税理士事務所の労務管理
- 斉藤永幸
- 11月7日
- 読了時間: 6分

労務管理は社内整備の第一歩
「事務所の体制を整えたいのですが、何から手を付けたらいいですか?」
そんな相談があった時、多くの場合まずお勧めするのが『労務管理』です。
ちゃんとタイムカードなどで労働時間の管理もしてます、と答えるところが多いのですが、果たして税理士事務所にとって、その労務管理で十分といえるのでしょうか?
まずスタッフの労働をお金に置き換えてみましょう。
お金を管理するとき、皆さんはどのようにやっていますか?
単に毎月の収入や月末に残ったお金を把握していれば十分、という方はほとんどいないでしょう。
仕事柄、税理士はお金の出入りには敏感なものです。
最低でも、収入からどのようなものにいくら使って、いくら残ったか、といった家計簿レベルの管理は必要と答えるのではないでしょうか。
これが企業となると、しっかりとした仕分けを行い、使途ごとに整理し、最終的な利益や損失を計算していきます。
スタッフの労働もそれと同じこと。
例えば一日8時間、月20日働くとしたら、160時間が使える労働時間となります。
タイムカードでの管理は、単にこの160時間の労働がしっかりと行われた、という証明にしかすぎません。
お金と同じように、どのように使われ、その結果どういう成果(収益)を生み出したのか、を管理すること、そのレベルの労務管理が必要となってくるのです。
なぜこの労務管理を一番に行わなければならないのでしょうか?
それはここから多くの重要な改革・改善につなげることができるからです。
労務管理ができていないと業務効率化も中途半端に
近年、多くの税理士事務所にとって業務の効率化は重要になってきています。
そのためにクラウド会計を導入したり、お客様とのやり取りにリモートを取り入れるなど、様々な試みがなされています。
しかし業務の効率化で失敗してしまうケースも多いようです。
コストをかけて導入したのに、たいして効果が上がらなかった。
使い勝手が悪くかえって効率が落ちてしまった。
せっかく導入した仕組みなのに、スタッフがうまく活用してくれない。
お客様に自計化をお願いしたのに、あがってくるデータに間違いが多く修正にかえって時間を取られてしまった。
そんな声もよく聞くのです。
ではなぜ効率化がうまくいかないのでしょうか?
それは『芯』を捉えた効率化になっていないからだと思います。
業務効率化の芯とは、一連の業務の中で労働というコストが滞っている部分のこと。
ここがボトルネックになっているから、その後の業務がスムーズにいかない、という部分です。
まずはこれをしっかりと把握し、その状況をいかに改善していくか、を検討していかなければなりません。
このチェックをしてみると、意外な部分に労働力コストが大きく浪費されている、ということも珍しくありません。
例えばある事務所では、顧問契約した順番にお客様に番号が振られ、スタッフは無意識のうちにその順番に沿って毎月訪問していました。
しかし労務管理でわかったのが、違う地域、時には県をまたいで担当者が異動することも多く、移動に大きなコストが生じていたのです。
そのため近い地域のお客様を、担当先を調節。
それだけで移動の負担が大幅に減り、そこで生まれた余裕を他に回すことができるようになったのです。
単純なようですが、気づかないことが、数字から見えてきます。
移動にどれくらい、お客様とのやりとりにこれくらい、書類の処理にこれくらい、所内での日報作成などの事務業務にどれくらい、それをお客様ごとに把握するだけでも、改善すべきポイントが見えてきます。
お客様との交渉の材料にも
こうした労務管理がしっかりできていれば、そこからさまざまな数値を導き出すことが可能となります。
例えばお客様単価もその一つ。
単に、月〇万円の顧問料、がお客様単価ではありません。
どれくらいのコストを使った結果、この顧問料が発生しているのか、を把握しなければなりません。
中には話の長いお客様もいるでしょう。
訪問すると、2~3時間はお茶を飲みながら、世間話につい合わされる。
そして実際の作業は十数分で終わり。
実際の作業は少ないので、そこまでの費用を請求することは難しい。
そうしたケースもあります。
もちろんお客様との会話を重視し、それを良しとするのであれば問題はありません。
しかし、大きなコストに対し利益が見合わない、と感じる事務所もあるでしょう。
近年の物価高騰で顧問料の引き上げをお願いする場合などは、労務管理で把握しているデータが役に立ちます。
単に「世間の物価が上がっているのでうちも値上げします」では、お客様からの理解も得にくいでしょう。
しかし「お客様のこの業務にこれだけの時間がかかってしまっています。これだけの人的コストがかかっているので、この業務を削減するか値上げをお願いするしかありません」など数字をもとに説得するとどうでしょうか?
一方的に値上げを通告するのではなく、その根拠となる数字を提示することができるのです。
単に顧問料が高いお客様が良いお客様ではなく、労働コストと顧問料から算出される利益率の高いお客様こそが事務所に大きな利益をもたらせてくれるお客様だとわかります。
お客様ごとに時間単価を把握することができれば、これをしっかり把握することができますし、さらに業務の内容ごとのコストを算出すれば、どこを効率化すればよいかもわかるのです。
スタッフのスキルマネジメントにも活用を
この労務管理は、本来は社内のスタッフのマネジメントが目的です。
そう聞くと、労務管理が厳しくなると、ゆったり仕事ができなくなるのでは、とスタッフから反発が起きることもありますね。
しかしこの労務管理の目的は、さぼっているスタッフを見つけ出す、といったものではありません。
スタッフの現状を把握することで、より良い環境を作り出すためのもの、なのです。
例えば仕分け業務について、税理士事務所に所属しているスタッフならほとんどの人が問題なくこなせるでしょう。
しかしその能力には濃淡があります。
例えば多くの仕分けを行うのが得意な人もいれば、一つひとつの項目を検討しより正確な仕分けを行うのを得意とする人もいます。
中にはこの業界のお客様を処理するのが得意、という人もいるかもしれません。
単に仕分け処理する件数で、報酬などが決定してしまうと、そこに不公平感が生まれます。
労務管理により労働コストがどこにどれだけ使われているのか、を把握することでスタッフがどんな業務を得意として、どんな業務を苦手としているのか、がわかってきます。
これがわかれば、得意分野を伸ばすのか、苦手を克服するのか、という選択肢を持つことができます。
これらを評価基準やスタッフごとに割り振る目標などに設定することで、より人材を伸ばし、活用することができます。
労務管理は事務所の効率化や評価基準、残業の削減、働きやすい職場作り、利益率の向上、スタッフの適正配置、業務配分、などすべての元となるデータです。
近年ではこの労務管理も、ITを活用することで集計・分析することも簡単にできるようになりました。
小規模な事務所ほど、導入は簡単なので、所内の改革・改善を行う際にはまっさきに取り組みたいところです。
さらに詳しい話を聞きたい、そうした方はこちらよりお気軽にお問い合わせください。



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