税理士事務所のフィードバック
- 斉藤永幸
- 11月23日
- 読了時間: 13分
更新日:11月24日

フィードバックの重要性
日本の企業では、フィードバックがそこまで重視されてきませんでした。
その理由は、そもそも日本には「察する」ことが重要という文化があり、ストレートに指摘することに対して抵抗感があります。
そのため、改善点などがあってもしっかり伝えなかったり、やんわりとした表現にとどまるなどしていました。
本来はフィードバックにより、部下・スタッフの成長がうながされるシーンでも、それが適切に行われなかったのです。
これは税理士事務所でも同じで、フィードバックが適切に行われていないにもかかわらず、スタッフが業務で問題を起こすと、個人の責任とされてしまいがちです。
さらに税理士事務所では、小さな組織が多いので、あえて波風を立てたくない、との思いから適切なフィードバックが行われないことも多かったのです。
そのためフィードバックについて学ぶ機会も少なく、所長や代表、さらにマネージャークラスの人材であっても、「正しいフィードバックができているか自信がない」「ネガティブな気持ちを持たれてしまうのではないか」と悩んでいる人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、マネジメント業務をしていくために避けては通れない、税理士事務所のフィードバックについて考えていきたいと思います。
そもそもフィードバックとは「行動したことによる結果を伝えること」です。
この「結果」から、どこが良かったのか、どこを改善すべきか、ということを伝え、成長をうながし、モチベーションをアップさせることが期待できる、いわゆるマネジメント手法の一つとしてとらえることができます。
このフィードバックには、伝える内容から大きく分けて2つに分類できます。
・ポジティブフィードバック
・ネガティブフィードバック
の2つです。
ポジティブフィードバックは言葉の通り、相手の良い部分を伝えることです。
良かった点を抜き出して伝えることで、相手に今後も継続してほしい部分を伝えます。
主にモチベーションを高めたいとき、自信を持ってもらいたいときなどにおいて有効なフィードバックです。
逆に、ネガティブフィードバックは、問題点などを指摘し、改善を促すものです。
結果から至らなかった部分を伝えることで、成長を促すものではあります。
ほとんどの場合、伝え方として問題となるのはこのネガティブフィードバックです。
伝え方次第で叱責を受けたと感じ、スタッフのモチベーションが大きく低下したり、感情のままネガティブフィードバックを行うとパワハラに抵触してしまう、といったことも。
そのためネガティブフィードバックを行う際には、あらかじめどのように伝えるのか、を考えてから実施するのが良いでしょう。
これを意識してそれぞれの特性を生かしながら使い分けることができれば、モチベーションの維持、スタッフのスキルの向上、離職率の低下、所内のコミュニケーションの活性化、など様々なプラスの効果をもたらすことができます。
フィードバックを行う上で注意したいこと
ただ、フィードバックは「やればいい」というものではありません。
しっかりとポイントを押さえておかないと、かえって逆効果になってしまうこともあります。
そこで効果的にフィードバックを行うために注意したいポイントを見ていきましょう。
1.具体的に伝える
フィードバックを行う時は、できるだけ具体的に伝えることが重要です。
あいまいなフィードバックは、何が評価され、何がダメだったのかが伝わりません。
その場ではなんとなくわかった雰囲気になっても、実際の行動に反映されないため、効果的なフィードバックにはならないのです。
そのためフィードバックはできるだけ具体的に伝える、という意識を持つことが重要です。
悪い例:今日の打ち合わせ、良かったよ。
良い例:今日の打ち合わせ、あらかじめ資料を先方に渡し、事前に意識共有できたので時間短縮ができ、早い段階で問題点を早期発見できてよかったよ。
2.客観性を大切にする
主観的なものはできるだけ排除し、客観的なフィードバックを心がけましょう。
これを怠ると、単なる意見を伝えただけ、になってしまいます。
場合によっては「気に食わない」という感情だけが伝わってしまう危険性もあり、スタッフのモチベーション低下の原因になってしまうこともあります。
特にネガティブフィードバックでは、客観性を意識する必要がありますね。
悪い例:あなたの仕事はいい加減だから、周りから信頼されないんです。
良い例:あなたは確認を怠ることがありますよね。そのためミスしたまま仕事が進み、後でトラブルになることがあります。これはあなた自身の信頼性の低下につながりますので、確認をしっかり行えるように業務フローに取り入れるべきです。
3.タイミングが重要
フィードバックをいつ行うか、はとても重要です。
行動の結果を伝えるものなので、結果が出たらできるだけ早く伝えた方が効果的です。
相手の記憶があやふやになってしまっていては、効果は半減です。
ただ、場合によっては時間を置いた方がいいケースもあります。
うまくいかず落ち込んでいた場合、そこに追い打ちをかけるようなフィードバックを行うのではなく、時間をおいてからのほうが効果的なこともあるのです。
スピーディーを基本としつつ、 ベストなタイミングはいつか、を考えるようにしましょう。
4.行動に着目して伝える
「具体的に伝える」にも通じるものですが、どう行動すべきか、に着目して伝えると効果的です。
性格や資質ではなく、どういった行動が結果につながったのか、それをどう行動すればよかったのか、という伝え方です。
悪い例:あなたはミスが多い。
良い例:帳票のチェックで数字の抜けが多いため、後で他の人が確認しなければいけない、ということが続いています。時間は少々かかっても良いので、一つひとつ確認をしてから次の作業に移る癖をつけましょう。
5.他との比較をしない
フィードバックはあくまで行動に対する評価を伝えることです。
あくまで本人の「行動」で、どれが良く、どれがダメだったのかを伝えることが重要です。
だからこそ、他のスタッフと比較するのは厳禁です。
悪い例:〇〇さんだったら言わなくてもやってくれたのに、あなたは駄目ね。
良い例:この場面で行動に移せなかったので、タイミングが遅れてしまいましたね。あらかじめ何が必要か、自分の中で整理しておく必要があるでしょう。
6.抑制的に行う
フィードバックは結果の評価を伝えることで、スタッフが次に行動する上での指針となったり、モチベーションを上げるために行うもの。
そのため伝える側は、抑制的になる必要があります。
一度にたくさんのフィードバックを行うと、単に不満を一気にぶつけられた、と感じモチベーションが低下してしまいます。
ただでさえフィードバックは所長や代表、マネージャー、先輩など立場が上の者が行うことが多く、受ける側は委縮してしまいがち。
特に、ネガティブフィードバックを行う際は、長くなりすぎないように意識すべきです。
言い足りない、物足りない、と感じるくらいで終わらせるくらいでちょうどいいのです。
こうしたポイントをおさえつつ、フィードバックを行えば、徐々に効果を発揮するでしょう。
ただ、いきなりすべてのポイントをおさえて、フィードバックを行うのは難しいもの。
そこで最初のうちは『型』を決めて、それに沿ってフィードバックを行うと良いのではないでしょうか。
そこで次に、フィードバックに活用できる手法、型についてみていきましょう。
①サンドイッチ型
ポジティブな内容でネガティブな内容を挟んで伝える型です。
まず褒め、次に注意や問題を意識させ、また褒める、というやり方です。
ネガティブな部分が強調されずに済むので、モチベーションの低下を防ぐことができます。
例:この前のお客様との打ち合わせは、事務所として対応できる部分の線引きをしっかり説明できてよかったです。(ポジティブ)
ただ、打ち合わせの際、メモを取るのに集中するあまり、手元ばかり見ているという印象を受けましたので、話をする際お客様に目線を向けるように意識する必要があるでしょう。(ネガティブ)
お客様とのコミュニケーションがさらに良くなれば、事務所の状況を理解していただけるので、さらにあなたの個性を活かしたサービスの評価も高まりますね。(ポジティブ)
②SBI型
Situation(状況)、Behavior(行動)、Impact(影響)の順番で伝える型です。
まずは状況を伝え、そのうえで行動に関する指摘や評価を伝え、最後にどのような影響があったのかを伝えます。
特徴としては、こちらの意図をしっかり伝えやすいこと。
フィードバックは相手にしっかり伝わることが重要なので、その点では使いやすい型といえるでしょう。
例:今日の所内ミーティングでは、(状況)
積極的に発言していたのが好印象でした。(行動)
他のスタッフにも良い刺激になったと思います。’(影響)
③ペンドルトン型
ペンドルトン型では、1.話す内容を決める、何を話すのかの確認、2.良かった点をあげる、3.改善点をあげる、4.行動計画、今後どうするかを決める、5.まとめ、の順番で話す型です。
サンドイッチ型やSBI型が一方的にフィードバックするのに対し、ペンドルトン型はスタッフと話し合いながら改善点を引き出す、という手法です。
そのためフィードバックとしては、上記2つより難しいですが、スタッフの主体性を引き出すことができるので、効果は高まります。
例:(確認)この前のお客様との打ち合わせでちょっと気になったことがあったんだけどいいかな。
(良かった点)お客様に伝わりやすいよう資料がまとめられていたので、伝わりやすかったと思うよ。
(改善点)ただ、打ち合わせの日程がきつくて、お客様からの資料の提出が遅れてしまったね。
(行動計画)スムーズにお客様と打ち合わせをするにはどうしたらいいと思う?
スタッフ/あらかじめお客様とスケジュールについて共有しておく、2~3日前に確認の連絡をしておく、など
(まとめ)時間に余裕をもって進めることができれば、落ち着いて仕事にも取り組めるし、より正確な数値も出せる。次も期待しているよ。
④FEED型
FEED型はFact(行動)、Example(行動を指摘する理由)、Effect(影響)、Differnt(改善点)の順番でフィードバックを行う型です。
具体的な行動から改善点までわかりやすく説明できる、という特徴があります。
論理的に説明できるので、伝わらない、などを防ぐことができ特に業務改善などを目的とした場合に有効な型です。
例:先週、お客様に提出した書類に誤字が多かったです。(行動)
お客様から、これはどういう意味だ、という問い合わせがありました。(行動を指摘する理由)
誤字はお客様の誤解を招き、時に大きなミスにつながることがあります。(影響)
お客様に提出する書類は、他のスタッフに一度チェックをしてもらってから提出するようにしてください。(改善点)
⑤KPT型
Keep(今後も継続したほうがいいこと)、Problem(課題)、Try(改善にむけて行動すること)の順番で話すフィードバックの型です。
この型も、相手の意見を引き出して進める型なので、意識の共有ができ、改善に向けた行動が明確になります。
個人だけでなく、チームとしての振り返りなどにも活用されることが多い型ですね。
例:
(Keep)この前開催したの相続セミナーについて良かった点は、どこにあると思う?
スタッフ/市の広報誌などに広告を掲載してもらったので、広く集客できたのが成功要因だと思います。
(Problem)逆に、反省すべき点や改善点はどこにあると思う?
スタッフ/会場が少し狭くて、集まったお客様が少々窮屈だったと思います。
(Try)じゃあ、次のセミナーではどう改善したらいいかな?
スタッフ/早めに会場探しをはじめ、良いところがあったらすぐにおさえてしまうのが良いのではないでしょうか。
以上、5つの型について紹介しましたが、いかがでしょうか?
これをベースにフィードバックを繰り返すことで、徐々に自分に合ったやり方などが見えてきます。
そのうえで、これをどう使いこなしていくか、について考えていきましょう。
フィードバックが所内で効果的に機能するためには
ここまでフィードバックの技術について話してきましたが、実はこれらはフィードバックについての枝葉末節にすぎません。
大切なのは「何を伝えるか」がしっかりと相手に伝わり、それがスタッフによってどう活かされるか、ということ。
テクニックなどはそのための手段なのです。
そして、フィードバックをしっかり効果的に活かすためには、伝える側だけでなく、伝えられる側もまた、フィードバックとはどういうものか、それをどう活かすべきか、ということを認識しなければなりません。
日常的に対話を積み重ねる習慣が欠かせないのです。
そのためにも、フィードバックを日常的に根付かせる、習慣化が欠かすことはできません。
フィードバックというと、1on1 の時などに使う、というイメージがありますが、それは間違いです。
フィードバックは特定の目的のためだけに使うものではなく、本来は日常の中で当たり前のように言葉を交わす中で活用されるもの。
例えば、お客様先に同行した帰り道の中で「今日の対応はここが良かったね」などと伝えるだけでも、十分なフィードバックになるのです。
最初から完璧なフィードバックはできません。
まずは気づいたら口にする、形式にとらわれず自然と「良い部分」や「改善点」に触れる空気が生まれるようになれば、自然とフィードバックのレベルは上がっていきます。
日常の中にフィードバックを取り入れていく。
言葉にすると簡単ですが、実際はなかなかうまくいきません。
そのため税理士事務所でフィードバックを活用するなら、所長や代表などのトップの役割が重要です。
トップがマネージャーやスタッフに、フィードバックをしている姿を「見せる」ことが最初の第一歩。
最初のうちは、ポジティブフィードバックを意識するのが良いでしょう。
皆の前で「ここは良かったよ」など、あるスタッフに対するポジティブフィードバックを行う。
それを見たスタッフは「こうすれば良い結果に結びつくんだ」という学びとなり、徐々にフィードバックが所内に浸透していきます。
ネガティブフィードバックは基本的に1対1で行うものですが、ポジティブフィードバックをする姿をあえて見せることで習慣化する『場』を作っていくのです。
これが進むと、上司・部下、といった立ち位置だけでのフィードバックではなくなります。
スタッフ同士、時にはマネージャーに対してスタッフがフィードバックを行う。
そうなってくれば、「360度フィードバック」ともいうべき状況が生まれ、より多様な視点を取り入れることができます。
フィードバックは単なるビジネススキームというだけでなく、日々のコミュニケーションの一環。
これがしっかり根付けば、業務はさらに効率化し、所内のコミュニケーションは活発になり、スタッフの成長速度は上がります。
その結果、スタッフ一人ひとりのロイヤリティは高まり離職率は低下、サービスの質は高まり、お客様の満足度も上がるでしょう。
最初はなかなか効果が見えずらいかもしれませんが、取り入れて損のないビジネススキームですので、興味を持っていただけましたら積極的に挑戦してみてはいかがでしょうか。
ここがわからない、興味はあるけど何から手を付けたらいいかわからない、そうした方はこちらからお気軽にお問い合わせください。
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