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スタッフの意欲は所長が引き出す

若いスタッフが意欲的にジャンプしている写真
スタッフの意欲を引き出せるかは、所長の腕次第です

意欲や主体性は消耗する


先日、ある税理士事務所で採用のお手伝いをした際、こんな話になりました。

「今の若いスタッフは意欲が足りない。新しいスタッフは意欲的で主体性のある人を採用したい」というのです。

今の時代、受け身ではなく自主性を持って仕事に臨むことは重要です。ただ注意したいのはこの意欲や主体性というのは消耗品であり、使えば消費されていく、ということ。性格などである一定の意欲などを持って入社したとしても、その意欲が報われなかったりして浪費してしまえば、徐々に消えてなくなる類のものなのです。

だからこそ多くの事務所で、様々なスタッフの意欲や主体性を引き出す取り組みを行っています。入社した時、意欲を持って入社しても、入社して数年たつと主体性が亡くなってしまう、そんなスタッフが大勢いる場合、スタッフ個人に問題があるのではなく、もしかしたらその原因は事務所にこそあるのかもしれません。


この意欲や主体性を引き出すもの。それはコミュニケーションです。意欲や主体性は仕事に対するモチベーションが源泉です。仕事に対してやりがいや誇り、楽しさ、そうしたものを感じることができれば、事務所のために今度はこんな仕事にも挑戦してみよう、自分の成長には何が必要なんだろう、などを考えるようになり、自然と主体性は生まれていくのです。

逆に、コミュニケーションがほとんどない事務所では、徐々に仕事に対するモチベーションが低下していきます。特にパワハラ、セクハラが大きな問題となるのは、単に法律的に禁じられているからではなく、それが事務所の成長を阻害する大きな要因になってしまうからです。性的な嫌がらせをされたり、恫喝されるかのように怒られ続ける上司や職場のために、意欲的に仕事に取り組むことは苦行でしかありません。そのような職場では、最初どんなに意欲を持って入社したとしても、徐々にすり減り、どうやってこの状況から逃げ出そうか、しか考えられなくなるのです。


入社する際に求める資質として意欲を求めるのであれば、事務所は意欲を持続させ、引き出すよう環境を整えていく必要があるのではないでしょうか。



意欲を引き出すために有効なのは 1 on 1


こうした意欲を引き出すためには、どんな制度を整えたらいいですか?というのもよくある質問です。教育・研修制度を整えたり、給与規定を整えがんばったら収入をアップさせるなどしても、意欲を引き出すことができない、とお悩みの事務所は多いのです。

確かに、スタッフの意欲を引き出すには給与を上げる、というのは間違いではありません。しかし相対的に重要度は低下してきています。現代の働き手が求める会社像は、より働きやすくやりがいの感じられる職場なのです。特に従業員が求める「良い会社」には次のような特徴があります。


1. 心理的安全性のある職場

Googleの「プロジェクト・アリストテレス」でも、生産性の高いチームの共通点として“心理的安全性”が挙げられています。自分の意見が尊重され、安心して発言できる雰囲気があることで、挑戦や創造性が引き出されます。


2. 成長を支援するキャリア制度

研修、フィードバック、目標設定など、「成長できる環境があるか」は特に若手社員にとって重要です。


3. 柔軟な働き方の制度

リモートワーク、フレックス、副業容認など、多様な働き方を尊重する会社が選ばれます。


4. チームで協働する文化

連携・対話を通じて課題解決できる組織風土が、モチベーションを引き上げ、定着にもつながります。


つまり給与の過多や単純な福利厚生だけでは、スタッフの意欲を十分に引き出すことはできないのです。しかし、適切なサポートを行えば、コストなどをほとんどかけなくても、意欲を引き出すことは十分に可能です。そして意欲を引き出すカギとなるのが 1 on 1 なのです。

ただこの 1 on 1 ですが、苦手としている所長は多いですね。

「何を話していいかわからない」「若いスタッフから嫌われるのではないか」「会話が持たないのでついつい自分の話ばかりしてしまう」といった声も多く聞かれます。しかも、1 on 1 に苦手意識を持っている所長の事務所のスタッフもまた、1 on 1 を苦痛に感じていることも多いです。これでは1 on 1 をするだけお互いの負担になり、まったく効果は上がりません。

そのためスタッフの意欲を引き出すためには、1 on 1 の改革を行う必要があるのです。



テーマを必ず設定し、問題解決を目指さない


多くの企業で様々な目的をもって、1 on 1 を活用しています。そのため様々な手法が考案されており、目的に沿って使い分ける必要があります。ただ、ここでは「スタッフの意欲を引き出す」という目的に沿った1 on 1 のやり方を考えていきたいと思います。

まずスタッフの意欲を引き出すためのポイントとなるのがテーマを設定すること。テーマを設定しない1 on 1 は単なる雑談で終わってしまうことが多くなります。そしてスタッフの意欲を引き出すためには、このテーマの設定をスタッフが行うようにしましょう。

ただ、スタッフに「次の1 on 1 のテーマはあなたが決めて」ではスタッフは戸惑います。そこである程度の指針をあらかじめ与えておきましょう。

例えば、


・あなたはどんな目標を持っていて、そのために何を高める必要がありますか?

・あなたはどんなふうに成長したいと考えていますか?

・この職場でどんなスキルを身につけたいと考えていますか?

・お客様とこんな風に係わっていきたい、などはありますか?

・自分自身が変えたいと思っていることは何かありますか?


などです。これは少なくても前日までに、できれば2~3日前にはスタッフに伝えておきましょう。そのうえで、1 on 1 を始める前に、何をテーマに話をするか決めてもらうのです。最初はなかなかテーマを決めることができないスタッフも多いでしょう。しかし何度か繰り返すうちに、徐々に「自主的に」テーマを決めていくようになります。そう、この段階からスタッフの意欲や自主性を引き出す取り組みは始まっているのです。


そして実際の1 on 1 の場面では、所長はここを問題解決の場ではない、ということをしっかりと認識しましょう。経験豊富な所長や、優秀で頭の回転が速い所長ほど、スタッフが抱える問題に対し簡単に解決策を提示することができます。しかしそれでは自主性は生まれません。重要なのは「問題を解決すること」ではなく「スタッフの考える問題を一緒に正史利していくこと」なのです。

そこまで認識できれば、後はある程度決まった「型」に落とし込むだけです。この型とは、


1.現状を聞き、スタッフの問題意識を共有する

2.スタッフがどうなりたいのか、という理想を聞く

3.理想と現実の間のギャップを埋めていく方向で話を聞く


の3段階になります。

現状については、課題と思っていることを共有することが重要です。具体的にどんなことが起きて、どこで自分の力量不足を感じているのか、どんな対策を行い結果はどうだったのか、などです。

次に理想では、この現状や問題点をどのように改善していきたいのか、を聞き出します。

そして最後に、どうすればよいのか、を一緒に考えていきます。


注意したいのがこの3段階目。先ほども述べましたが、この1 on 1 は問題解決が目的ではありません。つい自分の経験を元に、こうすればいいんじゃない?とアドバイスをしてしまいたくなりますが、それはNGです。所長の役割は、スタッフ自らが「何が必要で」「何ができて」「何をするべきか」、一つひとつ見つけていくことをサポートするだけです。

ここをどれだけ丁寧に終えるか、で1 on 1 の成果が大きく変わってきます。主体性を引き出すというのは、所長がどれだけ「我慢できるか」という忍耐力を試される場面でもあります。会話量もスタッフが8、所長が2くらいを意識したいところです。

1 on 1 が終わったと、スタッフがまた所長に話を聞いてもらいたい、と思ってもらえるようなら成功といえるでしょう。次に1 on 1 をするとき、何も言わなくてもスタッフがテーマを言ってくるようなら自主性を引き出せている、と言っても良いでしょう。逆に、なかなかテーマを決められない、というのが続くようならもう一度1 on 1 のやり方を見直してみてください。


この自主性を引き出す1 on 1 は、ちょっとしたコツがいります。何も意識しないと、スタッフに対して「指導」をすることになり、スタッフはそれに従えばよい、ということとなり自主性は衰えていきます。しかしスタッフの考えを引き出す、という意識をもって臨めば、少しずつでも成果は表れていきます。

自主性や意欲というものは、多かれ少なかれ誰もが持っているものです。ただ、自主性がない、意欲が少ない、という人はそれまでの人生で必要として来なかったり、すり減らされてきた経験を持っているということがほとんどです。

その分、自主性や意欲を引き出すことができれば、スタッフは大きく成長することができます。


自分が見てきた中では、仕事に意欲もないけど営業などはやりたくないので消去法で会計事務所に入社したい、というスタッフがいました。当然、仕事に意欲などは感じられず、淡々と仕事をこなし、問題は起こさず、大過なく過ごせればいい、という意識でした。

しかし1 on 1 を通して徐々に意欲を引き出していった結果、自主的に資格取得に取り組むようになり、税理士資格を取得。事務所のエースとでもいうべき存在になったのです。


これは極端な例かもしれませんが、意欲的でない人から意欲を引き出すと、大きく成長することはよくあります。税理士事務所の所長はぜひ、この意欲を引き出す1 on 1 を身につけていただきたいですね。

こんな場合はどうすればいいの?といった個別の相談も随時受け付けております。自分のところでも取り組みたい、といった際は気軽にこちらよりご相談ください。



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