税理士事務所の福利厚生を再設計する方法|離職・採用難を解決する実践ステップ
- 斉藤永幸
- 10 時間前
- 読了時間: 10分

税理士事務所では、スタッフを大切にしているところも多く、規模に対して福利厚生を充実しているところも多いです。一方で、福利厚生は事務所の利益に何ら貢献しないから最低限しかやっていない、というところも。事務所によって差が非常に大きいのが特徴です。
しかし税務会計業界はもともと離職率が高く、ここ数年は採用が難しくなっています。また繁忙期の負荷は他業界に比べても非常に”重い”という特徴があります。また、そもそも日々勉強に取り組まなければあっという間に取り残されてしまいます。そのためスタッフ一人ひとりにかかる”学習コスト”が非常に大きいのです。
そのため近年では”福利厚生=コスト”ではなく、福利厚生によって働く環境を整備し、生産性を上げていく”投資”というように考え方自体が変わってきています。
では自分たちの事務所の福利厚生をどのように捉え、再設計していけばよいのでしょうか。
三行まとめ
・税務会計業界の福利厚生は事務所によって差が大きい
・離職が多く採用難、繁忙期の負担が大きい、学習コストが大きい
・福利厚生=コストから”投資”に意識が変化してきている
現状分析:なぜ税理士事務所の福利厚生は機能しないのか
税理士事務所の福利厚生は、事務所経営にとっては優先順位は低いと考えられてきました。利益を生み出さず、まさに所長の”思いやり”に支えられたスタッフへの支援だったのです。そのため一度制度として設定されてしまうと、それが使われなかったとしても改革などは後回しにされがちなのです。
その結果、使われていない補助金や資格支援などが残り続け、実態とずれた制度となってしまうのです。
また、事務所の規模に合っていない福利厚生の事務所もありますね。
ある程度の規模になっているにも関わらず、福利厚生がまったく整っていない事務所もあれば、小規模にも関わらず福利厚生だけは整っている、そんな事務所もあります。
福利厚生はやはり事務所の規模と連動させることで、使い勝手の良いものになります。
もう一つのパターンは、スタッフのニーズを把握していないことで起きるものです。
以前訪問した事務所では、旅行が趣味の所長の一存でリゾートクラブの会員権を事務所で購入。福利厚生としてスタッフ自由に使えることになっていました。しかしスタッフは長期の休暇を取ることも難しく、また資格取得に挑戦中の人が多かったため休みの日は勉強に充てていることがほとんど。若手中心の事務所で高いリゾートクラブの施設を使うより、フットワーク良く使える宿のほうが好まれた、というのもあります。
このように”制度はあるが運用が弱い”というのが、税理士事務所の福利厚生が機能していない典型的なパターンです。
福利厚生を”再設計”する3つのステップ
このように”使われない”福利厚生は、コストだけ生じ、まったく生産性や採用力の強化に寄与しません。だからこそ、福利厚生を機能させるために再設計が必要なのです。
ではどのように再設計を進めていけばよいのでしょうか。
私は次の3つのステップを踏むことをお勧めしています。
STEP1:現場の課題を可視化する
何をおいてもまずやらなければいけないのが、スタッフのニーズを把握することです。
そのためにはスタッフがどんな業務でどんなストレスを抱えているのか。これを把握しないことには何も始まりません。
ストレス構造の見える化
業務フローの棚卸し
STEP2:事務所の戦略と福利厚生を紐づける
福利厚生は所長の好意による制度ではなく、事務所にとっての投資です。この視点を欠くと、福利厚生は属人的なものとなってしまい、一定の人だけしか使えない、というものになってしまいます。
投資である以上、目的をもって制度を検討しなければいけません。福利厚生の精度は、一つひとつ効果は違います。事務所の方向性に合わせ、制度を選んでいく必要があるのです。
採用強化型
定着強化型
生産性向上型
STEP3:制度を“使われる形”に落とし込む
単に制度が”ある”だけでは、福利厚生は効果はありません。しっかりと目的を達成するために”使われる”制度にしなければならないのです。
そのためには運用ルールを明確化し、利用しやすい仕組みを作りましょう。またスタッフにはしっかり周知を行い、制度の浸透を図っていく必要があります。
運用ルールの明確化
利用しやすい仕組み(申請の簡略化、周知方法)
図解・マニュアル化で浸透を促す
税理士事務所と相性の良い福利厚生の実例
ここまでの解説でご理解いただけていると思いますが、税理士事務所の福利厚生は”豪華さ”とりも”現場のリアルなこまりごとを解決するかどうか”が重要なカギとなります。税務会計業界は特に繁忙期の負荷・学習コスト・働き方の柔軟性がスタッフの定着や採用力の強化につながりやすいですね。
そこで実際に効果が上がりやすい福利厚生を紹介します。
1. 柔軟な働き方(時短・リモート・コアタイム制)
応募者が最も重視するポイントです。特に子育て世代・経験者の応募率が跳ね上がることが多いですね。普段の休みは多く「繁忙期だけ出社多め」など現実的な運用をすると、効果はさらに高まります。
逆に、フレックスタイム制を導入していても、コアタイムを10:00~16時など長時間に設定していたりすると、スタッフの裁量で1時間程度しか出勤時間を調整するくらいしかできず、あまり効果は上がらなくなります。
実施例
時短勤務
リモートワーク
コアタイム制
2.繁忙期の負担軽減策
税理士事務所ならではの“痛点”を解消するのが、この繁忙期の負担軽減策です。「繁忙期の扱いが丁寧な事務所」は口コミで広がりやすく、SNSなどの運用と組み合わせるとかなり効果は高くなりますね。実際に、繁忙期のUberEats補助、21時以降の帰宅タクシー代支給などをやっている事務所は、スタッフからの評価も高く、定着率も上がったそうです。
実施例
食事補助
タクシー代
AIツール導入で残業削減
3.資格取得支援(受験費用補助・専門学校割引・学習時間確保)
採用などで若手の応募が増やそうと思ったら、この資格取得支援は効果が高いです。勉強と仕事の両立ができる事務所、は圧倒的に人気です。また、資格取得後のさらなるキャリアパス支援などと組み合わせることで、長期的に働ける事務所として心理的安全性を高める効果もあります。
実施例
受験費用補助
学習時間確保
(過去にこれについて記事もアップしているので参照してください)
4. メンタル・健康サポート
離職防止に直結するのが、このタイプの福利厚生です。「ストレスケアに強い事務所」は、採用においても求職者の安心感が高いですね。以前の記事に書いた『ストレス構造の見える化』と並行して導入すると、相乗効果で、さらに有効な福利厚生となります。
実施例
カウンセリング
健康診断オプション
ストレスケア制度
5.ライフサポート
安定した生活ができるか、というのはスタッフにとって一番の関心事。そこをケアすることで、特に家庭を持っている30~40代の中堅層のスタッフに効果を発揮するのがこのライフサポートです。
ただ、副業支援OKなどは若手にも効果がありますね。
実施例
家賃補助
子育て支援
副業OK
6.スキルアップ支援
今の求職者は「成長できる環境」を最重視しています。ただ、資格取得支援を行っている事務所は多いので、それだけだと効果は弱いです。そこで福利厚生でスキルアップ支援をすることで他事務所との差別化を図るというのは効果的です。特にAI活用やMAS会計はポイントとして強いですね。ここを打ち出すことで求人力が一気に上がります。
実施例
AI・MAS研修
外部のコミュニケーション講座などの受講料支援
税理士以外の資格取得の支援
他の事務所への3か月間の研修派遣
方向性 | 合う福利厚生 |
採用強化型 | 柔軟な働き方、資格支援、リモート |
定着強化型 | メンタルケア、1on1、子育て支援 |
生産性向上型 | AI導入、繁忙期軽減策、業務改善 |
福利厚生の再設計で成果が出た事務所の変化
採用力のアップ
まず、福利厚生の効果として一番わかりやすいのが求人に対する応募者数の増加です。
ある事務所では、待遇福利厚生として、昇給年1回、賞与年2回、社保完備、交通費支給、くらいしかありませんでした。しかし様々な福利厚生を採用し、制度化することで『福利厚生が充実』した事務所として打ち出したことで、応募者数は激増しました。
それまでどんな媒体で求人を出しても応募は2~3名でしたが、福利厚生の充実を打ち出した後は、コンスタントに10名以上の応募が集まるようになりました。
離職率の低下
結婚して子育てになると、男女ともに離職率が高かったある事務所。そこで時短勤務とフレックスタイム制を採用。近年では子育てに参加したい男性も多く、子供を保育園・幼稚園に送ってから余裕をもって出勤できるようにしたところ離職率が大幅に下がりました。
そこで事務所では、男性の育休取得も推奨することで、子育てに理解がある事務所として(経験者採用では特に)採用力も高まりましたね。
所内のコミュニケーションが活性化
それまでも事務所として資格取得の支援には力を入れていました。所内の有資格者も増え、専門性は高まりましたが、何年かかっても資格取得がうまくいかないスタッフの離職が続いているのが問題でした。
そこで税理士資格取得以外のキャリアパスを提示しようと、福利厚生のためにスキルアップ支援を導入したところ、スタッフは様々な外部講習を活用するように。離職率の低下税務・会計以外の分野でも知識やノウハウを持った人材が在籍していることで、それが強みとなって競争力は高まり、同時に所内で質問や相談が飛び交うなどコミュニケーションが活性化しました。
まとめ:福利厚生は恩恵ではなく、働き方のデザイン
福利厚生はなくて当たり前。あればラッキー。中小の税理士事務所にとってそんな時代が長かったのも事実です。
しかし福利厚生は求職者に大きな訴求効果があります。同時に、離職率や所内の活性化、時には生産性にも大きな影響を及ぼします。そのため近年では私たち、TaxOffice-Supportにも寄せられることの多い相談です。特に近年では、事務所の課題解決のために福利厚生を使いたい、というご要望も多くなってきていますね。
下の図を見てください。この図は、繁忙期の負荷が離職につながる構造を示しています。

これは繁忙期の負荷が増大している事務所が、どのようにして離職するのか、の因果関係をシンプルにまとめた図になります。
繁忙期の負荷がコミュニケーション不足を招き、業務の属人化を進め、学習コストを増大化させ、離職につながっています。福利厚生を使うことで、この関連性を断ち切ることができるのです。
繁忙期の負荷を減らし、心身の疲弊に対してケアを行い、コミュニケーション不足を補い、学習コストをスタッフに押し付けない。福利厚生でケアを行うことで、事務所にとって大きな問題となる離職を防ぐのです。
こうした再設計を全体的に行うには、ノウハウも必要ですし、様々な事務所を見てきた知見が求められます。そのため自分たちで福利厚生を再設計しようとするのであれば、やはり小さく始めて改善していくことが重要になります。「まず1つ変える」。そのアクションが重要です。ちょっとした福利厚生の改革であっても、事務所が変わっていくという姿勢を見せることで、スタッフが今後”事務所が良くなっていくんだ”という希望を見いだせるからです。
ただ、全体的な見直しの方が効率的ですし、変化の実感も大きくなります。もし大きく福利厚生を再設計したい、という方。また、「福利厚生を見直したいけど、何から始めればいいか分からない方は、無料相談からお声をおかけください。課題の抽出、現状分析、福利厚生改善の提案、導入・実行、アフターフォローまでしっかり伴走しますよ。
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