「このままではじり貧」から抜け出すための、税理士事務所の進化戦略|経営支援型事務所への移行ガイド
- 斉藤永幸
- 2 時間前
- 読了時間: 11分

私は大手人材系で経験を積んできたため、採用やそれに伴う組織作りなどを得意としております。一方で、集客や営業戦略などについてはそこまで詳しくありません。しかし、最近では従来型の記帳中心で決算・申告といった基本的な税務会計サービスを提供している事務所からは「このままではじり貧になる」という相談も多く寄せられるようになってきました。
実際、記帳代行会社による価格競争は激しくなっており、AIによる自動化、顧問料の固定化……、税理士事務所を取り巻く環境は確実に変わってきています。こうした声は非常に切実で、これに応えないわけにはいきません。
こうした問題に応えていくためには、集客や営業戦略だけでなく、新たなニーズに対応する組織作りや体制構築、仕組みづくりが必要になってきます。
そこで今回は、組織体制の移行という点から、従来型の税理士事務所が経営支援などでお客様から求められる事務所へとステップアップするために必要なこと、についてまとめてみたいと思います。
1.お客様のニーズは確実に変化してきている
これまでも多くの税理士事務所が、いわゆる”付加価値サービス”に取り組んできました。
これは従来の記帳や決算・申告といった税務の基礎的なサービスに加えて、プラスアルファの価値を提供することで競争力を高め、他社との差別化を図る、というものでした。しかし近年ではAIや会計ソフトの発達によって、そもそも従来型のビジネスモデルが成り立たなくなりつつあります。さらには税理士事務所より格安で記帳を行う、いわゆる記帳代行サービスを行う企業も増えており、価格競争も激しくなっています。
こうした市場の変化に対応するため、より経営支援に力を入れていこうという事務所が増えています。
実際、私が支援をしている税理士事務所の中でお客様に高く評価されている事務所は、以下のようなサービスを提供しています。
1. 月次の「経営ダッシュボード」提供
売上・利益・資金繰りを見える化
1ページで経営状況が分かる資料
AIでコメント自動生成
👉 中小企業は「数字の説明」を求めているケースが多いです。
2. 資金繰り予測(3〜6か月先)
入金・支払予定から資金残高予測
借入のタイミング提案
補助金・融資情報の提供
👉 これはかなり顧客の満足度が高く、スタートアップ支援では重要なサービスです。
3. AIを使った業務改善アドバイス
例えば
請求書作成の自動化
経費精算の効率化
ChatGPTの使い方レクチャー
👉 小規模事業者はここを知らないことが多く、自分たちの事務所でAIを導入したノウハウをサービスメニューに加えることでAI導入コスト回収以上の効果をあげています。
4. 「社長向けレポート」
今月のポイント
利益の変動理由
来月の注意点
試算表を送っていただけだったところから、これだけの項目でレポートにして送るようにしたところ、顧問満足度がかなり上がったそうです。
5. 定期的な経営ミーティング
1年、半期、四半期ごとの振り返り
来期の目標
節税と投資の計画
👉 TKCの毎月の月次巡回とは異なり、経営ミーティングにしてより踏み込んだ内容について定期的に話し合う場を作ることで、高く評価されているそうです。
こうしたサービスを提供することで、お客様からの評価は高くなり契約は安定。顧問料の値上げなど事務所の経営にもプラスとなります。
ただ問題は、こうしたサービスをいきなりすぐに導入することは難しいこと。やはり適切なステップを踏んで導入していかないと、かえって悪い影響が出てしまうこともあります。
そこで次に、こうした経営支援型事務所に脱却するためのステップについて見ていきましょう。
2.記帳型から選ばれる経営支援型事務所に進化するための5ステップ
まずやってはいけないこと。
それは、いきなりすべての良いと思えるものを始めようとすることです。
ノウハウの蓄積もなく、体制も整わないまま発車してしまうと混乱が生じ、お客様もスタッフもついてきません。
重要なのはしっかりステップを踏みながら徐々に導入していくことです。
▼図:5ステップの全体像
STEP1:試算表にコメント
↓
STEP2:数字の見える化(ダッシュボード)
↓
STEP3:資金繰りサポート
↓
STEP4:定期ミーティング
↓
STEP5:顧問サービスの再設計
STEP1:試算表の「説明サービス」を追加
まずはここから、いきなりコンサルティングなどは不要です。
やることは、
・月次コメントをつける
・利益の増減理由を説明
・社長に5分で理解してもらえるレポート
これまで月次の試算表を送るだけだった事務所は、まずはこれだけを”付け加え”ます。
提出物は社長向け1ページのレポートだけです。
それだけ?と思うかもしれませんが、ここが変わるお客様は「自分たちの会社をしっかり理解してくれる税理士」と認識します。
こうしたサービスをすでに実施している事務所もありますが、実は8割の事務所はこれだけで差別化を進めることができます。
STEP2:数字の見える化(ダッシュボード化)
次にやるべきはこれ。
そして見るべき指標は4つ程度に絞ります。
重要なのは「増やさない」ことです。
お勧めは次の4つ。
・売上推移
・粗利
・固定費
・キャッシュ
これで経営判断の8割ができます。
これだけで「会計資料→経営資料」に変わります。
現実にはほとんどの事務所はまだ、試算表(B/S・P/L)、総勘定元帳で止まっています。
しかも数字の羅列や表だけのため、多くの経営者にとって、税理士事務所の資料はわかりにくいのです。
経営者は”視覚で理解します”。
だからこそこの見える化ではグラフ化することが重要。
売上=折れ線グラフ
利益・費用=棒グラフ
推移(6か月~12か月)
ここにSTEP1で行っているレポートでコメントを付け、
・なぜ増えたのか
・なぜ減ったのか
・今後どうなるのか
を付けます。
最初はざっくりでもかまいません。
実は多くの税理士事務所で、できていないことなのです。
STEP3:資金繰りサポートを始める
ここからが「税理士としての価値が一段上がるゾーン」です。
ただ、現実的にはやり方を間違えると手間だけ増えて続かないので、より着実に取り組む必要があります。
多くの税理士事務所が資金繰り支援をうたっています。
しかしその多くが、金融機関とのパイプ役であったり、提出用の資料作成にとどまっています。このSTEPではそうした資金繰り支援ではなく、経営アドバイスに踏み込んだものになります。
結論から言うと、いきなり精緻な資金繰りは不要です。
簡易版でいいから”毎月出す”のが正解。
・月初残高
・入金予定
・支払予定
・月末残高
たったこれだけです。
これを元に3~6か月の資金繰りを作っていきます。
そのうえで借入タイミングの提案を行います。
「このままだと3か月後に資金ショートします」
「今借りておくと安全です」
経営者が一番欲しいのはこの判断です。
判断基準もシンプルでOK。
現預金が「月商の1~2か月分」を下回る→借入検討
2~3か月後に残高がマイナス→即アラート
難しい分析はいりません。
❌ 完璧な資金繰りを作ろうとする
→ 時間が足りない
❌ 顧問先に全部ヒアリングしようとする
→ 回らない
ここまでやると、お客様の反応はかなり変わります。
・資金が見えるようになった
・安心できる
・この先生に相談しよう
→この瞬間に、単なる記帳や決算・申告という作業の請負から”経営パートナー”に変わります。
STEP4:定期ミーティング
ここまでくると、完全にポジションが変わっています。
お客様からのニーズも、
資金繰り改善アドバイス
投資判断サポート
経営計画
といった、いわゆる「高付加価値ゾーン」に入ります。
そのためお客様とのやり取りも、月次巡回や決算・申告のタイミングでの打ち合わせ、お客様から質問に答えるだけ、といった関係性からより近い立ち位置に変わっていかなければなりません。定期的にミーティングを行っていく必要が出てきます。
ミーティング内容は、
・現状分析
・問題点
・次のアクション
などが中心となります。
ただ、初期段階では難しい経営コンサルティングは不要です。
・利益改善
・コスト
・資金
これらのアドバイスで十分です。
STEP5:顧問サービスの再設計
ここが「収益モデルを変えるポイント」です。
ただしやり方を間違えると、値上げによる離脱が出てしまうので、実務的に”失敗しない設計”に落とし込まなければいけません。
ではどうすればいいのでしょうか?
結論からいうと、値上げではなく「脱サービス化」が正解、です。
(失敗パターン)
単純に顧問料をそのまま値上げする→不満・解約リスクが高まる
(成功パターン)
ベースとして従来の、
記帳、決算、申告→従来の顧問料を継続
追加(新サービス)
・月次分析
・経営レポート
・資金繰り
・面談
→これらを”オプション化”し、顧問メニューを段階に分けます。
▼顧問メニューの一例
プラン | 内容 |
ライト | 記帳・決算・申告 |
スタンダード | 月次レポート・簡易分析・メール相談 |
プレミアム | 資金繰り・定期ミーティング・経営アドバイス |
このように3段階程度に分けて、お客様が選択できるようにします。
いきなりすべての顧問先に提案するのはNGです。
まずは上位20%だけに提案を行い、反応を見ます。そのうえで提案内容を精査し、テンプレ化。徐々に拡大していきます。
ここで一番重要なのは、サービスではなく「体験」を売ることです。
・数字がわかる
・先が見える
・安心できる
これに対して、お客様はお金を払ってもらう、というビジネスモデルに移行するのです。
3.どのように移行するべきか、成功する税理士事務所の移行パターン
文字にすると、この5つのSTEPを踏めば良いので簡単に思えるかもしれません。
しかし実際にやってみると、時間もかかりますし、手間もかかります。逆に、短時間で移行しようとすると無理がかかるため、しっかりと時間をかけ、スタッフと連携を取りながら徐々に進めていく必要があります。
多くの事務所を見てきて、成功するのは次のような順番ですね。
1年目
分析型へ
2年目
アドバイス型へ
3年目
経営パートナー型へ
上記STEP5でも触れましたが、移行に際しては全部の顧問先でやる必要はありません。それどころかやろうとするとマイナスになります。まずは上位20%の顧問先だけで開始。それが定着したら順次拡大していく、というやり方がおすすめです。
無理に進めれば、
・時間が足りなくなる
・スタッフが慣れていない
→質の低いサービスとなり、結局は続かない
という中途半端な結果になりかねません。
まずは所内の体制を作っていくことから始める必要があるのです。
4.小規模事務所の理想モデル
ではどのような体制を作っていけばよいのでしょうか。
スタッフ5人規模の事務所で現実的なモデルを考えてみましょう。
(スタッフの役割)
所長:経営ミーティング・クロージング
↓
担当A:月次分析(リーダー)
↓
担当B:資料作成(補佐)
↓
担当C・D:従来型業務
↓
担当E:サポート
最初はこれくらいの体制が無理のない現実的なモデルとなります。
ポイントになるのは、役割はわけるが完全分業にはしないことです。
所長+スタッフ5人規模の場合は、
所長は経営ミーティング、高難度判断、クロージングと「説明する人」に集中します。
ただ、スタッフは分析・レポート作成で中心的な役割を果たす人を一名決め、その人を補助するサポート、それに加え一般的な担当者が2~3名といった感じになります。
やってはいけないのが、所長がすべてやる、という状況にしないこと。
これをやると、業務が拡大してくると時間が足りず”詰みます”。スタッフが作業だけ、だと拡張性がなくなるため、徐々に教育を行い担当者がレポート作成までできるようになるとかなり強くなります。
こうなってはじめて「作業の事務所」から「経営判断サポートの事務所」へと変わることができるのです。
まとめ
記帳中心のビジネスモデルが揺らぎつつある今、税理士事務所には「数字を作る」だけでなく「数字を使って未来をつくる」役割が求められています。しかし、いきなり高度な経営支援に踏み込む必要はありません。
まずは試算表にコメントを添えるところから始め、数字の見える化 → 資金繰り → 定期ミーティング → 顧問サービス再設計というステップを踏むことで、無理なく“経営パートナー型”の事務所へ移行できます。
重要なのは、すべてを一度にやろうとしないこと。上位20%の顧問先から始め、所内の体制を整えながら徐々に広げていくことで、スタッフもお客様も無理なく変化についてこられます。
「作業の事務所」から「経営判断を支える事務所」へ。この変化は、事務所の未来だけでなく、お客様の未来も大きく変えていきます。
STEPを踏んでいけば、着実により価値あるサービスをお客様に提供できるようになりますが、戦略は事務所の置かれている状況によって少しずつ変わってきます。
・記帳代行が多い
・自計化されているお客様が多い
・すでにアドバイスを提供している
・顧問先の件数が多い/少ない
こうした条件によって、移行のスピードも、優先すべきステップも変わります。
だからこそ、まずは自分の事務所の“現在地”を正しく把握することが第一歩です。その整理から一緒に始めてみませんか。
「うちの場合はどこから始めればいいのか?」そんな疑問があれば、まずは気軽にご相談ください。事務所の規模・顧問先構成・スタッフ体制に合わせて、最適な移行ステップをご提案します。
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