税理士として優秀だからこそ生じる問題~原因はスタッフとの意識の差~
- 斉藤永幸
- 10月23日
- 読了時間: 4分
更新日:10月24日

ある優秀な税理士の悩み
以前、こんな相談をされました。
「スタッフが定着しないんです。教育のためにWEBでいつでも研修を受けることができるように環境を整えているけど利用率も低く、これくらいやって欲しいという業務量にも届いていない。そんな環境をどう変えていけばいいでしょうか?」
話を聞くと、この事務所の所長はたいへん優秀でした。
20代前半で税理士資格を取得。
その後、Big4 の税理士法人で上場企業などを担当。
独立する前に中小企業の税務を学ぼうと広域に展開している大手税理士法人に転職し、そこでも実績を上げました。
そして満を持して30代半ばで自分の事務所を立ち上げたのです。
最初は順調だったといいます。
営業面に力を入れ、1年目から多くの顧問契約を獲得しました。
しかし問題が起き始めたのは2年目から。
お客様が増えたことで、スタッフを採用したのですが、長続きしないのです。
長くて1年、早ければ採用したその月に辞めたい、と言い出す人が続出したのです。
そして「何が問題なのか?」と悩み、人づてに私のことを知り、相談に来られました。
意識のギャップは気づきにくい
自分はまず、スタッフの話を聞こうと考え、一人ずつ近くのカフェに誘いました。
そこで出てきた話に、自分は驚かされました。
「所長とは話ができない」
言葉は違いますが、4人いたスタッフが皆、そのようなことを口にしたのです。
私が話していた時は、その事務所の所長は、理路整然と話をしていましたし、威圧的なこともありませんでした。
だからこそもっと詳しく話を聞き、掘り下げてみると、その原因が徐々に見えてきたのです。
それは意識のギャップです。
所長は学生時代から、税理士になって独立することを目標として努力してきました。
大学時代に税理士試験に2科目合格し、その後すぐに残りの科目も取得。
そして大きな企業を相手に、バチバチとやりあってきたのです。
その経験があったからこそ、独立した後、税務知識では一目置かれる存在として地域でも知られた存在となり、多くのお客様から信頼されてきたのです。
しかしこれがスタッフとの間では、マイナスに働いてしまったのです。
そんな所長の求めるラインはどうしても高くなり、それがスタッフとの間に断絶を生んでいたのでした。
代表は若いころから、将来独立するために必要と考え、様々なお客様、様々な業務に積極的に取り組んできていました。
しかし在籍していたスタッフは違います。
給与の分しっかり働き、プライベートの時間をしっかり確保し、休日は資格取得の勉強をする。
そんな生活を望んでいたのです。
所長は優秀な税理士で、実績も十分、話も理路整然としています。
そんな所長に言われたらスタッフは反論できなくなってしまっていたのです。
代表はスタッフに実績を積ませ、スキルを伸ばしたいと思い、様々な案件を任せようとしました。
また、税理士試験に必要な知識以外にも、様々な知識を身に着けることで将来の役に立ててもらおうと、様々な研修を受けさせようとしました。
しかしスタッフからすると、税理士試験に向けて勉強はそれ以上は負担になってしまっていました。
さらにスタッフは将来の独立開業を目指しているわけではありません。
つまり、代表とスタッフは、見据える目線の高さが違っており、さらにコミュニケーション不足が重なって、定着率の悪化につながっていたのです。
スタッフの目線はどこにあるのか
このケースで問題を広げたのが、代表が優秀だったことです。
代表が優秀で、言っていることが正しいと理解はしていたからこそ「それは無理」とは言えなくなってしまっていました。
人間を形作るのは経験です。
多くの税理士事務所の代表・所長は独立・開業を目指して努力してきました。
その目標を実現するためには、大きなバイタリティが必要です。
そうした経験をしてきているからこそ、スタッフにそれを求めてしまいがちです。
ただ、近年は税理士の資格を取っても、開業は難しくなってきています。
そのため若いスタッフには、独立・開業を目指すのではなく、資格を取ることでそこそこの給与がもらえるようになればいいや、と考える人も多いのです。
企業は3代目でつぶれることが多いと聞きます。
バイタリティにあふれた初代、その姿を見てきた二代目までは業績は順調に伸びても、苦労を知らずに跡を継いだ三代目が潰すことが多い、と言います。
しかし税理士事務所の場合、優秀さは時に苛烈に映り、スタッフとの間に意識の断絶を生んでしまいます。
逆に、それほど優秀じゃなくても、跡を継いだだけといわれるような二代目が、安定した経営を続けている、といったことも多いですね。
もし「事務所のスタッフが思ったように働いてくれない」と感じたら、まずはスタッフとの意識の差がないか、考えてみても良いのではないでしょうか。
それでもうまく解決できない、どうやればいいのかわからない、などの際は個別に相談も受け付けていますので、こちらよりお気軽にメール等でご相談ください。



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