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税理士事務所の社員研修

研修と書かれた言葉に並ぶ人のイラスト
研修はスタッフがどう成長していくか、に直結します

ほとんどの事務所が研修を実施している!?


税理士事務所の核となるものは、言うまでもなくスタッフです。

スタッフの質がお客様へのサービスの質に直結し、スタッフが効率的に働けば事務所は効率的に運営されます。

スタッフのレベル=事務所のレベル、と考えてもそこまで間違いではありません。

つまり、優秀なスタッフがいればそれだけ事務所の運営にプラスになるにもかかわらず、その教育については事務所によって大きな差があります。

それが『事務所の成長』を大きく分ける要因にもなっています。

そのため税理士事務所の社員研修は非常に重要です。


実際、税理士事務所の所長の多くは、(きっと)教育に対し意欲的に取り組んでいるでしょう。

それがわかるのが次のグラフです。


税理士事務所のスタッフ研修の実施状況のグラフ


このグラフは経営革新等支援機関推進協議会(以下、経営革新協議会)が全国1700以上の税理士事務所行ったアンケートの結果を引用したものです。

これを見ると、実に83%もの事務所が、研修を実施している、といいます。

ここで疑問に思うのが、私の体感とまったく異なっているからです。

スタッフ数6~10名の事務所での研修実施率は100%にもなります。

つまりすべての税理士事務所が研修を実施しているというのですが、自分が見てきた事務所の中だけでも、研修を行っていない事務所はけっこうな割合であったからです。


そこから推測できるのは、私の感覚がずれているのか、それとも税理士事務所の中には一般的に研修と呼ばれていないものも、研修としてとらえられているのではないか、ということです。


ただ、次のデータを見ると、その理由がある程度わかってきました。


スタッフの研修にどれだけコストをかけているか、のグラフ




これを見てみると、1人当たりの年間研修コストは、1万円以下と3万円以下を合わせると53%となっています。

特に、5名以下の事務所では、40%超が1万円以下のコストしかかかっていません。

そこで思いついたのが、これは入社時のOJTを研修に含めている、そして研修実施率100%の理由はここにあるのではないか、と考えたのです。


税理士事務所のスタッフは、いくつもの知識を身につけなければいけません。

その一つが会計ソフトの使い方などです。

未経験で入社した人はもちろん、中途入社の実務経験者であっても、経験のある会計ソフト以外を使うために説明を受けなければいけません。

これを研修としていたのであれば、研修の実施率は限りなく100%に近くなるでしょう。

ただ、それって一般的な研修と同じようにとらえていいのでしょうか?


ここでもうちょっとこのデータを詳しく見ると、事務所の規模を見てみると、6~10人の事務所では、3万円以下が約7割なのに対し、11~20人になると、25%程度に減少しています。

これが21人以上の税理士事務所になると、再び1人当たりの研修コストは低下しますが、これは補助スタッフやアシスタントスタッフ、間接部門などが加わってくるため、平均すると1人当たりの研修コストは減少しますが、事務所としてかけている研修コストの総額は増大していると考えられます。


この数字から読み取れるのは、大きな事務所ほどしっかりコストをかけて研修・教育を行っている、ということです。

それだけでなく、コストをかけ、しっかりとした研修を行っている事務所は大きくなり、研修コストをかけない事務所は小さな規模にとどまっている、とみることもできます。

そして、小規模な事務所ほどOJT(On the Job Training)がほとんどで、コストをかけたOff-JTは実施されていないということがわかります。



OJTだけでは偏りができてしまう


ではなぜ、小規模な事務所で行われているようなOJTだけだと、事務所が成長しにくいのでしょうか?

問題は、税理士事務所のスタッフに求められる能力が多岐にわたっているからです。

本来であれば研修などで学び、伸ばすべき能力が、OJTだけだと伸びず、スタッフの能力不足が事務所の成長を阻害している要因の一つではないでしょうか。


そもそも税理士事務所のスタッフに求められる能力、そして実施すべき研修や教育などはどんなものがあるのでしょうか?


・実務スキル

・ビジネススキル

・基礎スキル


大きく分けてこの3つでしょう。

実務スキルは非常に分かりやすいと思います。

会計処理ソフトの使い方、月次処理、申告書の作成など、業務に直結するものです。

ほとんどの事務所は、OJTでこの領域をカバーしています。

逆に言うと、OJTではこのベーシックな領域しかカバーできません。


ビジネススキルは、マーケティングの知識で合ったり、交渉などに求められるスキルです。

近年、税務会計業界は専門業種というより接客・サービス業としての側面が強くなってきています。

専門知識があればそれでお客様から支持される、というものではなくなりました。

ネットなどを駆使すれば、遠方の地でもサービスを提供できるようになった結果、対応エリアは広がり、その分どのようなサービスを提供できるか、が重要になっているのです。

だからこそ適切なサービスをお客様にお届けし、満足してもらえるか、といった観点が必要です。

そのため多くの事務所で接客の向上やサービスの質の強化に取り組んでいますが、OJTでは体系的に知識を身につけることができません。

その結果、つぎはぎのようになってしまい、スタッフは能力を発揮できない、といったシーンも多いのではないでしょうか。

また、スタッフとしては優秀でも、マネジメントなどを学んでいないので、後輩などの指導を任せると自分が受けてきたようなOJTだけしか提供できない、という悪循環も生れています。


基礎スキルは、教養であったり、社会の流れなどを把握するスキルといえるでしょう。

税理士事務所のスタッフの多くは、非常にまじめで、勉強を厭いません。

しかし、実務・資格取得に必要のない知識に対しては、ほとんど興味を持たず知識やスキルを身につける機会すらありません。

しかしお客様との会話では、必ず必要になってくるもの。

「スタッフが雑談ができない」というのは、よく相談されるテーマです。

OJTや日々の実務の中だけだと、非常に狭い範囲の知識しか身につけることができないのです。


そして『研修はOJTだけ』、が招く最大の問題点は、属人化が進むということです。

スタッフにはそれぞれ自分に合ったやり方で仕事を進めています。

これはどんなに組織化を進め、属人化をしないよう標準化を進めても、どうしても出てくる部分ではあります。

お客様へのあいさつの仕方や名刺の渡し方、など標準的なものはあっても、現場では少しずつアレンジをして自分に合ったやり方をしがちなのです。

担当者がお客様先を訪問する場合、事務所の目が届かないため、完全に防ぐことはできません。

ちょっとしたものであれば問題はありません。

しかしOJTだけしか研修をしないとなると、それが拡大再生産されていくのです。


事務所の定めた標準サービスより、OJTで指導をした先輩のやり方が優先され、さらにOJTを受けた人が経験を積み新しく入社した人を指導していく。

その繰り返しのうちに、いつの間にか「その人しかできない」、「その人しかやらない」やり方ができてしまうのです。

そうなると帰属意識が低下し離職率が上がります。

また、社会的モラルより自分たちのやり方を優先するなど、モラルの低下やコンプライアンスの軽視が内部統制の崩壊を招き、不祥事の温床にもつながりかねないのです。


もちろんOJTは税理士事務所では有効な教育方法の一つです。

現場での実践を通してしか学べないことはたくさんあります。

しかしそれだけに偏ってしまうと、知識やスキルに偏りが生まれ、必要な能力を開発することができず、事務所の成長に必要な組織化を阻む大きな要因になってしまうのです。

そのためOJTだけでなく、OFF-JTも適切に組み合わせて活用することが重要なのではないでしょうか。



研修を実施できない事情


とはいえ、研修をやればいいじゃないか、というのはけっこうな暴論です。

実際、小規模事務所などでは、研修などを実施したくてもできない、というのが現状です。

この研修ができない理由を、前述の経営革新協議会のアンケートでは、次のようなデータが示されています。


研修の課題として、研修をなかなか実施できない理由として、

時間が取れない・・・・・38%

スタッフの参加意欲・・・19%

成果につながらない・・・16%

コストが大きい・・・・・7%

その他・・・・・・・・・20%


となっています。


時間をいかに確保するか

最大のネックは研修や教育を実施する時間をとれない、それが研修などを実施する上での最大の問題点です。

中規模~大規模な税理士事務所であれば、1人のスタッフが業務を抜けて研修を受けても、他のスタッフがカバーをすることができます。

しかし人的余裕のない小規模事務所では、1人当たりの業務負担が大きいため、研修などで抜けるとダメージが大きくなるのです。


ある小規模な税理士事務所で、Web研修などの仕組みを導入し、スタッフは空き時間に自由に研修を受けることができる環境を作りました。

しかし受講率は非常に低く、効果の上がらないままWeb研修の契約を打ち切ったそうです。

この事務所の問題点は、非常に残業が多かったこと。

普段から月30時間程度の残業があり、繁忙期には数倍に膨れ上がります。

そのような状況では、スタッフも研修を受ける余裕はありません。

そうした事務所では、まず時間に余裕を生み出す仕組み作りこそが最優先になります。


特に残業時間が多いと、スタッフの成長意欲に直結します。

時間に余裕がないと、新たな挑戦を使用、という意欲はわきません。

限られた事務所のコストを割り振るうえで、最優先は業務の効率化、次いで研修・教育制度の充実なのです。

実際、私がサポートしている税理士事務所でも、通常期の残業時間が平均月10時間を切ったくらいのタイミングではじめて、研修制度の導入などをお勧めしています。



スタッフの意欲をどう引き出すか

スタッフが意欲的に研修に参加できるかどうかは、ひとえに所長や代表、マネージャーの腕にかかっている、といっても過言ではないでしょう。

ただ、それはコミュニケーションを通じて意欲を引き出す、というだけではありません。

成長に意欲を持って取り組める仕組み作り、環境作りなども含めて、です。


ここで役に立つのは評価制度です。

どのように成長すれば、どう評価され、自分の待遇に反映され、どんなキャリアパスを描くことができるのか。

これをしっかり示すことが、成長への原動力になります。


また、管理職が研修を率先して活用する姿を見せるのも有効です。

山本五十六の有名な言葉で「やってみて、言って聞かせてさせてみて、褒めてやらねば人は動かじ」、というものがあります。

ここで最初に来るのが「やってみせ」なのです。

自分たちは新しい知識やスキルを身につけることなく、スタッフに「やれ」とだけ言っても説得力がありません。

まず管理する所長、代表、マネージャーなどの管理職層こそが、積極的に研修を活用し、その成果をスタッフに示すことが重要です。



成果につなげる

研修を導入している税理士事務所でも、内容は数字に直結するものばかりになりがちです。

つまり、会計ソフトの使い方や月次処理のやり方、申告書の作成の仕方、各種税法の解説、などに集中しがちです。

これらの成果はわかりやすいです。

研修を受けた範囲の業務ができるようになるので、成果は目に見えやすいでしょう。

必要なものを選んで研修を受けるのだから、当然でしょう。


しかし、他の部分に関しては成果を数値で把握するのは難しいでしょう。

この研修を受けたらいくら売り上げがアップする、というものではないのです。

実務スキルの研修でも、直面している業務以外のものは研修が直接売り上げアップにはつながりません。

ビジネススキルや基礎スキルの研修は、さらに成果がわかりにくいもの。

わからないものに投資する、ということに忌避感が生まれてしまうのは確かでしょう。

しかし研修をやらなければ、成長は鈍化する、離職率が高まる、採用がうまくいかない、そうしたデータから成果を推測するしかないのです。


いわば研修は投資。

短期的な成果ではなく、長期的な成長を目指す。

そうした視点で成否を判断していく必要があるでしょう。



実はコストは大きくない?

研修にかかる費用は、確かに安くはありません。

実際、私が研修を行う時も、事務所を訪問して新入社員研修を行う際は10万円前後の費用を頂戴しています。

また、Webでの研修でも、その半額くらいかかることも多いですね。

その理由は、研修の内容を作るのは、けっこう大変だからです。


だからといって、自分たちの事務所で研修を行うのはなかなか大変です。

そもそもノウハウがありませんし、研修を行う先輩スタッフの負担もかなり大きくなります。

そのため高い費用を払って、研修を実施するのですが、このコストは高いと感じるでしょうか?


研修など、人材開発に対しては、国や自治体の補助金・助成金がいくつもあります。

例えば厚労省では、特定訓練コースや一般訓練コースなどがあり、コースによって助成対象となる取り組み内容や助成額は異なりますが、研修の費用をかなり負担してくれます。

例えば、特別育成訓練コースでは、有期契約労働者、いわゆる契約社員に対して研修を実施する場合、OJTについては定額で10万円、Off-JTについては一定の経費助成に加え賃金助成を受けることも可能です。

税理士事務所の中には助成金の獲得を目的として、採用時に有期契約社員として採用し、半年後に正社員として切り替えるところもあります。

ただ、研修などでの助成金の活用はあまり進んでいないようです。

近年では、コロナ禍の影響で、e-ラーニングの研修に対しても助成対象に加えられ、さらに使いやすくなりました。


また、国だけでなく地方自治体でもスキルアップを目的とした研修などには助成金を出しているところが多いですね。

例えば、東京都では社内型スキルアップ助成金を行っており、受講者数×訓練時間×730円が助成されるという制度があります。

また、民間派遣型スキルアップ助成金では、受講楼の2分の1、2万円を上限に助成する、というものも。


こうした助成金を活用すれば、かなり費用負担はおさえることができます。

また、他にかかるコストを大幅に下げることも可能です。

それが採用コストです。


研修を受けたスタッフは定着率が向上する、と言われています。

近年、税務会計業界では採用が難しくなってきています。

必然的に採用コストも上昇しており、多くの事務所で採用コストをかけるなら定着にコストをかけるべき、という意識も広がってきています。

採用するスタッフのスキルレベルにもよりますが、一人欠員が出れば採用コストは最低でも数十万円。

さらに所内での手続きや、担当先へのフォローなどなどを考えたら、退職に伴うコストは非常に大きいのです。

研修はそうしたコストを減らす、ということにもつながるのです。


そう考えると、研修はコストは高いでしょうか?


税理士事務所のスタッフに対する研修は、一人ひとりの成長を促し、業務へのやりがいを高め、定着率が向上し、サービスの質が向上し、ミスなどのリスクを減らし、お客様満足度を高める。

多くのプラスの効果を生みます。

成長を目指す税理士事務所にとっては、必要不可欠といえるでしょう。

ただ、コストもかかることから、無駄なく、計画的に実施する必要があります。

自分の事務所に合わせ、効率的な研修、そして実務の実践を繰り返し、スタッフをどう育成していくか。

将来、事務所をどうしていきたいか、そこから逆算して考えていく必要があります。

そのためのサポートも行っておりますので、興味を持っていただけましたらこちらからご連絡ください。


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