採用面接の基本
- 斉藤永幸
- 12月7日
- 読了時間: 8分

採用面接は求職者にもみられている
「はじめて人を採用するのだけど、面接はどうやったらいいですか?」そんな質問が来たので、ここでちょっとお答えしておきます。
面接をするうえで重要なのが、その目的です。
採用面接というと「応募してきた求職者を、自分たちの事務所に採用するにふさわしいか判断するため」と思う方がほとんどでしょう。しかしそれは面接の一つの側面でしかありません。実はもっと複雑なのです。
単純に、自分たちの事務所に合うかどうかだけでなく、この人が入社したらどのように育て、活躍してもらうか、などを考えていかなければならないのです。そのためにはスキルや経験、思考、適性などを面接では把握しなければなりません。
いわば「その人の本質を見抜く」ことが目的なのですが、中小税理士事務所、ましてやはじめて面接をするような場合、それは非常に難しいでしょう。そのため、まずは自分と一緒の方向性を持っているかどうか、そして入社後問題になるようなスタッフでないかどうか、その確認が最優先になります。
そして面接のもう一つの側面は、求職者に「入社したい」という意識を持ってもらうことです。
近年、求職者は様々な選択肢を持っています。特に人気のある「20代後半~30代前半、実務経験2年以上、税理士試験科目合格者」などは毎週のようにスカウトメールが届きます。優秀な求職者ほど獲得するためには競争が激しく、数ある税理士事務所の中から自分の事務所が選ばれる必要があるのです。
求職者は面接官を通してどんな事務所かを判断します。所長が面接をする場合、そこまでギャップは生じませんが、スタッフが一次面接などを行う場合は、その人の印象=事務所の印象となってしまい、入社するかどうかの選択を大きく左右します。
それをしっかり踏まえたうえで、この事務所に入社したらどのように彼らの希望が叶うのか、といった点をアピールしていかなければなりません。
また、注意したいのが面接ではNGな行動があります。面接は事務所の顔。面接官がNG行動をしてしまった場合、SNSなどによって情報が拡散されてしまうこともあります。面接では自分の発言や行動がリスクをもたらすこともある、としっかり理解しておきたいところです。
面接でのNG行為を避けるには
面接はどうやるべきか、を見る前にやったらアウト、という行動から見ていきましょう。ここ数年、特に面接でのNG行動についての意識が非常に高くなってきています。自分たちが以前の職場に入社するときは面接で当たり前に聞かれていたことが、今ではNGになってしまっている、ということもあります。
面接で聞いてはいけない質問として、以下のようなものが挙げられています。
(1) 本籍、出生地に関する事項
(2) 生活環境、生い立ち、住宅環境に関する事項
(3) 家族構成、家族の職業、地位、収入、資産に関する事項
(4) 思想、信条、宗教、尊敬する人物、支持政党、購読誌、労働組合に関する事項
(職業安定法第5条の4及び平成11年告示第141号)
大きく分けて、本人に責任のない事項と、内面に踏み込む事項です。
本人の適性や能力とは関係ないことを面接で把握しようとするのは、適性や能力で判断するという基本から外れ、就職差別と指摘される可能性があります。また、思想や信条、宗教などは憲法に保障されている「精神的自由権」の範疇であり、それによって差別は許されていません。面接でこうした質問をすると、かなり大きな問題になることがあるので、注意が必要です。
※健康面の確認は、必ずしも面接で聞いてはいけないことではありません。しかし聞き方には十分な配慮が必要なデリケートな部分です。トラブルを避けるためにも、健康面については面接では触れず、あらかじめ「健康状態告知書」などを作成しておき、本人の同意を得たうえで自己申告してもらうようにした方が無難でしょう。サンプルとしてフォーマットを下記からダウンロードできますので、参考にしてみてください。
そんなことを気にしていたら、何も話せなくなる、と感じるかもしれません。しかしNG行為を避けつつ、的確に求職者を見極めていく。面接とは本来、経験とスキルが要求されるものなのです。
自分もいくつかの事務所からの依頼で、面接に参加させていただくことがありますが、その際は必ず<面接シート>をあらかじめ作成しておきます。これが非常に便利なので、ぜひ利用してもらいたいですね。
面接では大きく分けて、「求職者に自分たちの事務所のことを伝える」と「求職者を判断するための材料を聞き出す」の二つに分けることができます。
ベテランの面接官であれば、その場その場の会話の流れで、過不足なくこの二つを行うことができますが、面接の経験があまりない場合はどうしても「伝え漏れ」「聞き漏れ」が発生してしまいます。面接シートをあらかじめ用意して起き、それに沿って面接を進めていけば、NG行為を避けつつ、漏れを防ぎ判断材料をしっかり集めることができます。
面接シートを作るために、まずは伝えることを考えていきましょう。
伝えることの一例
・企業概要
・事務所の沿革
・事務所の方向性、将来への展望
・業務内容
・どんなお客様を任せていくのか
・入社後に期待する役割
上記が一般的な「伝えること」です。面接では求職者は緊張しています。そのため最初に挨拶から入り、ちょっとした雑談を交えた後、先に面接官から求職者に向けて必要なことを伝えた方がスムーズです。
そのうえで求職者からさまざまな情報を聞き出し、確認を行っていきます。
面接で何を確認するか
面接というと、話を聞き出す場、というイメージがあります。しかし言葉を交わす前から、しっかりチェックすべき情報があります。特に税務会計業界はサービス業と言われるほどお客様に対する対応が重要。だからこそ第一印象はしっかり確認しておきたいところです。
ただ、第一印象といっても漠然としているので、いくつか項目を分けていきましょう。
重点的にチェックしたいのが、
清潔感
マナー
視線や表情
話し方や声の大きさ
この4つです。
コミュニケーション力以前の、人と接する上で必要な基準をしっかりクリアしているか。それとも相手に良い印象を持ってもらえるように、気を配れているか。これは経験やスキル以前に、しっかり確認しておきたい部分です。
そのうえで、会話を通して確認を進めていきましょう。
自己紹介をしてもらい、志望理由などを確認しつつ、入社したらどんなことに挑戦したいか、などある意味、定型的な質問を投げかけていきます。その行間から、協調性、積極性、自主性などを見ていくことになります。
また、履歴書や職務経歴書に書かれているスキルはしっかり身についているかどうか、の確認も合わせて行いたいところです。採用してもらいたいからと、ちょっと盛り気味に書かれていることもあるので、入社してから焦らなくて済むようにスキルチェックはやっておいた方が無難ですね。
こうしたことをあらかじめ面接シートで確認できるようにしておくのです。
面接シートは様々なものがネット上に公開されているので、そこからテンプレートをダウンロードし、アレンジしていくと良いでしょう。私はこちらのビズ研にあるテンプレートを税理士事務所向けに修正して普段は使用しています。
また、面接で何より重要だと考えているのが採用すべきでない人材か、を見抜くことです。
NetFlixのCEO、リード・ヘイスティングは優秀だけど組織を破壊するスタッフを「ブリリアント・ジャーク(Brilliant Jerk)」と定義しました。一見すると優秀なスタッフであっても、組織に入ると有害になる。ハーバードビジネススクールの研究によると、このブリリアントジャークを避けることは、スーパースター人材を採用することの2倍以上の価値がある、としています。
ブリリアントジャークには、1.責任転嫁型、2.ナルシスト型、3.フィードバック拒絶型、4.チー無破壊型、5.情報独占型、などいくつかのパターンがあります。しかしどのパターンであっても、入社したらその事務所はかなり足を引っ張られることは間違いありません。そのため「入口管理」、つまり採用を避けるようにすることが最善なのです。
このブリリアントジャークについて語っていくと、かなり長くなってしまうためここでは省きますが、面接では次のような確認をすると効果的だといわれています。
・チーム成果を個人成果より優先できるか
・「人に迷惑をかけない」意識を持てるか
・360度からのフィードバックを受け入れることができるか
などです。
初期段階でこのブリリアントジャークが入社してしまうと、その排除は非常に難しく、場合によっては致命的なダメージを負うことがあります。100%排除するのは難しいのですが、こうした質問をすることで反応を引き出し、そこから判断していくしかありません。
事務所の立ち上げ期~成長初期段階では、人材を採用するのが難しく、経験やスキルだけで採用を判断しがちです。しかしそれでは事務所の基盤はいつまで経っても確立することはできません。良い人材はしっかり採用しつつ、事務所の方針や社風などに合わない人材は、勇気をもって不採用にしていくことも必要なのです。
その判断をするのが面接の場。だからこそ多くの事務所で、面接のノウハウが重視されているのです。ただ、こればっかりは何度も場数を踏み、求職者を見る目を養わなければいけません。
今回は面接について説明しましたが、これはあくまでも基本です。ここからあなたの事務所に合ったやり方にアレンジしていく必要があります。もし面接などでお困りのことがございましたらこちらよりお気軽にご連絡ください。
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