税理士事務所の所長が身につけておきたいスキル~アクティブリスニング編~
- 斉藤永幸
- 11月19日
- 読了時間: 9分

所長にもコミュニケーションスキルが求められる
先日、スタッフのコミュニケーションスキルについてブログに書きました。
ただ、このコミュニケーションスキルは、スタッフだけでなく所長にも求められます。
それどころか、スタッフとはまた違った視点のコミュニケーションスキルが必要となってくるのです。
この所長に求められるコミュニケーションスキルとは何でしょうか?
新規の顧客を開拓するために、お客様とうまくやり取りをするスキル、いわゆる『営業力』でしょうか?
ある程度の規模になれば、所長はいわゆる『現場』を離れ、お客様と直接接する機会は減ります。
また、それが得意なスタッフがいれば、対お客様折衝を任せることも可能です。
そのためこの営業力は小規模の税理士事務所では重要度は非常に高いのですが、税理士事務所の所長が必ずしも身につけてなければいけない、というものではありません。
ではどんなコミュニケーションスキルが必要なのでしょうか?
それは事務所を運営していくために必要なコミュニケーションスキルです。
この『事務所を運営していくために必要なコミュニケーションスキル』として第一に挙げられるのが、会話を通して相手のモチベーションをマネジメントするスキルです。
スタッフの仕事に対する意欲を高め、より価値ある結果を生み出すために求められるものです。
以前は単に、叱咤激励すればいいや、と考えている人も大勢いました。
しかし近年では、それでは通じません。
いわゆる「尻を叩く」は、人によっては逆効果ですし、今の時代ではパワハラとなってしまうこともあります。
そのためこのモチベーションをマネジメントするスキルは、年々重要度を増しているといえるでしょう。
次にあげられるのが、状況を的確に把握するためのスキルです。
お客様のニーズに耳を傾けたり、スタッフの状況を的確に把握するために、非常に重要なスキルです。
私はこのスキルこそ、事務所の運営にとって最も必要なスキルの一つではないか、と考えています。
もちろん事務所を運営していくためには資金や売り上げなどが必要で、それを管理・運用していくスキルも必要です。
しかし、この『聞き出す』スキルがないと、日々の中でちょっとずつ溜まっていくスタッフの不満やストレスなどに気づくことができません。
また、何か問題が起きたとき、その原因を的確に把握することが難しく、解決に時間もコストも余分にかかってしまいます。
もちろんコミュニケーションスキルの高い所長や代表なら問題はありません。
しかし全員がそうとは限りません。
コミュニケーション力に自信のない所長も、実は多いのではないでしょうか?
実際、多くの事務所で「え?そんなの聞いてないよ?」というシーンは多いのでは。
それはスタッフが問題を抱えていることもありますし、実は所長が『聞き出す』スキルが不足していたから、ということもあるのです。
ただ、このコミュニケーション力ですが、以前のブログにも書きましたが、スキルである以上、伸ばすことはできます。
どんなに運動能力の低い人でも、一定の運動を継続的に行えば、ある程度のレベルまでには達します。
それと同じように、コミュニケーション力も、トレーニング次第で伸ばし、磨くことができるのです。
ただ、コミュニケーション力を全般的に鍛えようとすると、非常に時間もかかりますし、負担も大きいです。
忙しい所長にとって、それは賢い選択肢ではありません。
だからこそ、必要なスキルをまず身につけ、他の部分については徐々に高めていく、という方法がおすすめです。
今回お勧めするアクティブリスニングというのは、この『聞く力』を高めるスキル。
これを身につけることで多くの効果を得ることができます。
例えば・・・、
・1on1の進め方がわかる
・スタッフと何を話せばいいのかわかる
・質の高いフィードバックのコツがわかる
いずれも事務所の運営に非常に有効な効果です。
先ほど、スタッフのモチベーションを高めることが第一、と言いましたがそもそも何を話したらスタッフのモチベーションが上がるのか、を知らなければなりません。
そのため、所長に必要なスキルの第一は、アクティブリスニングだと考えています。
アクティブリスニングとは何か
このアクティブリスニングとは、単なるヒアリングとは違います。
ヒアリング力jが相手の言葉を正確に理解する力だとしたら、アクティブリスニングは積極的に相手の言葉に耳を傾けるもの。
それにより相手の言葉や感情を引き出し、相手が自ら問題解決するサポートを行うスキル、と言われています。
このアクティブリスニングはもともとビジネスシーンの、特に上司やリーダー、管理職に求められるスキルと言われていました。
このスキルを身につけることで、円滑な人間関係の構築や、上司が部下の悩みを聞く、といった場面で大きな効果を発揮します。
そのため税理士事務所のような組織では、非常に有効で、身につけることで事務所運営がスムーズになることが期待できます。
ではこのアクティブリスニングはどんな手法なのでしょうか?
ここではバーバルコミュニケーションとノンバーバルコミュニケーションの2つに分けて解説しましょう。
・バーバルコミュニケーション
バーバルコミュニケーションとは、会話や文字で行う、いわゆる言葉によるコミュニケーションです。アクティブリスニングでは、次の4つのポイントが重要です。
1.共感する
2.相槌を打つ
3.オウム返し
4.質問
共感とは、相手の立場、感じ方への同調です。まず相手を理解する態度で傾聴することで、心理的なハードルを下げ、言葉を引き出すことができます。
相槌は重要なポイントです。
相手が話す言葉に対し、適切な相槌を打つことで、会話にリズムが生まれ、しっかり聞いているということが伝わります。
オウム返しは、話を聞きだすうえで効果的な手段の一つ。
相槌と同じく、相手の言葉をしっかり聞いている、という姿勢を表現するとともに、話の内容を自ら整理させる、重要なポイントを意識させる、などの効果があります。
そして質問ですが、アクティブリスニングの特徴として、「はい・いいえ」で答えられるクローズド・クエスチョンではなく、言葉で答えるオープンクエスチョンで質問することです。
例えば「この問題について、今ならどう思う?」や「次同じことが起きたらどうしたらいいと思う?」などの質問を投げかけるのです。
はい・いいえ、だけだと会話はそこで終わってしまいますが、オープンクエスチョンをすることでさらに相手の話を引き出すことができるのです。
・ノンバーバルコミュニケーション
バーバルとは会話などの文字という意味で、これがノンバーバルなので、いわゆる「非言語コミュニケーション」になります。
「聞く」というコミュニケーションにおいては、相手の言葉や考え方に関心を持っている、共感している、という姿勢を表現することが重要です。
ここでのポイントも4つ
1.姿勢
2.視線
3.表情
4.声のトーン
です。
ドラマなどで上司が椅子にふんぞり返って、イライラしながら部下を叱咤する。
そんなシーンを見たことがあると思います。
これでは聞き出すどころか、相手は思ったことも話せません。
アクティブリスニングでは、相手の話に耳を傾ける、ということが目的なのでそれを表現することが重要になってきます。
姿勢でも少し前のめりになりつつ、会話を進めていきます。
また視線でも、相手からずらさないように注意しましょう。
表情は相手に合わせることが重要。
重要な話をしているときに笑顔では、真剣に聞いてくれているかわからない、となってしまいます。
逆に怒った顔では、相手を委縮させてしまいます。
基本的に穏やかな表情を作りつつ、相手が真剣な時は真剣な顔で、と切り替えていけることが望ましいですね。
それは声のトーンでも同じこと。
相手を委縮させないよう、若干声のトーンを抑えつつ、いつもよりはっきり話す、といった工夫をしたいところです。
アクティブリスニングに必要な基本姿勢
上記のアクティブリスニングの手法を取り入れるだけで、ちょっとした効果を得られると思います。
ただ、もっと踏み込んで効果を発揮するには、アクティブリスニングをより理解する必要があります。
そのために必要なのが、アクティブリスニングに必要な基本姿勢を知ることです。
この基本姿勢は3つあります。
それぞれ見ていきましょう。
1.自己一致
相手に対し真摯な姿勢であること。
二面性を持たないことです。
そんなの当たり前じゃないか、と思うかもしれませんが、実はけっこうやってしまいがちです。
例えば相手の会話でわからない言葉があっても、そのまま聞き流してしまうことはないでしょうか?
話が分かりにくいときはわかりにくいことを伝え、その言葉を真摯に理解する、という姿勢が求められるのです。
2.共感的理解
アクティブリスニングでは、相手に共感することが重要です。
相手の立場に立って、気持ちに共感しながら理解しようとする姿勢が求められます。
3.無条件の肯定的関心
相手を否定すれば、話をしてくれなくなります。
まずは相手に興味を持ちつつ肯定する、その姿勢が求められます。
そのため否定や評価は厳禁です。
こうしてアクティブリスニングを説明すると、けっこう簡単そうだと思うかもしれません。
しかし、実際に行おうとするとけっこうな忍耐力が必要な手法です。
アクティブリスニングは相手の話に耳を傾けるスキルなので、その過程では自己主張はできません。
相手の言葉を遮って主張してしまえば、その先の言葉を引きあdすことができなくなります。
また、相手が明らかに間違っていても、ひとまず置いておいて、肯定を基本としなければなりません。
間違っていることを肯定するのは、非常に忍耐力がいることなのです。
そのうえで、答えを結論付けしてはいけません。
相手自信が物事の本質を理解し、解決していくためのサポートを行うのがアクティブリスニングです。
あなた自身が話の論理を構築したり、結論付けると、それ以上の言葉を引き出せなくなってしまいます。
ここまで説明すると、多くの所長・代表は「そこまでスタッフに気を使わないとダメなの」と言われることも多いです。
多くの事務所で所長はある意味絶対的な立場です。
他から意見されることは少ないでしょう。
だからこそ、問題を早期発見するためにはスタッフからの意見を聞くことが重要です。
いきなりすべてを理解し、実践することは不可能です。
だからこそ、まずは自己主張を抑えて傾聴する、ということから始めてみてはいかがでしょうか。
こうした所内でのコミュニケーション手法についての紹介などもさせていただいております。
興味を持っていただけましたらこちらよりお気軽にご連絡ください。



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