問先のストレスも減る
という双方にメリットが生まれます。
② 経理担当者の教育
担当者が変わった、経験が浅い、理解が追いついていない──こうした場合は、教育の機会を提供することが最も効果的です。
月次資料の揃え方
会計ソフトの基本操作
税務上の注意点
事務所が求める提出基準
これらを短時間のレクチャーで整えるだけで、提出スピードが劇的に改善することがあります。
③ クラウド会計の導入
紙・Excel・メール添付が混在している顧問先は、そもそも提出が遅れやすい構造になっています。
クラウド会計を導入することで、
データ共有がリアルタイム化
資料提出の手間が減る
事務所側のチェックも早くなる
という“遅れにくい仕組み”が整います。
④ 月次ミーティングの設定
提出が遅れる顧問先ほど、コミュニケーションが不足している ことが多いです。
月1回の短いミーティングを設定するだけで、
提出の重要性が伝わる
顧問先の状況が把握できる
課題をその場で解消できる
という効果があり、遅れが減っていきます。
⑤ 料金改定(手間に見合う形へ)
遅れ常習の顧問先は、事務所側の負担が大きくなりがちです。
その場合は、手間に見合う料金に見直すことも必要な選択肢です。
提出遅延による追加作業
催促の手間
スケジュール調整の負担
これらを適正に反映することで、事務所の運営が安定し、顧問先も「遅れるとコストが増える」と理解するようになります。
■ 視点を変えると、前向きに進む
“遅れ常習”の顧問先への対応は、つい「顧問先の問題」と捉えがちです。
しかし本質は、「事務所の提供サービスが顧問先の状況に合っていない」というミスマッチであることが多いのです。
サービス内容を調整し、顧問先に合った形に再設計することで、双方にとってストレスの少ない関係が築けます。
結論:期限ギリギリ問題を管理するには「仕組み化 × 見える化 × ルール化」
期限ギリギリ問題の本質は、“顧問先の性格”ではなく“事務所の仕組み”にあるという点に尽きます。
仕組みを整えない限り、来年も同じストレスが続きます。逆に、今少し手を入れるだけで、来年の繁忙期はまったく違う景色になります。仕組み化・見える化・ルール化が整えば、提出遅れは驚くほど減り、スタッフの負担も、決算の混乱も、所長のストレスも大きく軽減されます。
ただし、実際に仕組みをつくるとなると、
どこから手をつければいいのか
うちの規模に合うやり方は何か
どのツールを選ぶべきか
顧問先への伝え方はどうするか
こうした“事務所ごとの事情”が必ず出てきます。
もし、この記事を読んで「うちの事務所でも仕組みを整えたい」「提出遅れのストレスを減らしたい」と感じたなら、一度ご相談ください。
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