税理士事務所の報連相
- 斉藤永幸
- 11月18日
- 読了時間: 8分
更新日:11月24日

あなたの事務所は、報連相、できていますか?
様々な事務所でお悩みをうかがっていると、出てくる悩みとして多くの割合を占めるのが『報連相』です。
直接、報連相とは言わなくても、突き詰めると報連相ができていなかったことが原因、という問題も多いですね。
以前、退職者が出た事務所を訪問した時、その退職理由をうかがいました。
「事業承継のスキルを身につけたいので、それができる事務所に転職します」と言われたのだそうです。
しかしその事務所は、事業承継もやっていました。
ただ、スタッフの負担が大きいので、単純な相続案件まではスタッフに任せても、お客様との打ち合わせなどで時間的拘束が長い事業承継は所長が一人でやっていたのです。
「一言、相談してくれたら転職しなくても事業承継の経験を積ませたのにな」と所長がつぶやいていたのが印象的でした。
実は他にも、報連相に関する問題を抱えている事務所はたくさんあります。
特に訪問型のサービスを提供する事務所では、お客様先でスタッフがどんな状態か、事務所で完全に認識することが難しいのです。
近年では企業のガバナンス強化が注目され、不祥事などが起きればスタッフだけでなく事務所の責任が重くのしかかります。
だからこそ報連相の重要性は年々増しているといっても過言ではないでしょう。
そもそも報連相とは?
報連相とはビジネスパーソンには必須のスキルの一つ。
ほとんどの企業で、新入社員が入ってきたら叩き込まれるものです。
しかし、なぜ税理士事務所では、報連相がしっかり機能しないことが多いのでしょうか。
まず考えられるのが、所長や代表がそもそも報連相をしっかり理解していない、というケースもあります。
多くの企業では報連相について新入社員研修などで、しっかり身につくまで教育を行います。
しかし中小の税理士事務所では、新入社員研修がしっかり機能していないところも多いのです。
入社したら所内で会計データの入力からスタート、実務をOJTで教えていく、というところがほとんどです。
そうした事務所で経験者となったスタッフが、転職やキャリアアップをして新入社員を教える立場になります。
業界全体として報連相について学んだことがない人も一定数存在しているのです。
そもそも報連相とは何か、と聞かれて正しく答えられる人がどれくらいいるでしょうか?
「報告・連絡・相談だろ」と簡単に答えが返ってくると思いますが、ではそれぞれどう違うのか、といったことまで考えると、答えに詰まる人も出てくるでしょう。
報告と連絡、相談、それぞれ何が違うのでしょうか?
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報告
報告とは、業務の途中経過や結果を知らせることです。主に部下が上司からの指示や命令を受けて行うべきものとされます。
連絡
チーム内メンバーや関係者に業務や作業に関する情報を知らせることが連絡です。自分の意見や憶測を含めず、事実を客観的かつ正確に伝えることが求められます。
相談
相談とは、自分だけでは判断が困難なとき、上司や周囲に意見を求めることを指します。意見やアドバイスによって解決法を得られれば、適切な対応をするのに役立てることができます。
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(Slack『報連相とは報告・連絡・相談の略』より抜粋:https://slack.com/intl/ja-jp/blog/transformation/unable-to-report-and-communicate)
このように、報連相と一口に言っても、それぞれ役割は違います。
もちろんこれを完璧に覚える必要はありません。
ただ、報告とは何か、連絡とは何か、相談とは何か、ということがわかれば所長やマネージャーなど上長に何を話せばいいのかわかります。
私が企業や税理士事務所で新入社員研修を行う時、必ず報連相の大切さを伝え、報連相をするように口を酸っぱくして教えています。
しかしフォローアップ研修で1~3か月後に訪問し、ヒアリングをすると、思ったようにできていないといいます。
その理由が「報連相で何を話していいのかわからない」「忙しそうにしている所長などに、どのタイミングで話しかけたらいいのかわからない」というのです。
それからは、
・ある程度お客様の状況がわかったらどのようにサービス提供をしていけばいいのかを「相談」する。決算前など、方向性が間違っていないかを確認してもらう。また判断に迷うことがあったら都度相談をする。
・定期的に時間を作ってもらい「報告」をする。基本的には月1回、状況をあらかじめまとめ、細かい部分まで把握してもらうのが目的。
・業務が一区切りついたタイミングで「報告」を行う。決算が終わった時や申告が終わった後で、ちゃんと業務が完了したことを伝えるとともに、確認をしてもらう。
とかなり細かく伝え、実際にどういう場面で話しかけ、報告ではこうした内容を、連絡ではこうしたことを、相談では伝える内容をまとめて、などかなり具体的に指導するようにしています。
そのうえで、所長の仕事を遮ってでも伝えなければいけないケースなどを具体的にあげ、優先順位をつけるようにしました。
そうした指導をした結果、そのスタッフの『報連相』が見違えたよ、とその事務所の所長からは評価をいただけました。
ただ、ここで振り返ってみると、そのスタッフは報連相を深く理解してはいなかったかもしれませんが、重要性などは認識していました。
もちろんコミュニケーション力が不足していた部分があることは否めませんが、決して口数が少ない、いわゆる「暗い」タイプの人間ではありませんでした。
つまり、スタッフには落ち度はあったけど、根本的な原因は事務所にあるのではないか、と考えたのです。
事務所として、報連相などのコミュニケーションがしっかりとれる環境を作りに取り組むことが重要ではないでしょうか。
報連相ができる環境作り
スタッフのコミュニケーション力が問題なら、採用の時点でコミュニケーション力のある人材をとればいいじゃないか、と思うかもしれません。
しかし以前のブログにも書いたように、コミュニケーション力のある人材は非常に人気が高く、競争になります。
そして同時に、コミュニケーション力というのはあくまでも属人的なもの。
個人の能力頼みの組織が健全といえるでしょうか。
もう一つ付け加えるなら、組織が大きくなったときに、それでは立ち行かなくなる、ということです。
コミュニケーション力は当然、個人差があります。
その結果「報連相」にもそれぞれの差が生まれてしまうのです。
少人数ならそれをある程度補うこともできるでしょう。
しかし、スタッフの数が多くなれば、報連相であっても差が生まれてしまうと問題になります。
Aさんはここまで報告すればいいや、と考えていてもBさんはもっと詳細な報告を、と考えるかもしれません。
この意識のズレが社内でトラブルを生みます。
だからこそ報連相は<仕組み>として最低限の部分を整備しておかなければいけないのです。
ではどのような体制を築くべきでしょうか。
報連相がうまくいかない原因をまとめたサイトがあったので、そちらを参照してみると、以下の6つが挙げられていました。
1.報連相の必要性を理解していない
2.報連相のタイミングがわからない
3.伝えるべき内容が判断できない
4.報連相することに苦手意識を持っている
5.先輩や上司が忙しそうで話しかけづらい
6.先輩や上司に怖さや緊張感を感じて報連相をしづらい
(アーティエンス株式会社『新入社員が報連相できない原因は6つ!』より抜粋:https://artiencecorp.com/column/articleID=18579/)
この原因を解消することで、報連相をスムーズにできる組織を目指すことが良いでしょう。
1.に関しては言うまでもありません。研修などでしっかり教育を行うとともに、普段から報連相の重要性を実務の中で伝えていくしかありません。
問題は2.3.です。
これについては組織や制度に問題があります。
2.については、ある税理士事務所では、報連相を行うタイミングをわざわざ設けているところがあります。
例えば朝礼の後、30分は所長に報連相を行う時間、と定めているのです。
他の人に知られたくないことなどもあるかもしれないからと、所長はデスクではなく会議室などに移動し、そこでスタッフからの報告や連絡、相談を受けるのです。
また、3.については、定型文のフォーマットを作っている事務所もありますね。
報告であればフォーマットに従い空欄を埋めれば、どのお客様が、どういう状況で、どういう結果になったのか、というのがわかるようになっています。
連絡、相談についても同じようなフォーマットを用意することで、過不足なく意識を共有できるようにしているのです。
他にも様々な報連相を確保するための方策があります。
こうした仕組みさえ作っておけば、4.5.6.などは自然と解消していきます。
仕組みにより報連相を何度も繰り返せば、苦手意識はなくなります。
また、先輩などへの恐怖心なども薄れていくでしょう。
小規模な事務所のうちは、互いのことを良く知り、自然とコミュニケーションがとれるもの。
しかし組織が大きくなれば、一人ひとりに対するコミュニケーション量は確実に低下します。
そうした時、個人の能力に頼った組織は、非常に危険です。
「新しく入社したスタッフはコミュニケーション力が低くて、報連相も満足にできない」
そう思うことはあるかもしれません。
その前に、事務所として何かできることはないか、それを考えることが組織の健全な運営には欠かせないのではないでしょうか。
所内のコミュニケーションについても、サポートしております。
興味がございましたらこちらよりお気軽にご連絡ください。
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