SWOT分析を税理士事務所で活用
- 斉藤永幸
- 12月7日
- 読了時間: 7分

フレームワークを活用しよう
ビジネスシーンでは当たり前のようにフレームワーク。しかし税理士事務所では、活用しているところは少数のようです。新規の事業展開や課題解決などが常に求められる企業では、フレームワークによって思考を進め、課題に対処していきます。しかし税理士事務所では、長く「定型的」に仕事を進めるだけで成り立つ仕事でした。記帳・入力がメインの事務所であれば、事業を拡大するのであれば単にお客様を多く獲得し、そこにあてる労働力を確保する、という単純明快さがあったのです。
しかし近年では、税理士の業務といっても付加価値が求められ、よりお客様のビジネスへの理解が求められるようになってきています。そのためマーケティング視点を取り入れ、急速に業績を拡大している税理士事務所と、従来のポジションで成長できず苦しむ事務所の二極化が進んでいます。
こうした環境の変化にどう対応していくべきか。それには常に競争にさらされ続けてきた企業の思考を取り入れるべきでしょう。特にマーケティングなどで活用されている「フレームワーク」は税理士事務所の所長であれば、学んでいて損はありません。
フレームワークとは、目標達成や課題解決に役立つ思考の枠組みのこと。単に「どうすればいいか」を考えても、答えはなかなか出ません。しかし順序だてて思考を進めることで、解決策が導き出されるものもあります。その思考の枠組みがフレームワークなのです。
フレームワークには非常に様々な種類があり、解決すべき課題や目標によって使い分ける必要があります。さらに毎年のように新たなフレームワークが登場して、それを負い続けるのは困難です。そのためお勧めしたいのが、基礎的なフレームワークを学びつつ、その場に応じて新たな情報を仕入れ、使い分けていく、というやり方です。
基礎的なフレームワークには、SWOT分析や3C分析、PEST分析などがありますが、税理士事務所所長が最初に身につけるならSWOT分析でしょう。
非常に汎用性が高く、現状把握に最適なフレームワークの一つです。課題やリスクを可視化し、今後どう事務所を運営していけばいいのか、といった戦略を立案することができるようになります。実際、私が税理士事務所から、経営について相談を受けた際、まず行うのがこのSWOT分析です。ではどのようにして分析をしていくのか、見ていきましょう。
SWOT分析とは
まずはこのSWOT分析とはどのようなものなのか、から説明していきます。
まずは自分たちの置かれている状況、つまり内部環境や外部環境をそれぞれ強み(Strength)、弱み(Weakness)、機械(Opportunity)、脅威(Threat)の4つの要素に分けます。これにより事務所の置かれている現状を把握する、というフレームワークになります。
強み (Strengths) 内部環境のプラス要素 | 弱み (Weaknesses) 内部環境のマイナス要素 |
機会 (Opportunities) 外部環境のプラス要素 | 脅威 (Threats) 外部環境のマイナス要素 |
この内部環境と外部環境の違いは、自分たちでコントロールが可能かどうか、で決まります。これを元にSWOTそれぞれの枠を埋めていきます。
例えば、ある税理士事務所をSWOT分析してみると、このようになりました。
強み (Strengths) 歴史が長い事務所なので、お客様からの信頼が厚く継続率が高い | 弱み (Weaknesses) ルーティンワークが多いため、定型外の業務への対処能力が低い |
機会 (Opportunities) 事務所のある地域は再開発され、人口が流入し、潜在的なお客がいる可能性が高い | 脅威 (Threats) ネットで格安サービスの税理士に新規顧客がとられている |
実際にはもっとヒアリングを行い、詳細なSWOT分析を行いますが、都心から電車で1時間、住宅街の一角にある従来型の税理士事務所だと、このような形になります。
ここで注意したいのが、客観的なデータが重要だということです。上記は例なので、感覚的な言葉になりましたが、詳細に分析をしようとすればするほど、感覚的なものは排除し客観的なデータや事実が必要となります。そうなると可視化といっても、抽象的なものにとどまり、具体的な行動に結びつかない、という可能性もありますね。市場のデータ(例えば地域の経済動向、人口推移)やお客様からのフィードバックなど、客観的な情報をどこまで集めることができるか、によって得られる結果が大きく変わってきます。
ただ、このSWOT分析は、単に現状を把握するだけでなく、これを元に戦略を組み立てていくことができます。それがクロスSWOT分析です。
クロスSWOT分析で事務所の戦略を考えていく
SWOT分析で見えるかした状況を、どのように改善していくべきか。それを考えるのがクロスSWOT分析です。上記の強み、弱み、機会、脅威、を組み合わせることで、戦略を検討できるのです。
それを簡単に表したものが、下の図になります。
強み | 弱み | |
機会 | 積極戦略 (強み×機会) 強みを活かして 機会を最大化 | 改善戦略 (弱み×機会) 機会を活かして 弱みを改善 |
脅威 | 差別化戦略 (強み×脅威) 強みを活かして 脅威に対抗 | 防衛戦略 (弱み×脅威) 弱みと脅威の 悪影響を最小化 |
つまりSWOT分析を行うことで、事務所の強み、弱み、機会、脅威を可視化するのが第一段階。すると自動的に4つの戦略を導き出すことができるのがSWOT分析の優れたポイントです。
これを例として挙げた事務所に当てはめてみてみましょう。
積極戦略(強み×機会)
歴史のある事務所×人口が増え市場が拡大=信頼をベースにしつつあらたな顧客の開拓
改善戦略(弱み×機会)
人口が増えているので幅広い顧客にアピールし、様々なお客様に対応することでノウハウの蓄積を進める
差別化戦略(強み×脅威)
格安サービスは思い切って捨てて、お客様に直接会うことで親身なサービスを重視していく
防衛戦略(弱み×脅威)
これ以上新規の顧客を取られないよう、格安戦略を取り、定型的なサービスメニューを開発する
このように、弱みや脅威といった、一見マイナスに思える点であっても、しっかりと認識することができれば、強みや機会などと組み合わせて新たな戦略に組み込むことができるのです。
ただ、このSWOT分析は、どんな時でも役に立つというものではありません。課題・テーマによってはうまく活用できないこともあります。しかし次のような課題に対しては、特に効果的です。
・新規事業や新サービスの戦略立案
市場参入の可能性や競争力の評価などではかなり活用することができます
・既存事業の見直しや改善検討
現状分析を主眼に置いたフレームワークなので、現状を客観的に評価し改善の方向性を定める際は活用しやすいです
・経営戦略や中期計画の策定
事務所の立ち位置を見える化することができるので、今後の方向性を明確にすることができます。
注意したいのが、SWOT分析は中長期的な計画の策定などで活用しやす野ですが、時間の経過による環境変化で条件が変わった際にはそれを反映できない、という点は注意が必要です。特に外部環境は自分たちでコントロールできるものではありません。
税務会計業界は近年のIT化などによって数年で大きく状況が変わる場合があります。10年以上前はコンピューター会計が事務所の強みとなっていたところも多くありました。しかし今ではそれは当たり前、税理士事務所の前提条件になっており、クラウドなどが発展したことでさらにその先が求められる、といったこともあるのです。そのため定期的に分析を行い、環境に合わせて戦略を見直す必要があります。
また、戦略とはいっても、抽象的な部分が多くなります。これを元に数値に落とし込んだり、誰が、いつまでに、何をする、といったような明確なアクションプランなどを作成するなどしなければ、なかなか具体的な行動に結びつかない場合もあります。
伝統的な税務会計サービスを行う事務所などでは、そもそもマーケティング的視点で分析する、ということに違和感を持つかもしれません。しかし、うまく活用すれば事務所の問題点や課題、強みなどを明確に把握することができ、将来に結びつけることができます。その意味では、税理士事務所の所長やマネージャークラスの人材であれば必ず身につけておきたいものです。
ただ、SWOT分析はフレームワークの基本的なものの一つとはいえ、使いこなすには注意が必要なことも確か。SWOT分析をやってみたいけどどうやればいいかよくわからない。もっと詳しいやり方を教えて欲しい。そのようなご要望がございましたらこちらよりお気軽にご連絡ください。導入から戦略策定といった運用までしっかりサポートいたします。
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