7時間勤務でも成果が出る税理士事務所は何が違うのか
- 斉藤永幸
- 5月27日
- 読了時間: 12分

ここ1か月ほどで何件かの税理士事務所の採用のお手伝いをさせていただきました。
その中の一つに、7時間勤務の事務所がありました。
この事務所の採用は非常に楽でしたね。事務所の希望通り、実務経験4年目の税理士試験科目合格者を採用することができました。それまで勤務していた税理士事務所では勉強時間を確保することが難しかったので、7時間勤務が魅力となったようです。
実際、様々な税理士事務所を見ていますが、7時間勤務を実現している事務所はまだ少数派です。ほとんどの事務所は8時間勤務が当たり前であり、それで大きなデメリットはありません。しかし、7時間勤務の事務所を見ると、実は様々なメリットが生まれています。
「勤務時間を減らせば売上が落ちる」
一般的にはそう考えられがちです。
しかし実際には、7時間勤務によって採用力・定着率・生産性が向上している事務所も少なくありません。
だからといって、すべての事務所がすぐに7時間勤務に舵を切れるのか、というとそうではありません。8時間勤務だった事務所が7時間勤務の体制に移行するには、それなりのステップを踏まなければならないのです。
そこで今回は、7時間勤務でも成果が出る税理士事務所は何が違うのか、を考えることで事務所の体制を見直すヒントを探ってみることにします。
1.勤務時間短縮を実現させたことで得られるメリットとは
「税理士事務所は忙しい」
これは事実です。限られた時間の中で、
・お客様対応
・月次業務
・決算
・申告
・お客様の経営支援
といった様々な業務を成立させなければなりません。
その結果、長時間勤務が常態化しやすい業界といえるでしょう。ちょっと前までの税理士事務所は不夜城と呼ばれ、確定申告時期に泊まり込んで仕事をする、というところも当たり前にありました(もしかしたら今でもそのような事務所はあるかもしれませんが)。
近年ではだいぶマシになってきましたが、繁忙期はもちろん、通常期でも8時間勤務では時間が足りず、残業が当たり前になっている事務所も少なくありません。
しかし一方で、7時間勤務で安定して成果を出している事務所も存在します。
もちろん「暇だから早く帰れる」という話ではありません。
限られた時間の中で効率化を進め、売上や採用力を伸ばしている事務所もあります。 実際、7時間勤務への移行をきっかけに事務所拡大に成功したケースもあります。
そうした事務所に話をうかがうと、7時間勤務には様々なメリットがあるとわかりました。
7時間勤務体制のメリットとしては以下のようなものがあります。
1.生産性の向上
長時間労働よりも限られた時間で成果を出す意識が高まり、そのために必要な環境を作ることで無駄な作業が減ってマニュアル化・クラウド化も進みやすくなります。
そして、「件数=評価」ではなく、「効率・お客様満足度=評価」へ転換しやすくなります。
2.採用・定着力の強化
多くの税理士事務所が8時間勤務の中「7時間勤務」「残業はほとんどなし」は募集を行う上で強力な差別化ポイントとなります。その結果、採用力が上がり、人員確保ができることで事務所の拡大速度が増します。同時に「応募者の質が変わった」という報告も受けております。
例えば、
・勉強意欲が高い
・長期志向
・成長意欲が高い
・AIやDXに関心が高い
そのような人材は7時間勤務の事務所への応募が多いですね。
また資格取得のための勉強時間の確保や、家庭と仕事の両立がしやすくなるため、若手・女性スタッフへの訴求力が増し、離職率が下がります。
その結果、職場に余裕が生まれ、スタッフの疲弊リスクも下がります。
3.経営の持続性
7時間勤務はスタッフが疲弊しないため、お客様対応の質が向上した、という話もよく聞きます。その結果、お客様満足度が上昇。顧問料の見直しを行ってもお客様の解約率は低いまま、ということもよく聞きます。
同時に、スタッフの離職率が低下するので、長期的な人材育成が可能になります。新人を丁寧に指導する余裕も生まれ、トータルの教育コストが下がる、という指摘をする事務所も多いですね。
さらに突発的な問題が発生した時も、スタッフに余裕があるため素早く対応でき、リスクマネジメントの観点からも7時間勤務は経営の持続性に大きな効果を与えているようです。
このように様々なメリットのある7時間勤務体制ですが、単純に労働時間を減らしただけでは当然のように売り上げは下がります。
では7時間勤務を実現し、しっかりと成果を出している事務所は何が違うのでしょうか。
2.長時間労働=成果ではない
7時間勤務で残業がほとんどない事務所の特徴を見る前に、8時間労働・残業が常態化している状態から脱却できない事務所の特徴から見ていきましょう。
・忙しさに追われ非効率が放置されやすい
・「昔からこうやっている」が残っている
・所長しかできない仕事が多い
・確認作業が多すぎる
・同じ説明を何回もしている
これらは単純に時間を奪う行為です。
その結果、どんなに時間をかけても成果が上がりません。つまり「時間をかける」と「成果を出す」ということは別問題なのです。どんなに時間をかけても成果につながらない、そのような状態で7時間勤務を導入すると、一気に破綻してしまいます。
まずは長時間労働=成果ではない、という認識を持つことが第一歩となります。
3.7時間勤務の事務所は”仕事を減らす”という視点を持っている
長時間労働の事務所で問題なのが、評価軸の中心が「頑張る」です。
「長時間頑張っている人」が評価される文化では、効率化の発想が生まれにくくなります。
しかし本来評価されるべきなのは、長く働くことではなく、成果を出すことです。
実際、長時間勤務は思考停止して単純に「頑張り」が支えていることが多いのです。
その結果、
・やらなくていい仕事
・減らせる仕事
・任せられる仕事
・AIで簡略化できる仕事
がいつまでも手を離れず、ずるずると勤務時間が長くなってしまいます。
それに対し、勤務時間の短縮化に成功している事務所は、仕事内容によって、どれをやるべきか、どれならやらなくてもいい作業か、を見極めています。例えば、
・説明メールのテンプレ化
・チェックリスト化
・会計処理ルールの統一
・マニュアル化
・AIによる文章作成
・資料整理の標準化
こうしたものは一度整備してしまえば、以降の作業を大幅に圧縮することができます。
整備をすることによって”仕事を減らす”という視点を持ち、負担を減らすことで成果を上げることができる体制を作っているのです。
これはスタッフの作業だけではありません。
お客様対応にしても同様です。
長時間勤務が常態化している事務所では、「お客様の要望に過剰に寄り添う」ことで成果を伸ばそうとしています。これは一見、悪いことではありませんし、それでお客を獲得している事務所も多いでしょう。しかしここで歯止めが利かなくなってしまっているケースもよく見られます。
「お客様の無茶な要望に対し、断ることができない」
その結果、本来の業務以上の対応が発生し、それが常態化します。
しかしお客様はそれを「当たり前」と感じるため、必ずしも顧客満足度向上にはつながりません。
さらに契約外業務は担当者しか状況を把握していないことも多く、属人化が進行します。
結果として、担当スタッフが疲弊し、離職につながるケースも少なくありません。
(参考記事:税理士事務所の経営をむしばむ契約外業務)
逆に勤務時間の短縮化に成功している事務所は、しっかりとした”設計”を行い、どこからどこまでが自分たちが提供するサービスで、それ以上は別料金、など成果を上げる仕組みを作り上げています。
以前の税理士事務所の価値観では「仕事を増やす」ということは美徳であり、「仕事を減らす」ということは怠け者の発想だと考えられてきました。夜遅くまで働く、お客様の要望を断らない、そういう姿勢が「頑張っている事務所」と評価されることが多く、それが効率化を阻んできたのです。
しかし現在では、人手不足や競争環境の変化により「限られた時間で成果を出せる組織」のほうが強くなっています。
4.所長が全部抱える事務所は長時間化しやすい
もう一つ、長時間労働が常態化している事務所の特徴が「所長が優秀で意欲が非常に高い」ところが多いですね。
その結果、所長の役割が非常に広範で、中には所長が全て抱えてしまっている、という事務所もあります。こうした事務所では、一見するとスタッフの負担は低そうです。所長自身も「スタッフに苦労を掛けたくないから自分が頑張っている」と考えている人もいます。
しかしこのような事務所では何が起きるのでしょうか?
・所長の確認待ち
権限が所長に集中すると、確認待ちが増えます。
その結果、スタッフが動けず、「待ち時間」が発生します。
これが長時間労働の原因になっているというパターンも多いですね。
・判断基準が共有されていない
権限が所長に集中していれば、あえて判断基準を明確にする必要はありません。判断できる基準は所長の中だけにあり、スタッフが判断する機会が減ります。その結果、スタッフが育たず、これくらいだったら所長はOKだろう、という”感覚”頼りになり属人化が進んでしまいます。
一見するとスタッフの負担を減らしているように見えて、結果として長時間労働を固定化してしまうのです。
だからこそ「任せる仕組み」を作る必要があります。
スタッフに仕事を任せ、所長の負担は少ない。そうした事務所ほど、実際はスタッフの労働時間は減り、疲弊は解消され、離職率は低下しています。
5.短時間勤務を成立させる条件は”教育”
このように、8時間勤務を選択しているのではなく、脱却できない事務所、長時間勤務が常態化している事務所はそれなりの原因があります。逆に7時間勤務や残業時間なしなど短時間勤務を成立させている事務所はしっかりとした”仕組み”があります。
そしてその”仕組み”の基盤にあるのは教育です。
短時間勤務は「楽をする制度」ではありません。
スタッフの疲弊を軽減し、効率的に組織を運営し、成果を上げる。そのための選択肢の一つです。これをしっかり機能させるには、スタッフ一人ひとりの能力向上とそれを支える基盤がなくてはなりません。
特にスタッフには、
・判断力
・基礎的な実務能力
・共通ルールを把握し守る能力
・情報共有の重要性の周知
といったものが求められます。
そのため教育不足のまま時短だけを導入すると、一気に崩壊します。
単純に労働量が減少し、お客様からの要望に応えられなくなり成果は上がらなくなり、利益は下降します。
特に、
・マニュアル化
・チェックリスト
・定例共有
などは最低限、備えておかなければいけないものとなります。
また「小さな改善を積み重ねていく」という意識を共有し、事務所全体で取り組む必要があるでしょう。
それができてはじめて、成果を上げつつ短時間勤務を成立させることが可能となります。
6.システムやAI活用は余裕を生み出す
また、短時間勤務を成立させている事務所では、システムやAIの活用に積極的なところも多いのが特徴です。
人間がそれまで行ってきた作業をシステムやAIに置き換えることで、人は余裕を持って”人にしかできない業務”に集中する、といった仕組みが取り入れられています。
AIをうまく活用している事務所ほど、「AIに任せる仕事」と「人がやるべき仕事」の切り分けができています。
例えば、
・メールの下書き
・要約
・説明文
・議事録
・マニュアルの作成
こうした様々な文書を一から作成しようとするとかなりの時間がかかります。
これをAI化することで、かなりの省力化ができ、作業負担を減らすことができます。
その結果、人はお客様対応や後進指導など「人にしかできない仕事」に集中できます。
余裕が生まれることで、さらに効率化も進みます。
まとめ:本当に大切なのは”働く時間”ではなく”継続できること”
一般的な8時間勤務だけならそこまで大きなマイナスの影響はありません。しかしここに残業の状態化などが加わると、一気に問題が広がります。長時間労働は短期的には”がんばり”だけでなんとか回ってしまいます。
例えば繁忙期の2~3月などは、まさにこの状態といえるでしょう。
しかしこれが長期間になると、
・疲弊
・勉強時間不足
・属人化
・離職率の上昇
などにつながってしまいます。
そして事務所が”弱くなる”のです。
だからこそ労働時間についての考え方としては「無理をさせられる時間」ではなく「続けられる働き方から導き出された時間」として考えていく必要があります。
7時間勤務は採用面で強い武器になります。
ただし、本当に重要なのは「7時間か8時間か」ではありません。
重要なのは、「短時間でも回る組織」を作れているかどうかです。
実際、8時間勤務でも採用・定着に成功している事務所は多く存在します。
問題なのは、労働時間を短くしたくても短くできない状態です。
こうした事務所はなんらかの問題を抱えていることが多く、その問題についての意識を持っていなかったり、軽視していることも多いのです。
それ自体がリスクを大きくしてしまっています。
今後、税理士業界では高齢化と人材不足がさらに進み、人材獲得競争はますます激しくなるでしょう。
さらにAIやクラウド前提で働き方はどんどん変わっていきます。
そんな中、長時間労働で労働力を確保する事務所は徐々に衰退し、「長く続けられる組織」でなければ生き残れない時代が来るのではないでしょうか。
だからこそ、
・所長依存
・属人化
・残業が常態化
・離職率が高い
・採用ができない
このような問題を抱えている事務所はすぐにでも手を打つ必要があります。
そのための指標が、7時間勤務なのです。
TaxOffice-Supportではそのような事務所のサポートを行っております。
まずは無料相談からお気軽にお声をおかけください。
組織改善、AI活用、採用支援、あなたの事務所に合ったサポートで、事務所を”強くする”お手伝いをいたします。
関連記事



コメント