所内のコミュニケーションを活発にするには
- 斉藤永幸
- 11月22日
- 読了時間: 8分
更新日:11月24日

事務所内のコミュニケーション不足は経営リスクを招く
近年の税理士事務所では、コミュニケーションが非常に重視されています。
製販分離や分業化で効率を良くしていこう、という事務所が増えた結果、1人のお客様に対し複数のスタッフが携わることも増えています。
また、業務の内容が複雑化したことから、特定の問題に詳しいスタッフにアドバイスをもらう、というシーンも増えました。
ただ、従来の税理士事務所では、そこまでコミュニケーションは重視されてきませんでした。
多くの事務所で担当に任せきりということが多く、記帳・入力から決算、申告までを一人で行うため、所内でのコミュニケーションは所長に報告するとき、くらいだったのです。
そのため「対お客様」とのコミュニケーションは重視されても、所内ではコミュニケーションをとる必要性があまりなかったのです。
そのため、古いタイプの税理士事務所では「私語禁止」というところもありましたね。
最近ではみなくなりましたが、以前訪問した税理士事務所の所長は「職場は仕事をするところ、職場で歯を見せて笑うのはもってのほか」と言っていました。
しかし最近では、コミュニケーションの不足は、さまざまなリスク要因になる、ということがわかっています。
例えば先日紹介したパワハラの問題などもその一つ。
また、効率化を妨げ、生産性の低下など事務所にとっても重大な経営リスクになる可能性があります。
そのため多くの事務所でコミュニケーションを活発にしようと、様々な方策を打ち出しています。
そこで今回な、所内でのコミュニケーションについて考えてみたいと思います。
コミュニケーションの機能不全には原因がある
まずはっきりさせておきたいのが、事務所内でのコミュニケーションはビジネスの場で行われる、ということです。
つまり、プライベートで友人と仲良くする、というものとは種類が違います。
職場内でのコミュニケーションでは、正確な伝達、意思の確認、などが重要になってきます。
そのため所内でのコミュニケーションを活発にしようと考え、飲み会の回数を増やしても、あまり効果はありません。
所内でのコミュニケーションがしっかり行われているかを見るときは、組織内の意思疎通や情報伝達が機能しているか、を判断する必要があるのです。
そのため、一見仲の良い、和気あいあいとした事務所でも、実は『コミュニケーションの機能不全』を起こしていた、というケースもあります。
ではその原因とはなんでしょうか?
1.情報不足
日本には「察する」などの文化があり、相手に忖度することにより高度なコミュニケーション文化が存在します。
しかし職場では、それは通用しません。
長時間同じ時間や価値観を共有し、バックボーンや資質などが均一化されていれば、それも通用するのかもしれませんが、近年では価値観は多様になり、それでは組織を維持できないのです。
そのため「あれやって」や「こんな感じで」なおあいまいな指示などは、本来の意図を理解するための情報が不足しています。
その結果、間違った解釈や憶測で業務が進行し、問題を引き起こす原因ともなります。
2.言葉の不一致
コミュニケーションには人それぞれのスタイルがあり、それが一致していないとギャップを生み出してしまいます。
例えば、多くの職場では慣例的に使われている語句があることもあります。
ある複数の意味のある言葉が、特定の意味でつかわれるようになり、時に本来の意味と異なる使い方をされてしまう。
「職場の方言」と呼ばれるものを生み出してしまうのです。
時には世代ごとに言葉と意味が異なることもあります。
世代間格差が言葉の不一致を生み、誤解や情報伝達の祖語を生み出す原因ともなるのです。
3.確認・フィードバックの不全
コミュニケーションの機能不全で怖いのが誤解です。
「伝わった」という思い込みが原因の一つ。
組織としてフィードバックや確認のプロセスをしっかり定めていないため生じることが多いですね。
4.体制の不備
環境そのものがコミュニケーションの機能不全を起こす原因になっていることもあります。
例えば、所長が忙しすぎて日中の連絡はメールでしか取れない、などは明らかな環境整備の不足です。
コミュニケーションの特性や状況に応じて、柔軟にコミュニケーションをとれる体制を構築する必要があります。
また、特定の人物だけに情報が集約されること自体は問題ではありませんが、それを共有できていない場合が、過度なデバイスがかかってしまう、といった場合なども情報伝達の仕組み自体を見直さなければならないでしょう。
所長以外に「事務所のことは全部私を通しなさい」というようなベテランがいるような場合は、そこがボトルネックになっている、ということもありますね。
所内コミュニケーションの改善策
このような所内での『コミュニケーションの機能不全』を改善するには、まず問題の把握を行い、その原因を追究し、その後具体的な改善策を段階的に実施する必要があります。
続いて、この改善策について考えていきましょう。
・コミュニケーションを取りやすい文化・雰囲気づくり
コミュニケーションを良くしようと思ってまず頭に浮かぶのがこれだと思います。
先ほど、飲み会を増やせばいいというものではない、という話をしましたがこれもその一つ。
日常的にコミュニケーションを円滑にすることで、互いの価値観などを把握でき、意識や認識をすり合わせることができます。
ただ、税理士事務所というビジネスのシーンではそれだけでなく、定期的なミーティングの実施や、相談や質問ができる時間枠を作るなど、具体的な仕組みづくりが求められます。
同時に、普段から発言などを否定しない、建設的な意見は積極的に取り入れる、などを行うことで、徐々に事務所の文化として醸成されていきます。
・会議やミーティングを効率化
組織の小さいうちは、一人ひとりに声をかけて情報伝達や意見を聞く、などすればいいのですが、ある程度の人数になると税理士事務所であっても会議が必要になってきます。
日本人は会議が苦手、と言われるように効率的な会議ができている企業などは少ないようです。
その理由は、会議の目的をしっかり共有していないから、ではないでしょうか。
税理士事務所でも、単にダラダラ集まって話をするのではなく、意思決定のプロセスの最適化を行い、会議を再設計し、効率化を図る必要があります。
事前に何を話すか内容と目標を共有し、参加者全員が意見を発しやすいよう質問の場を設けたり、意見を整理して論点整理を適宜行う、などが必要です。
そのうえでしっかりと情報や問題を共有できたのか、の確認や合意形成を行わなければいけません。
会議の効率化などは専門書籍などが多数出版されているので、それを一読しておくだけでも、かなり改善することができると思います。
・コミュニケーションツールの活用
近年ではITを活用したコミュニケーションツールが開発されています。
そもそも、実際に顔と顔を合わせないと、コミュニケーションはとれない、という人もいるかもしれません。
しかしビジネスの場では、そんなことを言っていられません。
使えるものは使う、という意識が必要です。
特に税理士事務所では、社内SNSやビジネスチャットは有効ですね。
ビジネスチャットでは即時性が高まることで、効率化を進めることができます。
また、社内SNSではうまく活用すると、単なる情報共有にとどまらず、ノウハウを共有でき。サービスの改善などが進んだ、という例もあります。
この際、「いいね」やスタンプなど、簡易な返信なども活用できるようにすると、利用が促進されます。
逆に、返信を強要したり、何分以内にコメントを返せ、などするとスタッフの心理的な負担が増加し、逆にコミュニケーションが低下する、ということもあります。
・フィードバックの体制整備
情報や指示は、相手に伝えるだけでなく、それがしっかり伝わったのか、そしてそれがどういう結果になったのか、を確認することが必要です。
そのため情報伝達にはフィードバックを、という意識を皆が持つ必要があります。
フィードバックが正しく行われることで、信頼性が向上し、スタッフの意欲向上やスキルアップにもつながります。
このフィードバックは否定や叱責などが多いと、かえってマイナスになってしまうこともあります。
人格や能力を否定するなどは、モチベーションを下げてしまい、かえってコミュニケーションがとりにくくなる、ということも。
うまく使いこなす必要があります。
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このように、改めてコミュニケーションを考えてみると、事務所内でのコミュニケーションをうまくビジネスに昇華するのは非常に重要、かつ大変だということがわかります。
実際、多くの事務所で、コミュニケーションは自然に発生するもので、それにより人間関係が自然と構築されています。
しかし、ビジネスという場では、この自然に形成されたものをうまく活用しつつ、効率的に業務に結び付ける仕組みを作っていかなければなりません。
ただ、あくまでもコミュニケーションの基本は人間関係であり、署長とスタッフ、そしてスタッフ同士の信頼関係がベースになっています。
これは一朝一夕に構築できるものではありません。
対策を取りつつも、事務所として取り組み続ける、という姿勢が必要です。
こうしたコミュニケーションの活性化などのサポートも行っておりますので、興味がございましたらこちらからお問い合わせください。
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