top of page

AIで仕訳は自動化できる?税理士が知るべき「限界」と「生成AI活用」の現実

AI・ChatGPTによる仕訳自動化のイメージ
AI 導入はメリットに対しては、誤解されていることも多いです

税理士事務所のAI 導入について記事を書き始めてから、アクセスも増え、質問を寄せられることも増えました。その中でAI-OCRなどの導入で、税理士事務所は仕訳の負担から解放されるのか、という声がありました。この「AI で仕訳は自動化できるのか?」という疑問にお答えしていきます。


【結論】Chat-GPTを含むAI導入で仕訳は“ゼロ”にはなりません。ただし、正しく使えば工数は半分以下になります。


その理由を順を追って説明していきます。



AI で仕訳が自動化できるといわれる背景


よく、AI が発展すると必要なくなる業種として、経理や税理士がやり玉にあがることがあります。


AIによってなくなる仕事ランキング10選【日本】

  • 一般事務職

  • カスタマーサポート

  • 法務

  • 建築設計

  • 秘書・アシスタント

  • 経理・会計

  • 金融機関業務

  • 経営コンサルタント

  • マーケティング・市場調査

  • 人事・採用


ゴールドマン・サックスによる「生成AIの職業への影響」としてGeeklyが公開している記事から引用しました。(出典:https://www.geekly.co.jp/column/cat-geeklycolumn/jobs_taken_over_by_ai/#AI10


この手の話題は非常にセンセーショナルで、読者の関心や危機感を強く刺激するため、さかんにいろいろなところで記事にされています。この中には経理・会計が含まれていることが多く、税理士の仕事もよくやり玉に挙げられています。

でも、これって本当なのでしょうか?


先日、AI-OCRで記帳仕訳の負担を大幅削減できる、という記事をこのサイトでも公開しました。ただ、それはあくまで「大幅削減できる」というものです。実際、この技術が多少進化したとしても、「記帳仕訳を完全自動化」することはできません。以前掲載した記事の中でも、3人いた仕訳スタッフを1人にすることはできる、ということをお伝えしていますが、これをゼロにすることは現状、不可能なのです。

それはどういうことなのか、ちょっと詳しく見ていきましょう。



会計分野のIT化の歴史と”自動化できなかった理由”


そもそも、ITを使って会計をする、というのは省力化を目指す歴史ともいえるでしょう。ここでその歴史をちょっと振り返ってみましょう。


会計はそろばんをはじいて、帳面をつけていました。

それがコンピュータの登場で激変。見やすく、入力なども楽になりました。1980年代にはオフィスコンピュータが発売され、急速に電子化が進み、中小企業でも会計ソフトの導入が盛んになります。そして1992年に日本で最初のERPソフトが導入されました。

打ち込む場所の間違いなどを自動で検知し、複写などの手間が減ることでミスを防ぎ、作業量自体も大幅に減らしたのです。

一部の専門的な知識を持った人でなければできない仕事から、ちょっと知識があってPCが使える人であれば携われる仕事になっていったのです。


この状況がまた大きく変わってきたのが「RPA」です。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の技術を取り込むことで定型作業をロボットで代替、入力や転記などの作業をほぼ自動化できる、と言われました。また、DXが注目され、業務そのものをデジタル化することが前提になれば、記帳なども自動化できると思われたのです。


そして登場したのがAI です。

ここまでの歴史をたどっていくと、税理士事務所の作業は減り、負担は減ったのも事実です。しかしこうした試みでは、記帳・仕訳などは自動化できていません。だからこそAI が発展すれば、記帳・仕訳は自動化できるのではないか、という期待があるのです。

しかし、今の技術の延長線上で、AI に記帳・仕訳をすべて任せる、ということは考えられません。なぜなら記帳・仕訳の業務はそこまで単純なものではないからです。ましてや税理士の仕事はそれだけではありません。そこまでAI で自動にできるようにするには、まだいくつもの技術的なブレイクスルーが待たれる、というのが実情です。



AI が得意な領域・苦手な領域


そもそも現在のAI には、得意な領域と苦手な領域がはっきり分かれています。


● AIが得意な領域

  • パターン認識(定型的な取引)

  • 過去データからの推測

  • 領収書OCR → 仕訳候補の提示


● AIが苦手な領域

  • 文脈判断(同じ店でも用途が違う)

  • 取引の背景理解(交際費か会議費か)

  • 税務判断(租税特別措置法・業種特有の判断)

  • 新規取引・例外処理・イレギュラー対応

  • “顧客の意図”を読み取ること


注目したいのがパターン認識です。

Aという情報を入力したらBという答えを出す。これを高速でさまざまなパターンを認識し、結果を出していく。そのようなものに対してはAI は非常に効果を発揮します。つまり、この仕訳は必ずこれ、というように決まっているものですね。これだとかなりの精度でAI に置き換えることができます。

ただ、AI を導入しても初日から賢いわけではありません。最初の3か月は『勘定科目の紐づけルールを徹底的に学習させる期間』とすることが、その後の省力化成功のカギです。

それだけしっかりと段階を追って導入したとしても、完全自動化は不可能です。記帳仕訳はそれほど単純な業務ではないからです。例えば打ち合わせをして軽い食事をした際、お客様によっては、交際接待費であるものが、別のお客様では会議費に計上する、といった事例もあります。お客様の状況や意図なども含めて人が調整していかなければならないのです。



AI 導入が効果的な事務所、効果が限定的な事務所


このような理由から、AI による全自動化は幻想といえるでしょう。ただ、正しく使えば大幅な効率化は可能です。そして、AI の導入がうまくいく事務所と、そこまで効果があがらない事務所には共通するパターンがあります。


・AI 導入が非常に効果の高い事務所

<科目ルールを顧客に提示している事務所>はAI と相性が良い

AI導入で効果を上げている事務所の特徴は、業務がパターン化されている事務所です。

例えば「うちの事務所は〇〇の支出に対しては××という仕訳を行っています」というルールを作って、それをお客様に承諾していただいているような事務所ですね。価格をリーズナブルに抑えることで、ある程度の条件をお客様に提示することなども可能となります。

事務所としてしっかりと組織化に取り組んでおり、所内で明確な基準を定めている。こうした事務所ではかなりの業務をスムーズにAI に置き換えることができます。


<仕訳工数が多い事務所>はAI による効率化の恩恵が大きい

また、仕訳工数が多い事務所なども、効率という面で非常に効果が高くなります。それまで何人もで行っていた業務量自体かなり圧縮できるので、AI 導入のメリットは大きくなりますね。

これは単純に、取引量の多い企業がお客様の税理士事務所になります。B2Cのお客様でしたらPOSレジから直接データを取り込んで、ひたすらAI 仕訳という処理が今のところ正解と言えます。あとはPOSレジを導入していないような企業でも、飲食や小売りで販売数が多く、その分仕入れの品数が多い場合です。

薄利多売などを売りにしている企業は、どうしても経理処理の量が多くなるので、それに対応する税理士事務所はAI が非常にフィットします。


<複雑な取引が多い事務所>はAI のパターン分析が活きる

複雑な取引を行っているお客様が多い事務所も、実はAI 導入のメリットは大きくなります。取引内容を一つひとつ人が確認していくのは大変です。取引の流れなどを追うのは、AI の得意とする分野でもあります。

例えば扱う物品数が多い企業や、様々な業者と取引が多い企業、複数展開している店舗などをまとめて見ている、そんなお客様をもつ事務所などはフィットしやすいでしょう。B2BでありながらB2Cの取引もある、お客様決算の方法がバラバラ、国内市場で商売をしながらも海外とのやり取りも多い、といった企業がお客様の事務所ですね。


・AI 導入の効果がそこまで高くない事務所

<仕訳の基準が不明瞭な事務所>はAI の効果が限定的

これは上記の事務所の逆のパターンです。いわゆる「例外」が多い事務所になりますね。同じ業務であっても、この取引はこう扱ってほしい、などの一度限りの例外が多いお客様の要望にきめ細かな対応をしなければいけないような事務所です。


<業務が属人化している事務所>はAIの学習ができず精度が上がらない

特に問題となるのが、属人化が進んでしまっている事務所です。

科目基準が事務所内で統一されておらず、お客様ごとに、また担当者ごとに判断がバラバラな事務所はAI を導入しても効果はかなり限定的になります。AI が「ぶれたデータ」を学習してしまうと、精度はいつまで経っても上がりません。AI は「良いデータ」がないと機能しないのです。


また、本来はAI を導入すべきでない事務所の範疇なのですが……。

以前ある事務所で相談というか愚痴を聞かされたのが「税理士変更で来たお客様の決算や仕訳を見たらグチャグチャで」というものでした。なんでこんな処理になっているのか理由がわからず、一つひとつお客様に確認したけどよくわからないので、まっさらなところまで戻って一から作り直しているんだ、というのです。

それくらいグチャグチャで意味不明な状態の仕訳をするなら、いっそのことAI 導入でAI を基準に仕事のベースを作った方がいいかもしれない、とも思いますね。



AI は全自動ではなく「正しく使う」意識が重要


こうしてみると、AI が全自動で業務を肩代わりしてくれるわけではない、ということをご理解いただけると思います。仕訳一つとっても、お客様の理念や仕事にかける思い、将来の目標などを共有し、それを仕訳に反映させていく、ということは税理士や担当者でなければできないことなのです。これをAI に任せるには、自律型で自ら思考できるようなものでなければなりません。それは今のところフィクションの中だけにしかないのです。

だからこそ任せることができるところはAI にやらせて効率的に業務を進めていく、という姿勢が大切なのではないでしょうか。


今後、AI は避けては通れないものになっていきます。だからこそAI を使いこなすことを前提に、業務を組み立てていける税理士は強いですね。


仕訳分野でAI を最大限生かすためのポイント

  • 科目ルールの明確化(事務所内の統一基準)

  • 顧客への入力ルールの徹底

  • AIの学習データを“整える”仕組みづくり

  • レビュー工程の標準化

  • AIに任せる領域と任せない領域の線引き

  • MASや業務改善と組み合わせると効果が倍増


AIは補助ツールです。税務判断や節税提案、経営助言、そして「判断」はあくまでも人がやらなければいけないのです。今後、お客様の状況を踏まえた例外処理や対応が税理士の価値となってくるでしょう。

また、インボイス制度や電子帳簿保存法といった法改正や制度の変更などへの対応は、まだAI に任せるのではなく、人間(税理士)のチェックが必要です。

しっかりAI と向き合いながら、徐々に取り組むことをお勧めします。


このようにAI は導入しただけだとあまり効果はありません。ツールである以上、適切に運用し、使いこなさなければ本当の勝ちは発揮できないのです。TaxOffice-Supportでは、単なる導入にとどまらず、AI をしっかり活用し、負担を減らすことで税理士事務所の所長、そしてスタッフがより創造的な業務に取り組める環境整備をサポートしています。

最近では「うちの事務所でもAIを活用できるのか?」「どこから手を付ければいいのか?」といったご相談も増えています。疑問に思うことや質問などがございましたら、お気軽にHP内の無料相談よりお気軽にお問い合わせください。



関連記事


コメント

5つ星のうち0と評価されています。
まだ評価がありません

評価を追加
bottom of page