小規模税理士事務所が“中規模の壁”を越える方法|繁忙期でも改革を止めない仕組みとは
- 斉藤永幸
- 2月25日
- 読了時間: 16分

小規模から中規模へ成長する事務所には、必ず“繁忙期に改革が止まる”という共通の壁があります。
ここ数日、10名規模の税理士事務所の所長と立て続けに打ち合わせをする機会が続きました。
どちらの事務所も共通しているのが、成長するポテンシャルは高いこと。
しかしここ数年、伸び悩んでいる、という共通点を持っていました。
この事務所はいずれも、所長とスタッフ数名の状態で一度お会いし、採用のお手伝いをしたのですが、そこから一気に成長し数年で10名規模に。しかしそこから足踏みをしてしまっているのです。
一つの事務所は、一時期15名くらいまで増えましたが、その後徐々に人が抜けていき、8名くらいに。そこから盛り返し12名になり、現在は10名に落ち着いたのです。もう一つの事務所も10名から12名の間を行ったり来たり。コアメンバーこそ抜けてはいませんが、新人が定着せず、採用コストの高まり、事務所経営の負担になっているというのです。
実際にこうした事務所は多く、10名前後の規模から抜け出せない、という事務所を多く見てきました。その理由は実は単純なものです。それは改革を継続できない、ということ。
税理士事務所の宿命として、繁忙期があります。標準化のための整備を行い、効率化を進めようとしても、繁忙期になると改革が止まります。
その結果、様々なものが中途半端になってしまい、結局「人」で押し切るしかないため、属人化をいつまでたっても解消できないのです。
この負のループを断ち切るためには、繁忙期でも改革を止めない体制が必要なのです。
現在は2月の下旬。
確定申告で多くの事務所が忙しい思いをしているでしょう。
皆さんの事務所はいかがでしょうか?
この時期だからこそ、来年に向けてこの問題について考えていきたいと思います。
1.中規模事務所に向けて成長中の事務所が繁忙期に止まる5つの理由
税理士事務所にはつきものの繁忙期。
この時期に多くの事務所が、所内改革などを止めてでも業務に集中しなければいけません。その結果、改革は中途半端になり、翌年も同じようなループが繰り返されるのです。
ではそもそも、なぜ繁忙期に改革が止まってしまうのか、という理由から考えていきましょう。
①属人化が強く、改革に割く余力がない
小規模から中規模事務所に移行しつつある事務所では、業務が”人に紐づいている”ことが多いのです。担当者しかわからない処理、担当者しか触れられない顧客、担当者しか知らないExcelデータ……。
その結果、繁忙期になると「その人が動けない=業務が止まる」という構造が露骨に表れます。
本来なら改善に時間を使いたくても、
「自分がやらないと回らない」
「他人に任せられない」
という状況が続き、改革どころではなくなってしまいます。
属人化は”忙しいから改善できない”のではなく、
改善しないから忙しさが永続する、という悪循環を生んでいるのです。
②管理職がプレイヤー化しており、改善の旗振り役が不在
小規模税理士事務所では、管理職がプレイヤーとして大量の担当を抱えているケースが多い、というのも問題です。
本来は所内の配置や育成、改善の旗振り役であるべき人が、繁忙期には大量の確定申告業務に追われ改善の時間を確保することができなくなります。
その結果、誰も改善を主導できない状態、いわば改革の空白期間が生まれてしまうのです。
③IT導入が『ツール導入』で止まり、運用改善まで到達しない
小規模税理士事務所でよくあるのが、”ツールは入れたけど、使いこなせていない”という状態。
・導入しただけで満足
・現場が使いこなせない
・設定や運用ルールが整っていない
・誰がどう使うかが決まっていない
その結果、繁忙期になると「やっぱり従来のやり方でやろう」と逆戻りしてしまいます。
IT導入は”導入”がゴールではなく、運用改善までセットで初めて結果が出るもの。
ここまで到達できていない事務所は、繁忙期に改革が止まりやすいのです。
一度止まった改革・改善をまた動かすには、難しくなります。
④新人教育が”現場任せ”で、繁忙期に完全停止
小規模税理士事務所では教育担当が固定されておらず、「できる人が教える」「近くにいる人が教える」という属人的な教育体制になりがちです。
しかし「できる人」は多くの担当を持ち、繁忙期には自分の顧客の処理に追われます。
そのため繁忙期になると、
・教える時間がない
・新人が質問しづらい
・教育が後回し
となり教育が完全に止まります。
教育が止まると、新人が育たない→中堅が育たない→管理職が増えない→改革が進まない、という長期的なダメージが蓄積してしまいます。
⑤繁忙期が終わったらやる、という幻想(終わってもやらない)
多くの事務所で話をしていてよく聞くのが、
「繁忙期が終わったらやる」
という言葉。
しかしこの言葉を実行している事務所は、私の体感では半分以下です。
確定申告の繁忙期が終わると、次は3月決算が待っています。
さらにたまった雑務などが一気に押し寄せ、気が付けば夏前。税理士試験に挑戦中の人は勉強に集中しなければいけない期間に突入し、動ける人員は少なくなります。秋になってしまえば年末に備え、徐々に準備をしなければいけなくなり、次の確定申告が待っています。
つまり多くの事務所で、”繁忙期が終わったらやる”は永遠に来ない未来です。
改革・改善は”時間ができたらやる”ものではなく、時間を確保する仕組みを作らない限り、永遠に始まりません。
まとめ:繁忙期で改革・改善が止まる理由は様々、だからこそ繁忙期でも改革を止めない体制が必要
2.繁忙期でも改革を止めない事務所の共通点
もちろん繁忙期でも改革・改善を止めず、一気に成長する事務所も存在します。
そのような事務所は、いくつかの共通点があります。
①改善を”業務”ではなく”プロジェクト”として扱う
改革が止まらない事務所は、改善を「空いた時間でやる業務」とはとらえていません。
”期限・担当・目的”を明確にしたプロジェクトとして扱っています。
・改善テーマを決める
・担当者を決める
・期限を決める
・進捗を管理する
この4つが揃うだけで、改善は一気に動き出します。
逆に、ここが曖昧な事務所は繁忙期になると止まってしまうのです。
②改善責任者、または0.5人の人材を確保している
改革が進む事務所には、必ず”改善の主担当”がいます。
これは必ずしもフルタイムでなくてもかまいません。
0.5人、つまり他のスタッフに比べて担当数を半分に減らした人材を確保したり、週2日だけでも改善に取り組める選任を置くと、改善のスピードは劇的に変わります。
・改善テーマの整理
・現場のヒアリング
・ITツールの設定
・マニュアルの整備
・教育資料の作成
これらを”片手間”にやるのは無理があるのです。
多くの場合、改善を所長や能力の高いスタッフが担当しています。しかし業務量を調整せずに改善も任せてしまうため、無理がかかり改善が後回しにされてしまうのです。
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③改善を小さな単位に分解して進める
改革が止まる最大の理由は「改善テーマが大きすぎる」こと。
・月次業務の効率化
・新人教育の仕組み化
・IT導入の推進
こうした大きなテーマは、繁忙期には動かせるわけがありません。
改革が進む事務所は、10~30分でできる改善に分解しています。
例えば、
・チェックリストの1項目だけ改善
・Excelの1つの関数だけ置き換える
・マニュアルの1ページだけ更新
・動画を1本だけ撮る
小さく分けるから、繁忙期でも改善が止まらないのです。
④IT導入は段階的に、繁忙期でも動く範囲を明確化
IT導入に失敗する事務所の多くは「一気に変えよう」とします。
それに対し、改革が進む事務所は、段階性(フェーズ制)で導入します。
例えば、
フェーズ1:最低限の設定
フェーズ2:一部のチームで試験運用
フェーズ3:一部の機能を全体展開
フェーズ4:運用改善・ルール整備
フェーズ5:機能の制限を段階的に解除
フェーズ6:運用改善・ルール整備
以降、機能を追加ごとに見直し、運用改善を繰り返していきます。
そして繁忙期は、このフェーズだけをやる、など繁忙期でもできる範囲を明確にしています。
これによりITの導入が止まらなくなります。
⑤新人教育を仕組み化し、現場依存を減らしている
新人教育は現場任せだと、繁忙期に必ず止まります。
教育が止まれば、新人は何をやっていいかわからず、ストレスが増加し、離職につながります。
改革が進む事務所は、教育を”仕組み化”しています。
・動画教材
・チェックリスト
・標準マニュアル
・OJTの流れを固定化
・質問の窓口を一本化
こうした仕組みがあると、繁忙期でも新人が自走できます。
結果として現場の負担が減り、改善に時間を回せるようになります。
以下は、改革が止まらない事務所に共通する“仕組みの構造”です。どれか1つ欠けても改善は止まりやすくなるため、全体として整えることが重要です。
┌──────────────────────────────┐
│ 【改革が止まらない事務所の構造】 │
├──────────────────────────────┤
┌───────────────┐
│ ① プロジェクト化された改善 │
│ ・目的・担当・期限が明確 │
└───────────────┘
│
▼
┌───────────────┐
│ ② 改善専任(0.5人でも可) │
│ ・旗振り役が常に存在 │
└───────────────┘
│
▼
┌───────────────┐
│ ③ 小さな改善単位への分解 │
│ ・10〜30分で動ける粒度 │
└───────────────┘
│
▼
┌───────────────┐
│ ④ IT導入の段階制 │
│ ・繁忙期でも動く範囲を明確化 │
└───────────────┘
│
▼
┌───────────────┐
│ ⑤ 新人教育の仕組み化 │
│ ・現場依存を減らす │
└───────────────┘
───────────────────────────────
【結果】
・繁忙期でも改善が止まらない
・属人化が減り、現場の余力が増える
・新人が育ち、組織の層が厚くなる
・ITが“使える状態”で定着する
・毎年同じ問題を繰り返さない組織へ
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3.実際に結果が出た事務所の事例
【ケース1】改善専任0.5人を置いたパターン
これは私が実際に請け負ったケースです。
8~12名を行ったり来たりする規模の事務所で、人材の定着に問題を抱えていました。
特に、新人の定着率が低く、採用はできてもすぐに1年経たずに辞めていく人が続いていました。
教育・研修を改善しなければいけないことはわかっていたのですが、スタッフをそちらに回す余裕がない、人事経験者を採用すると年収450万円~600万円はかかるため、そのコストは大きすぎる、という相談を受けTaxOffic-Supportの0.5人の改善専任を提案したところ採用されたのです。
教育・研修の改善は一気に進めることができません。
そのため週に1度出社し、午前中はヒアリングや所長との打ち合わせが中心。
午後は教育体制の再検討、導入プランの策定、キャリアパスの検討などを行いました。
余った時間はブログの更新などで顧客とのコミュニケーション改善など幅広くサポートを行いました。
特に、週1回の新人スタッフへのヒアリングは効果的だったようで、そのスタッフはそのまま定着。3か月後には研修を修了させ、その後は採用サポートを行いました。
サポートサービス自体は1年ほど継続しましたが、その間離職者はゼロ、新たに3人採用でき、人的に余裕が生まれ現場の負担を大きく減らすことができました。
【ケース2】IT導入を段階性にしたパターン
7名の規模の事務所でしたが、40~50代のスタッフが多く、ITリテラシーがそこまで高くない事務所でのケースです。所長の世代交代を機にIT化を進めたいとのことでしたが、以前にクラウド会計導入の際にも苦労したとのことで相談を受けました。
まず行ったのがファイル共有ツールの導入でした。
これを一気に行うのではなく、まずはITの知識がある30代のスタッフ1名と40代スタッフ1名、それと所長で使い始めました。
ここで問題点を洗い出し、所内での使用ルールなどを検討。
タイミングとしては繁忙期に差し掛かっていましたが、週2~3回、リモートで10~20分程度の打ち合わせで済んだので、影響は最小限になりました。
繁忙期が終わったタイミングで他のスタッフも使用を開始。
この時点でスタッフ2名と所長がある程度使いこなせるようになっていたので、ITリテラシーの低い人でも無理なく使用できる環境を整えることができました。
さらにそこで問題などが起きた際も、随時検討を重ねる体制ができたため、抵抗なく次のツールの導入へ。現在では勤怠管理、顧客管理、文書管理など様々なツールを駆使し、効率的に業務を進めることができる事務所へと進化しています。
【ケース3】プロジェクト化したパターン
これは私自身が携わったケースではありませんが、成功事例として紹介します。
規模としては14名、何度かマニュアル策定や業務の標準化などに取り組んでいたそうですが、中途半端で終わっていたそうです。
そこで一人の担当者が業務の合間にやっていたのを辞め、3名でプロジェクトとして取り組むことにしたのです。
その3名の担当件数を3件ほど減らし、毎週月曜日に1~2時間、このプロジェクトに集中する時間に設定しました。
そのうえで、改善内容を小さなタスクに分解し毎週実行、それを月に1回所長を交え改革ミーティングで振り返る、という仕組みを作りました。
これを繁忙期でも続けさせたことで、1年後にマニュアルは完成。
属人化を急速に解消できたとのことです。
4.すぐに始められる”繁忙期でも止まらない改革”の進め方
事務所の改革・改善を止めない、というとすごく大げさに聞こえますが、実はちょっとした工夫や意識で大きく変えることができます。ここではそんな”止めないため”にはどうすれば良いのか、について見ていきましょう。
①改善テーマを3つに絞る
改革が進まない事務所の共通点は、”テーマが多すぎる”こと。
・月次効率化
・新人教育
・IT導入
・マニュアル整備
・チェックリスト改善
・採用強化
これらを全部やろうとすると、必ず止まります。
まずは事務所にとって最も効果の大きい、優先順位の高いもの3つに絞りましょう。
テーマを絞ればそこに集中することができ、改善スピードが一気に上がります。
②専任者(または時間枠)を決める
改善は”誰かがやるだろう”、や”手が空いている人がやる”では絶対に進みません。
改善が止まらない事務所は、必ず担当者を明確にしています。
・専任者の0.5人を確保する
・難しければ「誰々は毎週この時間は改善に使う」と時間枠を固定する
重要なのは改善に使う時間を”先に確保する”こと。
時間が余ったら改善する、では永遠に始まりません。
③改善を週単位の”小さなタスク”に分解する
改善テーマを決めても、長期・多様な要素が詰め込まれているとどれから手を付けていいかわからなくなり、動けなくなります。
例えば、
「新人教育の仕組み化」
というテーマだと、大きすぎて動くことができません。
そのため週単位で小さなタスクに分解し、それを着実に実行できる体制にしていくのです。
・新人向けチェックリストの1ページだけ作る
・研修動画を1本だけ撮る
・月次の1工程だけ改善する
週に1つ、小さな改善を積み重ねるだけで、1年後には大きな差になります。
④月1の改革ミーティングを固定化する
改善の止まる大きな要因の一つに、”確認の場がない”ことが多いですね。
そこで効果的なのが、月1回でいいので、
・進捗の確認
・次の小タスクの決定
・課題の共有
・小さな成功の共有
を行うことをお勧めします。
これを行うだけで、改善はかなり継続しやすくなります。
ポイントは繁忙期でも絶対に中止しないこと。
10分でもいいので、続けることが改革の生命線です。
⑤IT導入は”今できる最小単位”から始める
IT導入が止まる理由として大きいのが、「全部を一気に変えようとする」ことです。
今日からできるのは、
・設定の見直し
・テンプレートの整理
・1チームだけの試験運用
・1つの機能だけ使い始める
つまり、最小単位の導入を積み重ねることです。
繁忙期でも動ける範囲を明確にすることで、IT導入が止まらなくなります。
■このステップを実行すると何が変わるのか
これらは改革・改善を効率的に進めるというより、止めないための工夫です。改善は常に”動き続けること”が重要です。その結果、属人化が少しずつ解消され、新人教育が止まらなくなり、IT導入が定着しやすくなります。
そして、繁忙期のストレスが年々減っていくのです。
つまり、改革が止まらない事務所への第一歩を今日から踏み出すことができるのです。
5.結論:改革を止めない事務所だけが成長する
多くの事務所が繁忙期になると、目の前にある多くの業務に集中し、改革・改善は後回しになります。そして、繁忙期が終わったら続きをやればいい、と考えるでしょう。そうした事務所は成長することはできません。
一度止まった改革・改善を再び動かすのは力が必要です。
そして、改革が止まるということは停滞ではなく、後退という場合がほとんどです。60%まで進んでいた状況が、半分以下に。時には1からやり直しになる、ということも多いですね。
その結果、中途半端な改革→成果が残らない、というループに陥るのです。
繁忙期に泊まる事務所は、毎年同じ悩みを繰り返すことになってしまうのです。
逆に、着実に成長する事務所は、少しずつでも確実に前に進みます。
少しずつでも改善を繰り返すことで、組織の負担が年々軽くなっていきます。
中規模事務所への成長を目指す事務所こそ”止めない仕組み”が必要なのです。
■ もし「うちもそろそろ変わらないと」と感じているなら
・どこから手をつければいいか分からない
・改善が続かない
・IT導入が定着しない
・新人教育が回らない
・属人化が解消できない
こうした悩みは、仕組みづくりと段階設計で必ず解決できます。
私はこれまで多くの中規模事務所の改革を伴走してきましたが、“特別な才能”が必要だった事務所は一つもありませんでした。必要なのは、正しい順番で、止まらない仕組みをつくることだけです。
改革が止まる事務所は、毎年同じ悩みを繰り返します。改革を止めない事務所は、毎年少しずつ楽になります。この差が、3年後・5年後に“圧倒的な差”になります。
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・改善テーマの優先順位
・繁忙期でも止まらない仕組みの作り方
・IT導入の段階設計
・新人教育の仕組み化
・属人化を減らすための最初の改善ポイント
こうした内容を、あなたの事務所の状況に合わせて整理します。
「まずは話を聞いてみたい」そんな軽い気持ちで大丈夫です。
改善を“止まらない仕組み”に変えたい事務所のご相談をお待ちしています。
あなたの事務所が、来年の繁忙期を“今年より楽に”迎えられるよう、全力で伴走します。
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