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小規模から中規模税理士事務所にステップアップする条件~鍵は「所長が手放す仕事」にある~


仕事を手放せず、忙しさに追われている税理士事務所の所長のイラスト
毎日業務に追われて忙しい、そんな所長が事務所の成長をストップさせている原因かもしれません


税理士事務所は個人の事務所としてスタートし、小規模から中規模、大規模の税理士事務所へと成長・拡大していきます。その中で、小規模税理士事務所から中規模税理士事務所へのステップアップに苦しんでいる事務所が非常に多いですね。実はこの中規模税理士事務所へのステップアップに欠かせないこと、それに気づかないといつまで経ってもそれ以上の成長・拡大は難しいのです。それが所長が仕事を手放す、ということです。


一人でスタートした税理士は、開業したらまずは営業し、お客様を獲得。そこで生じた業務はすべて自分で処理することになります。小規模税理士事務所でも、所長自らが陣頭に立ち、お客様対応に奔走します。しかし中規模税理士事務所となるとそうは言っていられません。

所長の時間は有限です。中規模税理士事務所となると所長は経営者として考えなければならないこと、やらなければいけないことが爆発的に増加します。事務所にとって、所長の時間は最も希少な経営資源となるのです。


そのため中規模税理士事務所になるためには、所長が思い切って仕事を手放し、スタッフに任せていく必要があります。ただここで注意したいのが、手放した方が良い仕事と、手放してはいけない仕事がある、ということです。



1.所長が手放すべき仕事とは:共通点は「再現性が高い」「判断の価値が低い」


まず最初に確認しておきたいことは、手放す=丸投げではありません。スタッフに任せる仕事を分類し、ロードマップを構築して順番に任せていく必要があります。中規模税理士事務所にステップアップできない事務所は、手放したほうが良い仕事と手放してはいけない仕事をうまく分類できず、人数が増えても所長が経営に集中できず、事務所の成長が止まってしまうのです。

つまり、“手放す”ことがスムーズに進まなければ、所長自身が事務所のボトルネックになってしまうのです。


そこでまずは手放すべき仕事、についてみていきましょう。

その特徴は、再現性が高く、判断の価値が低い、というものです。


 1-1. ルーティン・定型業務

  • 月次入力チェック

  • 書類のスキャン・整理

  • 電話・メールの一次対応

  • 期限管理(システム化・担当制で代替可能)


 1-2. 所長でなくても判断できる業務

  • 決算の初期レビュー

  • 顧問先の軽微な相談対応

  • 社内の細かいオペレーション改善

  • 採用の一次対応(説明・日程調整など)


 1-3. ツール・仕組みで代替できる業務

  • AIによる資料作成・議事録

  • チャットボットによる顧客FAQ

  • ワークフローによる承認・進捗管理

  • MASの自動化で代替できるチェック作業


これらの共通点は、他で十分代替できるもの、ということになります。

最終確認は所長が行うにしても、一次対応、初期対応、細かい作業まで所長が行っていてはリソースの無駄遣いです。



2.所長が手放してはいけない仕事:共通点は「未来をつくる」「価値が跳ね上がる」


では逆に、手放してはいけない仕事とはどんなものでしょうか?

それは事務所の未来を左右する仕事、そして所長の判断によって価値が跳ね上がる仕事です。つまり”所長が判断することに意味がある”ものは手放してはいけません。

例えば、以下のようなものですね。


 2-1. 経営判断・意思決定

  • 顧問先の方向性に関わる判断

  • 事務所の投資判断(採用・設備・AI導入)

  • 料金改定や顧客選別の最終判断


 2-2. 顧問先との“関係性をつくる”仕事

  • キーパーソンとの関係構築

  • 高難度の相談対応(事業承継・資金繰り・組織問題)

  • 顧問先の経営者が「所長に聞きたい」領域


 2-3. 事務所のブランドを形づくる仕事

  • ビジョン・価値観の発信

  • 採用における最終面談

  • 事務所の方向性を示すメッセージづくり

  • 重要顧客への最終プレゼン


 2-4. 組織づくり・人材育成

  • 幹部育成

  • 評価制度の方向性決定

  • 組織文化の形成

  • 「任せられる人」を育てる仕事


これらをスタッフ任せにしてしまうと、事務所の大きな責任までスタッフに背負わせることになります。スタッフの成長に応じて、ゆくゆくはこうした業務に携わらせるにしても、所長が最終決定権を持つ必要があります。



3.所長が迷いやすい”グレーゾーン業務”の判断基準


ただ、税理士事務所の仕事は多くの範囲におよんでいるため、簡単に白黒つけることは難しいでしょう。業務の内容によっては判断が分かれる、いわゆるグレーゾーンの業務があります。これについてはどのように考えたらよいでしょうか。


・所長がやった方が早い、は罠

まず処理速度の問題です。確かに所長がやったほうが早い、という業務はあるでしょう。しかし速度は慣れの問題でもあります。所長が“やった方が早い”仕事を積み重ねるほど、


  • スタッフは育たず

  • 所長は疲弊し

  • 経営判断に使う時間が消えていく


だからこそ速度は判断基準にならないのです。

ではどのようなものを判断基準にすればよいのでしょうか。


判断基準①:再現性

その仕事は、マニュアルやチェックリストで再現できるか?

再現性が高い仕事は、仕組み化と育成によって移譲可能です。

例:月次チェック、書類整理、軽微な顧客対応

→ 再現性が高い仕事を所長が持ち続けるのは、時間の浪費。



判断基準②:価値の跳ね上がり

その仕事は、所長がやることで“価値が跳ね上がる”か?

顧問先との信頼構築や、高度な判断が求められる場面では、所長の関与が価値を生みます。例:料金改定の説明、事業承継や資金繰りなどの高度相談、重要顧客との関係構築、採用の最終面談

→所長がやることで価値が変わる仕事は、所長が持つべき領域


判断基準③:長期的な投資効果

その仕事を今任せることで、未来ではどれだけ早くなるか?

短期的には所長がやった方が早い。でも、任せることで

  • スタッフが育つ

  • 判断基準が共有される

  • 仕組みが整う

  • 組織のスピードが上がる

なら、それは“時間の投資”。

例:初期レビューを任せて育成する、顧客対応の判断を共有し、任せていく、社内改善をスタッフ主導にする

→「今は遅い」ではなく「未来では早くなるか」で判断するのがポイント


判断基準④:属人化リスク

その仕事が、所長しかできない状態になっていないか?

属人化は、短期的には安心でも、長期的には組織の最大のリスク。

典型例:所長だけが作れるExcel資料、所長だけが判断できる顧客対応、所長だけが知っている業務フロー、所長が全顧客の窓口になっている

→属人化している仕事ほど、まず“見える化”し、仕組み化し、移譲の準備を進める必要がある。


このように、グレーゾーン業務は「未来基準」で判断することが重要です。

そのため、

  • 所長がExcelで資料を作り込む

  • 所長が全案件のレビューをする

  • 所長が全顧客の窓口になる

このようなものは典型的なNG例といえるでしょう。

所長が「やらない勇気」を持つことで、組織は強くなっていくのです。



4. 手放すための仕組み・人・文化


所長が仕事を手放すには、単に「任せる」と決めるだけでは不十分です。任せられる“土台”がなければ、結局は所長に戻ってきてしまう。その土台は 仕組み・人・文化 の3つで構成されます。

この3つが揃うと、所長が手放しても品質が落ちず、組織が自走し始めます。


4-1.仕組み:任せても品質がブレない状態をつくる


● 権限移譲マトリクス

「どの仕事を、誰に、どこまで任せるか」を明確にする表。感覚ではなく“基準”で任せる範囲を決めることで、迷いが消え、スタッフも動きやすくなる。

※権限移譲マトリクスは非常に重要なので、記事の後半部分で詳しく解説します


● 業務マニュアル・チェックリスト

任せるための“再現性”を担保する仕組み。完璧なマニュアルは不要で、まずは


  • 手順

  • 判断基準

  • 注意点


の3つがあれば十分。

チェックリスト化すれば、品質のバラつきも防ぐことができます。


● AI・MASの活用

所長が抱えがちな「確認」「整理」「作成」などの作業は、AIやMASで大幅に削減できる。


  • 月次チェックの自動化

  • 顧客対応のテンプレ化

  • 会議録・資料作成のAI化


こうしたものを、仕組みと組み合わせることで“任せやすい環境”が整う。



4-2.人:任せられる人材を育てる


● 育成の順番(①担当者 → ②リーダー → ③管理職)

仕事を任せるために、いきなり管理職を育てようとすると失敗します。

まずは担当者の判断力を育て、次にリーダーの調整力、最後に管理職のマネジメント力へと段階的に育てるのが自然な流れ。ここで無理をすると、スタッフに余計なストレスがかかってしまいリスクが高まります。


● 「任せる側の技術」

任せるのは“技術”。ポイントは3つ。

  • 期待値を明確に伝える

  • 期限と報告ルールを決める

  • 途中で口を出しすぎない


    任せる側の技術が上がるほど、スタッフは育ち、所長の負担は確実に減っていきます。


● フィードバックの型

任せた後のフィードバックが育成の核心。

おすすめは「事実 → 気づき → 次の行動」の3ステップ。

感情ではなく“行動”に焦点を当てることで、スタッフが前向きに成長できる。



4-3.文化:任せても戻ってこない組織をつくる


● 失敗を許容する文化

任せたのに失敗したら怒られる——この空気がある限り、誰も挑戦しない。小さな失敗は“成長の材料”として扱うことで、挑戦する文化が育ち、心理的安全性も高まり、職場改善にもつながります。


● 情報共有の透明性

情報が所長に集中していると、任せても結局戻ってくる。

  • 顧客情報

  • 判断基準

  • 業務フロー


をオープンにすることで、組織全体の判断力が底上げされます。


● 所長が“やらない姿勢”を見せる

所長が率先して「やらないことを決める」ことで、スタッフは自分たちが主体で動くようになる。所長が抱え込む姿を見せると、誰も動けなくなる。逆に、所長が“未来の仕事”に集中する姿は、組織の方向性そのものになる。



4-4.まとめ:仕組み・人・文化が揃うと、所長は未来に集中できる


仕事を任せていくには、仕組み、人、文化、の3要素がどれも必要です。


・仕組みがあるから任せられる

・人が育つから仕事が戻ってこない

・文化があるから組織が自走する


この3つが揃ったとき、所長の時間は”業務を処理する”から”未来を作る仕事”へと変わるのです。



5.手放す仕事か、を判断する権限移譲マトリクスとは


この権限移譲マトリクスを簡単に説明すると、手放す仕事かを判断し、「どの仕事を、誰に、どこまで任せるか」を可視化するための整理表のこと。所長の“感覚任せの任せ方”をなくし、組織として一貫した判断ができるようになります。

特に税理士事務所では、


  • 所長が抱え込みすぎる

  • 任せたつもりが丸投げになる

  • 担当者がどこまで判断していいかわからない


という問題が起きやすいため、マトリクス化の効果は大きいですね。



●権限移譲マトリクスの基本構造


権限移譲マトリクスは以下のようなものです。



L1:所長が実行

L2:所長が判断、スタッフが実行

L3:スタッフが判断し、所長が最終確認

L4:スタッフに完全移譲

ルーティン業務





判断が必要な業務





関係性構築の業務





このように 縦軸=業務/横軸=権限レベル で整理していきます。

権限レベルについては事務所によって調整も必要ですが、私は以下のようにしています。


L1:所長が実行 →高度判断・重大リスク・最終責任が必要

L2:所長が判断し、スタッフが実行 →判断は所長、作業は任せる

L3:スタッフが判断し、所長が最終確認 →中程度の判断を任せる

L4:スタッフに完全移譲 →再現性が高く、任せても品質が安定


これを元に様々な業務のレベル分けを行っていきます。

例えば、

顧問先の料金改定=L1(経営判断・お客様との関係性に直結)

決算の最終レビューL1~2(事務所の品質基準に関わる)

決算の初期レビュー=L3(判断基準を整えれば任せられる)

月次チェック=L4(仕組み化すれば完全移譲可能)

顧問先の軽微な相談=L3~4(FAQ化・判断基準化で移譲可能)

採用の一次対応=L4(説明・日程調整などは任せられる)

採用の最終面談=L1(事務所の文化・方向性に関わる)


このようにして業務を各分類に振り分けていきます。

では具体的にこのマトリクスを使うフローを見ていきましょう。



●権限移譲マトリクスを作るステップ


① 業務棚卸し

所長がやっている仕事をすべて書き出します。

ほとんどの税理士事務所で、「本当はやらなくていい仕事」が大量に見つかると思います。


② 業務を分類

  • ルーティン

  • 判断が必要

  • 高度判断

  • 関係性構築


などに分けていきます。


③ 権限レベルを割り当てる

  • 「これはL3にしたい」など、理想の状態で設定する

  • 現状ではなく“未来のあるべき姿”で決めるのがポイント


④ 任せるための仕組みを整える

  • チェックリスト

  • マニュアル

  • 判断基準

  • AI・MASの活用

  • 進捗共有のルール


⑤ 移譲の順番を決める

  • すぐ任せられる業務

  • 育成が必要な業務

  • 所長が持ち続ける業務


に分けてロードマップ化します



6. まとめ:所長の時間は“未来をつくる”ために使う


多くの所長が誤解しているのが”仕事を手放すことは弱さではない”ということです。

むしろ経営者としての強さの証

所長が仕事を抱え込むほど、組織は”今”に縛られます。逆に所長が手放すほど、組織は未来に向かって動き出します。


実際、権限移譲を行った事務所では以下のような声がありました。

  • 所長の“判断疲れ”が激減した

  • スタッフが自走し始めた

  • ミスの原因が「属人化」から「仕組み」に変わった

  • 所長の時間が「未来をつくる仕事」になった

  • 組織の成長スピードが上がった


所長が仕事を手放さないのは”事務所の未来の可能性を奪っている”ともいうことができるのです。所長が本当にやるべき仕事は「未来を描くこと」「顧問先やスタッフとの関係性を深めること」「価値を生み出す判断をすること」の3つにつきます。

これらは”誰にも代わることができない”経営者の仕事”です。


所長が”やらないこと”を決めると、スタッフが育ち、仕組みが整い、文化が変わります。そして所長の時間は”未来を作る仕事”へと集中することができます。

手放すことは、組織の成長を加速させる最も強力な経営判断。

今日から一歩ずつ、未来に向けた時間の使い方にシフトしていきませんか?


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