【チェックリスト付き】税理士事務所の属人化から抜け出す実践ガイド|今日からできる仕組み化
- 斉藤永幸
- 3 日前
- 読了時間: 11分

なぜ、税理士事務所で属人化が起きるのか
結論:属人化は自然に起きるが、放置すると事務所の成長は必ず止まる。だからこそ「見える化 → 標準化 → 運用」の3ステップが必要。
税理士事務所が属人化しやすい構造
まず言っておかなければならないのが、税理士事務所はもともと属人的な組織で当たり前、なのです。税理士事務所を立ち上げる際、そのほとんどが”所長個人”の持つ知識やノウハウに依存しています。所長がこれまで培ってきた人脈でお客様を集め、専門知識でお客様にサービスを提供する。専門職による個人経営である以上、ほとんどの税理士事務所は属人的な組織からまず出発するのです。その後も専門職、いわゆるスペシャリストの集団であり続ける限り、税理士事務所は属人的な組織であり続けるのです。
そのため税理士事務所が属人的な組織である、ということは必ずしも否定しません。ただ、こうした属人的な組織はある一定以上の成長は難しいのです。
個人に仕事が依存している状態なので、外部からのマネジメントができません。また、新人が育たないので新たな事業展開などは難しくなります。その結果、組織が停滞してしまうのです。
そのため事務所の拡大、組織の成長を目指すのであれば、属人化を放置するのではなく、業務を標準化し、事務所としてサービスを提供するための標準化を行っていく、いわゆる「組織化」を目指す必要があるのです。
属人化から抜け出すことが難しい理由
ただ、組織が大きくなるにつれ、多くの税理士事務所は一度は属人化からの脱却を目指します。しかしそのほとんどが挫折し、また属人化は進んでしまいます。その理由は、税理士事務所はそもそも属人化しやすいという構造的な理由があるからです。
属人化を防ぐには”仕組みの課題”として向き合い、事務所全体の業務の”見える化”を進めたうえで、標準化を進めなければいけないのです。これができてはじめて、事務所全体の生産性と安定性を高めることができるのです。
属人化のもたらす悪影響
✅ ミスの増加:業務がブラックボックス化し、チェック体制が働かなくなる
⏳ 業務の停滞:担当者が不在になると、業務が止まってしまう
🧒 新人が育たない:知識やノウハウが共有されず、教育の機会が失われ
自分の事務所は属人化されている?属人化の危険度をチェックしてみよう
税理士事務所の属人化は、大きく分けて3つのタイプに分かれます。
①手順の属人化(やり方が人によって違う)
②判断の属人化(基準が曖昧でその人によって判断が変わってくる)
③情報の属人化(どこに何があるのか、本人しか知らない)
あなたの事務所でこうした属人化に心当たりはありませんか?もし心当たりがあれば、属人化がもたらすリスクが大きくなっているかもしれません。まずは現状を正しく把握することが、属人化解消への第一歩です。まずは下のリストであなたの事務所の属人化レベルを診断してみてください。
【手順の属人化】
□ 業務の手順書が存在しない、または古い
□ 同じ業務でも担当者によって進め方が違う
□ 新人に説明すると毎回内容が変わる
□ 業務の開始から完了までの流れが明文化されていない
□ 「この作業はAさんに聞かないと分からない」が存在する
□ 期限管理の方法が人によってバラバラ
□ チェックリストがなく、抜け漏れが起きやすい
□ 例外対応が多く、標準化が進まない
□ 業務の引き継ぎに時間がかかる
□ 休んだ人の業務を他の人が代わりにできない
【判断の属人化】
□ 判断基準が文書化されていない
□ 「経験的に」「いつもこうしてる」で説明される
□ 所長・ベテランしか判断できない業務が多い
□ 顧客対応の優先順位が人によって違う
□ レビューの基準が担当者によって異なる
□ 仕訳の判断基準が統一されていない
□ 月次監査のチェックポイントが人によって違う
□ 例外処理の判断が属人的で、再現性がない
□ 顧客への回答内容が担当者によってブレる
□ 「この判断は〇〇さんにしかできない」が存在する
【情報の属人化】
□ ファイルの保存場所が統一されていない
□ 顧客情報が個人のメモや頭の中にある
□ 過去の対応履歴が共有されていない
□ タスク管理が個人の手帳・メモに依存している
□ 顧客とのやり取りが個人メールに残っている
□ どの資料が最新か分からない
□ 業務の進捗が担当者しか把握していない
□ 引き継ぎ資料が存在しない
□ 顧客のクセ・注意点が共有されていない
□ 「その情報は〇〇さんしか知らない」が頻発する
(ここから属人化を”見える化”するためのチェックリストをダウンロードできます)
いかがでしょうか?
いくつチェックがつきましたか?
10項目以上該当 → 属人化が業務のボトルネックになっている可能性大
15項目以上該当 → 仕組み化の優先度が高い状態
20項目以上該当 → 業務が“人に依存している”危険ゾーン
チェックが10個なら、あなたの事務所は標準化、組織化が進んだ事務所です。そのまま成長を目ざしても、リスクは少ないでしょう。10項目以上にチェックがついた事務所は反対に課題を抱えています。少しずつでも標準化を進めていった方が良いでしょう。15以上は黄色信号なので、属人化をなくす取り組みを始めてください。そして20個以上だといつどこで属人化が理由に問題が起きるかわかりません。早急に対処する必要があります。
属人化をなくすための”仕組み化3ステップ”
ではどのようにして属人化をなくしていけばいいのでしょうか。これも他の制度や仕組みを作るときと同じ、STEPを踏みながら段階的に進めていくことをお勧めします。
STEP1:業務を分解し、標準化すべき部分を決める
・すべてを標準化する必要はありません。
・頻度✖リスク✖影響度、で優先順位をつけていきましょう。
STEP2:チェックリスト化、テンプレ化する
・手順書よりチェックリストのほうが、実際の現場で使いやすくなります
(手順書を作っておけば、その業務を進める最初に確認できるので無駄ではありません。ただ、優先順位としてはチェックリストの方が上になります)
・業務に合わせてテンプレートを作成し、それをベースに各人がアレンジできるようにします。
STEP3:運用ルールを定めて”回る仕組み”にする
・ルールは最小限にする
・守られるルールの条件は、簡単、明確、例外が少ない
・運用の定着は仕組み✖習慣で決まる
こうしたSTEPを踏んで標準化を進めます。
参考資料として、ある税理士事務所での月次巡回業務を標準化した際のチェックリストを見ていきましょう。
1. 事前準備(訪問前)
顧問先の前月資料の受領状況を確認
未回収資料のリストアップ
顧問先へ事前連絡(訪問日時・必要資料の再確認)
会計ソフトの前月残高・仕訳の異常値チェック
前月の未処理タスク(質問事項・保留仕訳)の確認
試算表の前月比較・前年同月比較のざっくりチェック
巡回時に説明すべきポイントのメモ作成
2. 資料回収(訪問時)
現金出納帳・通帳コピー・クレカ明細
売上資料(請求書・レジデータ・システム出力)
仕入・経費の領収書・請求書
給与資料(給与明細・勤怠データ)
社会保険料・税金の納付書
固定資産の購入・売却資料
契約書・重要書類の有無確認
未回収資料のその場での回収 or 回収予定日の確定
3. 月次処理(事務所での作業)
3-1. 仕訳入力・自動連携の確認
銀行・クレカ連携の取り込み
自動仕訳のルール適用状況チェック
現金取引の漏れ確認
売掛金・買掛金の突合
給与仕訳の計上
社保・税金の支払仕訳の計上
3-2. 残高確認
現金残高の実在性チェック
預金残高の突合(通帳残高と一致)
売掛金・買掛金の残高確認
仮払金・立替金の精算状況
未払金・未収金の計上漏れチェック
固定資産の計上・減価償却の処理
3-3. 異常値チェック
前月比・前年同月比の大きな変動
売上・粗利率の急変
経費の異常増減
資金繰りの悪化兆候
仕訳の重複・漏れ
ここから月次試算表の作成、お客様先への報告などでもチェックリストを作っていきます。かなり細かいと感じるかもしれませんが、このように月次巡回という業務を標準化するときは一つひとつの業務を分解していく必要があるのです。
(記事の最後に参考資料として、月次巡回のチェックリストをフローチャートにしたものを掲載しておきます。参考にされたい方はご活用ください)
ただ、はじめて標準化に取り組む事務所の場合は、最初にここに手を付けるとかなり厳しいです。標準化はあくまでも、日々の中に取り入れられるように、簡単・明快なものでないと習慣化されません。そのためスタッフが受け入れやすいものからはじめることをお勧めします。
例えば、
ファイル管理ツール
・保存場所は「顧客名フォルダ→年度→業務別」で統一
・ファイル名は「日付_内容_担当者で統一」
・更新履歴はチャットワークに自動通知
お客様からの電話対応ルール
・電話対応の記録は必ず共有システムに記録
・期限のある依頼はタスク管理へ登録
・返信期限の基準(例24時間以内)
一気に標準化を進めない理由は「ルールは作るより守らせる方が難しい」からです。
簡単なルールであっても、しっかり守れてないと意味がありません。そのため定例ミーティングなどで改善点を吸い上げるようにしていくのもいいでしょう。また、いきなりいくつものルールを敷くとスタッフからの反発が大きくなることもあります。
まずは取り組みやすいものから始めて、皆が習慣化することで効果が出始めたら順次、複雑なものの標準化、ルール化を進めていきます。
最初のうちは毎月1つだけ、ルールを導入する、くらいでちょうどいいと思います。
「誰でもできる状態」をゴールにルールを少しずつ決めていきましょう。
まとめ:属人化は人の問題ではなく”仕組みの問題”
ここまでお読みいただいてどのように感じたでしょうか。
属人化は、誰かの能力不足ではなく、専門職である税理士事務所に自然と起きる構造的な課題です。しかし放置すれば、ミスの増加、業務停滞、新人が育たないなど、事務所の成長を確実に止めてしまいます。
だからこそ必要なのが、「仕組み化」と「見える化」です。業務を分解し、優先順位をつけ、チェックリストやテンプレートを整え、最小限のルールを回す。こうした小さな積み重ねが、誰が担当しても同じ品質を保てる“強い組織”をつくります。
一度にすべてを変える必要はありません。まずは一つ、簡単なルールから始めて、習慣化し、次の一つへ進む。その小さな一歩こそが、属人化から抜け出す最も確実な方法です。
ただ、実際のところ属人化した業務を標準化していくのは、なかなか難しいですね。属人化している、ということはその人にとってはそのほうが”やりやすい”からです。それをルールとして守らせるのですから、反発があるのも当然ですし、時には抵抗されることもあるでしょう。
しかし、しっかりと話を聞きながら、徐々にでも進めなければいけないものです。「うちの事務所も属人化しているかも……」と感じた方は、まずはこちらの無料相談で一緒に整理していきましょう。TaxOffice-Supportでもしっかりと支援を提供いたします。
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参考資料
<標準化した月次巡回のフローチャート図>
【開始】
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【1. 事前準備】
・資料受領状況の確認
・未回収資料のリスト化
・顧問先へ事前連絡
・前月の仕訳・残高チェック
・異常値の事前確認
・説明ポイントの整理
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【2. 顧問先訪問(巡回)】
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├─資料は揃っている?───YES──→ 次へ
│ │
│ └──NO→ その場で回収 or 回収期限を確定
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【3. 資料回収】
・通帳・クレカ明細
・売上資料
・経費資料
・給与・社保資料
・契約書・重要書類
│
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【4. 月次処理(事務所)】
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├─4-1 仕訳入力・自動連携チェック
│ ・銀行/クレカ連携
│ ・現金取引の漏れ確認
│ ・売掛/買掛の突合
│
├─4-2 残高確認
│ ・現金残高
│ ・預金残高
│ ・仮払金・未払金
│ ・固定資産・減価償却
│
└─4-3 異常値チェック
・前月比/前年同月比
・粗利率の変動
・経費の急増
・仕訳の重複/漏れ
│
▼
【5. 試算表作成】
・最終チェック
・補助元帳確認
・資金繰り表更新(必要時)
・説明ポイント整理
│
▼
【6. 顧問先への報告】
・試算表の説明
・変動要因の説明
・資金繰りの状況
・税金見込み
・改善提案
・次月までの宿題共有
│
▼
【7. 事後処理】
・資料返却
・回収リスト更新
・次回訪問日の調整
・所内共有(引継ぎメモ)
・業務管理システムへ記録
│
▼
【終了】



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