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キャリアの多様性で組織を強くする~複線型キャリアとは~

税理士事務所のキャリアパスをイメージしたイラスト
中小規模の事務所では、単線のキャリアパスだとプラスよりマイナスの方が大きく出てしまいます

3月の半ばも過ぎ、確定申告という大きな山場を乗り越え、ようやく「ほっ」と一息ついている事務所も多いのではないでしょうか。そんな中、一気に採用市場が動き始めています。私のところにも、すでに3件の相談が寄せられ、募集原稿の作成に追われています。「今年こそ採用を成功させたい」事務所が、今まさに動き出しているのです。


ただ、税理士事務所の募集原稿を作成していて感じるのが、事務所には様々な特徴があっても、欲しい人物像、そして入社後のキャリアに違いがほとんどない、ということです。基本的に募集は担当者。そこに入力を行うアシスタントの募集や、有資格者が加わる、といったパターンです。

税理士事務所の募集なんだから、それは当たり前では、との意見もあるでしょう。

しかしそれは正しいのでしょうか。


実はこの現象は、前々からこの業界のウィークポイント、多くの人材が流出してしまう原因になっていると感じています。キャリアパスで差別化できない、それがスタッフにとって魅力となっていない、その結果退職して一般企業の経理などに転職してしまう。そんな現象が起きているのです。


そこで今回は、採用活動が活発になる今だからこそ、キャリアパスから見た組織作りについて見ていきたいと思います。



1. はじめに:なぜ今、税理士事務所に“複線型キャリア”が必要なのか


ここ数年、税理士事務所を取り巻く環境は大きく変化しています。



  • 顧客ニーズの多様化(DX、スピード対応、経営支援、資産税)

  • 人材不足の深刻化

  • 採用市場の競争激化

  • 属人化による業務停滞


にもかかわらず、多くの事務所ではいまだに「担当者としての一本道のキャリア」、いわゆる単線型のキャリアパスしか提示できていません。

入社後、会計ソフトの入力などで基礎を身につけ、担当者としてデビュー。その後は徐々に担当件数を増やして経験を積んでいく。そんなキャリアパスしかないのです。


典型的なキャリアパス

新入職員

→担当者

→ベテラン担当者

→主任・マネージャー

(実質は担当者の延長線)


この一本道では、”給与アップを目指すには担当件数を増やす”という構図から抜け出せません。もしくは税理士の資格を取って独立をする、より条件の良い事務所に転職する、といった選択肢しか残っていないのです。


担当件数=給与、となっているため結婚をして家族を持ち、養っていこうとすれば必然的に仕事量を増やすしかありません。その結果として、担当者の負担が増え、仕事を効率的に回すために属人化が進み、新人教育が回らなくなります。そして限界に達したところで離職、となるのです。

こうした状況がSNSなどを通じて認識され、若い人がこの業界を目指さなくなる。それが採用市場の競争激化につながり、うまく採用できない事務所では現場の負担が大きくなってさらに担当者の負担が増える。そんな悪循環が起きているのです。



2.なぜ多くの事務所でキャリアパスは一本しかないのか


ではなぜ、多くの事務所でキャリアパスが一本しかないのでしょうか。

理由は大きく6つあります。

どれも事務所の所長の怠慢などではなく、”仕方なくそうなっている”という側面が強いのです。


🧑‍💼①所長が”プレイヤー兼マネージャー”だから

税理士事務所の所長は多忙です。営業、高度税務、チェック、マネジメント、採用、教育、経営判断……、すべて一人で担っています。

そのためキャリア設計まで手が回らない、というのが実情です。

結果として「担当者として育てる」以外の道を作ることができないのです。


➡️②事務所の仕事が”担当者モデル”で回るように設計されている

多くの事務所が「担当者がお客様を抱えて、全部面倒を見る」という構造で成り立っています。

このモデルだと、記帳、決算、申告、相続対応、提案、といった事務所の業務すべてが”担当者の仕事”になります。

つまり何か工夫をしなければ、担当者以外のキャリアを作りようがないのです。


📚③役割分担をすると「教育コスト」が増える

税理士事務所は本来、担当者以外にもIT担当、教育担当、コンサル担当、などを作った方がスムーズに事務所が”回るように”なります。

しかし小規模な事務所では「そんな余裕はない」になりがち。

結果、全員が”何でも屋”のまま成長してしまいます


💰④評価制度が「担当件数・売上」に紐づいている

多くの事務所の評価軸が、担当件数、担当売上、顧問先の規模、になっています。

つまり担当者であることが最も評価される仕組みになっているのです。

だから、ITが得意、人に教えるのが得意、コンサルが得意、といった人でも評価されません。

結果、担当者以外のキャリアが育たないのです。


🔍⑤採用市場が「担当者としての経験」を求めてきた歴史

長年、税理士事務所の採用は「即戦力の担当者を採りたい」が基本でした。逆に言えば、それ以外のキャリアは転職などでは重視されなかったのです。ITや教育、といったスキルがあっても評価されないので、多くのスタッフの中で、担当者以外のキャリアを築いていこうという発想が生まれにくいのです。


❓⑥所長自身が「複線型キャリア」を経験していない

所長の多くが、担当者として育ち、担当者として成果を出し、担当者の延長で独立をした、というキャリアを歩んでいます。

そのため”複線型キャリア”という概念自体が事務所に存在していません

これは所長の勉強不足や怠慢などではなく、”業界の構造上そうなっている”としか言えないのです。


まとめると

キャリアパスが一本しかないのは、税理士事務所の構造上そうなってしまう仕組みがあるからです。

キャリアパスが複数あるより、一本しかないというのは”楽”です。

・評価せず売り上げを給与に変換するだけで済む

・専門部署を置くと他の業務との調整をしなければいけない

・専門担当を採用市場で獲得することは難しい

・自分で専門担当を育てるには時間がかかる

・変えようにも所長は忙しくて手が回らない

その結果、”担当者しかいない事務所”が自然発生してしまうのです。


だからこそ複線型キャリアを作る事務所は、一気に強くなります。

ざっと挙げただけでも、以下のような効果があります。


  • 採用が強くなる

  • 離職が減る

  • 属人化が解消される

  • 顧客満足度が上がる

  • 所長が経営に集中できる


つまり、複線型キャリアは単なる“人事制度”ではなく“成長戦略”なのです。



3. 強い事務所は“複線型キャリア”を提示している


今、成長している税理士事務所には共通点があります。それは、担当者一本ではなく、複数のキャリアパスを用意していることです顧客ニーズが多様化し、業務の専門性が細分化している今、「担当者として何でもやる」モデルでは限界が来ています。

以前、大手の事務所で採られていた分業制と異なり、近年の強い事務所は、次のような専門性を明確に分けています。


🔹高度税務(資産税・組織再編・事業承継)

難度の高い案件を扱う専門家。事務所のブランド力を高め、単価アップにも直結する。


🔹IT・DX(クラウド会計、RPA、業務改善)

クラウド会計の導入、仕訳自動化、RPA、業務フロー改善などを担当。同じ人数でも生産性が2倍になるのは、この領域の強さがある事務所。

中にはベンダーやソフト会社と組み、お客様のIT化支援などを行って、事務所の売り上げの柱となっているところもあります。


🔹顧客担当(提案型の関係構築)

単なる“処理担当”ではなく、

  • 経営者との関係構築

  • 課題発見

  • 提案

    を担う役割。

    事務所の売上と継続率を支える中心的存在。


🔹コンサル(経営改善、補助金、財務分析)

顧問料以外の収益源を作る役割。財務分析、資金繰り、補助金、経営計画など、事務所の付加価値を一気に引き上げる。


🔹教育・品質管理(新人育成、チェック体制)

新人研修、OJT、レビュー体制の整備などを担当。属人化を防ぎ、事務所の“再現性”を作る。


🔹内部管理(業務改善、マニュアル整備)

業務フローの整備、マニュアル作成、内部統制などを担当。組織としての安定性を高める役割。



まとめると

🔥同じ人数でも、生産性は“専門性の組み合わせ”で2倍以上変わることもあります。

例えば、10名の事務所でも、

  • 全員が担当者

という事務所と、


  • 高度税務 ×2

  • 顧客担当 ×4

  • IT ×1

  • 教育 ×1

  • サポート ×2

という事務所では、処理スピードも、提案力も、採用力も、離職率もまったく変わってきます。つまり、人数ではなく、専門性の設計こそが事務所の強さを決める要素になりつつあるのです。



4.人数別:最適な組織構成モデル


「うちは少人数だから、複数のキャリアパスなんて用意できないよ」という所長もいます。

しかしそれは間違いです。複線型のキャリアパスは、事務所の規模で”できる・できない”が決まるものではありません。

事務所の人数・規模に応じて、最適な組織構成があるのです。

ここからは、事務所の規模ごとに「どんな役割を配置すべきか」「どんなところがポイントになるのか」を具体的に見ていきたいと思います。


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🔹5名規模の事務所

■おすすめ構成

  • 所長(高度税務・営業・品質管理)

  • 主担当 ×2(うち1名はIT強め)

  • サポート担当 ×1(記帳・給与など)

  • 改善・IT担当(主担当と兼務)

■特徴

  • 小規模でも“役割名”を作るだけで採用力が上がる

  • IT担当を置くと業務効率が一気に改善

  • 教育担当はまだ専任化できないため、マニュアル整備が鍵

■注意点

  • 属人化しやすい

  • 主担当の離職が致命傷なので、離職対策が重要

  • 役割の境界が曖昧になりがちなので「担当範囲の明確化」が必須

Point:

5名規模だと、組織化にも限界があるため、専門ごとにわけるといっても、緩い体制になります。専任ではなく、主担当をやりつつITならこの人、のように役割を与えることで、主担当としてのキャリアにプラスアルファの要素を付け加えるイメージです。


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🔹10名規模の事務所

■おすすめ構成

  • 所長

  • 高度税務チーム ×2

  • 顧客担当チーム ×4

  • IT・DX担当 ×1

  • 教育・品質管理 ×1

  • サポート担当 ×1

■特徴

  • 専門性を分けられる最初のステージ

  • 教育担当が新人育成を回し始める

  • IT担当がいると業務改善のスピードが段違い

■注意点

  • チーム間の連携が課題になりやすい

  • 所長が“全部の最終チェック”を続けると破綻

  • ミドル層(リーダー)の育成が急務

Point:

10名規模だと、教育・品質管理がいわゆるミドル層(リーダー・マネージャー層)に任せることで、チームの連携の調整役として所長の右腕的ポジションとなって組織が安定しやすくなります。


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🔹15名規模の事務所

■おすすめ構成

  • 所長

  • 高度税務チーム ×3

  • 顧客担当チーム ×6

  • コンサルチーム ×2

  • IT・DX担当 ×1

  • 教育・品質管理 ×1

  • サポート担当 ×2

■特徴

  • “専門部門”が成立し始める

  • コンサル部門を作ると単価アップが狙える

  • 教育担当が研修・OJTを体系化できる

■注意点

  • 中間管理職の力量で事務所の成長が決まる

  • 評価制度が曖昧だと不満が噴出

  • 顧客担当のスキル差が大きくなりやすい

Point:

この段階でのポイントは、所内でしっかり調整ができるかどうか。所長一人でカバーできる範囲を徐々に超えてくるので、ここまでにミドル層に教育・品質管理のポジションをしっかり任せられる人が育っているかどうかで結果が大きく変わってきます。


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🔹20名規模の事務所

■おすすめ構成

  • 所長(経営・高度税務に集中)

  • 高度税務チーム ×4

  • 顧客担当チーム ×8

  • コンサルチーム ×3

  • IT・DXチーム ×2

  • 教育・品質管理 ×2

  • サポートチーム ×3

■特徴

  • 完全に“部門制”が機能し始める

  • 所長は現場から離れ、経営・採用・品質管理に集中

  • DXチームが本格的に業務改善を推進

  • コンサル部門が利益の柱になる

■注意点

  • 部門間の壁ができやすい

  • 評価制度・等級制度が必須

  • 採用・教育の仕組みがないと人が回らない

Point:

この段階で注意すべきことは、所長の立ち位置。所長が”現場に戻る”と、組織が崩れてしまうことが多いため、権限移譲の仕組みをしっかり構築することが重要です。また、評価制度や給与規定の整備・見直しなども必須となります。



5.まず何から始めるべきか


複線型キャリアを導入したいと思っても、何からやったらいいかわからないと感じる事務所は多いでしょう。

いきなり部門制を作る必要はありません。

まずは次の3つから始めるだけで、事務所は大きく変わります。


①役割名を作る(IT担当・教育担当など)

実務は兼務でOKです。

主担当業務をやりつつ、ITだったらこの人、のようにまず役割を割り振ります。

求職者が成長のイメージを持つことができるため、「役割名があるだけで」採用力は上がります。


②まずは兼務ではじめ、徐々に専門性を育てる

いきなり選任を置く必要はありません。

特に5~10名規模の事務所では、教育担当などを置いても、教育だけでは時間が余ってしまい、遊ばせてしまうことになります。まずは主担当を6、教育を4のように、兼任からスタートさせて徐々に「その人がその分野の顔」になっていくようにしましょう。

重要なのは、主担当のうち必ず1名はITを兼務するようにし、教育担当はマニュアル整備から始めると良いでしょう。


③キャリアパスを”見える化”する

簡単な図や表で良いので、事務所内に「どんな役割があるのか」を示すことが重要です。

まずはこれで事務所内のコンセンサスを得たうえで、少しずつ定着を進めていきます。

また、1on1 などの面談や、採用の際は「こういう道もあるよ」と伝えるようにしましょう。これだけで離職率が下がり、採用力が上がります。


まとめると:この3つだけで得られる効果

複線型キャリアパスの導入Before、After

複線型キャリアというと難しく感じるかもしれませんが、実際に導入するのは非常に簡単です。費用もほとんどかかりませんし、1~2日もあれば準備を整えることができるでしょう。

しかも、この3つだけで様々な効果を期待できます。


  • 採用力が上がる

  • 離職率が下がる

  • 属人化が減る

  • 所長の負担が軽くなる

  • 顧客満足度が上がる

  • 組織としての“再現性”が生まれる


その意味では、かなりコストパフォーマンスの良い事務所の制度改善の一つです。



まとめ:キャリアパスを整えることは”採用・定着・生産性”すべてに効く成長戦略


採用に関する打ち合わせをしていると、スタッフのキャリアパスについてうかがうことが多いのですが、多くの事務所でしっかりとしたキャリアパスを明示できないのが現状です。いわゆる主担当以外の選択肢のない中、キャリアを積んだ先にどんな未来を描けるのか、をしっかり示せないため業界全体の魅力が低下し、若い人の”業界離れ”を加速させています。


以前のように、この業界に入る人は税理士になることが前提で、税理士事務所のスタッフとして働く=将来の独立に備えた修業期間、という位置づけであれば問題はなかったでしょう。しかし独立へのハードルが高くなり、お客さまからのニーズが多様化・高度化している現在では、この図式は成り立たなくなりました。

スタッフ全員をゼネラリストだけで構成するのは、リスクが高くなってしまっているのです。


逆に、多くの魅力的なキャリアパスを提示できない中、複数のキャリアパスを提示できている事務所は相対的に”強く”なります。

複線型キャリアを整えることは、単なる人事制度ではなく、事務所の成長戦略そのものといえるでしょう。


・人が辞めない

・採用が強くなる

・顧客満足度が上がる

・所長が経営に集中できる


こうした状況を生み出すことで、事務所の抱えている課題の多くを解決することができます。

これらすべてがキャリアパスの設計から始めることができるのです。


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