ユニークな福利厚生(?)あれこれ
- 斉藤永幸
- 11月27日
- 読了時間: 8分
更新日:11月28日

事務所がスタッフに還元するもの、それは給料だけではありません。
福利厚生もその一つ。
そして、福利厚生が充実していると、採用でも有利になりますし、スタッフの定着率の向上やモチベーションの維持にも役立ちます。
ただ、世の中には一風変わったユニークな福利厚生制度を設けている税理士事務所も。
そこで今回は、そのまま導入することは難しい、でもこんな考え方でこんな制度を導入している事務所もあるんだ、とちょっと考えさせられる話題をお伝えしたいと思います。
猫支給
これは採用のお手伝いをしに、ある事務所を訪問した時のことです。
事前に、猫好きの人を募集したい、という要望がありました。
募集広告を出すにあたっては、業務と関係のないことは書けません。
しかし事務所の所長の趣味・好みを反映させてほしい、という要望はたまにあるので(実際、あるプロ野球球団のファンの所長が、ライバル球団のファンは入れたくないという要望も過去にはありました)、ヒアリングしてどう表現すればいいか、と考えながら向かいました。
事務所に到着してみると、所内は猫、猫、猫、まるで猫カフェです。
総勢、8匹の猫が所内を我が物顔で歩き回っていました。
そう、この事務所の特徴は『猫』だったのです。
所長の好みというだけでなく、猫好きじゃなければ仕事にならない、そんな職場でした。
そうなった理由は、お客様からの相談だったそうです。
お客様の中に動物病院があり、捨て猫が持ち込まれたので引き取り手がいないか、という話でした。
スタッフの中に猫好きがいたかな?と思いそれを事務所で話したところ、そのスタッフはすでに何匹も捨て猫を引き取っていて、これ以上は無理とのこと。
しかし、話を聞いて、その捨て猫に情が移ってしまった所長は、自分で飼うつもりで引き取ることにしました。
そして引き取る当日、午前中に捨て猫を引き取って、ちょっと用事があったので事務所に立ち寄ったところ、その猫が事務所のスタッフに気に入られて・・・。
そのまま事務所で飼うようになったのです。
すると、看板猫の効果か、それまでお客様先を訪問していたのですが、猫好きのお客様がたびたび来所するように。
その捨て猫が事務所のシンボルになったところで、件の猫好きスタッフも自分の猫を連れて出社するようになりました。
そこから何度か、事務所に捨て猫や飼いきれなくなった猫、保護された野良猫などが持ち込まれるようになり、次々と猫が増えていったそうです。
猫たちは昼間は事務所で自由に過ごし、夜は所長が連れ帰る、という日々でしたが、ある日スタッフが自分も猫を飼いたいと言い出しました。
そこでそのスタッフに慣れていた猫を譲ったところ、他のスタッフからも同じ要望が相次ぎました。
そして出来上がったのが、猫の費用を事務所が一部負担する、という福利厚生です。
スタッフは事務所で暮らす猫の中で自分になついた猫を引き取ることができ、猫を飼うために必要なワクチン代やえさ代の一部を支給。
朝は車で一緒に出社し、仕事が終われば一緒に帰る、という仕組みができたのです。
その結果、離職率は大幅に減少。
一度退職したスタッフもいたのですが、やはり猫と一緒に過ごせる職場がいい、と復帰した人も。
さらに猫好きという共通項が生まれたので、スタッフ間のコミュニケーションが活発になり、仕事の合間に猫に癒されるのでストレスも減ったといいます。
ただ、お客様先を訪問する際、猫の抜け毛が服についていないかチェックするのがたいへんだ、とのこと。
それ以外はプラスしかない福利厚生ですよ、と所長は笑っていました。
仕事の合間に野菜を収穫
この事務所は首都圏から電車で1時間弱。
急速に宅地化が進むエリアで、周囲には畑もまだ残っているような環境でした。
そんなある日、農家だった方が亡くなり、相続の相談が持ち込まれたそうです。
そこそこ広い農地を持っていたので、一部を売却し相続税を払っても、まだけっこうな広さの畑が残りました。
ただ、相続人は都心で働いていたので、残った農地をどうしようか、と相談されたといいます。
中には事務所から徒歩5分という場所にも畑があったことから、所長はそれを事務所で借りて、皆で野菜を作ってみよう、と思いついたそうです。
家庭菜園などのピークは夏野菜の栽培をしている7~8月。
税理士事務所にとっては閑散期。
逆に、事務所の繁忙期である2~3月は畑はほとんどやることがない。
そのためうまく畑と事務所の仕事が回るんだよ、とのこと。
実際、畑をはじめてからスタッフ、特に主婦層のパートからは好評だといいます。
新鮮な野菜を仕事の合間に収穫し、それを持ち帰ることができるというのです。
また会計データの入力などは、所内でPCに長時間向き合わなければいけません。
しかし、ちょっとした時間に、畑に出て作業をする、それだけでストレス発散になるというのです。
事務所の負担は、肥料代や苗・種代、各種農業資材で年間10万円ちょっとかかるそうですが、費用対効果はかなり高いよ、と所長は教えてくれました。
事務所に頼らず独立精神を持て!
最後に紹介するのは、スタッフに独立を促すものです。
そう聞くと、別に珍しいものではない、と思うかもしれません。
しかしこの事務所は、スタッフに資格を取得し、税理士として独立開業しろ、というのではありません。
副業を持って、事務所に頼らない精神を持ってほしい、というのです。
きっかけは、喫茶店を営んでいたお客様が廃業する、というところから始まりました。
それを事務所のミーティングで皆に話したところ、ある女性スタッフが、昔からカフェをやるのが夢だった、と言い出したのです。
そこで所長はお客様と交渉。
テーブルや食器、調理器具などをそのまま譲ってくれて、喫茶店をカフェとして安くオープンできるとなったのです。
ただ、そのスタッフは税務の仕事に面白さとやりがいを感じていて、事務所を辞めたくなかったのです。
そこで所長は、週5の勤務を週3に。
副業としてカフェをやることを勧めたのです。
これが大きな効果を生んだそうです。
そのスタッフによれば、あくまで自分たちは税理士事務所のスタッフ、ということで実際の経営をしているわけではありません。
そのためお客様の気持ちを最後の部分で理解しきれていなかった、というのです。
しかし副業としてカフェのオーナーになったことで、お客様と同じ目線に立つことができ、仕事への意識も変わったそうです。
それから他のスタッフから農業をやってみたい、ネット通販で自分の作った作品を売ってみたい、などの声が上がるように。
そこで制度として、副業を推奨する仕組みを作ったそうです。
正社員は最大で週3日勤務まで減らすことが可能に(パートは週2日勤務でも可)。
担当件数も調整し、午前だけや、午後だけ、という働き方もできるようにしました。
その結果、スタッフ10名のうち、6名が税理士事務所だけでなく、副業を持つようになったそうです。
するとスタッフのモチベーションだけでなく、お客様も増加したといいます。
カフェを副業としていたスタッフは、店のある商店街のいろいろなオーナーから税務の相談をされるように。
そこで親しくなり、事務所に依頼が、となったのです。
また、副業を持つことで、スタッフは税務スキルだけでなく経営やビジネスについてのスキルも伸び、お客様からの評価も高まったそうです。
スタッフの勤務時間が減った分は、新たな人員を採用して補充することで、十分仕事がまわっているとのことです。
「何よりスタッフに独立心が芽生えた。自分から、これをやってみたい、という意欲的な意見が増えたのが最大の効果ですね」
所長はこの制度をこう評価していました。
筋肉は正義!?
この事務所の特徴は、そのものずばり「筋肉」です。
代表はもちろん、スタッフも皆筋肉に対して並々ならないこだわりが(笑)
そのため採用の基準も、もちろん筋肉。
スタッフも全員男性で、デスクの周りには握力を鍛えるためのグリップが置いてあるなど、他の事務所にはない雰囲気が。
そんな事務所なので、福利厚生も筋肉に特化。
事務所内の一角にはトレーニングマシンやダンベルなどが置かれ、スタッフは休憩時間や仕事の合間に鍛えている、という風景が見られます。
さらにプロテインが常備され、費用の一部を事務所が補助。
思う存分、筋肉を鍛えることができる・・・、という事務所です。
他にはない特徴を打ち出すことで、同業他社との差別化を図る、というのはよくあるが、ここまで振り切っているのはかなり珍しいといえるでしょう。
ただ、重要なのがこれは単なる「面白い」では終わらないところ。
強烈な価値観を示すことで、採用基準は明確で、その方針に合わない人はそもそも応募すらしてこない。
同じ価値観を共有し、時には一緒にトレーニングに汗を流す仲間なので、コミュニケーションは抜群。
お客様も、そんな事務所の方針を気に入ってくれた体育会系大歓迎の会社ばかり。
営業面でも、所内の運営という面でも、一点特化することで強烈な個性を武器に競争力を高める。
それが表れている福利厚生といえるでしょう。
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これらの福利厚生(?)は非常にユニークで、高い効果があったようですが、それをそのまま真似することはできません。
うまく活用するには様々な条件が必要です。
ただ言えるのが、スタッフにとってプラスになるのなら、事務所としても投資する価値がある、という所長の判断は正しかった、ということです。
実際にこれらの制度を見てみると、導入時に事務所にコストが発生しています。
しかし、それ以上に事務所にプラスの効果を発揮しているのです。
スタッフが働きやすい環境を作る。
それが事務所の成長につながる。
そのためのヒントがこれらの福利厚生の話の中に、隠れているのではないでしょうか。
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