小さな事務所でも“選ばれる側”になれる採用ブランディング
- 斉藤永幸
- 1月22日
- 読了時間: 11分

先日、ある税理士事務所の採用支援で呼ばれ、話を聞く機会がありました。
その事務所は所長、正社員1名、パートスタッフ2名の4名体制。お客様が増えてきたことで増員を考えているけど、応募が集まりにくいと感じた採用媒体からお話をいただいたのです。
「うちは小さな事務所だから、給与も大手ほど出せないし、売りになるものがないので、どういう方向性で募集をしたらいいのかわからない」というのです。
こうした悩みを抱える税理士事務所は、実際に多く存在します。
確かに求職者への”訴求力”といった点では、大手事務所の方が有利です。売りになるポイントが幅広く、多くの求職者にとっても魅力となる部分があります。しかし、小規模事務所だから応募が集まらない、とは限りません。しっかり自分たちの良さをアピールし、事務所に合った人材の採用に成功しているところも多いのです。
この差はなぜ生まれるのでしょうか。
それはしっかりと差別化--つまりブランディングできているかどうか、の差です。
そこで今回は、小規模事務所に限定し、採用ブランディングについて考えていきたいと思います。
1.なぜ、小規模事務所に採用ブランディングが必要なのか
そもそも、なぜ小規模事務所は単純に募集をして求人をするだけでなく、採用ブランディングをしなければいけないのでしょうか。
その理由は、二つの段階に分かれています。
一つは、大手事務所との採用競争に勝つため。
もう一つは、小規模事務所どうしの採用競争に勝つため。
そもそも近年は、採用市場が大きく変化し、単なる売り手市場というだけでなく、若い人材の価値観が変化し、多様化しています。単純に、給与を上げれば人が集まる、という環境ではなくなっているのです。だからこそ採用競争で競合となる他の事務所との差別化=ブランディングが重要になります。
そこで次に考えるべきは、この競合をどこに設定するか、です。
大手の事務所と同じ土俵で戦うのは不利になります。大手は資本力が違いますし、採用にかけるコストも違います。同じ視点で競争をしていては、その不利な状況を覆すのは難しいでしょう。
しかし、ちょっと視点を変えると大手税理士事務所にはそれなりのウィークポイントがあります。大手は人数を確実に採用しなければならないため、幅広い訴求を行う必要があります。そのため一つひとつの訴求力はどうしても下がってしまいます。そのため訴求ポイントを絞ったり、大手の有利になる部分と違う訴求ポイントを設定できれば、勝てる可能性は高くなります。
もう一つ、重要なのが小規模事務所どうしの差別化です。
一般企業に比べると、税務会計業界は小規模な事務所を志向する人の割合が多いのです。将来独立を目指すなら小規模な事務所の方が有利ですし、幅広いスキルを身につけることができます。
そうした人材を採用するためには、他の事務所との差別化がどうしても必要となってくるのです。
この章のポイント:
・採用市場は変化してきている
・大手と競うのは不利だが、違う土俵で戦えば勝機は十分にある
・小規模事務所どうしで採用競争に勝つためにも差別化が重要
2.小規模税理士事務所の”本当の強み”とは何か
大手事務所との競争に勝つためには、まず自分たちのどんなところに”強み”があるのかを知らなければなりません。大手事務所にはない求職者が感じる魅力は、実は多岐にわたっています。
● 大手には出せない「距離の近さ」
所長の価値観がダイレクトに伝わる
相談しやすい、意思決定が早い
● 成長スピードの速さ
幅広い業務に触れられる
早期に担当を持てる
自分の成長が事務所の成長に直結する実感
● チームの一体感
少人数だからこそ文化がつくりやすい
価値観の合う仲間と働ける
近年、求職者が就職先に求めるものとして「職場の雰囲気」や「人間関係の良さ」が上位を占めています。給与などの待遇の良さより人間関係の良さのほうが、若い求職者にとって魅力に感じるのです。実際、アンケート結果でも、「就職先の会社を決める際に重視したことは、社風・職場の雰囲気、処遇などの順」となっています。
大手ではどうしても組織的になってしまうため、事務所の経営者である所長・代表との距離は遠くなります。しかし小規模な事務所では、所長とダイレクトに話ができるため、ここでしっかり人間関係を築くことができるのは非常に”強い”魅力となります。

(出典:東京商工会議所「2025年度新入社員意識調査」より抜粋)
また、成長スピードの速さも大きな魅力です。
大手は効率的に依頼に対応するため、分業制となっているところが多く、中には数年は一部の業務しか携われないところもあります。しかし小規模な事務所では、ほとんどが担当制で一人のお客様の業務を一人の担当者が丸ごと対応することが多いため、身につくスキルは幅広くなります。その結果、成長スピードが速くなり、キャリアパスでも小規模な事務所の方が有利になる、ということも多くなるのです。
こうしたことを自分たちのブランディングにどう組み込んでいくか、が重要になってきます。
この章のポイント:
人間関係と成長のスピードは大手にはない強い訴求ポイント
3.小規模事務所がやるべき採用ブランディングの3本柱
どういった部分でブランディングをするか、を決めたら次は手段を検討していかなければなりません。ここではこの「手段」について検討していきましょう。
小規模事務所では次の3つを柱に設定すると効果的です。
① 所長の想いを言語化する
小規模事務所の採用は、まず”所長の思い”を言語化することから始まります。
大手のように制度や待遇などで勝負するのではなく、「誰と、どんな未来を作りたいのか」を明確に伝えることが最大の武器となります。
ミッション・ビジョン・バリュー
なぜこの事務所をやっているのか
どんな人と働きたいのか
小規模な事務所ほど、所長のキャラクターが組織のカラーになります。だからこそこの所長の思いは事務所のブランディングに欠かすことができないのです。
② 働くイメージを“見える化”する
求職者がもっとも不安に感じるのは「実際の働き方が見えないこと」。小規模事務所だからこそ、“働く姿”を見える化することで安心感と魅力を伝えられます。
1日の流れ
担当業務の成長ステップ
チームの雰囲気
写真・図解・動画の活用
ここは「この事務所に入社したらどんなキャリアを築けるのか」を伝えるのと同時に、不安を解消する役割があります。文章だけでは伝わらない“空気”を、写真や図解、動画などの視覚効果で補いながら、強みをしっかり伝えていきましょう。
③ 求職者との接点を最適化する
どれだけ魅力があっても、求職者との接点で伝わらなければ意味がありません。小規模事務所は“誠実さ”と“丁寧さ”で勝負できます。
求人票の書き方
HPの採用ページ
SNS発信
面接でのコミュニケーション
小規模ならではの“誠実さ”が武器になる
ここでのポイントは、丁寧さと誠実さ、です。
大手の採用選考は大人数をさばかなければいけないため、どうしてもシステマチックになりやすいもの。しかし、小規模事務所は求職者一人ひとりにしっかり向き合うことができます。大手のような派手さはなくても、この誠実さは小規模事務所の最大のブランディング要素です。
この章のポイント:
まずやらなければいけないのは所長の思いの言語化
不安を払しょくしつつ、丁寧さと誠実さで応募を促す
4.実例:小規模事務所の成功パターン
・所長の人柄を前面に出して成功したパターン
以前はHPに、事務所の理念とともに所長の写真を載せるだけ、という事務所でした。
しかし採用ブランディングということで、HP内に「所長の一日」と題し、どんな朝食を食べ、出勤してスタッフのどんなところに気を配り、どんな失敗をして、どんな働き方をしているのか、といった”リアル”を発信。
同時に、所長の事務所にかける思いを載せたところ、親近感を持った求職者からの応募が増加。特に若い層からは好感を持って受け止められたようで、事務所の世代交代も進みました。
・成長ステップを図解したら応募が増えたパターン
今後、教育に力を入れていき、それを事務所の強みとしたい、との相談を受けオンボーディングロードマップを作成しHPに載せました。同時に、キャリアパスをしっかり明記し、税務の専門家コース、事務所のマネージャーコース、税務✖ITコースとそれぞれのモデルケースを掲載しました。
その結果、未経験や新卒といった若手人材だけでなく、キャリアに”行き詰まり感”を抱いていた実務経験者層にも刺さり、応募が倍増しました。
・働くイメージを丁寧に伝えたらミスマッチが減ったパターン
この例はちょっと特殊なパターンで、ある業界に特化している税理士事務所でした。ただ、その業界の知識のない求職者は、働き方などがイメージできないためか募集をかけてもほとんど応募が集まっていませんでした。たまに応募があっても、面接で働き方を伝えると、辞退される、ということが続いていました。
そこで、若手スタッフのインタビューと一日の働き方をHPに掲載し、特化しているからこその魅力や働くイメージを丁寧に伝えたところ、そこに魅力を感じた求職者の採用に成功。その後も着実に採用を続け、小規模事務所から10名前後の中規模事務所に成長しました。
5.今日からできる採用ブランディングのチェックリスト
採用ブランディングは、大きな投資や特別な仕組みが必要なわけではありません。小規模事務所でも、今日からすぐに取り組めることばかりです。以下の5つのポイントを見直すだけで、採用の質は大きく変わります。
■ 所長の想いが言語化されているか
採用の中心にあるのは「所長の価値観」です。
求職者は制度よりも“誰と働くか”を重視しています。所長の想いが言語化されていれば、事務所の方向性が明確になり、価値観の合う人が自然と集まります。逆に、ここが曖昧だと魅力が伝わらず、ミスマッチも起きやすくなります。
■ 求職者が“働く姿”をイメージできるか
応募するかどうかは、「自分がここで働く姿を想像できるか」で決まります。
1日の流れ、担当業務、成長ステップ、チームの雰囲気など、働くイメージを具体的に示すことで、求職者の不安は大きく減ります。小規模事務所ほど、リアルな情報を丁寧に伝えることが信頼につながります。
■ 写真・図解・文章が一貫しているか
採用ページ、求人票、SNS、パンフレット。それぞれのトーンやメッセージがバラバラだと、求職者は「本当はどんな事務所なのか」と不安になります。写真の雰囲気、図解のテイスト、文章の言葉遣いが統一されているだけで、事務所の世界観が伝わり、安心感が生まれます。
小規模事務所こそ、ここを整えるだけで“プロ感”が一気に高まります。
■ 求職者の不安を解消できているか
求職者が抱える不安は、実はとてもシンプルです。
「ついていけるかな」「人間関係は大丈夫かな」「成長できるかな」これらの不安に対して、事前に答えを提示できているかどうかが採用の分かれ道になります。FAQ、実際の業務例、教育体制、サポートの仕組みなどを丁寧に伝えることで、応募のハードルは確実に下がります。
■ 応募後のコミュニケーションは丁寧か
応募後の対応は、採用ブランディングの“最終工程”です。
返信のスピード、面接案内の丁寧さ、当日の対応、フィードバックの誠実さ。これらはすべて「この事務所は信頼できるか」を判断する材料になります。小規模事務所は、ここでの丁寧さが大きな差別化ポイントになります。誠実なコミュニケーションは、それだけで強力なブランディングです。
このチェックリストは、どれも今日から改善できる内容ばかりです。
まずは自分たちのHPや募集原稿を見直してみましょう。

この章のポイント:
5つのチェックリストに沿って自分たちの事務所がどんな状況か確認しよう
✍️ まとめ:小規模だからこそ、採用は「ブランディング」で勝てる
採用に悩む小規模事務所こそ、ブランディングの力を最大限に活かすべきです。制度や規模ではなく、“人”と“文化”こそが本当の魅力。それを言語化し、見える化し、丁寧に伝えるだけで、採用力は大きく変わります。
採用は単なる人集めではありません。「誰に、どんな価値を届けたいか」を伝えるマーケティングであり、「この事務所らしさ」を形にするブランディングそのものです。
そして、小さな事務所ほど、個性が最大の武器になります。所長の想い、チームの空気感、仕事のやりがい——それらを“あなたらしい言葉”と“あなたらしい表現”で伝えることが、未来の仲間との出会いにつながります。
小規模だからこそ、できることがある。採用は、あなたの事務所の“らしさ”を伝える最高のチャンスです。
まずは、あなたの“想い”を言葉にしてみませんか?
もし「自分たちの事務所”らしさ”って何だろう?」「自分の思いをうまく言語化できない」などございましたら、無料相談よりご連絡ください。あなたの思いを一つずつかみ砕き、求職者に伝わる言葉へと変換していきます。
相談したからといって、無理にサービスを勧めることはありません。ただ、あなたの事務所の“らしさ”を一緒に見つけるお手伝いはできますよ。
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