税理士事務所の経営計画
- 斉藤永幸
- 11月25日
- 読了時間: 7分

目標設定の重要性
さまざまな税理士事務所を見ていて感じるのは「なぜこの事務所は成長できていないんだろう?」という疑問でした。
所長は優秀、スタッフも意欲がありスキルもしっかり身についている。
でもなぜか、事務所は成長できない。
ある程度の段階にまで大きくなると、中核となっているスタッフが抜けて成長に歯止めがかかる。
一気にお客様が拡大したのに、そのまま伸びていかない。
採用はできているのに定着しない。
など原因は様々です。
ただ、同じなのはどこかのタイミングで急に成長が鈍化する、それどころか後退してしまう、というシーンがあるのです。
人が原因だったり、お客様が原因だったり、その原因は様々です。
ただ、同じようなタイミングで成長に急ブレーキがかかるのです。
ちょっと整理してみると、
所長が優秀な事務所は5名くらいまでは急成長します。
優秀なスタッフがそろっていれば、10名くらいまでは急成長します。
所長に優秀なサポート役がいれば、20名くらいまでは急成長できます。
ただ、この後が続かないのです。
狙ったかのように成長が鈍化する、いわゆる壁があるのです。
一方で、この壁をやすやすと乗り越え、数年で大規模事務所に成長するところもあります。
その差はどこにあるのでしょうか?
いろいろな税理士事務所を見てきた経験からすると、それは計画の有無、です。
計画型 or 対応型
税理士事務所には様々なタイプがありますが、組織の成長段階を見ると計画型と対応型に分けることができると思います。
まず計画型ですが、組織を作っていくとき、計画的に進めていくというもの。
目標を定め、そのために何が必要か、そこから算出された要素を集めて組織を組み立てていきます。
一方で対応型は、状況に対応する形で組織を作っていきます。
そして、税理士事務所ではこちらのタイプが非常に多いのです。
お客様が増えたから増員を行う。
業務が増えてきたからスタッフを増やす。
スタッフが成長してきたから新たに営業をかけ新規顧客獲得を目指す。
といった組織運営の手法です。
そしてこれはどちらが優れていて、どちらが劣っている、というわけではありません。
それぞれに利点・欠点があります。
対応型の問題は、組織が歪になりやすいということです。
いわば継ぎ足し、継ぎ足しを繰り返すので、必要な人材しか組織にいない状態になります。
事務所運営には様々な役割を持った人材が必要になります。
そうした人材を適切に配置することで、はじめて組織として機能を発揮します。
しかしお客様が増えたから増員する、となると「案件を処理する人材」が採用の中心となり、結果として多様な役割を持った人材の採用が難しくなります。
そしてそうした人材を育てるより、いかにお客様に対応できる数と質を高めるか、がスタッフのスキルの中心になってしまうのです。
ただ、対応型にも大きな利点があります。
それは非常にリスクが少ないこと。
仕事があってから増員をするので、無駄が発生しません。
必然的に一人当たりの利益は高くなります。
余計な投資が少ないので、資金などがショートする確率は非常に低く抑えることができるでしょう。
安全、堅実に事務所を運営するには、こちらの対応型が優れているといえるでしょう。
一方で計画型は、反対の性格を持っています。
最初に計画を立て、そこに必要な組織を作っていきます。
それぞれが役割を持ち、組織として動くことが前提となります。
その分、リスクも高くなります。
例えば IT人材を採用しても、それがどこまでお客様の集客に効果があるかわかりません。
いわば投資をする必要があるのです。
計画を達成するために、あらかじめ人材を確保しておかなければいけないため、投資の額は大きくなります。
この計画を達成するには売り上げがいくら必要、そのためにはお客様はどれくらい確保しなければいけない。
しかし、実際にそれだけの集客ができないこともあります。
集客がうまくいかなければ、その分がコストとなって事務所の経営を圧迫することになります。
つまり計画型は、ある程度のリスクを背負いながら行う事務所運営のやり方、ともとらえることができます。
ただ、計画型は対応型にはないメリットがあります。
それは組織を大きくするうえで、非常に効果を発揮するのです。
経営計画から逆算して組織を作っていく
以前、採用のお手伝いをさせていただいた事務所で、こんな話がありました。
「採用に有利になるから、評価基準を作っておいた方がいいよ、とコンサルタントから言われたんだよね」。
そういって評価基準が記されたシートを見せてくれました。
その評価基準書を作るために、コンサルタントに20万円弱を支払い、所長やスタッフのヒアリングなどに時間をかけたそうです。
それを聞いて「もったいないな~」と感じてしまいました。
評価基準を作ることは問題ではありません。
そして評価基準があれば、採用を行う際に魅力としてアピールすることができるのは確かです。
しかし評価基準とは、本来そのようなものではありません。
まず、事務所をどのようにしていくのか、いわゆる経営計画ありき、なのです。
経営計画を策定し、目標を定めます。
その目標を達成するために、事業計画を作ります。
その事業計画を実行するためには、どのような人材が必要になるかを探り、組織計画や人材計画を作ります。
この人材計画で定めた目標を達成するために、採用基準を定めたり、スタッフの教育計画を立て、評価基準を作成しスタッフの成長を促すのです。
組織が大きくなるためには、こういった人材が必要。
だからそうしたスキルを身につければ、組織としての評価が高まる。
そのために今はこうした勉強が必要で、こいした経験を積もう。
こうした流れが明確であればあるほど、スタッフのモチベーションは高まり、キャリアパスは明確になります。
しかし、「どのような組織にしていくか」、それが定まっていないと、どういった成長をすれば組織が成長していくかが不明確になります。
採用にプラスになるからと、評価基準だけを定めても、効果は限定的なのです。
話を計画型に戻しましょう。
キャリアパスは長期的に取り組むもので、スタッフはいきなり成長することはできません。
そのため「この人材が必要」となった時に、対応型はその能力を持った人材がいなければ、外から持ってくるしかないのです。
しかし採用が難しくなってきている近年、スキルを持った人材をピンポイントで採用するのは難しいのです。
そのため、必要な人材が確保できず、成長が鈍化する。
これが事務所の成長を阻む壁の正体です。
しかし計画型の場合は、今いるスタッフを計画的に育てることができます。
どんな組織にしていくか、があらかじめ定まっているので、そこから逆算すれば必要な人材がわかります。
それを時間をかけ、社内から調達することが可能となるのです。
計画型は確かにリスクが高く、無駄も発生します。
しかし成長を前提とするなら、それは投資となるのです。
一方、対応型はリスクが低く、無駄は最小限に抑えることができます。
しかし対応型では限界があり、成長をするに従い成長を阻む要因にもなります。
こうしたことを踏まえて、自分たちの組織が進む方向性を検討していく。
それが税理士事務所の所長・代表の役割といえるでしょう。
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