統計データを税理士事務所で活用する(税理士事務所スタッフだったら知っておきたい情報の集め方)
- 斉藤永幸
- 12月15日
- 読了時間: 7分

統計データを活用していますか?
先日、傾向動向調査の記事を載せましたが、予想以上に多くの方からアクセスをいただきました。こうしたデータは税理士事務所の経営に役立つだけでなく、税理士事務所のスタッフを通じてお客様に提供することで、さらに多くの効果を期待できます。近年では経験や勘に頼るのではなく、収集・蓄積されたデータを分析し、それを元に経営上の判断や意思決定を行う経営手法、データドリブン経営が重視されてきています。そのためこうしたデータをいかにうまく活用できるか、が企業にとって大きなカギと考えられているのです。
こうしたデータに基づいた経営は、デジタル技術の活用によって、さらに飛躍します。DXなどによって豊富なデータを収集・蓄積することができ、さらにAI によって活用が進めば、新規ビジネスの創出や新たな事業転換など、様々な選択肢から判断することが可能となるのです。
だからこそ税理士事務所のスタッフは、データについて敏感でなければなりません。
しかし、実際に統計データなどを日ごろから活用できている人はどれだけいるでしょうか?そこで今回は、統計データをどうやって集めるのか、そして使う際の注意点などについてまとめてみました。
データは一次情報ほど価値がある
ネットでは様々な統計データがあふれています。ただ、SNSなどを見てみると、報道からの引用やまた聞きのようなものがあふれています。雑談などで利用するのであればそれでも大きな問題はないでしょう。しかし税理士事務所のスタッフが、業務としてデータを扱うのであれば、より一次情報に近いものを扱う必要があります。
なぜ、一次情報に近いものでなければならないのでしょうか。それは一次情報から遠ざかるにつれ、必ずバイアスがかかるからです。それはマスメディアであっても変わりません。例えば、見出しで「景気が悪化、観光業に深刻なダメージ」という言葉が躍っていたとします。しかし、一年間にかなりの景気DIが伸びていて、その月だけわずかに下がったとしたらどうでしょうか。確かに単月で見れば悪化で、その原因が観光業だったら嘘ではありません。しかしちょっと引いてみれば、まったく違った印象を受けるでしょう。

例えばこの写真は、ある朝のワイドショーで使用されたグラフです(人物が写っていたので一部加工しています)。
このグラフは航空事故の機種別事故件数ですが、一見すると飛行機(小型)が群を抜いて多いように見えると思います。しかし実際に数字を追ってみると、飛行機(小型)よりヘリの事故件数の方が多いことがわかります。この時は小型飛行機の墜落炎上を伝えるニュースだったので、そこを強調したかったためこのようなグラフを作成したのかもしれません。しかし、それでは視聴者に間違った印象を与えてしまうでしょう。
グラフなどは使われている色によって、大きく印象を変えてしまいます。また、3Dグラフなどはかっこよく見えるので簡単に使いがちなのですが、思わぬ誤解を与えてしまうことも多いのです。
こうしたことは日常のように存在します。その中から適切なデータを選び、使用しなければ、思わぬ誤解をしてしまうことがあります。よく「数字は噓をつかない」と言いますが、使い方次第で嘘にも真実にもなるのが数字なのです。
統計データをどこで入手するか
では実際に、信頼性のある情報をどこで入手すればよいのでしょうか?
実は無料で使える豊富なデータを、毎月のように大量に公表しているところがあります。それが公共機関です。公共機関のデータだけに信頼性はかなり高く、またデータのとり方などもしっかり公表されています。
こうしたデータは各省庁のHPから誰でも利用することができますし、最近では政府統計のポータルサイト、e-Stat が便利です。ここは日本の各省が公表する統計データを一元的に集約したポータルサイトで、もちろん無料で利用できます。国税調査や経済センサスといった機関統計をはじめ、人口、世帯、経済、労働といった様々な分野の統計情報を探すことができます。
また、持っていて便利なのが「白書」です。
白書とは政府などが政治、経済、社会の現状や施策について国民に知らせることを目的として公的な報告書です。これはかなり様々な種類が出ているので、すべてを網羅するのは大変です。さらにこの白書は有料なので、すべて集めようと思ったらそこそこお金がかかってしまいます。そのため、自分たちの事務所のお客様に関わりのあるものに絞って参照してみると良いかもしれません。
例えば経済産業省の出している『通商白書』や『ものづくり白書』などは、貿易関係を行っているお客様が多い事務所や、製造業などに関連するお客様が多い事務所なら、一度は目を通しておいた方が良いかもしれません。また、中小企業庁が出している『中小企業白書』や『小規模企業白書』などは、中小企業を多く扱う税理士事務所としてはぜひ持っておきたい一冊です。他にも、資産税分野に強い事務所であれば、国土交通省の出している『国土交通白書』や『土地白書』、お客様に観光業が多い事務所なら観光庁の出している『観光白書』、最近だと太陽光発電事業者が増えていますが、そうしたお客様が多いようでしたら環境省の出している『環境白書』など、ですね。
他にも地方自治体が発行しているものもあります。例えば『東京都環境白書』(東京都環境局)や、『横浜市民生活白書』(横浜市)などもあります。さらに民間団体でも東京証券取引所の『東証上場会社コーポレートガバナンス白書』なども場合によっては参考にしてみても良いでしょう。
ではこうした白書のデータはどこで手に入るのでしょうか?
基本的には大きな図書などで見ることができます。ただ、すべての図書館にあるわけではないので、ネット上にある図書館のデータベースなどで収蔵されているかどうか調べてから言った方が良いでしょう。私はこちらのカーリルというサイトを使うことが多いですね。
また実際に手に入れたい方は、政府刊行物センターで購入することもできます。
ただ、こうした統計データだけでなく、政府機関では検討会や委員会で様々な議論が行われています。先日記事にまとめた『中小企業の親族内承継に関する検討会、中間とりまとめ』などもその一つ。こうした議論については、普段からニュースなどをcheckしておくしかありません。こうした情報を得ることができれば、国や地方自治体の方向性などをいち早く知ることができるので、素早い対応をとることができます。
今回は長くなるので触れませんが、業界新聞や業界紙、業界団体が出している情報などもかなり役立つものが多いので、特定の業界を得意にしている税理士事務所はそちらもチェックしてみると良いでしょう。
今回は税理士事務所のスタッフだったら知っておきたい情報収集のやり方として、公的データの集め方を中心にまとめてみました。これまで税理士事務所のスタッフは、税制改正情報や、税に関する判例などを知っていればいい、というところがほとんどだったでしょう。決算を組み、申告をする、という税理士事務所本来の業務では、こういった情報だけで足ります。
しかしお客様の財務アドバイスや経営に関するサポートなどをしていこうとすると、一気に必要となる情報量が増えます。特に経営環境の変化は、お客様を直撃します。だからこそ様々な情報を入手していかなければいけません。大変ではありますが、一つひとつ情報に接することで、提案力やお客様からの信頼が大きく向上します。
こうして得た情報を定期的にミーティングなどで共有すれば、スタッフ教育の一環として「情報収集の仕組み化」などを進めることもできます。例えばこの業界の動向はAさんが、この業界の動向はBさんが、公的な情報についてはCさんが、というように分担してそれを持ち寄ることで、事務所としてのステップアップにつなげることができます。
この「情報収集の仕組み化」、さらにこの仕組みを活用した事務所のブランディングなどは、私も良く提案させていただき、好評を得ています。興味のある方はこちらからお問い合わせください。
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