経験者採用したスタッフに活躍してもらう条件とは
- 斉藤永幸
- 12月3日
- 読了時間: 10分

経験者採用しても、即戦力とならないのはなぜか
税務会計業界では新卒・未経験の採用は少なく、ほとんどが実務経験者、それも即戦力を期待しての募集がほとんどです。税理士事務所の多くは小規模~中規模で、教育などに経営資源を振り分けることができず、すぐに現場に投入し、利益を得て欲しいからです。
ただ、多くの事務所で実務経験者を取り合い、採用コストは上昇しています。それだけ苦労し、投資をして得た経験者でも、入社してみると「思ったほど活躍してくれない」ということも多いでしょう。
実際、何度も経験者を採用してもすぐに退職してしまい、また次の人を採用しなければいけない。そんな悪循環に陥ってしまっている事務所もあります。逆に、経験者であっても一度入社したらほとんど人が辞めず、以前在籍していた事務所での経験を元にキャリアを積み重ねている人材がそろっている、そんな事務所もあるのです。
その違いはどこにあるのでしょうか?
まず、経験者を採用して即戦力にならず失敗している事務所で共通して挙げられるのが「放置」です。入社して一通りの説明をして「じゃあこのお客様をお願いね」で任せてしまうような事務所です。これは税理士事務所の特殊性にも原因があります。
一般的な企業であれば、販売の仕方や商品処理の仕方、接客方法など様々な違いがあるため、そこまで任せきりにはできません。しかし税理士事務所は決算や申告といった基本的な業務は、どの事務所であってもやり方自体にほとんど差はありません。そのため、いきなり任せてしまうことも不可能ではないのです。しかしそれでは経験者とはいえ、新たに入社したスタッフにとっては負担が大きすぎます。
「入社した人が自分のやり方にこだわって、事務所のやり方になじめず退職してしまった」という話をよく聞きます。それもある意味、仕方のないことです。互いの意識や、やり方を、しっかりとすり合わせることができないのですから。事務所には特有の仕事の進め方やルールがあります。それ自体否定はしません。しかしそうした業務のフローやルールは、理由があってそうなっていったもの。その理由や経緯を説明せず、これが「うちのやり方だから従え」となれば、それがストレスになり、時には反発となってしまうのです。
経験者を採用し、即戦力として活躍してもらうには、まず経験者が入社してどのような状態に直面しているか、について知っておく必要があります。
経験者採用で入社したスタッフが直面する課題とは
新卒や未経験での入社の場合、業務知識や社会人経験がないためしっかりと研修を行い、徐々に仕事に慣れさせていこう、という「配慮」をするところがほとんどでしょう。しかし経験者で採用した際、そうした配慮をほとんどしていない、という事務所も多いのです。しかし経験者で採用したスタッフも、入社した直後はまた別の課題に直面します。実務経験者を即戦力として活用するには、この課題への理解が不可欠です。
ではその課題とはどのようなものでしょうか。
1.前職との違いへの戸惑い
実務経験者での採用で一番の問題になるのが、ここです。税理士事務所の場合、小規模税理士事務所から小規模税理士事務所への転職の場合、そこまで問題になりません。しかし小規模から中規模、またはその逆のように、規模の異なる税理士事務所への転職だと環境面や仕事の進め方などが大きく変わることが多いです。
さらに規模でいうと、中規模から中規模、大規模から大規模、といったように同じような規模間であっても働き方がまったく違う、といったことも多いですね。その理由は、事務所によってフローなどがまったく違うことも多いからです。
担当者の裁量が大きな事務所から、フローなどがしっかり定まっている事務所に転職すれば、働き方の自由度は全く変わります。チーム制で仕事を進めている事務所もありますし、入力スタッフがいるか・いないか、でも仕事の進め方は変わってくるのです。
同じ決算や申告業務だから、と違いがあることを理解していないと、経験者採用であってもスタッフはすぐに実力を発揮することは難しいでしょう。
2.人間関係構築へのハードル
どんなに知識や経験があっても、転職によって人間関係はゼロからのスタートです。一緒に働く人はどんな人なのかわからないまま、時には協力しながら仕事を進めていかなければいけません。そのためわからないことがあっても「誰に質問していいのか」もわかりませんし、それどころか「質問していいのか」という不安もあります。
即戦力として活躍できるようにするためには、この部分をしっかりフォローできる人がいるかどうか、で大きく変わります。新卒などを採用している企業では、世話係としてメンターなどの制度を採用しているところがあります。それと同じように、経験者採用であっても、わからないことがあったらこの人に相談すればいい、という役割をあらかじめ決め、その人を主軸に徐々に人間関係を築けるよう、体制を整えていくとかなり改善されるようです、
3.期待と現実のギャップ
これまで培ってきた経験を活かし、新しい事務所でも活躍したい。転職する人はそうした思いを抱いて入社してきます。しかし、実際には経験をすべて活かすことはできません。この仕事はよく接客業だ、といいます。対人サービスである以上、お客様が違えば、同じ業過・業種であっても、判断基準も違いますし、話す内容も変わってきます。
4.プレッシャーとストレス
経験者の採用は、事務所にとって大きなコストとなります。だからこそ所長や代表、既存のスタッフから大きな期待を持って迎えられます。そのため新たに入社したスタッフは「即戦力として採用された」との意識から、大きなプレッシャーにさらされます。
しかし新しい環境に慣れるためには、一定の期間が必要になってくるのは当然であり「間違えてはいけない」「結果を示さなければ」という焦りがストレスとなって、悪循環を生むこともあります。
このように新たに入社するスタッフは、経験者採用だからこその課題に直面します。これをしっかり認識し、フォローできるような体制がないと、即戦力として活躍できないのです。
ただ、所長や代表も、以前はいくつもの事務所を渡り歩き、キャリアを積んで事務所を開業した人が多いでしょう。そして能力や意欲といった面で非常に優秀な人が多いのです。そのため自身の経験から、このような課題を意識せず、楽々とクリアーしてしまっている人も多いのです。
その経験から「経験者を採用したのだからこれくらいできて当たり前」となってしまっていませんか?
優秀な所長の事務所の定着率が低く、逆に言葉は悪いのですがある意味凡庸な所長の事務所は経験者採用でも定着率が高い、という逆転現象がよく起こります。その理由はここにあるのではないでしょうか。
経験者採用で入社したスタッフをフォローできる体制作り
たまにあるのですが、中途でスタッフを採用したら、お客様の引継ぎをして後は任せるだけ、というパターン。入社して放っておくようなやり方は、かなりリスクが高くなります。たとえ即戦力で活躍できたとしても、入社した事務所に対しての愛着を抱くこともないため、条件が良いところがあればすぐに退職してしまいます。
逆に、しっかりとしたフォロー体制が整っていれば、その分だけ能力を活かせる可能性を上げることができます。先ほども少し触れましたが、お勧めなのがメンターの導入です。新卒や未経験で入社の場合、メンターは教育係が役割になりますが、経験者採用の場合はメンターは「サポート係」に近い役割になります。
何かあったら相談するというポジションが明確になっているため、前職との違いがあっても解決しやすくなります。またそこから人間関係を広げやすくなるため、事務所にも早くなじみやすくなります。問題は適切な人をメンターにすることです。
メンターに必要な条件
・入社後3年以上のスタッフ
・自身も経験者採用で入社したスタッフ
・同じようなポジションのスタッフ
こうした人材がメンターとして適任です。
新卒で入社した場合、メンターは先輩で明確な上下関係があります。しかし経験者採用の場合、キャリアによってはそうした上下関係ではなく、同じ目線で慣れていない部分をサポートする、事務所のやり方や方針などを伝える、といった役割になります。そのためマネージャーなどの管理職ではなく、現場の実態をよく知っている中堅スタッフが適任なことが多いですね。重要なのは、新しく入社したスタッフの不安などを理解できること。親しい同僚が一人いるだけで、そのスタッフにとっては職場の居心地が変わってきます。
こうした条件を満たしたうえで、コミュニケーションがある人材が社内にいれば、ぜひメンターを任せてみるのも良いのではないでしょうか。
ただ、経験者採用を行う事務所の場合、人手不足に陥っていることも多いです。そのためメンターを新たに設定する、という余裕がない場合も。そうした場合は、所長がかなりフォローしていくことになります。
特に最初の3か月間は、毎週30分程度でも1 on 1 を実施し、フォローしていきたいところです。これは必ず1回ではなく、定期的に複数回行う必要があります。つまづきがあっても早期に発見できれば、対処することが可能です。不満などを溜め込んでしまう前に、できるだけ本音を引き出せるようアクティブリスニングを意識すると効果的です。
また、4か月目以降も、定期的な振り返りとともに目標の設定・調整を行っていきたいですね。特に、前職の経験を活かせているか、などをしっかり確認し、無理のない目標を設定しましょう。単に「担当件数何件」ではなく、スタッフのキャリアパスに応じて「こんな経験をしたい」などの意向を反映した目標を設定していきましょう。
また、ぜひやっていただきたいのが経験者採用で入社したスタッフからのフィードバックです。
入社半年、または1年後に採用から現在までの一連の流れについて、直接ヒアリングを実施します。実際に経験者採用で入社したスタッフからの意見は、その後に続く様々なヒントとなります。「思っていたほどできなかったポイント」や「活かすことができた経験」などはぜひ押さえておきたいところです。
こうした意見を踏まえ、経験者採用のスタッフが活躍できる環境を整えていきましょう。
経験者採用は「採用コスト」も高いからこそ、大きな期待を寄せがちです。しかし、経験者だからと言ってすべての人が即戦力としてバリバリ活躍できるというものではありません。環境によっては、以前の職場と比べて半分のパフォーマンスも発揮できない、ということもあり得るのです。
それで「新しく入ったスタッフは使えない」としてしまうのは、あまりにもったいないことです。もしかしたら十分に能力はあるのに、条件が整っていないので力を発揮できないだけかもしれません。欠員補充や人員不足だからこそ経験者採用を行う、というパターンが多いため、事務所としてしっかりとしたフォロー体制が整っていないことも多いのです。まずは、経験者だからできるだろう、任せてしまって大丈夫、と放置するのではなく、即戦力として活躍できるようフォローしていく、という姿勢こそが重要です。
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