税理士事務所の経営をむしばむ契約外業務~チェックリスト付き解説~
- 斉藤永幸
- 4 日前
- 読了時間: 10分

最近、ある税理士事務所の所長からこんな相談を受けました。
「スタッフはしっかり頑張ってくれているし、残業もそこそこ多いんだけど、利益があまり上がらないんだよね」
そこで詳しく話を聞いてみると、一人ひとりのお客様に対してかけている時間が非常に多かったのです。通常の月次でかかる時間に比べ、時には何時間も対応に時間を費やしており、その結果うまく仕事が回っていなかったのです。
実際に業務の中身を見てみると、そのほとんどが”契約外業務”でした。
契約外業務が非常に多く、それがスタッフの負担となっており残業が発生。スタッフ一人当たりの担当件数を増やすことができず、利益は上がらない。それでいて忙しいという状況だったのです。
なぜこのような状態が起きるのでしょうか?
そしてこうした契約外業務に対して、どのように考えていくべきなのでしょうか?
税理士事務所は契約外業務が多くなりやすい土壌がある
相談してきた所長は別に能力が低いわけでも、何か大きな欠点があるわけでもありません。それでもこうした事態に陥ってしまったのには、以下のような業界特有の問題があります。
「税務相談」「経営相談」「記帳サポート」など、範囲が広い言葉で契約している
顧問料に“何が含まれているか”が明文化されていない
事務所側と顧客側で「当たり前」の認識がズレる
経営をサポートするのが税理士事務所の役割。
そこが拡大解釈されて、お客様からの要望にすべて応えるのが当然、といった風潮があります。それ自体は悪いことではないのかもしれません。しかし、その結果が現場のスタッフにのしかかっているのです。
根本的な問題として、契約の範囲が不明確なことが多いのです。
深刻なのが事務所側とお客様側で「これくらい当たり前」という認識のズレです。「ちょっとこれだけ」「ついでにこれも」「ちゃちゃっと5分くらいでできるでしょ」というようにちょっとした頼まれごとが積み重なって、月間でみると数時間もの無償労働に化けていたというケースも多いのです。
しかし、お客様にはまったく悪気はありません。むしろそれくらいは”顧問料に含まれている”と思っているのです。
ただ、そうした事務所は同時に、事務所側にも問題を抱えていることが多いですね。その原因を一つひとつ見ていきましょう。
●スタッフが断れない・判断できない

契約外業務が多くなる原因として、スタッフが挙げられます。これはスタッフ一人ひとりの能力が低いからでも、何か悪意がある、というわけでもありません。事務所が「どこまでが顧問契約の範囲か」をスタッフに明示していないため、スタッフが断れない・判断できないのです。
実際に問題のある事務所では「スタッフが断る」という文化がなく、善意で「お客様のためにできることは全部やる」とばかりに様々な頼まれごとに応じていたのです。
その結果、さらなる問題を引き起こすことになります。それが属人化が進む、ということです。
ちょっとした頼まれごとを受ける
→あるスタッフが快く引き受ける
→無償対応の前例となる
→他のスタッフは「あの人は無償でやってくれたのに」と言われてしまう
結果、お客様と一部のスタッフだけが”あ・うん”の呼吸で仕事が進む、という土壌が生まれてしまうのです。
●業務の見える化が弱く、工数管理がない
先ほどの相談を受けた税理士事務所の所長の事務所が、まさにこのタイプでした。
開業から4年、スタッフ数が6名、堅実な経営で徐々に成長してきた事務所です。ただ、日々の業務が忙しく、なかなか労務管理のシステムなどを導入できず、工数管理などができていなかったのです。
そのため「どのお客様にどれだけ時間を使っているのか」を把握できませんでした。
「忙しい理由」が見えず、契約外業務が原因だと気づけない。
その結果、問題がかなり深刻になるまで気づけなかったのです。
ただ、不幸中の幸いだったのが、これが原因となってスタッフの離職、という最悪の状況の一歩手前で気づくことができた点です。この状態が続くと現場のスタッフには大きなストレスがかかります。忙しいのに給与は上がらない、ゴールが見えない、そのような職場は退職して転職しよう、と考える人が出てもおかしくないのです。そうなっては事務所は大きなダメージを受けます。
●顧問料と業務量のバランスが崩れている
あなたの事務所は顧問料の見直しをやっていますか?
一度契約をしてしまうと、料金の値上げをなかなか言い出せず、ずっと料金を据え置きにしている、という事務所は意外と多いのです。顧問料の交渉などは、時に契約解除といった事態を招くため、所長やマネージャークラスの人でしかなかなか行うことができません。しかし所長は忙しく、小規模事務所ではマネージャーなどの役職が整備されていないため、料金交渉をまったくしていない、という事務所も珍しくありません。
その結果、お客様の規模が拡大しても、契約内容の見直しが行われず、業務量が膨れ上がっているということも起きてしまうのです。 顧問料や契約の見直しについては、こちらの記事も参照ください:税理士事務所の顧問料値上げを成功させる“心理設計”完全ガイド
契約外業務を防ぐ実務的な対策
税理士事務所の所長が契約外業務について問題意識を持つときは、ほとんどの場合、事態がかなり深刻になっている状態です。そのためロードマップを組んで段階を踏んで、というよりは多数の対策を同時並行的に進めていくことがほとんどです。その際のポイントとなるのが「今まさに改善を行っている」ということをスタッフに”見える”ようにすること。
契約外業務が積み重なっている状態では、スタッフに過度のストレスがかかっています。それに対し、事務所としても問題意識をもって改善する姿勢を見せ、意識を共有しつつわずかでも離職などの”猶予”を稼ぐのです。
ただ、この記事を読んで問題意識を持った方は、段階的に対処するだけの余裕もあります。
①契約書の業務範囲を具体化する
↓
②追加料金で発生する業務を一覧化
↓
③スタッフ向けの対応ルールの作成
↓
④断り方のテンプレートを用意
同時並行で、
⑤工数管理で契約外業務の見える化
⑥年1回の契約見直し面談を制度化
と進めていくと効率が良いでしょう。
ではそれぞれの段階を順番に見ていきましょう。
①契約書の業務範囲を具体化する
お客様が考える業務範囲と事務所が考える業務範囲がズレている、というのはよく発生します。例えば、月次顧問契約とだけ契約書に記載されている場合、どこまでが月次顧問の業務なのか事務所によって範囲が異なっているのです。
例えば、記帳なども月次に含むところもありますし、自計化が進められて記帳はお客様が行い月次は試算表の作成から、というところもあります。あいまいになりやすい項目は必ず契約書に盛り込み、具体的な記載を行うようにしていきましょう。
例えば、
給与計算
年末調整
税務調査立会
補助金申請
金融機関対応
経営計画作成
記帳代行の範囲(資料の形式・締切)
他士業とのパイプ役
これらは境界があいまいになりやすいので、月次顧問契約に含まれるのか、それとも業務範囲外として別料金になるのか、を切り分けていく必要があります。
<記事の最後にチェックリストをダウンロードできるようにしてありますので、こちらも合わせてご利用ください>
②“追加料金が発生する業務”を一覧化して提示
何が顧問契約の業務になるのか、の切り分けを行ったら次にそれを一覧として提示していきます。
お客様にとっても「何が有料か」が一目でわかるようになり、お客様自身も気づかなかったニーズを掘り起こすこともできる場合があります。
また、スタッフも判断しやすくなるので、メリットは大きくなります。
顧客にとって「何が有料か」が一目でわかる
事務所側もスタッフが判断しやすい
価格表をHPやPDFで共有すると効果大
③スタッフ向けの“対応ルール”を作る
次に行うのがスタッフ向けの対応ルールの作成です。
一覧などを使っても、それをスタッフが活用できなければ意味はありません。どの依頼を受けていいのか、どんな状況では断るのか、といったことをルール化します。これを行わないと属人化が進み「あの人は無料で引き受けてくれたのに」となってしまいます。
どの依頼は受けてよいか
どの依頼は上長にエスカレーションするか
無償対応の上限(例:月10分以内の軽微な質問のみ)
追加料金の案内テンプレート
④“断り方のテンプレート”を用意する
スタッフが断れない理由は、「断ってもいいか判断できない」ことと「断り方がわからない」ことです。
③を実施することで判断基準はできたので、次に「断り方」のテンプレートを作り共有していきます。
例:
「こちらの内容は顧問契約の範囲外となるため、追加料金のご案内をさせていただきますね。」
「今回のご相談はスポット業務となりますので、担当者からお見積りをご案内いたします。」
テンプレート化しておくと、誰でも同じ品質で対応できるようになります。
⑤工数管理で“契約外業務の見える化”をする
①~④を行うことで、当面の課題は解決に向かうでしょう。しかしそれで安心していると、再び契約外業務の範囲は拡大していきます。そのため工数管理を行い、状況の変化を見える化しておくことが必要です。
顧客別の時間を記録
契約外業務が多い顧客を特定
契約見直しの根拠データとして使える
⑥年1回の“契約見直し面談”を制度化
お客様の規模が拡大すれば、業務量が増えるのは当然です。そのためお客様との契約内容についても年に1度見直しを行うために面談を定期的に実施していきましょう。
顧客の規模・依頼内容の変化を確認
顧問料の改定を自然に提案できる
「いつでも値上げされるのでは?」という不安を顧客が持たなくなる
最終的に目指す状態
税理士として独立・開業したばかりのころは、細かく料金などを決めず、お客様との信頼関係で仕事を進めるということが多いと思います。そのため契約範囲についても曖昧な状態が多い、という事務所も多いでしょう。しかしそれは、所長が前線に立ち、どんなお客様かを理解し、お客様もまた事務所の事情を理解しているような状態でこそ成り立ちます。
規模が徐々に拡大し、所長ではなくスタッフがお客様対応のメインとなると、その前提が崩れてしまいます。その結果、曖昧な部分が拡大し、現場のスタッフに過度の負担がかかるようになってしまうのです。
そのため個人事務所・小規模事務所から中規模事務所に脱却するには、この「契約業務の範囲」の確定は避けて通ることはできません。
中には「細かいところまで契約で定めるのは冷たい印象を持たれてしまうのでは」と心配する人もおられるかもしれません。しかし範囲を明確に区切って透明性を高めることで、お客様との関係がむしろ良好になることも多いです。
逆に、それを不服とするお客様は「事務所に無理をさせても安くあげたい」という考え方が根本にあるので、対応に注意が必要です。
目標
顧客が「何が顧問料に含まれるか」を理解している
スタッフが迷わず判断できる
契約外業務が可視化され、値上げや契約変更がスムーズ
無償対応の“前例”がなくなる
『契約外業務を防ぐためのチェックリスト」をダウンロードできるようにしています。
このチェックリストを使ってみて、該当しない項目が多いようなら危険信号。
早急に対策を練らなければいけません。
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