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スタッフを解雇する前に知っておきたいこと1(試用期間での解雇・本採用拒否)

解雇されて落ち込む男性の写真
解雇はスタッフの人生を大きく左右するだけに、慎重に進める必要があります

税務会計業界は解雇が多い?


税理士事務所は離職率の高い職場、と言われています。近年、その傾向は弱まりつつありますが、以前はかなり激しかったですね。多くのスタッフが2~3年で転職し、事務所を変わっていきながらスキルを身につけ、独立・開業する、というのが一つの流れでした。また、税理士試験の前になると、勉強に集中する時間を確保するため、一気にスタッフが退職する、というのも恒例行事の一つだったかもしれません。

しかし、税務会計業界でも独立志向の若者が少なくなり、安定して働ける職場を求める風潮が強まっています。同時に人手不足が深刻化し、採用コストが上昇。それに伴い多くの事務所がスタッフの離職を引き留めるため、労働環境整備に取り組んでいます。


そうした中でも、スタッフから離職を申し出るのではなく、事務所から退職を申し伝える、いわゆる『解雇』はなくなることはありません、その理由はいくつかありますが、一番の理由は、中小税理士事務所は経営基盤がそこまで大きくない、ということです。

専門職のため、スキル不足がそのまま結果に顕著に表れるので「採用時にはここまでできると思っていたのに実際は・・・」といった状況が生まれやすいのです。

ただ、そうしたスタッフをずっと雇い続けることは困難です。大きな組織であれば、長い目で見て育てることもできるかもしれません。しかし数名の事務所で一人のスタッフが足を引っ張ってしまえば、そのカバーは容易ではありません。そのためある程度、税理士事務所で解雇が発生するのは仕方のないこと、ともいえるでしょう。


しかし問題は、解雇が適切に行われるかどうか、です。税理士事務所側でも解雇をする、というシーンはそこまで多くありません。そのためなんとなくの知識で、30日前に解雇予告をすればいいや、くらいに考えているところもあります。しかし、税務会計の仕事は、法律にかかわるシーンも多く、スタッフは自分のことですので解雇となればそれが適切なのかどうかをしっかり調べます。そのため「不当解雇」として訴えられてしまう、といったこともあるのです。

解雇が適切であったと裁判などで認められるとしても、不当解雇の訴えを出されただけで事務所には大きなダメージがあります。所長などは雇用者として事情を聞かれるため、何度も呼び出しを受けますし、裁判になればかなりの負担になります。そのため解雇をする際は、しっかりとした手続きを踏み、文句の出ないようにする必要があるのです。

そこで税理士事務所の所長や代表はもちろん、管理職であるマネージャーなども将来のリスクなどに備えるために、「解雇」についての基礎的な知識を知っておく必要があります。



試用期間中の解雇はハードルが低い?


税理士事務所で最も解雇を検討する機会が多いのは、試用期間中ではないでしょうか。採用のサポートをしているのも一つの要因ではありますが、実際、私のところに寄せられる解雇に関連する相談でも、試用期間中というのがほとんどです。

「良い人材だと思って採用したけど、入社してみたらまったく違っていた」「面接時に申告してきたスキル要件を満たしていなかった」「以前の職場のやり方に固執し、新しいやり方になじめなかった」「既存のスタッフと相性が悪くてしょっちゅうぶつかってしまう」などなど。

入社前には気づかなかったものが、入社してからはじめてわかって慌ててしまう、ということも多いのです。そのために試用期間を設けたのに、と言われますがその期間で採用取りやめ、にできないのが法律上の「試用期間」です。


実際、この「試用期間中の解雇」が争われた裁判で、雇用側が訴えられて負けたケースはけっこう多いです。特に参考になるのが福岡地方裁判所平成25年 9月19日判決、社労士法人での従業員解雇(留保解約権行使)の判決です。

この事件は、社労士法人X社で雇用されたA氏に対し、能力不足を理由に試用期間で解雇したところ、解雇の無効として給与の支払いと慰謝料の支払いを求めたものです。判決では、X社はAが社労士として実績のない初心者であることを認識して雇用していたことを確認。そのうえで、「客観的に合理的な理由が存じ、社会通念上相当と是認されるものとはいえず無効であり、地位の確認及び給与の請求部分には理由がある」としたのです。

つまり、試用期間中であっても、「解雇の正当性の立証が不十分である」として、約340万円の支払い命令を下しました。


では試用期間中の解雇がまったく認められないかというと、そうではありません。特に問題となるようなスタッフだと試用期間中にわかった場合、適切に対処する必要があります。実際、試用期間中の解雇は、本採用とされたスタッフの解雇よりも、より広い範囲で有効性が認められます。ただ、それは制限ではなくむ、しっかりとした合理性が認められなければいけません。

そこで、ポイントをおさえながら試用期間中の解雇についてみていきましょう。



試用期間での解雇で押さえておくべきポイント


まず押さえておきたいのが「試用期間中の解雇」と「本採用拒否」の違いについて、です。

これは結果として、同じ解雇にあたりますが、しっかりと区別されています。試用危難が3か月で雇用契約書で定められている場合、この3か月の途中で解雇するのが「試用期間中の解雇」です。それに対し、本採用拒否とは試用期間3か月が終わった段階で本採用、正式採用を拒否することです。

この試用期間中であっても、適切に指導しないまま適性がないとして解雇することは許されません。そのため「試用期間中の解雇」は試用期間も待たずに請求に解雇した、と判断されることもあり、本採用拒否よりも不当解雇とされるリスクが高くなります。

それに対し、本採用拒否については最高裁でも「留保解約権に基づく解雇(本採用拒否)は、これを通常の解雇とまったく同一に論ずることはできず、前者においては後者よりも広い範囲における解雇の事由が認められてしかるべき」としています(最高裁判所1973年12月12日、三菱樹脂事件)。


ただし、通常の解雇に比べてハードルが低いとは言っても、実質的な解雇である「本採用拒否」を自由にできる、というわけではありません。この際、判断のポイントになるのは次の3つ。


・新卒採用者や未経験者について能力不足を理由に解雇していないか

・仕事のプロセスに問題がないのに結果が不出来だったことのみを理由に解雇していないか

・適切な指導を行わないまま適性がないとして解雇していないか


まず、新卒や未経験の入社の場合、そもそもが長い目で見て育成することが前提となります。そのため裁判でも「はじめは仕事ができないのは当然であり、試用期間中に十分な仕事のレベルに達しなくても解雇事由にはならない」として不当解雇と判断される可能性が高いのです。

前述の社労士法人の事件では、このポイントが争われ雇用側が敗訴となりました。

ただ、新卒・未経験であっても、試用期間中の解雇が認められたケースがあります。例えば、採用前にレポートなどで日本語による実務能力について十分な能力があると判断されて採用されたのに、実際は日本語による実務能力がなかったため解雇したケース、などがあります。税理士事務所の採用では、新卒・未経験でも知識や資格、能力などを確認して採用するかと思いますが、しっかりと事前に確認を行ったうえで、それでも入社後にその能力がなかった、といった場合は解雇も認められる可能性が高い、ということです。


一方、経験を持ったスタッフを採用するということは、即戦力として期待されての入社が多いため、新卒・未経験とは扱いが異なります。そこで重要になってくるのが「プロセスに問題がないか」です。

事務所が変われば、同じ業務であっても結果がまったく変わってくる、ということも多いです。そのため入社後、短期間で結果が出なかったとしても、プロセスに問題がなければ改善の余地があると判断されやすいのです。

特に経験者として採用した場合、すでに経験があるからとしっかりとした教育・指導が行われていない事務所もおおいのではないでしょうか。同じ業務といっても、事務所によって手順や条件が変わるのは当たり前。指導などをしないまま、新しい事務所で即戦力として活躍できることを期待する、というのは難しいのです。そのため、必要な指導が行われないまま適性がない、とするのは不当解雇と判断されるケースが多いのです。


また、先に述べたものの繰り返しになりますが、試用期間中の解雇は本採用拒否に比べるとハードルが高くなります。これはスタッフに必要な指導や新しい環境に慣れるための時間を十分に与えないまま解雇した、と判断されてしまうからです。

一方で、入社14日以内であれば解雇予告のルールが適用されません。この解雇予告のルールとは、解雇をする場合原則として30日前に解雇を予告するか、予告しない場合は30日分の解雇予告手当を支払うこととぎむづけているもの。そのため入社して14日以内であれば、解雇に伴うコストを低く抑えて解雇することができるのでは、と考える人もいます。しかしこれは入社後14日以内であればスタッフを自由に解雇できる、という意味ではありません。実際には上記のポイントを押さえたうえでなければ、やはり不当解雇と判断されてしまいます。


この解雇の問題は非常に判断が難しいのが実情です。このように基礎知識としていろいろといポイントを解説しましたが、これを踏まえてもそれだけで解雇するのは危険性が高いのも事実。試用期間中でもスタッフを解雇しようと思ったら、まずは弁護士などに相談してみることをお勧めします。

ただ試用期間中の解雇は、そもそも採用のミスマッチが原因です。ミスマッチが起きないためにはどうすればいいのか、まずは募集の出し方、採用のプロセスや面接の進め方、などをチェックして、ミスマッチ自体を防ぐことが重要です。そのためのサポートも提供しておりますので、興味がございましたらこちらよりご連絡ください。



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