税理士事務所でパワハラを防止するには
- 斉藤永幸
- 11月21日
- 読了時間: 11分
更新日:11月22日

税理士事務所はパワハラの危険性が高い職場?
近年、パワハラという言葉が定着しました。
職場でのハラスメントは、いまや「誰にでも起こりうる問題」と認識されており、社会の関心も非常に高いのです。
そのため、パワハラなどが起きたらすぐに対応する、というだけではなく、そもそもパワハラが起きない職場環境を作っていく、という必要があります。
ただ、税理士事務所の職場環境は、そもそもパワハラが起きやすい、というところが多いのが問題です。
東洋経済の『「ハラスメントが起きやすい職場」かどうかがわかる6つのNGサイン』(2025/10/10、https://toyokeizai.net/articles/-/907617?display=b)という記事によると、
1.不公平な職場
2.プライベートを犠牲にさせる職場
3.きつい職場
4.バランスの悪い職場
5.腹を割って話せない職場
6.ハラスメント教育がされていない職場
近年、税理士事務所の多くで業務の効率化が進み、職場環境は10年前とは段違いに良くなりました。
しかし、あまり採用などを行っていない小規模な税理士事務所や、従来の手法を大切にしている税理士事務所では、今でも古い体制がそのまま残っていることも多いです。
そうした事務所では、上記の6点は当てはまることも多いですね。
税理士事務所の多くは、評価などは所長の専決事項であり、個人事務所では所長に気に入られるかどうかで給与などの待遇が決まります。
その結果、不公平な環境が生まれてしまいがちです。
地方では自宅の一部を事務所として活用しているところもあり、仕事とプライベートとが明確に分離していないところもありますね。
そしてそもそも税理士事務所では伝統的に残業が多く、きつい職場のイメージを持つ人も多いです。
さらに男女比や年齢構成などのバランスの悪い事務所も多く、担当業務などでそれぞれが個別にお客様を持つことから、所内でのコミュニケーションが非常に少ないということも。
そうした事務所では、そもそも研修などはほとんどないため、ハラスメント教育などは行われることはないでしょう。
このように、そもそも税理士事務所はパワハラの温床になりやすい条件がそろっているのです。
また、リクルートワークス研究所が実施した調査(全国就業実態パネル調査2020)によると、以下のような職場環境ではパワハラが起きやすいとされています。
ノルマ達成などプレッシャーのかかる職場 9.4%
難しい要求をしてくる顧客が多い職場 10.3%
人の命や多くの人の利害に関わる職場 5.0%
上記のような職場は、そうでない職場と比べて、右の%分パワハラが起きやすいということです。
税理士事務所では、営業ノルマなどがないところも多いですが、割り当てられた件数が多い事務所ではこのプレッシャーがかかる職場といえるでしょう。
また、事務所のお客様によっては、クレームなどの発生が多かったりもします。
さらに、人の命こそかかっていませんが、会社経営をサポートする仕事なので、多くの人の利害にかかわる職場とみることもできます。
つまり従来型の税理士事務所だけでなく、そもそも責任の重い仕事である税理士業界は、そもそもパワハラが発生しやすい職場環境ということができます。
ただ、一度パワハラが表ざたになってしまうと、事務所の評判は非常に悪化します。
ネットなどでは長い時間、デジタルタトゥーとしてパワハラの問題を抱えていたことが残り、採用などが非常に難しくなりますね。
また、コンプライアンスの意識が高まっている昨今では、パワハラが原因となってお客様が離れる、ということもよくあります。
税理士事務所にとって、パワハラは死活問題としてとらえるべきなのです。
では、税理士事務所でこのパワハラを防ぐにはどうすればよいのでしょうか?
パワハラについてのおさらい
パワハラを防止するためにも、まずは『そもそもパワハラとは』から考えていきましょう。
冗談で「それってパワハラですよ」などと話したりすることはありますが、実際にパワハラかどうかを判定されるには3つの要素が必要になります。
1.優越的な関係にもとづいておこなわれること
2.業務の適正な範囲を超えて行われること
3.新進的もしくは精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害すること
この3つの要件をすべて満たすものがハラスメント、いわゆるパワハラということになります。
セクハラは被害を受けた側がそう感じたら、という主観的要素が重要になりますが、パワハラについては客観性があります。
つまりスタッフが不快に感じたからといって、すべてがパワハラになるわけではありません。
業務上必要なものであれば、その範囲内においてハラスメントではなく指導や指示、ということになります。
ではどういう行為がパワハラに該当するのでしょうか?
・新進的な攻撃
いわゆる暴力になります。
これは殴る・蹴るといった直接的な暴力だけでなく、モノを投げつける、などもこうれにあたります。
・精神的な攻撃
精神的な苦痛を与える発言や嫌がらせなどです。
例えば「能力がない」「給料泥棒尾」「ごく潰し」などの言葉での攻撃、人格否定や侮辱行為などですね。
不必要なほど大声をあげたり机をたたくなどして叱責する、などもこれにあたります。
・人間関係からの切り離し
いわゆる仲間外れ、です。
挨拶をしても返してもらえず無視されたり、会議や社内イベントで一人だけ声をかけない、別室で一人だけ隔離して仕事をさせる、などですね。
以前、大手企業で行われたようなリストラ部屋などは、今の時代だったらパワハラとして問題になっていたでしょう。
・過大な要求
適性範囲を超える業務を強要すること。
こなしきれない業務を山積みにし、強要するなどです。
他にも明らかに必要のない業務をやらせることもこれに該当しますね。
・過小な要求
これは過大な要求とは逆に、仕事をさせないことです。
いわゆる仕事を『干す』状態です。
理不尽に仕事を与えなかったり、本来の業務以外の雑用しかやらせない、などもこれに該当します。
・個の侵害
プライベートへの過度な干渉のことです。
有休を取得する際、理由などを聞かないと付与しないなども、これに該当することがあります。
他にも、家族との関係や交友関係などを深く詮索したり、SNSなどを通じて接触することもこれに抵触することがあるので注意が必要です。
これらがいわゆるパワハラに該当しますが、こうしたことを自分の税理士事務所や以前勤めていた事務所で見たり、聞いたりしたことはないでしょうか?
2020年の1~2年前だったと思います。
ある関東近郊の県の事務所で、すごい光景を目にしたことがありました。
私は採用のお手伝いをしてほしい、と呼ばれていった事務所で、所長がこう切り出したのです。
「うちの事務所の奴らは使えないのばかり、バカばっかりだから、そいつらを首にして新しい人を雇いたい」というのです。
この事務所は応接室などなく、スタッフが執務をしている横にあるデスクでの会話です。
衝立こそありますが、所長の声は大きく、会話の内容は所内にいるスタッフ全員に筒抜け。
一度持ち帰らせてください、と告げ後日お断りの連絡を入れたところ、その所長は大変腹を立て私自身もかなり怒鳴られました。
もしかしたらその所長は、このような会話をスタッフに聞かせることで、発破をかけただけかもしれません。
ただ職業倫理上、そうしたパワハラが常態化している職場で、新しい人材が採用されるのは被害者を増やすだけ、と感じてしまいお手伝いすることができませんでした。
上記のような、個人の税理士事務所だと、当然のように所長の権限が非常に強く、所長がパワハラについて意識が低いと職場にハラスメントが常態化しやすいのです。
そのためまずは、所長や代表がまず、パワハラについてしっかりと知識を持ち、意識することが重要なのです。
パワハラを防ぐ環境旁
上記のように、パワハラは上司と部下、というように優越的な地位に基づいたハラスメントです。
税理士事務所では特に、所長や代表といったトップが気を付ける必要があります。
気づかないうちにパワハラをしてしまっていても、ブレーキを踏む人が所内にいないのです。
そこでまずは所長・代表自信がパワハラを行ってしまう危険性が高いかどうか、チェックしてみてはいかがでしょうか?
SmartHRの発表した資料『企業・個人ができる「パワハラ」12の対策』の中に、パワハラをしやすい人の9つの傾向というのがあります。
1.自己中心的・独善的
2.プライドが高い
3.完璧主義者
4.根性論者
5.他責志向が強い
6.言動がコロコロ変わる
7.ストレスを溜め込んでいる
8.自身にコンプレックスがある
9.自身もパワハラを受けてきた
どうでしょう?
当てはまるものはあるでしょうか?
これだけ見ると非常にマイナス要素が多いのですが、裏返せば独立して税理士事務所を開業した所長や代表に備わっていることも多いようです。
例えば、自己中心的というのは、自らが中心になって周りを引っ張る能力に直結します。
事務所をしっかり運営してきた所長ほど、プライドを持っているものですし、ミスの許されない業務だからこそ、仕事に完璧を求める傾向があります。
所長というのはストレスのたまる立場ですし、以前の税務会計業界は体育会系的な雰囲気の事務所が多く、そうした事務所で根性論が養われていたり、自身がパワハラを受けていたこともあるでしょう。
ただ、これはあくまでも『傾向』です。
たとえ当てはまったとしても、しっかりパワハラについて認識し、自己をコントロールできれば、パワハラを防ぐことはできるのです。
こうした認識を共有したうえで、職場からパワハラをなくすためにはどうすればいいのか、を考えていきたいと思います。
・経営層からまず意識を持つ
パワハラをなくすために何より重要なこと。
それは「パワハラは許容しない」という姿勢をまず所長や代表などの経営層が示すことです。
そのうえで「パワハラをはくすべき」という方針をしっかりと打ち出すことです。
これは小さい事務所は階層が少ないため、より有効です。
また、組織が大きくなり、階層が複雑な場合は、社内規定を作ったり、ハラスメント防止対策などを定めるなどして効果を高めていきましょう。
・労働環境を見直す
前述したように、ストレスフルな環境ほどパワハラは起きやすいもの。
逆に言えば、ストレスを感じることが少ない職場はそれだけパワハラのリスクを減らすことができます。
残業の削減を進め、ミスの置きにくい業務フローの構築、などを進めることでパワハラを予防しましょう。
・コミュニケーションの活性化
パワハラの置きやすい職場は、コミュニケーションになんらかの問題があるケースが多いです。
しっかりと事務所内のコミュニケーションがとれていれば、もしパワハラが起きたとしても、パワハラを受けたスタッフにすぐに他のスタッフからのフォローが入ったり、パワハラをした人に対して注意があります。
また、コミュニケーションが取れている職場であれば、業務上の情報共有もスムーズなので、ミスが減り生産性が向上。
ストレスが減るので労働環境の向上する、といった面からもリスクが低減します。
・業務の透明化、見える化
隣のデスクのスタッフがどんな仕事をしているのかわからない。
そのような状況では、パワハラのリスクが高まります。
透明化・見える化が進んでいれば、スタッフが業務量が過多になっていれば、他のスタッフが気づき、パワハラにまで発展することを防ぐことができます。
同時に、各スタッフの抱えている業務が適正かどうかを把握することができるので、担当先の配分などが適正になり、業務の効率化を促進できますし、残業削減にもつながります。
・アンガーマネジメント
パワハラを行う人の特徴は、相手に対し「怒り」のコントロールが効かなくなってしまっていることも多いですね。
相手に注意しているうちに、どんどん怒りがわき、その怒りがさらなる怒りを呼ぶ。
その循環により感情が抑えられなくなってしまうのです。
自分が冷静に行動できているか、論理的な発言ができているか、をチェックする必要があります。
そこで業務上、スタッフを注意しなければいけない立場にある人は、アンガーマネジメントなどを学ぶことが非常に効果的です。
自分の「怒り」という感情をコントロールできると、パワハラ防止だけでなく、適切な教育や指導ができるようになりマネジメント能力も向上する、などの効果も期待できます。
・他にも……
他にも所長や代表、マネージャーなどの管理層がパワハラの研修などを受講する、というのも効果的です。
正しい知識を持つことで、パワハラに該当する行為を予防できますし、何より上司などがパワハラに意識がを持っている、という姿勢を打ち出すことで所内全体のパワハラを防止できます。
このように、パワハラを予防する方法は様々です。
重要なのは、
パワハラに対する意識を持つ。
職場環境を良くする。
そんな当たり前のことが、リスクを低減させるのです。
パワハラは被害者だけでなく、加害者にとっても大きなダメージを与えます。
自分の事務所から被害者を出さない、そして自分が加害者にならないよう、対策を少しずつでも進めていきたいところです。
もっと詳しくパワハラについて話を聞きたい、うちの事務所で具体的にどう対策をすればいいのかわからない、そんなときはこちらからお気軽にご連絡ください。



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