拡大を目指すべきか、現状維持か
- 斉藤永幸
- 11月2日
- 読了時間: 7分

拡大戦略だけが正解じゃない
他のブログでも、組織の拡大や成長に必要なことをいろいろ書いてきましたが、税理士事務所にとって成長・拡大だけが正解ではありません。
あくまでも選択肢の一つなのです。
事務所のスタイルによっては、成長することで良い部分が失われてしまうこともあります。
そもそも税理士は一人ひとりが独立し、専門家として知識・技術をお客様に提供する、というのが本分です。
だからこそ一人で開業し、一人ですべてを運営しているところもあります。
スペシャリストとしての姿としては、それも正しい選択の一つです。
ただ、それでは扱える業務に限界があります。
そのためスタッフを雇用し、事務所という組織として業務を行っているところが多いのです。
では少人数のままでいるメリット・デメリットは何でしょうか?
メリットとして挙げられるのは、経営リスクが低いことです。
人数が少なければそれだけ初期投資も少なくて済みます。
借り入れなどを行わなくても、少しずつ余裕が生まれてきた段階で検討していくことができるので、その面では経営は楽です。
管理コストもかかりませんし、気が合う仲間が数人いれば仕事が回る、という状況でしたらあえて事務所の拡大を目指す必要はないでしょう。
反対にデメリットとしては、より良い事務所を目指すのが難しいことです。
事務所を拡大しないということは、営業的な成長がありません。
当然利益も横ばいか微増程度。
そのためスタッフの給与を上げることが難しく、福利厚生などへの投資も難しくなります。
また、近年では税理士事務所に求められるニーズが多様化しています。
しかし対応する法律は何度も改正が繰り返され、経済環境は複雑化し、一人でカバーできる領域は縮小しているのではないでしょうか。
人数が多ければ分担もできますが、人数が増えない状況では少しずつ競争力が落ちてきてしまうのです。
つまり成長を目指さない事務所は、徐々に時代から取り残されてしまう危険性があるのです。
かといって、それを補う方法は拡大だけではありません。
一人ひとりの質を上げ、スペシャリスト集団と呼ばれる状態まで持っていけば、組織としてしっかりと成立させることができます。
各人の能力が高ければ、それぞれが時代のニーズに対応することができるので、後れを取ることもなくなるでしょう。
要は自分たちの目指す姿がしっかり描けているかどうかであり、それがあってはじめて目指すべき方向性が見えてくるのです。
中途半端であいまいな状態が、一番リスクが高いのです。
中途半端のリスクとは
「拡大を目指しているわけじゃないけど、お客様が増えているからスタッフを増員したい」。
こうした相談がよくあります。
そしてこうした相談は自分には非常に好ましく映ります。
お客様が増えている→スタッフの負担が増える→それを解消したいから増員する、という図式です。
つまりスタッフを大切に思っている事務所でこの手の相談が多く、新しく入社した人も落ち着いて仕事に取り組める、と推測できます。
だからこそ求人の支援には、力が入りますし、実際求職者からの『受け』も良いですね。
ただ、組織論としてみたときには、リスクのある成長の仕方です。
その理由は、組織化のタイミングがつかめないからです。
組織化とは、単に人を割り振って、グループ分けする事ではありません。
例えば8人いるスタッフを2つに分け、4人ごとにグループにしてそのうち1人をリーダーに、1人をアシスタントにする、みたいなことではないのです。
一見、所長のもとに2つのグループができ、組織のようなものができたように思えます。
しかしこれは単なる班分け、グループ分けでしかありません。
組織化とは、それまで属人的な能力によってお客様に対応していた業務を、組織としてお客様にサービスを提供する、ということです。
つまり業務の標準化を行い「これが私たちの事務所が提供するサービスです」というものを組織として担保するということ。
これができれば、急にスタッフが体調を崩した場合でも、どんなサービスの内容を他のスタッフでも把握でき、組織として一定のサービスを継続的に提供し続けることができます。
標準的なサービスが設定できれば、それを提供するためにどんな能力が求められるかがわかるので、評価基準なども作成できるようになります。
つまり組織化とは、さらなる成長のための地盤固めなのです。
しかしこの組織化は、それまでの事務所のやり方とがらっと変わる、ということでもあります。
組織化が難しくなる理由
小規模な事務所では、それぞれのやり方でお客様にサービスを提供していても、そこまで問題にはなりません。
なぜならスタッフが少人数なので、所長の目が行き届くからです。
スタッフ数5名以下の事務所であれば、お客様の数は80~150件程度でしょうか。
それくらいでしたら、優秀な所長であればどんなお客様に、どんな対応をしていて、どんなニーズがあって、それをしっかり満たすことができているのか、把握することもできるかもしれません。
しっかりと状況を把握できているのであれば、業務の標準化を図るより、スタッフの能力を引き出せるよう、サービスの提供のやり方などはそれぞれに任せた方が効率的です。
しかし200件を超えるお客様になれば、所長ひとりではお客様の状況を把握しきれません。
当然、スタッフの行動なども把握できなくなります。
その際求められるのが標準化=組織化なのです。
所長が把握できない部分が多くなれば、お客様のニーズを満たせない部分も出てくるでしょう。
スタッフの行動を把握できないということは、ガバナンスが弱くなり、不正の温床にもなりかねません。
だからこそ標準化を行い、所長とスタッフとの間にマネジメント層を作り、組織にする必要があるのです。
それは簡単なことではありません。
単に班分けして、それで組織ができるわけではないのです。
属人的な部分に依存していたところを標準化し、社内ルールなども増やしていく必要があります。
これまで事務所を支えてきてくれていたスタッフとぶつかる場面も出てきます。
今までこれでいい、としてきた部分を、こうでなければいけない、とするのですから。
今までやらなかったことをやってもらわなければいけなくなりますし、逆にスタッフが大切にしてきた部分を不要なものとして切り捨てることもあるでしょう。
だからこそ時に反発が生じるのです。
つまり組織化は事務所にとって、大きな負担になるのです。
今後、事務所が発展していくことがしっかり予想できていれば、そこに投資する価値があります。
コストが生じても、事務所がさらに先に進むためには避けて通ることはできないからです。
しかしお客様が増えたら事務所を拡大させる、ということはつまり、次にお客様が増えるまで事務所は拡大させない、次の拡大はいつになるのかわからない、ということです。
計画的に事務所が成長するのではなく、事務所の成長・拡大はお客様次第ということになるのです。
そうなると、大きなコストを払って、組織化を行うべきかどうかがわからなくなります。
この先も成長するのであれば組織化は行うべき、しかしそれがいつになるのかわからなければ、今組織化を行うのが正しいのか判断できないのです。
コストを払い、スタッフに負担をかけて組織化を行っても、その後成長が鈍化すれば無駄な投資になりかねません。
逆に、組織化が遅れればその後のさらなる成長の足かせとなってしまうのです。
これが中途半端が招くリスクといえるでしょう。
もちろん経営リスクやスタッフの負担などを考慮して、それを選択しているのであれば、問題はありません。
しかし、なんとなく中途半端な状態にいるのであれば、将来の可能性をつぶしているということでもあります。
こうしたことを踏まえ、拡大を目指すべきか、それとも現状維持を目指すのか、より良い選択をしていくべきではないでしょうか。
こうした将来についてどうあるべきか、などの相談なども随時承っております。
興味を持っていただけましたら、こちらまでお気軽にお問い合わせください。



コメント