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税理士事務所のIT人材不足は「育成」でしか解決できない理由──格差を生む“決定的な要因”とは

税理士事務所のIT人材をイメージしたイラスト
税理士事務所はIT人材がいるのといないのでは、確実に格差が生じます


税理士事務所の現場では、いま静かに、しかし確実に“IT人材不足”が深刻化しています。DX担当がいない。新しいシステムを導入しても使いこなせない。AIを活用したいのに、誰が旗を振るのか決まらない。Excelや会計ソフトの操作は一部の人に依存し、属人化は進む一方。

どの事務所も同じ悩みを抱えているのに、決定的な解決策が見つかりません。運よくITに強い人材を獲得できた事務所がAI を駆使し急速に成長を遂げている一方で、IT人材を確保できていない事務所の中には、いまだにクラウド会計の導入をどうしようか検討している、という事務所も。それだけ大きな格差が生まれてしまっているのです。

しかし、「ITに強い人を採用すればいい」と言われても、そもそも応募が来ないし、来たとしても税務の現場で即戦力になるとは限らない。


では、どうすればいいのか。

答えはシンプルです。“外から連れてくる”のではなく、“事務所の中で育てる”こと。

この記事では、税理士事務所が抱えるIT人材不足の本質と、現場で実現可能な“育成のアプローチ”について、具体的に掘り下げていきます。



なぜ “採用”ではなく“育成”が事務所の未来を変えるのか


そもそも税理士事務所でIT人材をいきなり採用しようと思っても、かなり厳しいですね。

私も「よくITに強い人を採用するにはどうすればいい?」と聞かれるのですが、答えに困ってしまいます。なぜならITに強い求職者のニーズと税理士事務所のニーズは大きな隔たりがあるからです。


給与水準のギャップ

そもそも給与レンジがかなり違います。

例えば30代のプログラマーの平均年収は489万円(データ出典:doda[『プログラマーの平均年収はいくら?』より)。これは東京・大阪の都市部で経験5~10年の担当件数20~30件、決算も自走できる中堅担当者レベルの給与レンジになります。しかも彼らは会計や税務の知識がまったくないので、税務などは一から教える必要があります。

つまり、ITだけしかできない人に担当者レベルの給与を出せるのかが問題になります

これが50人以上の大規模な税理士事務所なら、IT人材はITだけやっていても仕事として成り立つでしょう。しかし30名以下の事務所でも、そうした人材をそれだけの給与を払いながら維持していくのは難しいと言わざるを得ません。


スキルのミスマッチ

また、スキル的なギャップもあります。

プログラマーは言うまでもなくプログラムを組むのが仕事です。しかし会計事務所の求めるIT人材は、会計ソフトで困ったことがあれば相談に乗り、ワード・エクセルに精通し、時にはシステムの導入などを検討できる、いわば「できあがったシステムを使いこなせる人」です。

プログラミングの基礎知識は役立ちますが、ここでもやはり即戦力にはならないのです。


職場としての魅力不足

さらにプログラマーからしたら税理士事務所は魅力のある職場ではありません。プログラマーのキャリアはそれ以上伸びませんし、新たなITスキルを身につける機会も少ないでしょう。そのためプログラマーなどのITの全線で活躍している人材から税理士事務所への応募は、ほとんどないといってよいでしょう。


だからこそ「内部育成」が唯一といってよい現実的な解答なのです。

ではどのようにして税理士事務所でIT人材を育てていけばよいのでしょうか?



税理士事務所で求められるIT人材とは


上記のように、税理士事務所で求められる「IT人材のレベル」は、一般企業の”ITエンジニア”とはまったく違います。むしろ「業務を理解し、改善できる人」というのが本質で、技術力よりも”現場理解✖デジタル活用”の掛け算ができる人、ということになります。


これを元に、税理士事務所で求められるIT人材を5段階に分けてみました。


🟦 レベル1:基本的なITリテラシー

最低限ここができれば、事務所のIT活用の土台になる。

  • Excel・Word・PDFの基本操作

  • クラウドストレージの扱い(共有・権限)

  • 会計ソフトの基本操作

  • チャット・タスク管理ツールの利用

  • PCトラブルの一次対応(再起動・設定確認など)

👉 新人でも育成可能。ここを全員がクリアすると事務所が一気に楽になる


🟩 レベル2:業務の標準化・見える化ができる人

ここから“IT人材”としての価値が出始める。

  • 業務フローを図解できる

  • 手順書・チェックリストを作れる

  • 属人化している作業を整理できる

  • Excelで簡単な関数・表作成ができる

  • AIツールを使って業務効率化ができる

👉 事務所の“改善担当”として活躍できるレベル


🟨 レベル3:ツール導入・改善提案ができる人

事務所が本当に欲しいのはこのレベル。

  • 会計ソフト・給与・年調・電子申告などの連携を理解

  • AI・RPA・OCRなどの導入検討ができる

  • 新しいツールを試し、事務所に合う形で提案できる

  • データの流れを理解し、ムダを見つけられる

  • 所内のIT相談に答えられる

👉 “IT担当者”として事務所のDXを前に進められる


🟧 レベル4:業務設計・システム最適化ができる人

ここまで来ると、事務所の未来をつくる存在。

  • 業務全体を俯瞰し、最適なフローを設計できる

  • システム選定の基準をつくれる

  • データベース的な考え方ができる

  • AI活用のルール・運用設計ができる

  • 所内教育をリードできる

👉 “ITマネージャー”として事務所の成長戦略に関わる


🟥 レベル5:事務所のビジネスモデルを変えられる人

これはレア人材。年収1000~2000万円クラスのIT専門家・コンサルタントレベル。

  • MAS・経営支援のデータ活用を設計できる

  • 業務改善 × 組織づくり × ITを統合できる

  • 新サービス(AI記帳、経営ダッシュボード等)を企画できる

  • 事務所の中長期戦略にITを組み込める

👉 事務所の“未来をデザインする人”。


では税理士事務所で育てるとなると、どこをまず目指すべきでしょうか。

結論:税理士事務所がまず育てるべきなのは「レベル2〜3」。

理由はシンプルです。

  • レベル1は“全員ができるべき基礎”

  • レベル2〜3は“事務所の生産性に直結する”

  • レベル4〜5は“希少で育成に時間がかかる”


ITのレベルは3までは比較的容易に到達できるのに対して、4以上は個人の資質だけでなく環境なども重要です。レベル5に到達するには、順調に言って10年弱は掛かってしまうでしょう。それだけのコストをかけて育成しても、一つの事務所だけで活用するには持て余してしまいます。

逆にレベル3程度であれば、ITに興味のある人であれば1年程度で十分到達可能。さらにそうした人材がいるだけで所内のIT環境は急速に改善されます。さらにお客様へのIT活用の提案などもできるようになり、会計知識✖IT知識の組み合わせで非常に生産性の高い人材となるのです。



税理士事務所のIT人材育成ロードマップ


では具体的にどのようにIT人材を育成すればよいのでしょうか。

育成のためのロードマップを作ってみたので参考にしてください。


STEP0:全員のIT基礎底上げ(0〜1か月)

まずは「IT担当者を育てる前に、所内のITリテラシー格差をなくす」ことが必須。


目的

  • IT担当者だけが頑張る構造を避ける

  • 全員が最低限のIT操作を理解することで、育成が進みやすくなる

内容

  • Excel基礎(ショートカット、関数、表作成)

  • PDF編集・電子申告の基本

  • クラウドストレージの使い方

  • チャット・タスク管理ツールの基本

  • AIツールの基本操作(ChatGPT/Copilotなど)

👉 ここは“全員研修”が効果的

最初に全員で研修した後、中途などで入社した人は個別に研修を実施し、全員がレベル1:基本的なITリテラシーを身につけている状態を維持しましょう。



STEP1:IT担当候補者の選定(1か月)

「ITが得意な人」ではなく、

“業務を理解していて、改善に前向きな人” を選ぶのがポイント。

選定基準

• 業務フローを理解している

• コミュニケーションが丁寧

• 新しいツールに抵抗がない

• 標準化を嫌がらない(共有に前向き)

• 小さな改善を楽しめるタイプ

👉 性格と姿勢が8割。技術は後からでも身に付きます。



STEP2:業務の見える化スキルを習得(1〜2か月)

IT人材の最初の仕事は「現状把握」。ITの知識を少しずつ身につけた段階だからこそわかる、自分たちの事務所の問題を確認することがその後に大きな意味を持ちます。

内容

• 業務フロー図の作成

• 手順書・チェックリストの作成

• 属人化ポイントの洗い出し

• データの流れ(入力→加工→出力)の理解

• 月次・決算のプロセス整理

👉 ここができると、改善の“土台”ができます。



STEP3:ツール理解と改善の小さな成功体験(2〜4か月)

いきなり大改革は無理。まずは「小さな改善」を積み重ねることで所内の空気が変わりはじめ、自信をつけることで成長に弾みがつきます。

内容

  • Excelの効率化(関数・ピボット・ショートカット)

  • 会計ソフトの連携理解(仕訳→月次→決算)

  • AIツールでの文書作成・チェック

  • OCR・スキャン・電子帳簿保存法対応

  • タスク管理ツールの導入

小さな成功例

  • 月次資料の作成時間を30分短縮

  • チェックリストを作ってミスを減らす

  • AIで顧客メールの下書きを作る

  • スキャン運用を整えて紙を減らす

👉 “改善できた”という実感が、次のステップの原動力になります。


STEP4:IT担当としての役割確立(4〜8か月)

ここから「事務所のIT担当」として動けるようになります。より専門性の高い問題にも対応しつつ、自ら課題を見つけ、解決できるようになっていきます。

内容

  • 新ツールの比較・選定

  • 所内のIT相談窓口

  • AI活用ルールの整備

  • データ管理ルールの作成

  • 業務改善ミーティングの主導

  • 所内研修の実施

👉 事務所の“ITのハブ”として機能し始めます。


STEP5:業務設計・DX推進(8〜12か月)

ここまで来ると、事務所の未来をつくる存在になる。自分たちの事務所だけでなく、顧問先のDX推進など、まさに会計✖ITを体現する人材となります。

内容

  • 業務全体の最適化(BPR)

  • システム導入プロジェクトのリード

  • AI × 会計 × 業務の統合設計

  • 経営支援(MAS)へのデータ活用

  • 所内教育体系の構築

  • 新サービスの企画(AI記帳、ダッシュボード等)

👉 “改善担当”から“未来をつくる人”へ。



🎯 ロードマップまとめ


STEP0:全員のIT基礎底上げ

 ↓

STEP1:IT担当候補の選定

 ↓

STEP2:業務の見える化スキル習得

 ↓

STEP3:小さな改善で成功体験

 ↓

STEP4:IT担当として役割確立

 ↓

STEP5:業務設計・DX推進



事務所がやるべき環境づくり


上記のようなロードマップでIT人材を育成するのと同時に、事務所が取り組まなければいけないのが「IT人材が育つ環境づくり」です。

どれだけ優秀な人材がいても、環境が整っていなければ力を発揮できません。逆に、環境さえ整えば、特別なスキルがなくても人は自然と成長していきます。

ここでは、税理士事務所がまず取り組むべき4つの環境づくりを紹介します。


■ 権限委譲

IT担当者を“名ばかり担当”にしないためには、一定の権限が必要です。ツール選定、運用ルールの作成、改善提案の実行など、担当者が主体的に動ける範囲を明確にし、任せる姿勢を示すことが大切です。権限がないと、「結局、所長の判断待ちで何も進まない」という状態になり、担当者のモチベーションはすぐに下がります。

小さな範囲からでもいいので、“任せる”ことが育成の第一歩です。



■ 失敗を許容する文化

IT活用や業務改善は、必ず試行錯誤が伴います。最初から完璧な仕組みを作ることは不可能で、むしろ小さな失敗を繰り返しながら改善していくものです。しかし、多くの事務所では「ミス=悪」という文化が根強く、挑戦が生まれにくいのが現実。

IT人材が育つ事務所は、“失敗は改善の材料”という価値観を共有しています。

失敗を責めるのではなく、「どうすれば次はうまくいくか」を一緒に考える文化が、挑戦を後押しします。



■ 情報共有の仕組み

IT担当者が一人で抱え込むと、改善は必ず止まります。属人化を防ぎ、事務所全体で知識を共有する仕組みが必要です。

  • チャットツールでの情報共有

  • 週次の改善ミーティング

  • 共有フォルダの整理

  • 手順書の更新ルール

こうした仕組みがあるだけで、“IT担当者が孤立しない環境” が整います。

情報が流れる事務所は、改善スピードも圧倒的に速くなります。



■ チェックリスト・標準化ツールの整備

IT人材が育つ事務所は、例外なく“標準化”が進んでいます。標準化が進むと、改善の余地が見えやすくなり、IT担当者が動きやすくなるからです。

  • 月次・決算のチェックリスト

  • 入力ルール

  • ファイル命名ルール

  • 業務フロー図

  • AI活用ガイドライン

こうしたツールが整っていると、「どこを改善すべきか」 が明確になり、IT担当者の成長スピードが一気に上がります。



IT人材育成で成功した事務所の事例


ここで実際にIT人材育成に成功した事務所の例を紹介します。「うちでもできるのか?」という疑問に対する答えになるはずです。


どこにでもある事務所からの出発

その事務所がIT人材育成に取り組みだしたのは6年ほど前でしょうか。私が訪問したのは先代の所長からちょうど代替わりをしたタイミング。都内といっても中心部ではなく、ちょっと離れたところにある住宅街の一角でした。

最初に感じたのは、特徴のない事務所、ということ。スタッフ数が6名、うち2名が仕訳のアシスタントで4名が顧客担当という、言ってしまえばどこにでもある事務所だったのです。

代替わり40代の新所長が就任し、まず行ったのがITの基礎研修でした。私はその研修講師として呼ばれたのです。この段階で感じたのは「先は長いな」ということ。ともかくITリテラシーが低かったのです。

それも、仕方のないことかもしれません。

顧客担当の4人のうち、60代以上が2人、50代1人、30代が1人という構成。

アシスタントも40~50代が中心の、年齢が比較的高い事務所だったのです。


若い人材獲得でIT人材育成に

ただ、そこから2年ほどたってからでしょうか。改めて呼ばれた時、かなり状況は変わっていました。60代のスタッフ2名が定年退職したのに伴い、若いスタッフを3名採用し、今後IT教育に力を入れていく、という相談を受けました。そこからは早かったですね。上記のロードマップに従い、まずは20代の3名に唯一の30代の顧客担当を育成。1年ほどで一気に所内のDX化が進みました。


顧問先の業務効率化とブランド化

するとそれがブランディングとなったのか、お客様が急増していきます。

特にfreeeやMFなどが浸透しているタイミングもあり、全面的にクラウド会計を導入している事務所ということで若い経営者に支持され毎月10件以上の新規顧客を獲得するようになっていきました。同時に新たなスタッフの採用も進み、最初は6名だったスタッフもわずか2年ほどで18名体制に。そこで止まらなかったのがこの事務所の所長です。

さらにお客様のDX化の支援もサービスに組み込んだのです。


AI導入によるさらなる付加価値の創出

最初にIT人材教育をしたスタッフが中心となり、Salesforceやkintoneなどの導入を顧問先に提案、MFなどと連携させることで一気にDX化。事務所に居ながらにしてお客様の取引状況や従業員の勤怠など、会計・税務・人事の情報をリアルタイムで確認できるようになったのです。

お客様の業務効率化も進み、そうなると顧客の離脱はほとんどなくなり、顧問料が少々高くても継続的に契約するお客様ばかりになりました。


昨年はAI の導入も行い、今後はそのノウハウをお客様に提供することで、さらなる付加価値を目指していくことで差別化を進めていく、とのことです。



事例3行要約

・6年前に先代から事務所を承継した新所長がIT人材育成に取り組み始める

・若手スタッフを中心としたIT人材が活躍し、事務所が急成長

・現在ではAIも導入し、顧問先のDX推進なども行いブランドを確立



まとめ


税理士事務所のIT人材不足は、もはや一部の事務所だけの問題ではありません。DX、AI、電子帳簿保存法、クラウド会計──業界全体が大きく変わる中で、ITを理解し、業務を改善できる人材は“事務所の生命線”になりつつあります。

しかし、その人材は外から連れてくるものではありません。給与水準、業務の特殊性、採用市場の状況を考えても、「内部で育てる」ことこそが、もっとも現実的で、もっとも効果の高い選択肢です。

そして、IT人材の育成は決して難しいことではありません。特別なスキルや資格が必要なわけでもありません。必要なのは、


  • 正しい順番で育てるロードマップ

  • 失敗を許容し、挑戦を後押しする環境

  • 標準化された業務と、情報が流れる仕組み

    この3つだけです。


小さな改善を積み重ねられる人が、やがて事務所のITを支える存在になります。今日の一歩が、半年後、一年後の大きな変化につながります。IT人材は“探す”ものではなく、“育つ環境をつくる”ことで生まれる。これからの事務所経営は、まさにその環境づくりが問われています。


ただ、IT人材育成のノウハウのない事務所では、いきなり体制構築は難しい状況もあるかもしれません。そうした際はお声をおかけいただければ、最初の段階である「全員のIT基礎底上げ」からしっかり伴走支援を行っていきます。まずは無料相談からお問い合わせください。


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