スキルマップでスタッフの適正化を
- 斉藤永幸
- 11月28日
- 読了時間: 8分

マネジメントはスキルの適正な把握から
人材の売り手市場の時は、必要な人材をその都度採用し、プロジェクトが終われば解散、ということもよくありました。
しかし、近年のように人材の買い手市場では、そもそも採用自体が難しく、コストが増大しています。
そのため税務会計業界に限らず、今いるスタッフ・社員を適切に配置し、人材育成することで世の中のニーズに対応していこうという流れが起きています。
その際、よく使われているツールがスキルマップです。
スキルを可視化できるスキルマップでスタッフの適正化を図れば、それだけ組織は効率的に運用することが可能になります。
スキルマップとは、スタッフの能力やスキルを可視化することができるようになります。
これによりスタッフの適正な配置ができるようになり(担当先の変更など携わる案件の適正化)、さらに将来必要となるスキルを特定し、効果的な研修・教育を設計することができるようになります。
このスキルマップは、導入時こそ作成に手間はかかりますが、事務所、スタッフ、双方に様々なメリットがあります。
例えば、
人事評価の公平化: 客観的な評価基準に基づき、公平な人事評価につながります。
従業員のモチベーション向上: 自身のスキルアップの方向性が明確になり、成長意欲が高まります。
生産性向上と業務効率化: 適切な人材配置により、業務のミスマッチを防ぎ、生産性を高めます。
新規事業への活用:新しい案件や業務に必要なスキルを持つ人材を迅速に特定し、チーム編成を円滑にします。
など様々な効果を期待できます。
人事システムなどを導入できれば、こうしたものは一瞬で把握できますが、そこまで投資はできない、という中小企業ではこのスキルマップを活用するところは増えています。
そして、中・小規模の税理士事務所でも非常に重要なツールとなるのでは、と今回紹介させていただこうと考えました。
このスキルマップでは、単に業務スキルだけでなく、ビジネススキルについても可視化していくことが重要です。
税理士士事務所でスキルというと、税務や会計のスキルを指すことがほとんどです。
こうした業務に直結する業務スキルは、できる・できないがはっきり分かれているので、スキルマップを使わなくてもある程度把握しやすいのですが、ビジネススキルはそこに主観性が混じることがあります。
こうした「曖昧」な部分こそ、可視化することで効果が大きくなります。
スキルマップで可視化されるスキルの例 |
ビジネスマナー WordやExcelなどの基本的なアプリケーションソフトとITの理解と操作能力 対人ビジネスコミュニケーション能力 業務への専門知識(いわゆる業務スキル) 情報の収集力、感度、分析力 総合的な判断力 |
上記のように、スキルマップはビジネスに関する範囲を網羅することも可能です。
ただ、これはあくまで一例です。
こうしたものを基礎に、自分たちの事務所に必要なスキルや重視している項目を追加し、アレンジして、使いやすいスキルマップのフォーマット・テンプレートを作っていく必要があります。
ただ、何もないところからスキルマップを作っていくのは非常に大変です。
そこでお勧めしたいのが、すでにあるテンプレートをアレンジしていく、というものです。
厚生労働省『職業能力評価シート』
こちらはスキルマップとして、多くの企業で利用されているものです。
人事や営業など職種別に、さらに外食産業やホテル業など業種別にも用意されています。
レベル別になっているので、一から考える手間を省くことができるのと同時に、自分たちの事務所だけでなくそのノウハウをお客様に伝えることで、サービスの拡充にも活用できます。
無料で利用できるのはもちろん、エクセル形式なので、そこから自由にアレンジしやすいのも大きなポイントです。
ただ、事務職や営業などのスキルは税務会計スタッフに応用できるものもありますが、税務会計スタッフ用のスキルマップではないので、調整や新たな項目の設定が必要となってきます。
そこで次に、スキルマップの作成方法についてみていきましょう。
スキルマップの作り方
前述のように、一からスキルマップを組み立てていくのは大変です。
時間もかかりますし、コンサルタントなど外部に依頼するとなると何十万円もの費用を請求されるでしょう。
そこでお勧めなのが、あらかじめ出来上がっているフォーマットをベースに、そこから必要なスキルを加え、不必要なスキルを外す、といった「調整」をすることをお勧めします。
ネット上には上記の、厚生労働省『職業評価シート』以外にも、様々なテンプレートが公開されているので、一度調べてみるのも良いかもしれません。
次のステップとして、業務内容に沿って必要なスキルを洗い出すことです。
これは事務所によって違います。
法人税務しかやっていないのに相続税関連のスキルは必要ありません。
また、医療関係のお客様が多い事務所でしたら、医療業界に関する知識などを加えるなどを行います。
業務フローや主業務、間接的に発生する業務を洗い出し、まとめていく作業ですね。
税理士事務所だからこのスキルが必要、というのではなく現場で求められるスキルを中心に書き出していく必要があります。
次に、業務スキルの難易度で階層に分けていきます。
洗い出した業務を難易度で分け、スキルマップに反映するためにスキルを振り分ける作業です。
これは難易度の評価基準と評価段階に直結します。
単にできる・できない、だけだと大まかにしかスキルを把握できません。
逆に、細かすぎると運用が難しくなってしまいます。
厚生労働省の『職業評価シート』では、レベル1~4の4段階で設定しています。
この程度の階層分けがバランスの良いものかもしれません。
(もちろん状況に応じて3段階、5段階など階層の増減などを行ってもかまいません)
そのうえで、各階層のレベルに明確な評価基準を設けます。
例えば、
レベル1/基礎的な知識がある
レベル2/できるが指導やフォローが必要
レベル3/一人で任せられても大丈夫
レベル4/人に指導ができ、フォローなどもできる
などの基準を設定すると、わかりやすいスキルマップにすることができます。
Point
スキルマップを作成する上で注意したいのが、具体的になるようにする、ということです。
単に「コミュニケーションスキル」のように抽象的なものだと、スキルの実態を把握することは難しくなります。
そのため「無理な要望に対しコンプライアンスに基づいて適切な説明ができる」などできるだけ具体的に挙げていく必要があります。
そして重要なのが、所長や代表、マネージャーだけで作らない、ということ。
必ず現場にヒアリングを行い、スタッフ全員が作成にかかわれるようにすることが重要です。
現場でどんなスキルが求められるのか、これを知っているのは現場のスタッフ。
ヒアリングを行い、全体ミーティングで調整などを行いつつ、一つずつ作成を進めていく、というやり方が望ましいでしょう。
スキルマップは作って終わり、というものではありません。
全体に共有し、実際に活用して徐々に修正を加え、自分たちのスキルマップにしていくもの。
だからこそ作成の段階からスタッフ全員を巻き込み、意識の共有を図っておくとその後がスムーズになります。
スキルマップを活用する
スキルマップのひな型を作成したら、本人に聞き取りや記入をしてもらい、さらに上司やマネージャーの評価を加え、一人ひとりのスキルマップを作っていきます。
これが出そろえば、スタッフの持つスキルのばらつきや、得意・不得意がわかり、今後伸ばしてもらいたい部分、課題などが見えてくると思います。
それだけでも効果はある程度あるのですが、それで終わりではありません。
スキルマップは長期的に活用していくもの。
業務内容の変化や経営方針の変更などによって、必要となるスキルも変わっていきます。
そのため定期的に見直しを行い、更新を加えていきます。
また、スキルマップは作って終わりではありません。
それをどう活用していくか、をしっかり考える必要があります。
可視化された足りないスキルをスタッフと共有し研修に役立てたり、フィードバックを行って課題や目標に設定するなど、事務所としてどのような対応をしていくか検討していく必要があります。
また、評価基準と連動させたり、部署間・チーム間での異動に役立てるなど、様々な活用方法があります。
『スキルの見える化」をどのように活用していくか、それを検討し、実施していかなければなりません。
ただ、これを行うことでより効率的な事務所へとステップアップを目指すことができ、採用基準などにも活用できるので新しく募集を行う際の人材の設定などにも役立ちます。
事務所のスタッフ数が多くなると、スタッフ全員を巻き込んで作成するのが難しくなるため、これからスタッフ数を増やし拡大を目指している事務所ほど、早めに作成に着手するといいのではないでしょうか。
今回は厚生労働省のテンプレートを元に、エクセルベースで作成する方法をお伝えしましたが、実際に作るとなったらけっこうな労力がかかります。
簡単に作成するなら、費用は掛かりますがスキルマップを作成できるマネジメントシステムなどもあります。
また、相談いただければスキルマップを作成するためのお手伝いもさせていただいておりますので、興味のある方はこちらからご連絡ください。
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