税理士事務所の教育が劇的に変わる!図解マニュアルの作り方と実践ステップ
- 斉藤永幸
- 1月30日
- 読了時間: 13分

税理士事務所から寄せられる相談の多くは採用に関するものですが、近年は「雇用した人材をどう育て、どう定着させるか」という悩みが確実に増えています。特に研修方法は事務所ごとにバラバラで、効率的な教育の仕組みをどう作るかは、多くの所長が抱える共通の課題です。
多くの事務所が OJT だけに頼る状況から脱却しようとしていますが、実際には“マニュアル整備”の段階でつまずくケースが非常に多いと感じます。
その背景には、所長の「長所が欠点に変わる」という構造があります。税理士の多くは文章を書くことに慣れており、私自身も法律を専門にしてきたため、長文を書くことは苦になりません。法律系出身の税理士にとって、正確で細かな文章を書くことは強みです。
しかし、研修用マニュアルとなると話は別です。研修の目的は、まず新人に“全体の流れ”をつかんでもらい、そこから実務へつなげること。正確性よりも「理解しやすさ」が圧倒的に重要になります。細かく丁寧に書けば書くほど、逆に新人が迷いやすくなるという矛盾が生まれてしまうのです。
そこで有効なのが、図解やイラストを活用したマニュアルです。図解は直感的にイメージを伝えられるため、文章よりも理解のスピードが速く、研修の土台づくりに非常に向いています。もちろん、図解マニュアルを作るのは大変ですが、教育効果は圧倒的に高く、OJT依存から抜け出す最短ルートです。
今回は、そんな現場の課題を踏まえながら、『税理士事務所の研修で活用できる図解マニュアルの作り方』について整理していきたいと思います。
1. なぜ図解マニュアルは教育効果が高いのか
税理士事務所の教育でよくある悩みといえば、
「新人が同じところでつまずく」
「先輩スタッフごとに教え方が違う」
「説明に時間がかかりすぎる」
この3つが代表的なものではないでしょうか。
文章だけのマニュアルは、どうしても長くなり、税理士事務所の業務マニュアルともなれば専門用語や法律用語も出てきます。これを読みこなし、理解するには読み手側に会計や法律の知識が求められるのです。
しかし、税理士試験を受験し簿記論・財務諸表論に合格していても、法律用語などはまだこれから、という人も多いです。さらに未経験で入社した人であれば、マニュアルを読むだけで長い時間がかかってしまいます。
それを補うのが指導役である先輩スタッフなのですが、業務の標準化が進んでいないと属人化された解説になってしまい、教え方を統一するのは難しいでしょう。
結果、先ほどあげたような3つの問題が起きてしまうのです。
これを補うのが図解マニュアルです。
図解マニュアルは視覚情報で理解を補助するため、再現性が高いのが特徴です。
流れがひと目でわかる
判断基準が明確になる
新人が“自走”しやすくなる
ベテランの暗黙知を形式知にできる
教える側の負担が減る
特に税理士事務所の業務は「例外処理」が多くあります。
だからこそ、判断基準を図で示すことで、教育の質を一気に上げることができます。
2. 図解マニュアルの黄金構造(4枚セット)
図解マニュアルは、次の4枚で構成すると圧倒的に伝わるものになります。
全体図(鳥瞰図)
ステップ図(手順の分解)
判断フロー(Yes/No)
チェックリスト(再現性の核)
この4枚が揃うと、新人は「何を」「どこまで」「どう判断するか」が明確になり、迷いが激減します。
これを一つひとつ見ていきましょう。
① 全体図(鳥瞰図)
目的:業務の全体像を一目でつかませる
図解イメージ(業務全体の流れを一目で把握するための構成例です)
┌──────────────────────────────┐
│ 【タイトル:〇〇業務の全体フロー】 │
│ │
│ [STEP1] → [STEP2] → [STEP3] → [STEP4] → [STEP5] │
│ (アイコン) (アイコン) (アイコン) (アイコン) │
│ │
│ ※下部に「全体の目的」を一行で記載 │
└──────────────────────────────┘
ポイント
横一列の流れで“迷わない”構図
各ステップにアイコンを置くと視線が流れやすい
色は3色以内で統一
図解マニュアルの最初に置くべきなのが、この「全体図(鳥瞰図)」です。新人が業務に取りかかるとき、まず必要なのは“細かい手順”ではなく、全体の流れをつかむこと。ここが見えていないと、どれだけ丁寧な説明をしても理解が断片的になり、実務に結びつきません。
例えば、月次業務であれば
「資料回収 → 入力 → チェック → 報告」
といった形で、まず“全体の骨格”だけを提示します。
この段階では、細かい説明は不要です。むしろ情報を詰め込みすぎると、全体図の役割が薄れてしまいます。新人が「この業務はこういう流れで進むんだ」と理解できれば、次に学ぶステップ図や判断フローの内容がスムーズに頭に入るようになります。
■ ② ステップ図(手順の分解)
目的:各工程の“やること”をシンプルに理解させる
図解イメージ(具体的に何をやればいいのか把握するための構成例です)
┌──────────────────────────────┐
│ 【STEP2:資料回収】 │
│ │
│ ┌──────┐ ┌───────┐ ┌───────┐ │
│ │① 依頼する │ → │② 回収する │ → │③ 確認する │ │
│(目的:◯◯) │ │(目的:◯◯)│ │(目的:◯◯) │ │
│└──────┘ └───────┘ └───────┘ │ └──────────────────────────────┘
ポイント
3〜7ステップに分解
各ステップの下に“目的”を一言添える
1ステップ=1アクションで明確化
全体図で“業務の地図”を示したら、次に必要なのが ステップ図 です。ここでは、業務を実際にどの順番で進めるのかを、3〜7個のステップに分解して示します。ステップ図の目的は、「新人が迷わずに手を動かせる状態をつくること」にあります。
1ステップ=1アクション に絞って並べるだけで、作業の流れが驚くほど理解しやすくなります。
ステップ図は、全体図と判断フローの“橋渡し”となる重要なパートです。ここが整理されていると、後の判断基準やチェックリストもスムーズに機能し、教育の再現性が一気に高まります。
③ 判断フロー(Yes/No)
目的:新人が迷うポイントを“自走”できるようにする
図解イメージ(判断に迷う時の基準を示す構成例です)
┌──────────────────────────────┐
│ 【領収書チェックの判断フロー】 │
│ │
│ ┌──「宛名は正しい?」── Yes → 次へ │
│ │ │
│ スタート → No │
│ │ │
│ └→ 「顧問先へ確認」 │
│ │
│ ┌──「金額は読める?」── Yes → 次へ │
│ │ │
│ No → 「裏面確認 → それでも不明なら連絡」 │
└──────────────────────────────┘
ポイント
分岐は“迷いやすいポイント”だけに絞る
縦に流れる構図で視線誘導が自然
文章は短く、動詞で終わらせる
ステップ図で作業の流れを理解したら、次に必要になるのが 判断フロー です。税理士事務所の業務は、単純な作業の積み重ねではなく、途中で必ず「判断」が求められます。例えば、領収書の宛名が違う、金額が読めない、資料が不足している──こうした場面で新人は必ず立ち止まります。
判断フローの役割は、「迷ったときにどう動けばいいか」を新人が自分で導けるようにすることにあります。
Yes/No の分岐でシンプルに示すことで、視覚的に理解できるようになります。
判断フローがあるだけで、新人は「どこで止まればいいのか」「どこまで自分で進めていいのか」が明確になり、無駄な確認や不安が大幅に減ります。また、ベテラン側も同じ基準で判断できるため、事務所全体の業務品質が均一化されるというメリットもあります。
④ チェックリスト(再現性の核)
目的:新人が「できた/できてない」を自分で判断できる
図解イメージ(自走を手助けするための構成例です)
┌──────────────────────────────┐
│ 【資料回収チェックリスト】 │
│ │
│ □ 依頼メッセージを送った │
│ □ 回収期限を設定した │
│ □ 受け取った資料を分類した │
│ □ 不足資料を確認した │
│ □ 保存フォルダに格納した │
│ │
│ ※下部に「よくあるミス」欄を小さく配置 │
└──────────────────────────────┘
ポイント
10〜20項目が最も使われる
“新人が自分で完結できるか”を基準に項目化
下部に「よくあるミス」を置くと実用性が跳ね上がる
図解マニュアルの最後を締めるのが チェックリスト です。これは、新人が「自分でできたかどうか」を確認するための仕上げの1枚であり、業務の再現性を高めるうえで欠かせない存在です。
チェックリストの最大の役割は、“抜け漏れを防ぎ、誰がやっても同じ品質で仕上がる状態をつくること”にあります。
税理士事務所の業務は細かな作業が多く、慣れないうちはどうしても漏れが発生しがちです。しかし、チェックリストがあれば新人は自分で進捗を確認でき、ベテランも同じ基準で業務を見直せるため、事務所全体の品質が安定します。
チェックリストの項目は、10〜20項目程度の“やるべきこと”をシンプルに並べるだけで十分機能します。
また、下部に「よくあるミス」を小さく添えておくと、新人がつまずきやすいポイントを事前に回避でき、教育効果がさらに高まります。
チェックリストは、図解マニュアルの中でも特に“現場で使われ続ける”パートです。この1枚があるだけで、新人の自走力が上がり、ベテランの確認作業もスムーズになり、事務所全体の業務品質が底上げされます。
3.図解を作るときの思考プロセス
図解というと「デザインのセンスが必要」と思われがちです。しかし実際には”思考整理の技術”です。次の4つのステップを踏んで思考を進めていくと図解化しやすいですね。
Step1:現場のつまずきを集める
図解は“困っているポイント”から作るのが最も効果的です。まずは新人やスタッフにヒアリングし、次のような情報を集めます。
どこで手が止まるのか
どこがわかりにくいのか
どこでミスが出やすいのか
図解は「現場の痛み」を可視化するためのツールです。現場の声を拾わずに作ると、どうしても“作り手の自己満足”になり、実務で使われなくなってしまいます。
Step2:作業を「目的 → 手順 → 判断基準」に分解する
次に、業務を構造的に整理します。文章で説明すると複雑に見える作業も、図にすると一気にシンプルになります。
特に税務業務は「目的」が抜けると作業が形骸化しがちです。例えば「資料を保存する」という作業も、“なぜ保存するのか”という目的がわかるだけで理解の深さが変わります。
目的
手順
判断基準
この3つに分けて整理することで、図解の骨格が自然と整います。
Step3:情報を“減らす”
図解で最も大切なのは「削る勇気」です。情報を詰め込みすぎると、図解は逆に読まれなくなります。
意識すべきポイントは次のとおりです。
文字は最小限に
色は3色以内に統一
1枚に1メッセージ
例外は書かない(別紙に分ける)
図解は“情報を整理するための道具”であって、情報を詰め込む場所ではありません。必要な情報だけを残し、余計なものは徹底的に削ることで、伝わる図解になります。
Step4:新人にテストして改善する
図解は作って終わりではなく、現場で回して育てるものです。実際に新人に使ってもらい、次の点を確認します。
どこで止まったか
どこが読みにくかったか
どこで判断に迷ったか
こうしたフィードバックをもとに修正を重ねることで、図解は“現場で本当に使えるマニュアル”へと進化します。
この4ステップを踏むだけで、図解の質は驚くほど安定します。そして何より、図解は「新人が自走できる環境」をつくるための強力な武器になります。
4.税理士事務所で特に効果が高い図解テーマ
次のような業務は、図解化マニュアルを作ると特に効果を発揮します。
月次資料の回収フロー
領収書の仕訳判断フロー
経費・売上のチェックポイント
年末調整の資料チェック
決算整理の判断基準
顧問先への連絡テンプレ
ファイル管理ルール(Dropbox/Google/OneDrive比較)
これらは新人がつまずきやすく、ベテランの説明負担も大きくなります。図解化するだけで、教育コストが大幅に下げることができます。
5.図解マニュアルを作るときの注意点
記事の内容に沿ってステップを踏んでいけば、図解マニュアルを作成することはできるでしょう。ただ、次のようなポイントには注意してください。
図解は“正しさ”より“伝わること”を優先
税務の世界では正確性がなにより重視されます。しかし図解マニュアルでは、正しさを追求すると、細かな説明が延々と続くことになります。研修の目的は、まず新人に”全体像を理解してもらう”こと。
細かい例外や厳密な定義を詰め込みすぎると、かえって理解が遠のいてしまいます。
「正確だけど伝わらない」より「多少ざっくりでも伝わる」を優先させる方が、効果の高い図解マニュアルになります。
事務所の成熟度に合わせて難易度を調整
同じ図解でも、事務所の成熟度によって必要なレベルは変わります。
・業務が属人化している事務所 → とにかくシンプルに
・標準化が進んでいる事務所 → 判断基準を細かく
・ITツールが浸透している事務所 → 操作手順も図解化
図解は“万能のテンプレ”ではなく、その事務所のフェーズに合わせて最適化するもの。成熟度に応じて情報量を調整することで、現場での使われ方が大きく変わります。
図解は「新人が見て動けるか」で判断
図解の良し悪しは、作り手ではなく“新人の反応”で決まります。どれだけ綺麗に作っても、新人が見て動けなければ意味がありません。
判断基準はシンプルで、「この1枚を見て、新人が手を動かせるか」これだけです。
もし動けないなら、情報が多すぎるか、構造が複雑すぎる可能性があります。図解は“新人の行動を引き出す道具”であることが何より重要なのです。
更新しやすいフォーマットにする
図解マニュアルは、一度作って終わりではありません。
業務の変化やツールの入れ替えに合わせて、定期的にアップデートする必要があります。
PDFなどで固めてしまうと、更新のたびに作り直しになり、結局使われなくなってしまいます。
GoogleスライドやPowerPointなど、更新しやすいフォーマットで作成することをお勧めします。
6.まとめ:まずは1つ、図解を作ってみよう
ある事務所で、月次監査のマニュアルを拝見させていただいたことがあります。そのマニュアルは20ページにもおよび、様々なケースを想定し、ある意味「完璧」なマニュアルでした。
確かにこれを読み込めば、月次の業務はできるようになるでしょう。
しかしA4用紙にびっしり隙間なく文字が並んだマニュアルに、新人は読むのに躊躇してしまうのではないでしょうか。
文章を書くのが得意な所長ほど、この罠に陥ってしまいがちです。
しかし図解マニュアルを導入すると、驚くほど教育が楽になります。
新人の理解スピードが上がり、指導役の先輩スタッフの説明負担も減り、事務所全体のストレスも下がります。
まずは「新人がよくつまずく業務」を一つ選んで、その業務の全体図→ステップ図→判断フロー→チェックリストを作ってみてください。
これだけで効果を実感していただけると思います。
とはいえ、「どの業務から図解すればいいのか分からない」「構成は作れたけれど、図に落とし込むのが難しい」「うちの事務所に合った形にカスタムしたい」そんな声もよくいただきます。
もし同じように感じているなら、初回の無料相談で、あなたの事務所に最適な図解マニュアルの作り方を一緒に整理できます。
どの業務から着手すべきか
どこまで図解化すれば効果が出るのか
あなたの事務所の成熟度に合った構成
実際の図解ラフ案の方向性
こうしたポイントを、あなたの状況に合わせて具体的にアドバイスします。
「まずは話だけ聞いてみたい」という段階でも大歓迎です。まずは、あなたの事務所の“つまずき業務”を一つ教えてください。そこから最適な図解構成を提案します。
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