税理士事務所でできる災害対策とは~事務所の責任として取り組むべきBCP~
- 斉藤永幸
- 3月10日
- 読了時間: 13分

今年もまた、3月11日が近づいてきました。
様々な災害が頻発する近年、事務所が継続的に運営していくための備えは欠かせないものになりました。2011年の東日本大震災から15年。あの日の記憶は薄れつつありますが、その後も全国各地で地震や豪雨災害が続き、災害はもはや「いつか」ではなく「毎年どこかで起きるもの」になっています。
かつては「どんな状況でも出社しろ」という企業文化もありましたが、今は違います。企業は従業員を守り、事業を継続し、ステークホルダーを守る責任があるという考え方が一般的になりました。これは税理士事務所も例外ではありません。
とはいえ、中小規模の税理士事務所が大企業のような大掛かりな対策を取るのは現実的ではありません。そこで今回は、税理士事務所でも無理なく取り組める災害対策=リスク管理 について整理していきます。
1.税理士事務所はまず事業継続が重要(BCPの策定は必須)
■なぜ税理士事務所にBCPが必要なのか
災害などのリスクに対し、企業がとるべき対策としてBCP(事業継続計画)の策定が求められています。地震や水害などに直面した際でも、早期に復旧し、事業を継続させることが社会にとって重要だからです。
特に、税理士事務所は地域経済にとってのインフラの一つ。
だからこそ事業を継続し続けることができる体制づくりは必須といえるでしょう。
■BCPは4つの柱で考えるとシンプル
このBCPは、製造業などでは複雑な工程管理が求められます。
しかし税理士事務所では、整えるべき柱は4つに集約できます。難しく考える必要はありません。重要なのは災害時に”何を優先し、どう動くか”が決まっているかどうか、です。
BCPが定まっているかどうかで、事務所の信頼性は大きく変わりますし、スタッフも安心して働くことができます。スタッフの心理的安全性が高まれば、定着率も上がり、経営の健全化にもプラスとなります。
では具体的にBCPをどのように定めていけばよいのでしょうか。
以下の4つを定めていくだけで、事務所の災害体制は一気に高まります。
①優先業務の特定
まずは災害時でも”止めてはいけない業務”を明確にします。
優先業務の例
・申告期限対応(法人税・消費税・所得税など)
・給与計算(支払い遅延はお客様の信用問題に直結)
・資金繰り支援(融資・補助金・緊急相談)
・電子申告(期限延長の判断含む)
ポイント
・どの業務を最優先で復旧させるのかを順位付けする
・「誰が」「どの環境で」復旧するのかを決めておく
・優先業務の担当者、代替担当者を明確にする
②代替手段の確保
災害により事務所が使えない、スタッフが出勤できない状況を想定します。
代替手段の例
・在宅勤務の可否(VPN・クラウド会計・リモートデスクトップ)
・クラウド会計、クラウドストレージの利用
・連絡手段の確保(チャット、電話網、LINE WORKS)
・事務所が使えない場合の作業場所の確保
ポイント
・事務所が使えない前提で考える
・電子申告用のPCの代替機を準備しておくと復旧が早い
・お客様との連絡手段を複線化しておく
③連絡体制の整備
災害時は”情報が届かないこと”が最大の混乱要因になります。
整備すべき連絡体制
・スタッフの安否確認方法(安全確認ツール、チャット、電話連絡網)
・お客様への一斉連絡方法(メール配信、チャットワーク一斉通知)
・緊急時の担当者割り振り(安否確認担当、お客様連絡担当、データ復旧担当、等)
ポイント
・「誰が」「何を」「どの順番で」行うかを明確にする
・連絡手段は最低2系統(チャット+電話など)
④データと設備の復旧手段
税理士事務所にとって、データの消失は致命的です。
復旧手順に含めるべき項目
・バックアップの場所(クラウド・外部ストレージ)
・電子申告環境の復旧手順
(電子証明書の保管場所、予備PCのセットアップ手順、ICカードリーダーの予備)
・ネットワークやPCの復旧手順
・クラウドサービスのログイン情報管理
ポイント
・「誰でも復旧できるレベル」で手順化しておく
・バックアップは3-2-1ルール(次で詳しく解説)を基本にする
・復旧手順は紙でも保管(停電時のため)
ここまでのまとめ:BCPは4つの柱が重要。優先順位が決まっていて、代替手段が準備されており、連絡体制が整っていて、データ復旧手順が明文化されている。この4つが揃うだけで「災害時でも止まらない税理士事務所」として、お客様からの信頼が大きく高まります。
2.税理士事務所の生命線、データ保全
税理士事務所にとって”データ消失”は致命的です。
そのため災害対策は、データの多重保護が中心となります。
必須のデータ対策
・クラウド会計、クラウドストレージの活用
データの多重保護という面で、有効なのはクラウドの活用です。
災害により、物理的な損害が発生しても、業務継続が可能となります。
freeeやMFなどの利用はもちろん、クラウドストレージの活用も有効です。
クラウドストレージサービスは比較的簡単に活用することができます。
自動で同期する設定にしておけば、定期的にデータが保存されるので災害だけでなくPCなどにトラブルが起きた際も復旧が簡単です。
・バックアップの3-2-1ルール
災害・故障・サイバー攻撃からデータを守るための世界標準の考え方です。
税理士事務所のような「データが命」の業種では、最も重要な基本ルールの一つです。
クラウドの利用から一歩踏み込み、3-2-1ルールに基づいたバックアップを進めていきましょう。
数字 | 意味 | 税理士事務所での実践例 |
3 | データを3つ保存する | PC本体、クラウド、NAS |
2 | 2種類の媒体に保存する | PC:SSD、NAS:HDなど異なる媒体 |
1 | 1つはオフサイト(外部)に置く | クラウドストレージ、外部データセンター |
税理士事務所向けとして最も現実的で強い構成
・PC(ローカル)
・NAS(事務所内)
・クラウド(外部)
この3点セットが、コスト・安全性・運用のしやすさのバランスが最良です。
さらに強化するなら、
・電子申告PCだけは別ネットワークに分離
・バックアップの復元テストを年1回実施
・電子証明書のバックアップを厳重管理
などの対策をしておくと安心です。
・紙資料のデジタル化
紙の資料は災害には非常に弱いです。
火災はもちろん、水害などで水に浸ると保存性が著しく低下します。
過去のデータをデジタル化するのは優先順位としては高くありませんが、現在の業務に必要なものに関しては早急に進めておくことをお勧めします。
3.事務所設備の災害対策
以前の税理士事務所では、紙とペンがあれば帳簿を付け申告書を作成することができました。しかし近年の税理士事務所はIT依存度が高いため、IT機器の停止は業務停止に直結してしまいます。
そのためデータの保全だけでなく、設備面での対策も取る必要があります。
設備面での対策
・UPS(無停電電源装置)でPC・サーバーを保護
・ルーター・Wi-Fiの予備機を準備
・モバイルWi-Fiやスマホテザリングの確保
・耐震固定(棚・PC・サーバー)
・火災保険・動産保険の見直し
これはPC環境にもよるのですが、デスクトップPCの場合は停電に非常に弱いです。そのため停電対策は重要です。中規模事務所の場合で、所内にサーバなどの設備があるところは、必須の対策となります。
お勧めなのはUPS(無停電電源装置)の導入です。
UPSは停電時にバッテリーから電源を供給し、機器の電源断を回避します。これによりデータの消失やシステム障害を防ぎ、機器の寿命を延ばすことができます。
ノートパソコンの場合は、バッテリーをすでに搭載しているので、そこまでの対策は必要ないでしょう。いざという時のために、予備のPCとして1台あると安心です(ただし予備としておくのであれば、定期的にバッテリーを充電する必要があります)。
また、棚などの固定も必須の対策の一つです。
東日本大震災の時は、高層階のビルに入っていた税理士事務所は大きな被害を受けました。その当時は紙での保存が主流だったため、棚に入っていた紙の重さはかなりのものとなっており、それが地震により倒れたりしたのです。
特に高い階層に入っている事務所は、揺れ方が長く、大きく、長時間にわたって続きます。
そのため事務所が入っている建物に応じた対策をしていく必要があります。
4.スタッフの安全確保と連絡体制
税理士事務所は何かの商品を販売しているわけではありません。そのため当然のことながら、災害時は”人”の安全確保が最優先になります。
実務的な体制づくり
ここでは主に2つの点から、体制を検討していく必要があります。
一つは、判断の基準を作ること、そしてもう一つは実際の体制構築です。
・災害リスクを減らすための判断基準構築
地震などの突発的な災害もありますが、台風や大雨・豪雨災害などのように事前にある程度予測ができる災害もあります。その際、どのように判断し、どのように行動するか、を決めておくと対応がスムーズになります。
具体例:
電車の遅延が予想される →朝は自宅待機、その後電話連絡で出勤の可否を判断
電車が計画運休 →自宅待機、もしくは在宅での勤務に切り替え
勤務中に避難警報が発令 →速やかに早退し、帰宅
お客様先で地震が発生 →震度〇以上の場合、事務所に連絡の上速やかに避難
スタッフ各々が出勤できるかや、避難するかの判断をしてしまうと、行動が整いません。
大雨の中、せっかく出勤しても、他に誰も所内におらず仕事が進まない。そのような状態はリスクマネジメント上大きな問題があります。
出勤や早退、避難の判断基準を定めておくと、こうしたリスクを最小化できます。
・連絡体制の構築
いざという時のために、連絡体制をあらかじめ構築しておくことをお勧めします。
具体例:
安否確認ツールの導入
緊急時の役割分担表
家族連絡先の管理
安否確認ではどのようなツールを使うのか、をあらかじめ決めておきましょう。
災害時は電話がつながりにくくなることがあります。できればここは複線化しておくと安心です。まずはLINE WORKSなどでネットを使った安否確認、それで連絡がつかない場合は災害用伝言ダイアル、などのようにしておくと良いでしょう。
他にもスタッフの安全対策として、事務所周辺の避難場所の確認の徹底もしておきたいところです。年に一度、事務所のイベントとして実際に避難ルートを歩いてみる、などを実施すると効果は高いですね。
また、非常用持ち出し袋をスタッフの人数分用意をしたり、所内に非常食や水などの備蓄を用意しておくと、さらに安心です。
5.お客様への支援体制
災害時、お客様は「資金繰り」「補助金」「税務期限」「手続き」といった複数の課題に同時に直面します。
税理士事務所が事前に支援体制を整えておくことで、お客様の混乱を最小限にし、信頼を大きく高めることができます。
①災害時の税務特例テンプレートの作成
災害発生後、お客様が最も求めるのは「税務の期限はどうなるのか」です。
● 用意しておくべきテンプレート
納期限延長の案内文
災害減免制度の案内文
申告・納付の猶予制度の説明
罹災証明の取得方法の案内
→ 事前にテンプレ化しておくことで、災害発生直後に即時配信することができます。
② 緊急時の一斉連絡文テンプレート
お客様に「まず何をすればいいか」を伝えるための文面を準備しておきます。
● 例:一斉連絡で伝える内容
事務所の状況(稼働可否)
お客様が最優先で行うべきこと
税務期限の扱い(延長の可能性)
相談窓口(電話・メール・チャット)
必要書類の案内(罹災証明など)
→ 災害時は情報が錯綜するため、事務所からの明確な指示がお客様の安心につながります。
③ 災害時の資金繰り支援メニューの整理
災害直後は「資金繰り」が最も深刻な課題になります。
● 事前に整理しておくべき支援メニュー
日本政策金融公庫の災害貸付
信用保証協会の災害関連保証
自治体の緊急融資制度
商工会議所の支援メニュー
補助金(事業再建・設備復旧など)
→ これらを一覧化しておくと、お客様に対する初動支援が圧倒的に早くなる。
④ お客様のデータ保全支援(クラウド化の推奨)
お客様側のデータが失われると、復旧に膨大な時間がかかる。
● 推奨する対策
クラウド会計の導入
クラウドストレージの利用(請求書・領収書の保管)
スマホでの証憑アップロード運用
紙資料のデジタル化支援
→ お客様のデータが守られていれば、事務所側の復旧もスムーズです。
⑤ お客様向け「災害時の行動ガイド」の準備
お客様が混乱しないよう、“災害時にまず何をすべきか” をまとめた1枚資料を用意しておくと良いでしょう。
● ガイドに含める内容
身の安全の確保
会社の被害状況の確認
スタッフの安否確認
優先業務の確認
罹災証明の取得
税務・資金繰りの相談窓口(事務所)
→ 事務所の信頼性が大きく向上します。
ポイント:税理士事務所ならではの対策で差別化ができる
災害時、税理士事務所が提供できる価値は非常に大きいです。
事前準備があるだけで、お客様の安心感は圧倒的に変わります。
また、平常時からBCP支援なども行っておくと、「災害に強い事務所」「頼れる事務所」として他社との差別化もできます。
今回の記事のおまけとして、お客様先に配布できる『簡易BCPシート』をお付けします。
お客様の大切な業務を守るための”最低限の備え”をまとめたものです。
こうしたものを配布しておくと、事務所のブランド価値を高めることも可能です。
適宜、アレンジしてご使用ください。
顧問先支援メニューを整えたい方は、ここで一度現状を整理してみるのがおすすめです。初回の簡易診断(無料)はこちらから。
結論:災害へのリスク管理は、自分たちの事務所を守り、ブランド価値を高めることにもつながる
■税理士事務所ならではの「お客様支援」は圧倒的な価値になる
今や災害への備えは、個人だけでなく企業や職場が行うのも当たり前の時代となりました。当然、その中には税理士事務所も含まれます。コスト的な面では確かに負担もありますが、同時に他社との差別化を行うチャンスでもあります。
特にお客様先への支援体制は、”税理士事務所ならでは”の災害対策です。そこまで手が回っていない事務所が多いため、しっかりできている事務所のブランド価値は大きく向上します。
■補助金・助成金を活用すれば、負担を押さえて取り組める
特にBCPに対しては、政府や自治体からの補助金もあります。例えば東京都のBCP促進助成金は、自然災害や感染症などの不足に備え、事業を継続するための取り組みを支援しており最大1500万円の助成をうけることができます。
助成金を活用すれば「コストがかかるからできない」ではなく「助成金を活用して強化する」ことができます。
自分たちの事務所で取り組むだけでなく、お客様先への提案メニューとしても非常に相性の良い分野です。
■災害は毎年のように発生している
災害は忘れたころにやってくる、というのは昔からの言葉ですが、近年では毎年のように避難が必要な災害が国内のどこかで発生しています。それがいつ、自分たちの地域に襲い掛かるかわかりません。
その時に、
・お客さまを守れるか
・自分たちの業務を継続できるか
・混乱を最小限に抑えられるか
これらは事前の準備次第です
ここまで読んで、「うちの事務所はどこまでできているのか」「お客様先向けの支援体制を整えたい」と感じた方も多いと思います。
BCPは一度作れば終わりではなく、事務所の規模・体制・お客様先の情況に合わせて最適化する必要があります。
もし、
何から手をつければいいかわからない
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