税理士事務所の教育が定着しない理由|見える化と仕組み化で劇的に変わる
- 斉藤永幸
- 1月18日
- 読了時間: 10分

以前から税務会計業界の大きなウィークポイントは、教育とお話してきました。
実際、教育に力を入れているのは一部の税理士事務所で、大半の事務所はOJTだけ、中には教育という概念すらないという状態の事務所もあります。
ほとんどの事務所の所長は、実は独立・開業した際には自分の事務所のスタッフにしっかり教育をして、より良いサービスを提供できる環境を作っていきたい、と考えています。しかし、多くの所長は挫折してしまいます。最初は一人で事務所をやっているときには教育は必要ありません。それが2人、3人と増えても、この段階だとほとんどの場合が経験者を採用し、即戦力として活躍してもらわなければなりません。これが5名くらいになり、いざ教育をしていこうとすると、壁にぶつかるのです。
その結果、
・新人が入っても育たず、結局辞めてしまう
・経験者を採用しても、やり方がバラバラで混乱する
・教育しようとしても、忙しすぎて時間が取れない
・気づけば“できる人だけが回す事務所”になっている
つまり、多くの事務所で教育が回らない状態になり、上記のような出来事が頻発します。それがこの税務会計業界の抱える大きな問題なのです。
そこでこの記事では、この『教育が回らない』原因を探るとともに、どうすれば回るようになるのか、そして具体的にどうやって教育を定着させ、スタッフの成長を促していくのか、という実務レベルまで考えていきたいと思います。
この記事をお読みいただければ、あなたの事務所の教育は、ワンランクもツーランクもステップアップできると思います。
1.税理士事務所の教育はなぜ回らないのか
そもそもなぜ、多くの税理士事務所で教育が定着しないのでしょうか?その原因を認識しなければ、どんなに良い教育システムや指導のやり方を導入しても、失敗に終わってしまいます。そこでまずは教育が”回らない”理由について考えていきましょう。
教育が回らない理由としては、次のようなものが考えられます。
忙しくて教える時間がない
属人化していて“教える内容”が整理されていない
月次業務がブラックボックス化している
ITリテラシーの差が大きい
まずは物理的な問題です。
小規模な事務所は、最低限のスタッフで事務所が運営されています。そのため教育に手を取られてしまうと、他の業務に支障が出てしまうことも。その結果、単純に忙しくて教える時間がない、ということになってしまうのです。
これは単純なようでいて、改善するのはけっこうたいへんです。
そもそも”最低限”の人数で常に事務所が動いていることは、かなりリスクがあります。特に残業が常態化している事務所だと、オンタイムに新人の教育をして、できなかった業務は皆で振り分け残業をして補う、といった手法も取れません。
その場合は、教育より先に事務所の運営手法から考え直さなければいけないのです。
2番目以降については、実は解消する方法があります。それが”仕組み化”です。これまで業務の”見える化”や”仕組み化”について話してきましたが、この教育についても”仕組み化”が非常に有効なのです。
2.【結論】教育は「見える化」→「体系化」→「仕組み化」で回す
そもそも教育が定着しにくい理由。それは税理士事務所の業務の多くが属人化しているためです。スタッフ一人ひとりが自分のやりやすいように仕事をアレンジし、それが引き継がれていった結果、現場でどんなやり方になっているのか所長でもなかなか把握しきれません。
そのため、いくら教育をしても現場でアレンジされ、教育の結果として成果が上がらない。そんな状態になってしまっているのです。
また、人によってやり方が違うということは、教える内容、教え方にも差が出てしまいます。どんな内容を教えるかについては、教育担当者次第。何を、どう教えるのか、といったことも曖昧なまま教育が行われていることがほとんどなのです。
学校などでは教科書が用意され、それに沿って勉強を教えますが、税理士事務所では基準自体がないのです。
それでは教育は定着しません。
だからこそ求められるのは『人に依存しない教育』なのです。
この仕組みを作るために重要なのは2つ。
・チェックリスト
・フロー図
この2つが税理士事務所で最適な教育ツールとなります。
これを元に、実際の教育をどのように行うべきか、考えていきましょう。
ここまでのまとめ:
・教育が回らないのは、教育の”仕組み”がないから
・教育の”仕組み化”を行って、人に依存しない教育のやり方を導入すべき
・教育の仕組みをつくるにはチェックリストとフロー図が最適なツール

税理士事務所での教育の4本柱
税理士事務所で教育、というとほとんどの事務所で「実務スキル」に偏っていました。月次のやり方や仕訳の判断などの「うちの事務所のやり方」を教えていく、というやり方です。しかし税理士事務所のスタッフに求められるのはそれだけでしょうか?
ここばかりに意識が集中してしまうことで、スタッフの活躍の場を狭めてしまっています。税理士事務所では、他にも求められる素養がいくつもあります。これを教育し、伸ばすことで事務所は確実に成長します。
① 実務スキル
月次の流れ
仕訳判断
税務の基本
期限管理
→ チェックリスト化で属人化を解消
税理士事務所での教育というと、ここが重要ポイントとなります。ここで問題になるのは属人化を排除すること。事務所としての『型』を決め、何が標準かを示すことで、教育の仕組み化を進めることができます。
② ITリテラシー
会計ソフト
ファイル管理
チャットツール
AIの使いどころ
→ IT教育は段階導入がポイント
近年、ある程度ITを使いこなせなければ税理士事務所スタッフは勤まりません。これまでのようにワードとセクセルが使えれば良い、では済まないのです。だからこそITリテラシーは教育で育てていかなければなりません。
※IT人材の育て方については、こちらの記事も参考にしてください
③ コミュニケーション
報連相の型
クライアント対応の基本
ミス報告のルール
→ “型”を教えるだけで新人の不安が激減
多くの事務所で軽視されがちなのが、このコミュニケーション教育です。コミュニケーションは本人の資質に依存する部分もありますが、教育でカバーできる範囲も非常に広いのです。教育でコミュニケーションスキルを伸ばすだけで、離職率は低下し、トラブルのリスクも大きく下げることができます。
④ 事務所文化・価値観
優先順位の考え方
判断基準
禁止事項
→ 文化を言語化しないと離職につながる
多くの税理士事務所でウィークポイントとなっているのが、”帰属意識”の低さです。特に訪問型でサービスを提供していると、所内で過ごす時間が少なくなり、帰属意識は低下します。その結果、属人化が進み、離職につながることも多いです。
税理士事務所の教育と言えば「実務スキルを教えておけばいい」という時代は終わりました。後は本人任せ、ではスタッフは育たず、淘汰されてしまうのです。だからこそ税理士事務所のスタッフに求められる素養を引き出せるよう、この4つを体系的に教育していく必要があるのです。
4.月次業務を見える化する
このように税理士事務所で教育すべき内容は多岐にわたっています。
全てを一気に仕組み化し、導入しようと思っても無理な話。そこで順番に”見える化”を行い、それを教育の仕組みとして整備していく必要があります。
そこでお勧めなのが、まず最初に手を付けるべきは”月次業務”です。
言うまでもなく月次業務は税理士事務所の主要な業務の一つであり、同時に毎月繰り返し行うため、学習→実践→振り返り→修正という教育でのPDCAを回しやすいので、仕組みとして取り入れやすいのです。
月次を教育の仕組みとして整備するためには、まずは”見える化”を行います。
以下のように勧めるとスムーズです。
● 月次フロー図
資料回収 → 入力 → チェック → 試算表 → 報告
誰がどこを担当するかを明確にする
● チェックポイントの明確化
仕訳の判断基準
チェックの順番
NG例とOK例
● 役割分担のルール
新人が担当する範囲
中堅が見るポイント
所長が最終確認する部分
● 月次の“詰まりポイント”を可視化
資料が遅い
入力が遅い
チェックが溜まる
→詰まりを見える化すると、どこを重点的に教育するかが自動的に決まります
ここまでできると、月次のチェックリストとフロー図ができると思います。
これを教育に落とし込んでいきます。
5.新人が最初の1ヶ月で身につけるべき10ステップ
月次の”見える化”によってチェックリストとフロー図ができたら、それを元に教育の仕組みを整えていきます。ここでは”何を教えるのか”を明確にしていきましょう。例えば、月次の教育をするのであれば、以下のようになります。
月次フローの全体像
資料回収のルール
ファイル管理の基本
入力の型
仕訳判断の基準
チェックの順番
試算表の読み方
報連相の型
期限管理のルール
ITツール(会計ソフト・AI)の基本操作
”見える化”を行うことで、教育の内容が決まり、内容が決まればそれに沿って教えることが簡単になります。
教える際は、以下のようなものを用意しておきましょう。
月次チェックリスト
フロー図
報連相テンプレ
ファイル管理ルール
新人1ヶ月ロードマップ
ここまで用意できれば、後は誰でも新人の教育・指導できる、という状態が出来上がります。これが教育の”仕組み化”です。
6.まとめ:まずは1つだけ仕組みを作る
ここでは例として、月次の教育について”仕組み化”を取り上げてみました。
ポイントとなるのは、いきなり全部に手を付けないこと、です。全部やろうとすると、どれも中途半端になって、良い仕組みにはなりません。その結果、その仕組みは使われず形骸化します。
まずは月次、続いて事務所の事情に合わせてこの業務、その次は…、というように段階を踏んでいきましょう。
仕組み化を行う最大のポイントは、多くの人が教育ができるようになる、ということです。
中小の税理士事務所は、所長が教育を行うことが多く、その結果所長は忙殺される、というケースも良くあります。しかし教育が仕組み化されていれば「何を教えなければいけないのか」が明確で、「どうやって教えればいいのか」まで自動的に決まります。そのためちょっと経験がある先輩スタッフでも、新人スタッフを教育・指導することができるようになるのです。
また、指導することでそのスタッフも業務の振り返りになり、さらに事務所全体のスキルを高めることも可能となります。
体感ですが、この教育の”仕組み”が回り始めた瞬間、劇的に事務所の運営が楽になりますね。実際に私の勧めで教育を仕組み化した事務所からは、以下のような効果があったと報告がありました。
・教育の仕組みを整備したことをアピールしたところ、募集での応募が倍増した
・新人スタッフの戦力化する速度が2倍以上になった
(ある事務所では未経験で入社したスタッフが試算表を作れるようになるまでの期間が3か月→1か月に)
・業務の見える化で業務の標準化が進み、サービスの質も高まった
・先輩スタッフが教育に携わるようになり、マネジメントに意欲を持って取り組むようになった
このように教育の”仕組み化”は、単に「教えやすくなる」というだけでなく、事務所全体をステップアップさせる取り組みなのです。
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