スタッフを解雇する前に知っておきたいこと3(懲戒解雇)
- 斉藤永幸
- 2025年12月2日
- 読了時間: 8分

懲戒解雇は一般的な解雇とは性格が違う
ここでこんなことを書くには不適切かもしれませんが、懲戒解雇を行う場合、まずやるべきは弁護士に依頼すること。懲戒解雇は被雇用者の人生に大きなマイナスの影響を与えるため、訴訟などに発展するケースが非常に多いのです。そのため懲戒解雇を行う際は、事務所を守るため、最大限の備えをしておかなければいけません。
なぜこのようにリスクが高くなるのか。それは懲戒解雇は普通解雇とは性格が異なるからです。普通解雇はスタッフが労働契約の債務不履行状態であるととらえて、労働契約を解除するというものです。これはあくまで契約の解除であり、雇用者・被雇用者という立場の違いはあっても、契約上の関係はイーブンとも言えます。しかし懲戒解雇は違います。単なる契約の解除ではなく「制裁」という性質を有しているのです。
そのため解雇予告に関するルールは適用されません、普通解雇であれば30日前までに解雇予告をする必要がありますが、懲戒解雇ではこの解雇予告も、それに伴う解雇予告手当の支払いは不要となります。
また、普通解雇であれば、退職金制度などを設けていた場合、就業規則などに則り退職金の支払いを受けることができますが、懲戒解雇の場合は退職金規定などで「懲戒解雇の場合は退職金を支給しない」と規定しているところも多いのです。そのため懲戒解雇では、退職金の減額、または不支給とすることも可能となります。
また、懲戒解雇されたスタッフが再就職しようとした際も、大きなハンデを背負うことになります。転職活動では、ほぼ必ず前職の退職理由を聞かれます。そこで正直に「懲戒解雇された」と言ったら、雇ってくれる職場はあるでしょうか?聞かれても嘘をつくことになりますし、そこでばれなかったとしても入社後にばれれば面接で噓をついたとして懲戒事由、場合によっては解雇事由になるのです。
失業保険でも不利になります。懲戒解雇は事務所からある意味一方的に解雇を告げられます。通常お、会社都合での解雇の場合、失業保険の支給タイミングは7日後、支給期間も90日~330日で、最大支給額も約260万円です。しかし懲戒解雇の場合、失業保険では自己都合での退職と同じ扱いになるので、支給タイミングは1か月と7日後、支給期間も90日~150日、最大支給額も118万円になります。
給料が突然もらえなくなり、失業保険の額も少なくなるため、生活に大きなダメージとなるのです。
解雇予告などが必要なく、退職金もなくなれば、事務所にとっての負担も少ない、と思うかもしれませんが懲戒解雇にはしっかりとした要件が定められています。そのため濫用してしまえば、あっという間に訴訟となり、事務所が大きなデメリットを負う羽目になります。
ではどのような場合に懲戒解雇が認められるのでしょうか。
まずはその要件から見ていきましょう。
懲戒解雇が認められるには
懲戒解雇は被雇用者に罰を与える目的の「懲戒」の中で最も重い処分として規定されていることがほとんどです。そのため懲戒解雇を適法に行うためには、しっかりと要件を満たす必要があります。
要件1.就業規則上の根拠があること
要件2.解雇権の濫用(労働契約法16条)に当たらないこと
要件3.懲戒解雇事由に該当する事実があること
要件4.懲戒解雇であることが通知されていること
この4つが要件となります。
つまり、あらかじめどのような行為が懲戒解雇になりえるのか、就業規則上にしっかりと定められていなければいけません。また、その程度も重要です。単に無断欠勤をしたら懲戒解雇と規定していても、それが1日2日では懲戒解雇で処分することはできません。また、事実の確認は重要です。しっかりとプロセスを踏み、証拠などに基づき懲戒事由の事実を客観的に判断できるようにしておかなければいけません。さらにスタッフに懲戒解雇と告げず、単に解雇としてクビにして、後で懲戒解雇だった、などは明らかに違法行為となります。
また、これらの要件を満たしていたとしても、懲戒解雇が正当であると認められるには6つの基本原則をすべて満たす必要があります。
1.正当性の原則
懲戒事由を定めた就業規則の規定が正当であるといえるかどうか
(一般通念上、あまりに重い処分が規定されていた場合など、懲戒解雇が不当とされることもあります)
2.平等待遇の原則
同じ違反行為ならだれに対しても同等の処分を下すかどうか
(同じ違反をしたにもかかわらず、片方には軽い処分で、片方は懲戒解雇という扱いは認められません)
3.二重処罰禁止の原則(一事不再理)
一つの問題に対し複数の処罰を行うことの禁止
(例えば、無断欠勤の懲戒処分として戒告処分をした後、それでは甘かったとして懲戒解雇をする、などは二重処罰の禁止に該当し、不当解雇となります)
4.不遡及の原則
過去にさかのぼって懲戒解雇を行うのは禁止
(問題行動があった時、懲戒事由と定められていなかったため、後から就業規則などの変更を行い、さかのぼって処分することは禁止されています)
5.個人責任の原則
懲戒解雇はあくまで個々のスタッフの行動に対する制裁
(チームとして連帯責任を取る形での懲戒解雇は禁止されています)
6.適正手続きの原則
懲戒解雇の手続きはあらかじめ明確に定めておく必要があります
(手続きがあらかじめ定められていない場合は、どんな理由であっても懲戒解雇自体が不当解雇となってしまうこともあります)
このように4つの要件、6つの条件を満たしてはじめて、懲戒解雇は正当なものになります。これらの要件や条件を満たすことができず、もし不当解雇となれば、事務所は慰謝料や損害賠償を払わなければいけませんし、社会的な信用も失墜します。だからこそ懲戒解雇を行う際は、慎重な判断をする必要があります。
特に就業規則や懲戒規定などの不備がある状態での懲戒解雇はかなりリスキーです。年に一度、できれば半年に一度ほどのペースで、社会保険労務士などの専門家を交えて就業規則の見直しは行う必要があります。また、たとえ就業規則があったとしても、スタッフに周知されていなければ効果を発揮しません。就業規則はスタッフと共有し、いつでも皆が確認できる状態にしておく必要があります。
しっかりとした調査で事実の確認を
このように懲戒解雇は非常にハードルが高いのですが、問題行動を起こすスタッフを放置しておくことはできません。例えば遅刻や欠勤を繰り返すなどであれば周囲のスタッフのモチベーションの減退や、不法行為を行っている、もしくは加担しているとなれば発覚すれば事務所の信用は失われます。そのため懲戒に該当しそうな行為があれば、適切なプロセスを踏みながら、慎重に検討を進める必要があります。
まずやらなければいけないのが、事実確認と調査です。もし、懲戒解雇を行った後に訴訟に発展した場合、ここでしっかりとした調査が行われていないと非常に不利になります。記録を残しつつ、事実関係を確認していきましょう。近年ではセクハラ・パワハラなどが懲戒事由に該当することが多いのですが、これは見方によって判断が分かれる場合があります。その場合でも、まずは「事実」がどのようになっているのか、を記録しておく仏用があります。
次に懲戒解雇を適法に行うために要件を満たすか確認してください。スタッフに問題行動があったとしても、事務所にその一因がある場合もあります。また、指導などを行い改善を促す行動をとる必要があります。そのうえで、スタッフに弁明の機会を提供しなければなりません。
ある日いきなり「懲戒解雇」とはならないのです。裁判に訴えられた場合、弁明ん機会が与えられたかどうか、は確認が行われることがほとんどです。セクハラ・パワハラなどの場合は、互いの認識のズレなどで生じる場合もあるので、確認・弁明の機会は不可欠でしょう。
通常であればここで解雇予告を行うのですが、懲戒解雇の場合は「懲戒解雇通知書」を作成します。この書類は懲戒解雇が正当であることを示す証拠となります。
ここまできてやっと、懲戒解雇を職場で公表することになります。
懲戒解雇を行うからといって、その情報がほかのスタッフなどに知られては調査の妨げとなったり、場合によってはプライバシーや名誉棄損などの問題に発展してしまうこともあります。必要最低限の人数で情報を共有しつつ、手続きを進めていきましょう。
こうした適切なプロセスを踏んでも、懲戒解雇にはリスクがあります。解雇理由が不適切であったり、手続きに不備があった場合、高額な慰謝料や損害賠償を請求されます。場合によっては解雇無効判決を受けることもあります。近年ではスタッフの権利意識も高まってきており、訴訟リスクは高くなってきています。しっかりと対策をとる必要があります。
そのため欠かせないのが、弁護士などの専門家です。はっきり言って、懲戒解雇の要件・条件をすべて満たし、しっかりとしたプロセスを踏んで懲戒解雇を行うのは、専門家でないと不可能に近いといえるでしょう。それに訴訟ともなれば弁護士は欠かせません。だからこそ早い段階で弁護士に相談し、対策を取っておく必要があります。
また、懲戒解雇はある意味最終手段です。降格や減給、厳重な戒告などの他の懲戒や、再教育などほかの手段で状況を改善できるような場合は、そちらを検討してみるのも一つの手です。
このように懲戒解雇は、する側も、される側も、負担の大きな処分です。だからこそ懲戒解雇をいかになくすか、という視点こそが重要です。コンプライアンスなどの教育をしっかり行うことで不法行為などを防止し、所内のコミュニケーションが活発にすることでパワハラ・セクハラを防ぎ、問題行動があった場合でも初期段階でお互いが注意しあえる雰囲気作りを進めていくことである程度は防ぐことも可能です。
そうした職場作りを進めていくためのお手伝いもさせていただいております。興味がございましたらこちらよりご連絡ください。
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