AI の導入は税理士事務所にとって得になるのか?
- 斉藤永幸
- 12月18日
- 読了時間: 10分
更新日:12月18日

今はかなりお得にAIを導入できる!?
AI の導入についてサポートを開始します、とお伝えしてから多くの質問をお寄せいただきました。税理士の皆さんも、それだけ関心が高いのだと思います。どんなことができるのか、どんな業務が楽になるのか、そして「AI を導入したほうがお得なのか?」ということです。
結論から述べてしまいますが<AIを導入したほうが、かなりお得です>。しかし「ただし今のうちは」。という但し書きがついてしまうでしょう。
その理由や根拠を一つずつ見ていきたいと思います。
まず、税理士事務所でAI は、様々なことに活用することができます。多分、ほとんどの業界より活用の余地は広いのではないか、と思えるほどです。では実際にどのように使うことができるのでしょうか?
今回は特に、業務効率化、という面からお伝えしたいと思います。
仕訳の業務効率化が進まない理由
効率化という役割は、AI にとって得意分野です。様々なデータから必要なものをピックアップし、表示する。これは人間ではかないません。そして、税務会計業界でもっとも効率化ができる部分と言えば、仕訳入力の部分です。
近年、多くの事務所が自計化を推進しています。お客様に記帳・入力までお願いし、事務所の負担を少なくすることで、より付加価値業務に注力する、という業界全体の流れともいえるでしょう。しかし、このお客様の自計化が進んでいるところは少数派ではないでしょうか。
お客様の中には帳簿などをつけるのが負担で、税理士にお願いする、というニーズが一定数存在します。そうしたお客様に「うちの事務所は自計化を推進しているので、帳簿は自分たちでつけてください」と言って快く引き受けてくれるでしょうか? ほとんどは苦い顔をされるか、黙って契約を打ち切られるか、です。
また、自計化を承諾したとしても、お客様によって簿記に対する知識はかなり差があります。そのためお客様から上がってくる仕訳されたデータには精度の面でかなり差があります。間違いなどを防ぐためには、基準は最低限の部分に合わせなければいけません。しっかりやってくれているところがほとんどだったとしても、いい加減にやっているところがあれば、すべてのデータがをしっかりチェックしなければいけません。
精度がばらばらの仕訳されたデータをチェックするのは、すべて自分で入力するのとあまり負担は変わらないでしょう。
さらに指摘するなら、自計化支援の手間もかかります。
自分たちで記帳・仕訳をお願いします、といってできる人は少ないでしょう。そのため自計化を進めるのであれば、お客様を指導しなければいけません。簿記の知識がない人や、普段はほとんど数字に接していないような人もいるでしょう。そういう人に、最低限でも仕訳を理解してもらって、実務に耐えうるデータを作ってもらわなければいけないのです。
AI-OCRで仕訳を自動化
こうした状況を改善するため、近年使われ始めているのがAI-OCRです。
OCRとはOptical Character Recognition/Readerの略で、日本語では工学的文字認識と呼ばれています。手書きや印刷されたも文字情報を、デジタルの文字コードに変換する技術ですが、これがAI と非常に相性が良いのです。OCRでは正確に読み取れないものでも、AI を使うことで高い認知精度を実現。従来のOCRが手書き文字の正読率が10~70%であったのに対し、最新のAI-OCRでは正読率が97%以上にも達しているそうです。
この技術を使うことで、仕訳業務の負担は大きく軽減されます。
(従来の業務のイメージ)

(生成AIを活用した業務のイメージ)

(画像出典:経営革新等支援機関推進協議会)
上記の図を見てもらえばわかると思いますが、そもそもタスクの数自体が大きく減少しています。そして、資料なども自動で作成されるので、人が行うのは確認作業だけ。しかも仕訳をする人がばらばらではなく、一定の基準で行われるので、確認作業がかなり楽になります。
また、freee会計やマネーフォワード、弥生会計 などは銀行口座・クレジットカード・POSレジなどと連携し、AI仕訳をそのまま帳簿に反映する自動連係機能もあるので、それらの会計ソフトを使用している事務所ではさらに利便性は高まります。
このようにAI-OCRを活用することで、日常業務を減らすことができ、お客様への提案やコンサルティングに集中する環境を作ることができます。
費用対効果でお得かどうか判断しよう
ではAI の導入費用を見てみましょう。
まず最初に話しておくと、AI-OCR以外でも、AI は様々な活用ができます。そのためAI-OCRだけを導入するのはもったいないのです。実際、AIにはかなりの可能性があります。これを簡単に見ていきましょう。
①時短効果
生成AI で書類作成などの時間が大幅に削減された研究結果があります。
根拠: MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究で、生成AIの使用によりビジネス文書作成時間が40%削減、品質が18%向上したと実証されています。
② リアルタイム化
月次決算が不要になり、常に最新の数字が見られる「バーチャル決算(Continuous Accounting)」が可能になります。
根拠: 日本オラクル等が提唱する「The Virtual Close(バーチャル決算)」の概念。AI活用により決算処理を日次で行い、月末の締め作業をなくす動きです。
③ 最新技術(AIエージェント)
生成AI がさらに発展していけば、『AIエージェント(自律型AI)』が主流になります。AIが自分でメールを読み、自ら会計ソフトを操作する『完全自動化』も可能となってきます。そのための高度なシステム環境構築への投資が必要です。
根拠: Anthropic社の「Computer Use」機能や、Microsoftの自律型エージェントなど、AIがPC操作を行う技術が実用化されています。
AI によって今後ますます可能性は大きくなっていきます。そのためにも将来の拡張性などを踏まえて、ある程度の投資をしておいたほうが良いでしょう。ただ、それでも小~中税理士事務所でAIを導入するのであれば、一つの目安として500万円前後あればある程度満足いくものを導入することができると思います。
この数字だけ見ると「高い」「そんな予算採れない」などという方がほとんどでしょう。しかし近年、政府は企業のAI 導入を推進しており、それに対する補助金・助成金が充実しています。
2025年11月28日、閣議決定、12月2日には中小企業庁が資料を更新、16日には補正予算が成立しました。これまであったIT導入補助金の名称が変わり、「デジタル化・AI 導入補助金」となりました。これまでのように単なるITツールの導入だけでなく、AI を活用し生産性をどう上げるか、が審査の肝となってくる可能性が高いですね。
※参考資料
また注目したいのが予算規模。今回発表された「生産性革命推進事業等」の予算が3400億円で、そのうち「デジタル化・AI 導入補助金」は従来のIT補助金の予算規模と同程度、1000億円程度の予算が配分されると考えられています。
そして注目したいのが補助上限額と補助率です。上限が450万円、補助率が1/2~4/5です。対象となるのがソフトウェア購入費やクラウド利用料(最大2年分)、導入関連費も含まれてこいます。
そしてその中には以下のようなものも含まれます。
プロンプトエンジニアリング: 税務の専門的な回答ができるよう、AIへの指示出しをプロが設計します。
社内データ連携構築: 過去の申告書やマニュアルをAIに学習させ、事務所専用のAIを作り上げます。
・ 定着支援コンサル: 業務フローの再設計や職員研修を行い、確実に効果が出るまで伴走します」
つまり「AI を即戦力化するためのフルパッケージ」を導入した場合、もし500万円程度の、普段だったらちょっとためらってしまうような高額なシステムになるかもしれません。しかし補助金をしっかり活用できれば、120万円ちょっとで導入することが可能となります。
これをAI 導入で省力化できるコストと比較してみましょう。
例えば、8名程度の税理士事務所で、そのうち3名が所内で入力を担当しているアシスタントスタッフだったとします。これまでアシスタントだけでまかなうのが難しい量の仕訳・入力作業であったとしても、スキャニングなどの補助と確認で1名いれば足りてしまいます。
すると3名分のコストが1名分になるので、2名分のコストが減ることになるのです。
アシスタントスタッフが月20万円程度の給与を得ていた場合、
2×20万円=1か月40万円×3か月=120万円 : AI導入のための負担120万円前後
これを元に費用比較を表にまとめたので参考にしてみてください。
従来の仕訳コスト | AI -OCR導入の場合 | 備考 | |
アシスタント人件費(月額) | 60万円(3名分) | 20万円(1名分) | アシスタント3名と1名を比較 |
アシスタント人件費(年額) | 720万円 | 240万円 | |
AI -OCR導入費用(初年度) | 0円 | 120万円 | 補助金活用後の自己負担分 |
初年度合計費用 | 720万円 | 360万円 | 人件費+導入費用 |
2年目以降の年間費用 | 720万円 | 240万円 | 導入費用は初年度のみ |
これを見てみると、アシスタントだけで仕訳を行っていた場合とAI-OCRを比較した場合、初年度だけでもコストは半分程度に圧縮することができます。しかも2年目以降は480円もの削減効果があります。5年で計算すると、人力の仕訳では3600万円、AI-OCR導入は1200万円、実に差額は2400万円にもなってしまうのです。
さらにここでは社会保険料や退職者が出た場合の採用コストなどは計算していません。さらにこれには近年の人手不足は深刻で、最近では仕訳入力をお任せするアシスタントといっても、良い人材を採用するのは難しくなってきています。AI なら辞めることもなく、文句も言わずに24時間働いてくれます。人を増やさず売り上げを上げる仕組みを構築することができるのです。
また、2年目以降はメンテナンス費用や運用費用などが多少は発生しますが、それを含めたとしても数百万円単位でコストを削減することができるのです。
これがAI の導入がお得という理由です。
AI-OCRと比較しただけこれだけの費用対効果が生まれます。さらにお客様への定型メールやお知らせといった書類のドラフト作成や、お客様の財務状況・決算状況などの分析、レポートの自動作成など、税理士事務所にとって非常に便利な活用方法もあります。また、ブランディングにも活用することができ、事務所でAIを導入したノウハウをお客様に提供することができるようになり、それが事務所の強みにもなります。
それらを含めると、かなり破格のお得感と言わざるを得ません。
ただ、これは補助金を前提にしていることを注意しなければなりません。
単にお金をかけてAI を導入しました、だけだと投資分を回収するのにかなりの時間がかかってしまいます。だからこそ補助金のある「今ならかなりお得」なのです。また、単に導入しただけでは意味がありません。以前DXが注目された時、大企業はこぞって高いシステムを導入したけど、現場では使いづらくてうまく活用できなかったという声もよく聞かれました。事務所に伴走しながら、活用までをしっかりサポートしてくれるところと協力し、導入を進めていかないと宝の持ち腐れになってしまいます。
TaxOffice-Supportでは、税理士事務所へのAI 導入などの実績を持つAI プランナーと協力し、補助金の獲得なども含めて税理士事務所のAI 導入をサポートしています。今後AI 導入補助金は申し込みが殺到することも予想されます。お得にAIを導入したい、など興味を持っていただけましたら、まずは無料相談からお気軽にお問合せください。
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