税理士事務所のパートスタッフ活用についての考察 ~AI時代は「人を減らす」のではなく「活かす」が勝負~
- 斉藤永幸
- 7月14日
- 読了時間: 14分

先日、あるAI-OCRを導入し、会計データ入力の省力化を行った事務所の所長とお会いする機会がありました。
その事務所はパート7名で入力作業を行っていたのですが、2名くらいで完結できるくらいまで省力化できたというのです。ただ問題となってきたのが、それまで入力を行ってきたパートスタッフをどうすればいいか、です。
特に問題を起こすわけでもなく、まじめに仕事に取り組んでいて、事務所の状況なども熟知しています。しかしAIを導入して仕事量が減ったからと言って、「入力の仕事が減ったとしても、長年働いてくれたスタッフに『もう来なくていい』とは言えない」というのです。さらにまた地域の会計事務所で一気に人員を削減するのも信用問題にかかわってきます。
その事務所は経理代行という形で、会計データの入力だけでなく請求書発行や支払管理まで含めた新しいサービスを始め、そちらにパートスタッフを割り振りました。そのことでこの問題を解決したのですが、それができたのも様々なノウハウや体制、そして新しいサービスに取り組む余力があったからです。すべての事務所がすぐにそうしたサービスを始められるわけではありません。
AIが導入され、多くの分野で省力化が進めば、同じ問題は他の事務所でも起きてくるでしょう。
http://1.AI
一方で、税理士業界を目指す求職者は減り、担当者レベルの正社員を雇用しようとすると、相変わらず人材難が続いています。
税理士事務所の人材ニーズは、「入力人材は余る一方で、担当者は足りない」という、これまでにないいびつな構造になりつつあります。
そこで今回は、こうしたパートスタッフが余剰になる問題について検討していきたいと思います。
1. AIで入力業務が減った。そのとき、パートスタッフをどうする?
まずは税理士事務所のパートスタッフが置かれている環境の変化について見ていきましょう。
クラウド会計の自動仕訳、AIによる記帳補助、OCRの高精度化……。
10年ほど前には考えられなかったほど、税理士事務所をとりまく環境は大きく変化しています。これらの技術進展により特に大きな影響を受けるのが、パートスタッフが担っていた入力業務です。
この入力業務は、現在のところ完全に自動化するまでには至っていません。
しかし確実に、負担は減少しています。実際に10名くらいで入力していた事務所が、2~3名くらいまで省力化できた、という話はよく聞きます。
入力業務は人的リソースを投入する必然性が急速に低下している領域といえるでしょう。
しかしこの変化は、決して「税理士事務所にパートスタッフが必要なくなる」ということにはつながりません。むしろ事務所が人材配置を再設計することで、それまで入力業務に縛られていたパートスタッフをさらに活用できるようになるタイミングである、と捉えることもできるのです。
2.税理士事務所にパートスタッフは必要なくなるのか?
世の中には様々な”省力化”の例があります。スーパーやコンビニのレジでは、自動精算機を見かけることが多くなりました。それまでレジでは、パートスタッフがバーコードを読み込み、お客様からお金を受け取り、お釣りを渡し清算を行っていました。
しかし近年ではお客が自分たちでバーコードを読み込み、画面の指示に従ってお金を投入したり、電子マネーで決済を行って買い物をする場所が増えたのです。
こうした場では、確かにパートスタッフを見かけることは少なくなりました。しかしパートスタッフのニーズが無くなったかというとそうではありません。実際、多くの販売店などでは、パート・アルバイトの人員確保に苦労しています。逆の視点で見てみると、人員不足だからこそ自動化による省力化を進めている、と見ることができます。
では税理士事務所の置かれている状況を見てみましょう。
AIによって一部の作業は効率化が進んでいます。しかし税理士事務所での業務は”楽”になったのでしょうか?むしろ年々、事務所全体の業務量は増加しているのではないでしょうか。
ざっと挙げてみると、
法改正対応の複雑化
電子帳簿保存法・インボイス制度への継続対応
クラウド会計の初期設定・運用支援
顧客対応の高度化
DX推進に伴う新規業務の発生
こうした環境の変化により、入力業務の負担減少を差し引いたとしても、担当者レベルになると負荷は減るどころか増加傾向にあるのです。
それに追い打ちをかけているのが採用難です。
こうした採用難の問題については、過去に何度も触れているのでここでは割愛しますが、パートを減らし、担当者レベルの正社員を増やそうと思っても、そう簡単にはいかないのです。
この人的リソース不足という構造的な課題に対し、入力業務が減ったからパートスタッフはいらない、というのは誤った判断でしかありません。パートスタッフが担ってきた役割を変化させることで、少しでも人的リソースを補う、という考え方が求められるのです。
3.何がパートスタッフを「余剰人員」にしてしまうのか
AIで仕事は変わっているにもかかわらず、多くの税理士事務所ではパートスタッフを従来通り「記帳入力担当」として配置したままです
しかし、この固定化された役割こそが、事務所の生産性向上を阻害している一つの要因になっています。
そこで、ここからはその問題点を整理し、”なぜ役割を見直せないのか”という構造的原因を考えていきましょう。
■ 記帳入力に固定すると生じる問題
記帳入力の価値が下がり、パートの成長機会が失われる
AI・クラウドの発展により記帳入力が”人がやるべき仕事”ではなくなりつつあるのに、パートを記帳に縛りつけることで、成長の機会を奪ってしまう。
担当者の周辺業務が減らず、残業が常態化する
担当者の業務は増え続けており、パートスタッフを記帳業務だけに縛り付けておくことで残業は増加します
パートの離職率が上がり、採用コストが増加する
単純作業しか任されない環境ではやりがいは生まれず、定着しません。結果、離職が増え、採用コストは増加してしまいます。
DX推進が進まず、事務所全体の生産性が停滞する
AI・クラウド環境を活かすための”周辺業務”を担当者が担うと負荷が増加し、DXの担い手に慣れないことも多いため、事務所全体の生産性が上がりにくくなります。
つまり、役割を再設計しない限り、AI導入のメリットを十分に享受できないのです。
■ なぜパートを「記帳入力担当」から脱却させられないのか
多くの税理士事務所で、パートが「記帳入力担当」以外の役割を見直せない理由は、大きく分けて2つあります。それが意識の問題と構造的な問題です。
長年、「パートは記帳、担当者は顧客対応」という役割分担で業務が回ってきました。その成功体験があるため、「他の仕事を任せる」という発想自体が生まれにくいのです。
それに加えて、税理士事務所が抱える構造的な原因により役割が固定化されています。
構造的な原因としては、以下のようなものが挙げられます。
担当者制が強すぎて、仕事を切り出せない
業務の標準化が進んでおらず、任せられる形になっていない
教育の仕組みが弱く、育成を前提にしていない
これらを変えない限り、AIが進化しても、 パートは「余剰人員」になり、事務所の生産性は上がりません。
逆に言えば、所長が意識を変え、構造を変えれば、パートは事務所の生産性を支える“新しい専門職”になれる。
4. AI時代のパートは「担当者の生産性を最大化する専門職」へ
AIの導入によって記帳入力のニーズが減少した今、 パートスタッフを従来の「入力担当」として扱い続けることは、 事務所にとって大きな機会損失でしかありません。
AIが代替するのは“単純作業”であり、人が担うべき価値はむしろ 「判断を支える準備・整理・管理の仕事」に移っています。この領域こそ、パートスタッフが最も力を発揮できる部分でもあるのです。
パートの役割を再設計することで、彼らは「担当者の生産性を最大化する専門職」へと進化することができます。
では、具体的にどのような業務をパートに任せることで、専門職への道を拓けばよいのでしょうか。
(1)税務周辺業務の専門担当:担当者の“前処理”を担う役割
税務業務は、担当者が判断する前段階に膨大な準備作業が存在します。この“前処理”をパートが担うことで、担当者の負荷は劇的に減少させることができます。
電子申請の事前準備
月次資料の整理・チェック
書類のスキャン・電子化
顧客情報の更新
税務署・役所への定型問い合わせ
これらは標準化しやすく、属人化しにくい業務です。パートが担うことで、担当者は「判断」に集中できる環境が整います。
(2)DX・AI活用の専門担当:AI時代の新しい職種
AI時代において、パートスタッフが新たな力を発揮しやすい領域の一つが、このDX・AI活用です。理由はシンプルで、AIツールの操作は“短時間でも成果が出る仕事”だからです。
AIによる記帳チェック
マニュアル作成・更新
クラウド会計の初期設定
AIでの顧客向け資料の下書き作成
AIでの議事録作成
これらは担当者が行うと「本来業務の時間を奪う」作業ですが、パートが担うと 事務所全体のDX推進力が一気に高まります。
特にAIチェックやマニュアル整備は、事務所の生産性を左右する重要な業務であり、パートが担うことで“AI導入の効果を最大化”することができます。
(3)事務所運営の専門担当:運営品質を支える役割
税理士事務所の運営には、税務以外にも多くの業務が存在します。これらを担当者が抱えると、判断業務の時間が圧迫します。
パートが担うべき領域は以下の通り。
CRM入力・更新
面談準備(資料印刷・ファイル作成)
郵送物管理
来客対応・電話対応
これらは事務所の“運営品質”を左右する重要な業務であり、パートが担うことで担当者は本来業務に集中することができます。
特に郵便物管理や来客・電話対応などは、雑務としてパートがその役割を担いつつも重視されてこなかった業務です。これを改めて設計し直すことで、運営品質を大きく上げることも可能ではないでしょうか。
パートは“余剰人員”ではなく、AI時代の戦略人材である
パートは、担当者の生産性を最大化する専門職として再設計することで、 事務所の人手不足、DX推進、業務効率化を同時に解決する戦略人材となることができます。
AIが記帳入力を代替する時代において、パートスタッフを従来の役割に固定することは、 事務所の成長機会を自ら放棄することに等しいのではないでしょうか。
5. パートスタッフの役割再設計で事務所はどう変わるのか
パートスタッフの役割を見直すだけで、担当者・所長・事務所全体の生産性は大きく変わります。
この変化は単なる“効率化”ではなく、事務所全体の働き方・成果・組織運営を根本から変える構造改革とも言えるでしょう。
以下では、役割再設計によって生じる具体的な変化を整理していきます。
(1)担当者の残業が減り、判断業務に集中できる
パートが「準備・整理・管理・AIチェック」を担うことで、担当者は本来業務である 判断・説明に集中することができ、顧客対応に十分な意識を割けるようになります。
結果として、 顧客満足度が向上し、紹介・継続率が高まります。
(2)業務が標準化され、生産性が向上する
月次・決算・確定申告の準備工程をパートが担うことで、担当者が着手する前の“前処理”が完了している状態になります。
結果として、
月次の遅延が減る
決算の集中負荷が軽減
業務の波が平準化
という、事務所運営の安定化が実現します。
※特にこの効果は、繁忙期対策を行う上で顕著な変化となります。実際、繁忙期対策に力を入れている事務所の中には、パートの役割を変化させることで繁忙期の残業時間を月50~60時間だったのが20時間程度まで大幅に減らした事務所もあります。
また、書類の電子化やCRM更新を担当することで、書類探しや情報探しの時間も減少します。
さらにAIチェックやマニュアル整備などもパートが担うことで、DXも日常業務として定着しやすくなります。
(3)パートの定着率が向上し、採用コストが減少する
単純作業だけを任される環境では、パートは成長実感を得られず離職も多くなります。しかし、役割再設計によって専門性のある仕事を担うようになると、やりがいが生まれ、成長が可視化され、評価軸が明確になることで定着率が向上します。
採用難の時代において、「辞めない人材を育てる」ことは最も大きなコスト削減といえるでしょう。
(4)所長が経営・営業に集中できる
パートが事務所運営を支え、担当者が判断業務に集中できるようになると、 所長は“本来の仕事”に時間を使えるようになります。
新規顧客の開拓
既存顧客への提案
組織づくり
採用・育成
経営戦略の立案
事務所が成長するための時間が生まれ、 所長の生産性が最も大きく向上します。
パートの役割を再定義することは、単なる業務改善ではありません。人手不足への対応、DX推進、生産性向上、定着率向上など、事務所が抱える複数の課題を一つの施策で同時に改善できる可能性があります。
担当者は判断に集中
パートは準備・整理・管理・AI活用を担当
AIは単純作業を代替
この構造が整うことで、 事務所は次のステージへ進むための基盤を手に入れることができます。
まとめ:AI時代の人材戦略は「パートスタッフの再設計」から始まる
AIが記帳入力を代替する時代において、 パートスタッフを従来の「記帳担当」のままに固定しておくことは、 事務所の成長機会を自ら放棄することに等しいでしょう。AIは単純作業を高速化する一方で、税理士事務所の業務量は、法改正対応・顧客対応・DX推進などにより増加しています。つまり、“人が担うべき仕事”はむしろ広がっているのが現実でしょう。
この環境変化に対応するためには、 パートスタッフを単なる「記帳入力」や、ましてや「余剰人員」と捉えるのはあまりにもったいない話です。AI導入などで省力化できた”余裕”を、担当者の生産性を最大化する専門職として再設計することが不可欠となる時代が近づいているのです。
■ パート再設計は、複数の課題を同時に解決する戦略である
パートの役割を再定義することは、単なる業務改善ではありません。事務所が抱える構造的な課題を、ひとつの施策で同時に解決する“戦略的な一手”です。
人手不足の解消 担当者の作業負荷が減り、採用難の中でも業務が回る。
DX推進の加速 パートがAI・クラウド会計の運用を担うことで、DXが日常業務に組み込まれる。
担当者の生産性向上 判断業務に集中できる環境が整い、顧客対応の質が向上する。
組織の安定化 パートの定着率が上がり、採用コストが減少する。
これらはすべて、パートの役割を再設計することで同時に達成することができます。
■ 今こそ、事務所が次のステージへ進むための転換点
AIの普及は、税理士事務所の業務構造を確実に変えつつあります。この変化を「脅威」と捉えるか、「進化の機会」と捉えるかで、事務所の未来は大きく分かれます。
ただ、AIは導入して終わりではありません。それに合わせてさまざまな構造を変革することで、その恩恵を最大限発揮することができます。そして、パートスタッフの役割を再定義することは、AI時代の事務所運営における最も効果的な投資であり、組織の成長を支える基盤となるのです。
税理士事務所が次のステージへ進むために、 今こそパートスタッフの役割を再設計する時期であるといえるでしょう。
逆に言えば、こうした変化に対応できる事務所と、対応できない事務所の差は、今後さらに広がります。
ただ、いきなり「パートスタッフの役割を再設計する」というのは難しいもの。
実際には……
どの業務をパートに切り出すべきか
標準化やチェックリストをどう整備するか
担当者制との兼ね合いをどう設計するか
AI活用をどこまで任せられるか
組織の抵抗をどう乗り越えるか
こうした論点は、事務所ごとに状況が異なるため「自分たちだけで最適解をつくる」のは難しいのが現実です。
もし、パートスタッフの役割の再設計を進めたいが、どこから手を付ければいいか迷っている、という状況であれば、一度ご相談ください。
事務所の規模、担当者数、業務フロー、DXの進捗度を踏まえ、あなたの事務所に最適な「役割再設計モデル」や「再設計のためのアクションプラン」など、具体的にご提案します。
AI時代に問われるのは、人を減らすことではなく、人の力をどう活かすかです。
この変化をプラスに変え、さらに推し進めるために、パートスタッフの役割の再設計を、”事務所を次のステージに進むための第一歩”として、ぜひご相談ください(初回相談は無料です)。
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