中間層の育成が事務所の成長につながる~5人事務所でもできるマネージャー育成ステップ~
- 斉藤永幸
- 11 分前
- 読了時間: 15分

組織が成長するために欠かせないのが、中間層──いわゆるマネージャー層の育成です。
しかし日本の多くの組織では、このマネージャー育成がうまく機能していません。
先日、外資系出身の方と話した際、彼はこう言いました。
「日本の組織は、最終的に能力不足の人が管理職に残る構造になっている」 と。現場で成果を出した人が昇進し、結果が出せなくなったところで昇進が止まります。その結果、必要な能力を十分に身につけないまま管理職になるケースが多いのです。
この構造的な問題は、実は税理士事務所でも同じ。担当者として高い能力を発揮していた人でも、マネージャーになると急に”良さ”がなくなり、能力が発揮できなくなってしまうことも。
多くの事務所が小規模・中規模にとどまる背景には、この“中間層が育たない”という組織構造の弱さがあります。
そこで今回は、税理士事務所でリーダー・マネージャー層をどう育てるか、について整理していきます。
1.税理士事務所でマネージャーが育たない理由
多くの税理士事務所を見てきて感じるのが、所長も優秀、そしてスタッフも優秀な人材が在籍しているのに組織として成長していないところが多いこと。その理由はマネージャー層が存在していないところが多いことです。特に小規模な事務所では、所長の下に並列でスタッフが存在し、組織としての形が作られていないところも多いですね。
そして中規模事務所が見えてくると、慌ててマネージャー層を育てようとするのですが、ここがうまく育ってくれない。その結果、組織としての成長が止まるのです。
「仕事ができるスタッフはいるのに、マネージャーが育たない」
そんな悩みが本当に多いのです。
実はこれは、どの事務所でも起きている”構造的な問題”なのです。
■税理士事務所でマネージャーが育ちにくい構造的な問題
● 所長が全部判断してしまう
顧問先対応、スケジュール、トラブル対応──結局、最後は所長が判断する。スタッフは「判断する経験」を積む機会がない。
● スタッフがプレイヤー止まり
担当者としては優秀でも、“自分の仕事をこなす”ところで止まってしまう。チームを見る経験がない。
● 教える文化が弱い
新人教育は「時間がある人がやる」。体系化されていないから、育成が属人化する。
● 担当者制で個人商店化
顧問先を一人で抱えるため、「自分の仕事は自分で完結する」状態になりやすい。チームで動く文化が育ちにくい。
● 忙しくて育成の時間がない
繁忙期はもちろん、平常月もギリギリ。「育成は大事」と分かっていても、後回しになる。
■税理士事務所でマネージャーが育ちにくい心理的な問題
こうした状況は、多くの事務所でよく起きている問題です。
ただ、もう一つ、本質的な原因があります。
それが心理的な理由です。
● 所長が「任せるのが怖い」
クレームが怖い
品質が落ちるのが怖い
顧問先に迷惑をかけたくない
だから、つい自分で抱え込んでしまう。
● スタッフが「責任を負いたくない」
判断ミスが怖い
責任が重い
今のままの方が楽
だから、リーダーに手を挙げる人が少ない。
■一言でまとめると
税理士事務所は“担当者の仕事が強すぎる”ため、構造的に管理職が育ちにくい業界です。
これは誰が悪いわけでもなく、”業界の仕組み”がそうなっているからです。
だからこそ、意図的に「リーダー・マネージャーを育てる仕組み」を作らないと、自然には育たないのです。
2.マネージャーと担当者は求められる能力が違う
構造的な問題で、リーダー・マネージャー層が育ちにくい税理士事務所ですが、それでもなんとか育成に力を入れていこうという事務所が次にぶつかるのは”どうやって育てるか”という壁です。実際に税理士事務所では「仕事ができる人をリーダーにしたのに、うまくいかない」という悩みが本当に多いのです。
しかしその原因はシンプル。
担当者(プレイヤー)とマネージャーでは、求められる能力がまったく違うから。
まずはこの”前提の違い”を理解することが大切です。
■ 担当者(プレイヤー)に求められる能力
担当者の仕事は、「自分の担当を正確に、期限内に仕上げること」これに尽きます。
具体的には:
記帳・入力
決算・申告
顧客対応
正確性・スピード
ミスをしないこと
自分の仕事を完結させる力
担当者は、“自分の成果”が評価される世界で生きているのです。
■ リーダー・マネージャーに求められる能力
一方、リーダーの仕事はまったく違います。
リーダーの仕事は「自分がやる」ことではなく、「人を動かす」こと。
具体的には:
チームの進捗管理
メンバーの育成
業務改善
顧問先の引継ぎ・調整
チーム全体の成果をつくる
トラブルの予防と早期発見
つまり、リーダーは“他人の仕事を進める力”が求められるのです。
図にするとこんな感じでしょうか。
担当者(プレイヤー) | マネージャー |
自分の仕事を正確にこなす | 他人の仕事を進める |
個人の成果が評価される | チームの成果が評価される |
ミスをしないことが最優先 | ミスを仕組みで防ぐ |
判断よりも作業が中心 | 判断・調整・育成が中心 |
この違いを理解していないと、「仕事ができる人をリーダー・マネージャーにしたのに、うまくいかない」という現象が起きてしまうのです。
つまり、
仕事ができる人=リーダー・マネージャーに向いている人ではありません。
リーダー・マネージャーは”自分がやる人”ではなく、”人を動かす人”です。
税理士事務所では、この”違い”を明確に認識せず「仕事ができる人ならマネージャーもできるだろう」という誤解の下、組織がつくられてしまうことが多いのです。
なぜこのような誤解が生まれやすいのでしょうか。
その理由は、
・担当者の仕事が専門的で難しい
・仕事ができる人=偉い、という文化が強い
・チームで動く文化が弱い
・マネージャーの役割が曖昧
そのため「優秀な担当者をマネージャーにする」→「うまくいかない」という問題が様々なところで再生産されているのです。
3.小規模税理士事務所でもできるマネージャー育成の仕組み
税理士事務所では、相当に資質に恵まれていなければ、リーダーやマネージャーが自然に育つことは難しいでしょう。
だからこそ、小規模事務所でも実践できる”仕組み”が必要になります。
ここでは、今日からでも導入できる5つの方法を紹介します。
①チーム制を導入する
担当者制が強い税理士事務所では、どうしても“個人商店化”が起きやすくなります。そこで効果的なのが チーム制。
● 具体例
顧問先を3〜4件ずつグループ化
新人を必ず誰かとセットで配置
月次の進捗をチーム単位で管理
● 効果
自然と「指導」が生まれる
進捗管理の経験が積める
個人商店化が解消される
チーム制は、マネージャー育成の“土台”になる仕組み。
② 教える役割を作る
マネージャー育成で最も効果があるのは、「教える経験」を積ませること。
● 具体例
新人教育担当
マニュアル作成担当
勉強会の企画・運営
業務改善プロジェクトのリーダー
● なぜ効果があるのか
教えるためには、
仕事の流れを整理する
相手の理解度を把握する
伝え方を工夫する
というマネジメントの基礎が必要となります。
教える経験が、マネジメント力を作る。
これは正しい言葉なのです。
③判断権限を少し渡す
マネージャーが育たない最大の理由は、「判断する経験がない」こと。
● まず渡すべき“小さな判断”
顧問先対応の一次判断
作業分担の調整
スケジュール管理
月次の優先順位づけ
● ポイント
いきなり全部任せる必要はない。まずは “任せる練習” から始める。
所長が抱え込んでいる判断を、少しずつ手放していくことが大切。
④ 評価制度を変える
税理士事務所で最も弱いのがここ。
多くの事務所では、担当者評価しか存在しません。
そのため、
リーダーやマネージャーの仕事が評価されない
育成や改善をしても報われない
→リーダーやマネージャーになると損、という構造が生まれます。
● 分けるべき評価
担当者評価
正確性
スピード
担当件数
顧客対応
リーダー評価
チームの進捗
新人育成
業務改善
トラブル予防
チーム成果
評価基準が変わると、スタッフの行動が変わります。
⑤ ミニ管理職の役割を作る(段階的に育てる)
お勧めなのがこの仕組み。いきなり「リーダーやマネージャーをやって」と言われても、ほとんどのスタッフは困ってしまいます。そこで効果的なのが、“ミニ管理職”という中間ステップを作ることです。
● 具体例
月次進捗チェック
新人のレビュー
業務改善の取りまとめ
チーム内の情報共有の司会
顧問先の引継ぎ管理
● 効果
小さな成功体験が積める
判断の練習ができる
「自分でもできる」という自信が生まれる
段階的に育てることで、リーダーへの移行がスムーズになります。
また、採用などが活発な事務所では、新人の教育に携わったスタッフが近い経験を持っているため、比較的導入しやすいやり方でもあります。
✦ 育成の仕組みについてのまとめ
マネージャーには“自然には育たない”
小規模事務所でも仕組みで育てられる
チーム制・教育役割・権限移譲・評価制度・ミニ管理職
この5つが揃うと、「リーダーが育つ事務所」へと変わります。
4.マネージャーが育つ事務所がやっていること(最近のトレンド)
上記の仕組みを導入することで、マネージャーの育成へと道が拓けます。
リーダー・マネージャーをしっかり育成し、成長している事務所では、これらが自然に取り入れられていますね。ただ、最近ではさらに踏み込んで様々な試みを行っている事務所も増えてきています。
そこでここでは、ここ数年のマネージャーが育つ事務所に共通する”仕組みとテクノロジーを活用したマネジメント”に力を入れている事務所の3つのトレンドについて見ていきたいと思います。
① AI担当マネージャーを置く(急増中)
今、最も増えているのが 「AI担当マネージャー」 という役割です。
● 具体的な役割
AIツールの選定
業務効率化の推進
自動化の企画
マニュアルのAI化
スタッフへのAI教育
所内のAI活用相談窓口
● なぜマネージャー育成につながるのか
AI担当は、
業務全体を俯瞰する
改善ポイントを見つける
スタッフに教える
所長と相談しながら進める
という“マネジメントの基礎”を自然に経験することができます。
AI担当は、これからの時代の「新しいマネジャー育成ポジション」。
小規模事務所でも導入しやすく、効果が出やすいのが特徴です。
② 業務改善チームを作る(小さく始める)
最近の成長している事務所は、「改善を仕組み化」しています。
● 具体例
月1回の改善ミーティング
業務フローの見直し
チェックリストの更新
新人教育の改善
AI活用の検証
● なぜマージャ―が育つのか
改善活動は、
課題発見
調整
仕組みづくり
チームでの合意形成
といった“マネージャーに必要な能力”をすべて含んでいます。
③ 情報共有の仕組みを整える(属人化の解消)
マネジャーが育つ事務所は、「情報が共有されている」という共通点があります。
● 具体例
週1回のショートミーティング
顧問先情報の共有ノート
チーム単位の進捗共有
AIで議事録を自動作成
マニュアルのクラウド化
● なぜ重要なのか
情報が共有されると、
判断がしやすくなる
トラブルが減る
所長への依存が減る
チームで動けるようになる
つまり、“マネージャーが育つ土壌”が整うのです。
✦最近のトレンドのまとめ
リーダーが育つ事務所は、「人に依存しない仕組み」を作り始めています。
特に効果が高いのは:
AI担当マネージャー
業務改善チーム
情報共有の仕組み
これらはすべて、小規模事務所でも今日から取り入れられる“未来のリーダー育成法”です。
5.少人数の事務所でもできる、理想的な組織モデル
小規模な税理士事務所では「うちのような小さな事務所で、マネージャー育成なんてやる必要がないよ」というところもあります。そういう事務所ほど、ちょっとお客様が増えてスタッフが増員した結果、手が回らなくなり管理不足となって一気に急ブレーキがかかってしまいます。
マネージャー層が急に育ちません。
だからこそ小規模な事務所であっても、マネージャー層の育成には常に取り組まなければならないのです。
そして、小規模事務所でも、マネージャー層の育成するために役割を明確にするだけで組織は驚くほど動きやすくなります。
■ 理想モデル(5人事務所)
所長
│
├── 業務リーダー(プレイングマネージャー)
│ ├── スタッフ①
│ └── スタッフ②
│
└── 改善・DXリーダー(AI担当マネージャー)
└── スタッフ③
この構造は、「所長が全部抱え込む」状態から脱却するための最小単位の組織モデルといえるでしょう。
■ 各ポジションの役割
● 所長
最終判断
顧問先の重要案件
組織づくり
リーダー育成
採用・評価
所長は“現場のプレイヤー”から、“組織をつくる人”へ役割をシフトしていきます。
● 業務リーダー(プレイングマネージャー)
5人事務所で最も重要なポジション。
役割
月次・決算の進捗管理
スタッフのレビュー
顧問先の引継ぎ管理
トラブルの早期発見
チーム成果の最大化
ポイント
業務リーダーは「自分もやりつつ、人も動かす」役割。小規模事務所では、この“ハイブリッド型”が最も機能します。
● 改善・DXリーダー(AI担当マネージャー)
最近のトレンドを踏まえた“未来型ポジション”。
役割
AI活用の推進
業務効率化
自動化の企画
マニュアル整備
所内の改善プロジェクト管理
スタッフへのAI教育
ポイント
改善・DXリーダーは、「業務を俯瞰する力」と「教える力」が自然に身につくため、将来のマネージャーとして育成するポジションとしては最適。
● スタッフ
担当業務の遂行
顧客対応
チーム内での情報共有
改善提案
スタッフは“担当者”としての役割を果たしつつ、リーダーのサポートを通じて成長していくことになります。
■ この組織モデルが強い理由
✔ 所長の負担が激減する
判断・管理・改善をリーダーに分散できます。
✔ リーダーが育つ“導線”ができる
業務リーダーと改善リーダーという2つの役割が、自然とマネジメント経験を積ませることができます。
✔ 個人商店化が解消される
チーム単位で動くため、属人化が減ります。
✔ AI活用が組織に根づく
改善・DXリーダーが中心となり、事務所全体の生産性が底上げされます。
■理想モデルのまとめ
従来型のスタッフ5人のモデルでは、所長がワントップでスタッフが並列に存在、というところが多いでしょう。しかし5人事務所の理想モデルは、「所長1人+リーダー2人+スタッフ2〜3人」という構造です。
このモデルでは、
所長は“組織づくり”に集中
業務リーダーは“現場の進捗”を管理
改善・DXリーダーは“未来の仕組み”をつくる
スタッフは“担当業務”に集中
この形が、小規模事務所でも実現できる“最小で最強の組織”といえるのではないでしょうか。
6.今日からできる3つのアクション
ここまでマネージャー育成のために組織をどのように変えていくべきか、について見てきました。これだけ見ると「やることが多くてたいへんそう」と感じる方も多いでしょう。しか人材の育成は「大きな改革」ではなく小さな一歩から始まります。
ここでは、今日からすぐに始められる3つのアクションを紹介していきます。
① リーダー・マネージャー候補を1人決める
まずは、「この人を育てる」という意思決定から始める。
完璧な人を選ぶ必要はありません。
ポイントになるのは、
真面目
責任感がある
周りに気を配れる
この3つのうちどれかがあれば十分です
● ポイント
所長が「期待している」と伝える
役割を少しずつ渡す
小さな成功体験を積ませる
リーダー育成は、“指名”から始まります。
② 新人教育担当を作る
マネージャー育成で最も効果があるのは、「教える経験」を積ませること。
新人がいなくても問題はありません。
マニュアル作成
チェックリスト整備
所内勉強会の企画
AI活用のレクチャー
これらも立派な“教育担当の仕事”。
● ポイント
教える経験が、マネジメント力を作る。
新人教育担当は、小規模事務所でもすぐに作れる“最強の育成ポジション”です。
③ 月1回の「業務改善ミーティング」を始める
リーダーが育つ事務所は、例外なく 改善の場 を持っています。
● 議題の例
月次の遅れの原因
顧問先対応の改善点
チェックリストの見直し
AIで自動化できる作業
新人教育の改善
● ポイント
30分でOK
全員参加しなくてもOK
小さな改善を積み重ねる
改善ミーティングは、リーダーの判断力・調整力・説明力を鍛える最高の場です。
✦ 今日からできる3つのアクションのまとめ
ここで紹介したアクションは、どれも小さくて簡単。しかし、この3つを続けるだけで、事務所は確実に変わります。
リーダー候補を決める
新人教育担当を作る
月1回の改善ミーティングを始める
この3つが揃うと、「リーダーが育つ事務所」への第一歩が踏み出すことができます。
結論:マネージャーを育てる仕組みを作れば、組織としてもワンステップ成長できる
リーダー・マネージャーが育つかどうかで、税理士事務所の未来は大きく変わります。
これは組織運営としての側面だけでなく、組織作りとしても大きな意義があります。
マネージャーが育てば、組織として管理はかなり楽になります。同時に、マネージャーが育つ環境は、組織としてもかなり強くなるのです。
マネージャーは自然に育ちません。
しかし仕組みを作れば、組織として強くなり、どんな小さな事務所でも必ず育てることができるようになります。
・チーム制
・教える役割
・判断権限の委譲
・ミニ管理職
・AI担当マネージャー
これらはすべて、今日から始められる”現実的な方法”です。
組織は意図すれば変わります。そして変わり始めた瞬間から、事務所の未来は動き出します。
ただ、具体的にどう動くかについては、事務所の置かれている状況によっても変わってきます。
「うちの事務所でもマネージャーを育てたい」「どこから手を付けたらいいか相談したい」という方は、ぜひ一度ご相談ください。
・事務所の人数
・平均年齢
・ベテランが多いか若手が多いか
・今マネージャー候補がいるか
こうした要素を元に、仕組みを設計することも可能です。
まずは軽い相談からでも大歓迎です。
一緒にリーダー・マネージャーが育つ事務所を作っていきましょう。
「まず一歩進めたい」と思ったら、状況をお聞かせください
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