地方の税理士事務所が採用で苦戦する本当の理由-答えは地域構造にある―
- 斉藤永幸
- 1月27日
- 読了時間: 10分

最近、ある税理士事務所の採用文をお手伝いしました。この事務所は都市部ではなく、いわゆる地方の小規模事務所です。その所長は自分たちの事務所では採用をするのは難しいと感じ、これまで何度求人媒体で募集を行っても、応募がゼロということが何回も続いているそうです。
ただ、ちょっと工夫をした結果、2名から応募があり、うち1名を採用できた、と喜びの連絡がありました。
こうして良い人から応募があり、採用にうまくいってくれると私自身かなり嬉しいですね。ただ、ちょっと振り返ってみると、依然として都市部と地域では”採用力”という面で大きな差があります。
そこで改めて様々な求人媒体に掲載されている税理士事務所の募集広告をチェックしたところ、その差を踏まえて作られている求人原稿・募集要項は少なく、この地域による格差を押し広げているように感じました。
この差を埋めるためにも今回は、採用における地域差についてお話ししたいと思います。
1.なぜ採用には地域差があるのか
私がこれまで採用支援を行ってきた税理士事務所の割合は、以下のようになります。
都内:50%
千葉・神奈川・埼玉:20%
大阪・名古屋:10%
地方部:10%
同じ求人票でも、地域によって刺さるポイントがまったく違うため、地域に合わせて訴求内容を変えなければ応募は集まりません。採用は、人口動態・通勤圏・競合数・給与相場・生活コストといった複数の要素が複雑に絡み合っており、地域ごとに前提条件が異なります。
この“前提の違い”を理解することが、採用戦略のズレをなくす第一歩です。
2.地域構造を構成する5つの要因
このように採用において生まれる地域差、地域構造は、主に5つの要因から成り立っています。
これらを一つひとつ見ていきましょう。
①人口構造:“採用できる層”を決める最重要要素
単純に考えても、人口構造が採用に大きな影響を与えることはご理解いただけるでしょう。過疎化が進み、高齢化が進む地域では、若手を採用するのは非常に難しいのです。その地域に合った採用戦略を取らなければ、どれだけ募集を行っても人は集まりません。
例えば以下のように人口構造を踏まえた特色は把握しておくべきでしょう。
・若手の多い地域 →転職意欲が高い/応募は増える
・都市部への通勤圏内 →夫が都市部に働きに出ている間に働きたい主婦層が多くなる
・中堅層(30~40代)が少ない地域→経験者採用が難しい
②通勤圏の広さ:通勤圏は「ターゲット人口の広さ」を決めます
通勤圏も採用に大きな影響を与えます。事務所のある地域に、どこからどこまでが通勤で通えるのか、によってターゲットになる人口が決まってくるからです。
・都市部:電車移動が前提→通勤圏が広い
・地方部:車移動が前提→通勤圏が狭い(半径5~10㎞)
これは事務所の地理的条件が非常に大きく関わってきます。
同じ市内でも、駅が近い場所か遠い場所か、幹線道路沿いかそうでないか、バスなどの便はどうか、などによって条件が異なってきます。
③競合の数:競合数は「選ばれる難易度」を左右します
これは採用を行っている事務所の数に直結します。
競合が多ければ求職者はどうしても比較・検討し、”自分に合った”事務所を選択することになります。それに対し、競合が少なければ求職者は選択肢がないため、”自分を入社する職場に合わせる”傾向が強くなります。
・都市部:事務所数が多い → 求職者は比較し放題
・地方部:競合が少ない → “選ばれやすさ”が上がる
④給与相場・生活コスト:給与設定は採用力に直結します
採用支援をしていて最も多い質問の一つが、”給与の設定が適切か”です。この給与額は採用力に直結する要素なので気にされる方が多いのですが、これも地域差を生む要因です。
都市部:給与相場は高い/生活コストも高い
地方部:給与相場は低い/生活コストも低い
→ 求職者の「給与に対する期待値」が地域で変わる
⑤事務所ブランドの影響度:求人票の打ち出し方を左右する要素です
求人票を作る、という実務面で最も大きな影響を与えるのが、この事務所ブランドをどう作っていくか、です。これは競合の数が大きな影響を与えます。比較対象が多いか少ないかによって、どのような打ち出し方が効果的か、が決まってくるのです。
都市部:比較対象が多い → ブランド力が効く
地方部:比較対象が少ない → 人柄・雰囲気が決定打
【地域差を生む5つの要因マップ】
人口構造 ───────────┐
通勤圏の広さ ─────────┤ → 地域ごとに採用戦略が変わる
競合の数 ───────────┤
給与相場 × 生活コスト ────┤
事務所ブランドの影響度 ───┘
3.地域別:採用の特徴と”勝ち筋”
では具体的にどのような地域で、どのような採用戦略をとっていけばよいのでしょうか。ここでは代表的な4つの地域タイプごとに「応募者の特徴」と「採用で勝つためのポイント」を整理していきます。
ぜひ、あなたの事務所がどの地域タイプに当てはまるかを考えながら読んでみてください。
■ 都市部(東京・大阪・名古屋など)
都市部は応募自体は集まりやすいものの、求職者が複数の事務所を比較するため“選ばれる難易度”が高い地域です。給与水準や働き方の柔軟性、キャリアパスの明確さなど、他事務所との差別化が求められます。また、若手の転職スピードが速く、面接までこぎつけても良い人材ほどすぐに他社へ流れてしまうため、選考のスピードも重要です。
→都市部の勝ち筋は「差別化」「スピード採用」「柔軟な働き方の提示」です。
■ 地方都市(県庁所在地レベル)
地方都市では応募は一定数ありますが、経験者は少なく、主婦層や未経験層がターゲットの中心にするほうが勝率は高まります。そのため、採用後の育成設計や定着施策が採用成功の鍵になります。また、地域コミュニティが強いため、紹介ルート(知人紹介・社労士・金融機関など)が機能しやすい特徴があります。
→地方都市の勝ち筋は「育成前提の採用」「定着重視」「紹介ルートの強化」です。
■ 地方(人口5〜20万人規模)
地方ではそもそも母集団が非常に少なく、「税理士事務所」での仕事がどのようなものか認知されていないケースも多い地域です。求人を出してもまったく応募が来ないことが珍しくありません。そのため、事務所の存在を知ってもらう活動や、未経験者を長期的に育てる前提の採用が必要になります。地域の学校・商工会・金融機関などとの接点づくりも効果的です。
→地方の勝ち筋は「認知拡大」「長期育成」「地域コミュニティとの接点づくり」です。
■ ベッドタウン(千葉・埼玉・神奈川・兵庫・滋賀など)
ベッドタウンでは家庭を持つ、いわゆる子育て層が応募の中心となります。都市部に通うのに対し、ベッドタウンのエリアで働こうと思う求職者は、通勤距離の許容範囲が非常に狭い傾向があります。また、家庭と仕事の両立を希望する主婦層も多いため、フルタイムよりも時短や柔軟シフトのニーズが強く、柔軟に働ける環境を整えることで応募が増えます。
→ベッドタウンの勝ち筋は「時短枠の設定」「柔軟シフト」「家庭との両立支援」です。
これをまとめると以下のような図になります。

実際は東日本・西日本などでも多少状況は変わりますが、だいたいの特徴はつかんでいただけると思います。
4.地域差を踏まえた採用戦略の作り方
このように、一口で採用といっても地域によって傾向が大きく異なるのがお分かりいただけるでしょう。実際に、求人票を書く際でも、キーワードとなる言葉はかなり異なります。
例えば都市部では、キャリアや成長機会、さらに給与が高いことを強調すると反応が良いです。しかし地方では、所長や一緒に働く仲間の人柄や雰囲気を詳しく述べ、育成環境を強調したほうが応募につながりやすいですね。また、ベッドタウンだと働きやすさや柔軟性がキーワードとなります。
これらを踏まえて、地域に合った採用戦略を作っていくことになります。地域差を理解しても、戦略に落とし込まなければ成果は出ません。単純に「求人票をどう打ち出すのか」ではなく、地域特性に合わせて戦略を組み立てるかどうかで成果は大きく変わります。ここではどの地域でも応用できる”5つのステップ”を紹介します。
■ 1. 自分の地域の“採用構造”を分析する
まず最初にやるべきは、自分の地域がどんな採用環境にあるのかを把握することです。
若手が多いのか、主婦層が多いのか
通勤圏は広いのか、狭いのか
経験者が存在する地域なのか
求人を出せば応募が来る地域なのか
これらを把握するだけで、採用の難易度や戦い方が見えてきます。
採用がうまくいかない事務所の多くは、「地域の構造」と「自事務所の戦略」がズレていることが原因です。
■ 2. 競合の求人を調べる
次に、同じ地域の競合事務所がどんな求人を出しているかを確認します。
給与水準
勤務時間・柔軟性
求める人物像
キャリアパスの提示
福利厚生の内容
都市部なら「比較される前提」で、地方なら「そもそも比較対象が少ない前提」で、見るべきポイントが変わります。競合を知ることで、“自事務所がどこで勝てるか”が明確になるというメリットがあります。
注意したいのが”同じ地域”であること。Web上の求人は首都圏の税理士事務所がほとんどなので、そこと比べても参考になりません。
■ 3. 自事務所の強みを地域特性に合わせて再定義する
地域差を踏まえると、同じ強みでも“刺さるポイント”が変わります。
都市部 → キャリア・柔軟性・スピード
地方都市 → 育成・安定・雰囲気
地方 → 認知・仕事内容の丁寧な説明
ベッドタウン → 時短・家庭との両立
つまり、強みをただ並べるのではなく、「この地域の求職者にとって価値がある強み」に翻訳し直すことが重要です。
■ 4. 予算配分(求人媒体・紹介・育成投資)を決める
地域によって、効果の出る投資先は変わります。
都市部 → 求人媒体・スカウト・スピード対応
地方都市 → 育成投資・紹介ルートの強化
地方 → 認知活動(HP・SNS・地域イベント)
ベッドタウン → 時短枠の整備・柔軟シフトの仕組みづくり
「求人広告にお金をかければ採用できる」という時代ではありません。地域特性に合わせて、どこに投資すれば最も効果が出るかを見極める必要があります。
■ 5. 採用〜定着までの一貫設計を行う
採用は“入口”でしかありません。地域差を踏まえると、定着まで含めた設計が必須になります。
都市部 → 入社後のキャリア提示が離職防止に直結
地方都市 → 育成計画とフォロー体制が鍵
地方 → 未経験者を長期で育てる前提の仕組み
ベッドタウン → 家庭との両立支援が定着率を左右
採用と定着を分けて考えるのではなく、「入社後にどう活躍してもらうか」まで含めて設計することで、採用の成功率は大きく上がります。
まとめ:地域差を理解すると採用は一気に楽になる
採用がうまくいかない理由の多くは、事務所の努力不足ではなく、地域ごとの“構造の違い”にあります。だからこそ、地域の特徴を正しく理解し、それに合わせた採用活動を行うだけで、多くの課題は解消できます。
重要なのは、地域差を前提にした“戦略”を持つことです。「応募が来るかどうか」という運任せの採用から、“勝てるポイントを押さえた再現性のある採用”へと変えていく必要があります。
採用戦略の軸となるのは、次の5ステップです。
地域の構造を知る
競合の求人を把握する
自事務所の強みを“地域に合わせて”翻訳する
投資すべきポイントを見極める
採用〜定着まで一貫して設計する
この流れを踏むことで、どの地域でも“勝ち筋のある採用”が実現できます。まずは、自分たちの事務所に合った採用戦略を定め、地域特性にフィットした“採用の形”をつくることが大切です。
「求人を出しても応募が来ない」「うちの地域ではもう採用は無理なのでは…」そんな不安を抱えている事務所ほど、地域特性を踏まえた戦略が効果を発揮します。
今回の記事では国内を4つの大分類で紹介しましたが、実際には地域ごとにもっと細かな違いがあります。その違いに合わせて戦略を組み立てられれば、採用のブレは減り、事務所は大きく前進します。
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