税理士事務所のメンタルケア
- 斉藤永幸
- 11月9日
- 読了時間: 8分

税理士事務所がメンタルケアに取り組む必要性
税務会計業界全体を見て大きな問題だと感じているものの一つに、メンタルヘルスの問題があります。
求人のサポートをする際、多いのが欠員募集です。
なんらかの原因でスタッフに欠員が生じ、その穴を埋めるために新しいスタッフが欲しい、という要望ですね。
そした、その中のけっこうな割合でメンタルの不調が原因として挙げられるのです。
これは欠員が生じたから呼ばれることが多いため、殊更感じるのかもしれませんが、これは他業界に比べてもかなり多いです。
多分、ITエンジニア業界に次ぐくらいの割合でしょうか。
そして問題なのが、メンタルヘルスを崩して退職する事務所は、それが連続して起きやすいということです。
逆に言うと、メンタルが原因で退職する人がほとんど出ない事務所もあります。
つまりメンタルを崩す理由のうち、けっこうの割合で職場の環境、つまりは事務所に大きな原因があることも多いのです。
以前の日本社会では、健康管理は社会人の自己責任、という時代が長く続きました。
その結果、体調を崩してもそれぞれの責任となり、それがメンタルが原因ともなると「今の若い奴は貧弱で…」などと言われることも。
しかしそれで済まなくなってきています。
損害が発生してしまえば、事務所がダメージを受けるのです。
メンタルヘルスが低下すると、スタッフの活力は失われ、生産性は低下。
ミスなどのリスクが高まり、時にはお客様に損害を与えてしまうことも。
それが続くとスタッフの退職となり、新たに人材を雇うとなると採用コストが発生してしまいます。
そして近年では職場の責任が認められることも多くなってきており、適切なケアを怠り社員がうつ病などを発症させてしまうと、安全配慮義務違反を問われ多額の損害賠償を請求される、なんてこともあるかもしれません。
つまり税理士事務所にとってメンタルヘルスの管理は、必要なリスクマネジメントになりつつあるのです。
税務会計業界でメンタルヘルスを崩す原因とは
そもそも一般的な税理士事務所では、業務内容や環境的にメンタルヘルスを崩しやすいことは確かです。
・記帳代行などを行っている事務所では、1人でPCに向き合う時間が長い
・担当業務などで巡回監査が多いと、事務所との帰属意識が低くなり孤独感が高まる
・クレーム対応などでプレッシャーを感じることが多い
・正確性が要求され、細かい作業やチェックが多い
・残業が多くなりがちで、プライベートがなくなる
・休日は勉強などに追われ、ストレス解消の時間を取りにくい
どうでしょう?
あなたの事務所に当てはまるところはありませんか?
しかし税理士事務所の多くは、その原因を取り除くことが難しいのです。
孤独な作業が多いのとメンタルを崩しすいといっても、記帳代行や訪問・巡回監査などをなくすわけにはいきません。
プレッシャーを感じるからと言って、チェックを緩くしてそれでミスが連発してしまえば、本末転倒でしょう。
ではどうすればいいのでしょうか。
企業では、メンタルヘルスケアの具体的な方法は「厚生労働省の指針」に沿って進められることが一般的です。
これによると、
段階 | 目的 | 具体例 |
一次予防 | メンタル不調の未然防止 |
|
二次予防 | メンタル不調の早期発見や早期治療、悪化防止 |
|
三次予防 | 円滑な職場復帰支援 |
|
上記のように一次~三次と段階的に分けられています。
しかしこれはこれで参考になりますが、これをそのまま税理士事務所が導入することはできません。
これを参考にしつつも、自分たちの業務に、そして職場にアレンジしていく必要があります。
メンタルヘルス管理の導入
まず個人や小規模な税理士事務所では、三次まで進んでしまっては、事務所へのダメージが大きくなってしまいます。
最低でも二次、できれば一次の時点でなんらかの対処を取る必要があります。
そこで重要になってくるのが、セルフケアと管理監督者の重要性を認識することです。
それとともに、産業医など外部の専門家との連携もあらかじめ準備しておくと良いでしょう。
まずセルフケアですが、これはスタッフ任せにする、ということではありません。
重要なのはセルフケアの重要性などをしっかり認知させること。
ストレスチェックを実施したり、メンタルヘルス研修などを実施したり、休憩スペースを確保するなど、事務所としてできることはたくさんあります。
こうした職場環境の改善を通して、スタッフが自分自身のストレス状態に気づき、自ら対処できるようサポートするのです。
次に管理監督者についてですが、個人や小規模な税理士事務所の場合は所長や代表、中規模以上だとマネージャークラスの人材がこれに該当します。
管理監督者はスタッフの勤怠状況や職場環境のチェックを行い、問題を早期発見することが大切です。
セルフケアの意識が浸透していれば、自分で対処できない時には相談などがあるでしょう。
しかしいくらセルフケアをしても、自分でも気づかずメンタルヘルスを崩してしまっている、ということもあります。
これを早めに察知することが大切。
例えば、普段整理整頓できているのに机の周りにものが散らばっている、などは比較的わかりやすいストレスのサインです。
他にも、ぼーっとすることが多くなったり、勤務時間中にトイレの頻度が増えたりするなどは、何か問題を抱えている可能性があります。
ただ、これらは一例にしかすぎません。
重要なのは管理監督者が自らの役割をしっかり認識できているか、ということ。
そのためまずは所長や代表がメンタルヘルケアの重要性をしっかりと認識するとともに、マネージャーなどが管理監督者ならばその意識づけのための勉強会や研修などを実施する必要があります。
意欲を持って仕事に取り組める環境作り
そして税理士事務所として取り組む課題として、私がもっとも重要だと思うのは、スタッフ満足度の向上に取り組むこと、だと思います。
一時期、お客様満足度(Customer Satisfaction)が経営指標として非常に重視されたことがありました。
その後出てきたのが従業員満足度(Employee Satisfaction)という考え方です。
このことをお話しすると、なんでスタッフをそこまで甘やか無さにといけないんだ、という反応が返ってくることがあります。
しかしこれはスタッフの給与を上げたり、勤務時間を減らしたり、福利厚生を上げればいい、というものではありません。
従業員満足度を向上させる、ということは従業員のエンゲージメントを高めるための取り組みです。
従業員エンゲージメントとは、従業員が自社や仕事に対して愛着や誇りを持ち、自発的に貢献しようとする心理状態を指します。
税理士事務所のスタッフは、この従業員エンゲージメントが低い人が多いですね。
それは、業務の内容自体、事務所などの組織への帰属意識が低下しやすい構造になっているからです。
何か特徴的なものがない限り、多くの事務所で同じような業務です。
事務所の人間関係やお客様が違う、というだけで他の事務所に行っても同じ働き方になりやすいのです。
そして担当業務でお客様先への訪問などが多いと、事務所との物理的接触も少なく、仲間と協力して仕事を進めることも他業種に比べると少ないのです。
メンタルヘルスはこのエンゲージメントが低下したときに起きやすくなるといいます。
逆に言えば、自分の職場が好きで、仕事にやりがいがある状態だと、少々の過重な労働環境でも人は耐えることができます。
だからこそエンゲージメントを高める=メンタルヘルスを向上させる、ととらえることもできます。
例えば事務所の理念や行動指針、クレドなどの策定などを通して、自分たちが何のために仕事をしているのか、などをスタッフに表明。
なんのためにこの仕事があるのか、という意識をしっかり持たせることが重要です。
これがスタッフにとってのやりがいにつながります。
そして日ごろから事務所内でのコミュニケーションを活発にすることです。
1人で仕事を抱えるのではなく、相互にチェックしてもらうことを業務のフローに盛り込んだり、すぐに相談できる体制を作ることが求められます。
一緒に働く仲間、というのが帰属意識の出発点でもあります。
所内の人員をチーム分けして、普段からスタッフ同士の接触頻度を高める、なども有効ですね。
自分のことをしっかり見ていてくれる人がいる、自分のことを心配してくれる事務所なんだ、とスタッフが認識するようになれば、自然とエンゲージメントを高まっていきます。
同時に業務の適切内配分など、労務管理も重要です。
(労務管理についてはこちらも参照してください)
理念の浸透させ、働く意味を気づかせ、所内の風通しを良くしつつ、制度や体制などを見直していく。
そうした地道な取り組みが、スタッフのメンタルを健康にするのです。
このような所内の環境整備について、興味がございましたらこちらよりお気軽にご連絡ください。



コメント