top of page

入社3か月が勝負!定着率を高める税理士事務所のオンボーディング術

希望をもって入社してくるスタッフの写真
雇って終わりではなく、定着させる仕組みづくりが求められています

この記事は先日アップしております、採用できたらそれで成功、ではないの続きです。

こちらの記事単体でも役立ちますが、続けて読むとより効果的です。

まだお読みでない方は、まずは前の記事からお読みください。



税理士事務所のオンボーディングとは組織全体で新しい仲間を迎え入れ、定着と成長を支援する仕組み


先日の記事で、自分の事務所によりフィットする人材を採用するにはどうすればいいか、について考えてみました。事務所にとって採用とは、単純に良い人を雇用出来たから良かった、ではありません。定着し、長く活躍してはじめて「事務所にとって採用が成功した」といえるのです。

そこで今回は人材の定着について考えてみましょう。


この定着という面で注目されているのがオンボーディングです。

オンボーディングとは「採用後の初期段階において、個人が組織にスムーズに適応できるように支援する一連のプロセスであり、業務理解の促進、関係構築の支援、組織文化の浸透、心理的安全性の確保などが含まれる」とされています。


それって新入社員研修のことじゃないの?という方もおられるでしょう。そこでオンボーディングと従来の新人研修の比較すると、次のような違いがあります。


オンボーディング

従来の新人研修

範囲

入社前~配置直後まで継続的に支援

入社直後の研修や業務指導が中心

目的

定着率向上・早期戦力化

実務遂行能力の習得

関与者

人事・上司・同僚など広範囲

主に教育担当者や直属の上司

内容

k研修、1 on 1 、メンター制度、社内文化理解など

実務を通じたスキルの習得

税理士事務所では慣例的に、新入社員の教育ではOJTが中心でした。確かにOJTは事務所で実務をするうえで必要なスキルを学ぶことはできるでしょう。しかし効果は限定的で、事務所にフィットするかはOJTではほとんど関係なかったのです。だからこそオンボーディングによって、定着をうながし、成長をバックアップする必要があるのです。


オンボーディングを行うメリットとしては、


  • 早期離職防止:入社後のギャップや人間関係の不安を軽減

  • 成長スピード向上:ルールやシステム、人間関係への適応を促進

  • 組織全体の生産性向上:社員が安心して働ける環境を整えることで成果につながる


などが挙げられています。

税理士事務所も人材不足の中で定着まで設計することが競争力を大きく左右しています。新しく入社するスタッフが早期に安心してなじみ、長く活躍し続ける仕組みが事務所の成長に直結します。

だからこそ、税理士事務所でも、新しく入社したスタッフが組織に早くなじみ、定着・戦力化する支援プロセス=オンボーディングが重要なのです。




入社3か月が勝負!試用期間は新入社員が判断する時間でもある


多くの事務所は入社後、3か月程度の試用期間を設けていることがほとんどです。この試用期間は単に新しく入社したスタッフを見極め、判断する期間ではありません。事務所にとって新しく入社したスタッフが「この事務所でいいのかな?」を判断する、求職者側から判断される機関でもあるのです。

大手求人サイトのマイナビは2025年10月10日『組織定着に関する研究調査レポート』を発表しました。この中で、入社直後から3か月間は「リアリティ・ショック」を受けやすい時期だと指摘しています。これは理想と現実のギャップのことで、放置すると自然改善は期待できない都市、人材の定着を図るのであれば採用前からリアルな情報を開示することでこのショックを押さえつつ、オンボーディングの重要性を強調しています。

つまりこの3か月間に、しっかりフォローできる体制が整っているかどうかで、定着は大きく左右されるということです。


「この3か月をどうすればいいか考えればいいのね?」と思うかもしれません。

しかし、先ほど最初の3か月は定着という面で非常に重要だといいましたが、実はオンボーディングにはその先があります。定着の次に来るのが戦力化、です。つまり新しく入社した人を定着させ、戦力化するには3か月ではなく3年程度のロードマップを設計する必要があります。お勧めは3段階に分けて考えていくことです。


1段階目:キャッチアップ期(入社3か月)

2段階目:基礎構築期(入社1年目)

3段階目:戦力化期(入社2~3年目)


これらをそれぞれ目的に合わせて考えていく必要があります。

入社して3か月は事務所にとって勝負の時期でもあります。いかに入社したスタッフの不安を解消し、事務所の環境に慣れることができるか、それがスタッフの定着に直結します。だからこそこの時期は、実務に必要なスキルより、心理的側面からのフォローが重要だと考えます。

そのためメンター制度などを作り、相談しやすい相手をしっかり設定したいところです。特に最初の1週間は、事務所の所長と1 on 1 などを繰り返しビジョンを共有することが重要。並行して会計ソフトや事務所で使っているツールなどの使い方を教え、習熟させていきます。

1週間~1か月目のあたりで、実務に必要な知識などを集中して学ぶ時期になるでしょう。ここで専用マニュアルなどがあればさらに効果があります。MAS会計やクラウド会計やAI などを導入していれば、基本的な使い方など学び、少しずつ慣れていく段階になります。

2か月目~3か月目にはファイリングやデータのチェックなど、いわゆるOJTが中心になります。


この3か月間でポイントとなるのは、小さな成功体験を積み重ねることです。まず入社して最初の1か月程度は安心感の提供が重要です。この時期は「自分がこの事務所でやっていけるかどうか」を判断する時期。まずは安心して勤められる環境である、という認識を持ってもらうことが出発点なのです。

先ほど、この時期に所長は1 on 1 を繰り返してほしい、と述べました。ただ、たまに税理士事務所の所長で「私はスタッフを甘やかさない、それが本当のやさしさだ」という方がいます。確かにその考え自体は共感できますし、正しい認識だと思います。ただ、不安を抱えている人にその考えで接すると、それは押しつけにもつながります。まずは「うちの事務所はこんな考えでお客様にサービスを提供しているんだ」「そしてそれがこんな風に喜ばれているんだ」という、事務所の考え方や、自分たちの文化を伝える場と考えた方が良いでしょう。


最初の1か月程度ば、並行して研修も行っていきます。

書類の作成やチェックの流れ、などを実践を通して徐々に学んでもらいます。ある程度の段階になったら、半日程度と時間を区切って繁忙期のシミュレーションなどをやるのも効果的です。繁忙期はどれくらい忙しくなるのか、というのは新人にとっても不安の種です。早めに認識しておくと、そのあとのギャップが埋められます。

また、少しずつお客様対応のロールプレイなども行いところです。たまにロールプレイを行わずいきなりお客様のところに同行させる事務所もありますが、効果という面から考えてもあまりお勧めはできません。お客様と実際接している場面で、気になることがあっても会話などを止めることができないからです。時間がたてば会話の内容についての意識は薄れていきます。後から、あの時こう話したのは間違っているよ、などと話しても効果的ではないのです。まずはロールプレイなどを行い、基本的な会話などをcheckしましょう。


2か月目以降は、より実践的なものになります。

入社したのが実務経験者であれば、お客様動向などを開始する時期ですね。また経験の浅い人や未経験の人でしたら、電話対応やメールでのやり取りなど、簡単な顧客対応を任せ、責任感を持たせるのが良いでしょう。

また、週ごとに振り返りで改善点を共有。フィードバックをしっかり行うことで事務所への帰属意識や連帯感が生まれます。もしSlackやTeamsなどのツールを用いて連携している場合、情報共有の習慣なども定着させたいところです。


この間、毎週「できることリスト」を更新し、成長を可視化させたいですね。

自分がこの事務所に入って何ができるようになったのか、を3か月の試用期間が終わった後に伝えます。そのうえで所長などと1 on 1 で振り返り、キャリアパスや今後の期待を話し合いましょう。


繰り返しになりますが、この3か月間は小さな成功を積み重ねて自信を持ってもらうことが重要です。基本的には無理はさせない方向性ですが、しっかりと現実に向き合いつつ、その後の成長につなげる基礎を作っていくことになります。

環境に慣れる(安心感)→基本業務を一人でこなせる(自立)→できる小さなことから任せてもらえる(責任感)というステップを踏んでいきます。



定着から戦力化へ


オンボーディングは定着率の向上で話が終わることも多いのですが、実際は入社したスタッフを戦力化し、長く活躍して初めて成功と呼べます。だからこそ入社して3か月目以降は「戦力化」が中心になります。


1年目はインプットとアウトプットを並行させ、徐々に「自分たちの事務所の仕事」の全体像をつかんでもらうことが重要です。


・簡単な顧問先の主担当を任せる(所長や先輩が必ずチェック)

・キャリアパスの提示

・資格取得などの教育支援制度などの活用


OJTを通して仕事に慣れるとともに、将来に対してのモチベーションを高めてもらうことがポイントとなってきます。そのためこの時期は、1 on 1 でも、モチベーションの管理が中心となります。キャリアパスについて所長や先輩と話し合う時間を増やし、場合によっては資格取得なども活用します。税理士資格だけでなくTKCの巡回監査士やFreeeの認定資格などを推奨し、資格に対して給与や合格祝い金などを設定することで、意欲を高めてもいいですね。


2~3年目には、指導やフォローなく自律して成長を目指す時期になります。

ある程度難しいお客様の差部担当などを経験させ、経験を積ませていきます。特にリサーチや提案を求め、自律的に考える力を養っていきたいところです。

事務所内で勉強会などを行っている場合は、その講師役などを任せてみるのも良いでしょう。また、キャリアパスの中で専門性について考えさせるのも良いかもしれません。事業承継や相続、補助金・助成金、など決算・申告以外の周辺業務について調べさせたり、AI やクラウドのさらなる活用を模索させるなど、バックアップを受けながらも、自らモチベーションをもって取り組める環境構築が求められます。



オンボーディングは事務所の成長戦略


入社から3年目までのオンボーディングについてみてきましたが、どのように感じたでしょうか?単に入社してきたスタッフを先輩が面倒を見る、というやり方とはまったく違うことがわかっていただけると思います。オンボーディングには事務所の体制整備が欠かせないのです。


実際、体制整備されている状況とされていない状況では、効果はまったく違います。


  • 業務マニュアルの整備

  • メンター制度の導入

  • 定期的な1on1面談

  • キャリアパスの明示


こうしたものは少しずつでも整備を進めていきたいところです。

実際、オンボーディングを適切に行っている企業では、定着率が最大50%も向上する、という調査結果もあります。税務会計業界は入社したスタッフの約3割が3年以内に離職する、というデータもあります。オンボーディングをうまく活用し、事務所の競争力強化に努めたいところです。


ただ、このような説明をすると「新人にそこまで媚びなければいけないの?」という所長もおられます。これは媚びているのではなく、事務所を成長させる戦略の一つです。実はこのオンボーディングは、新人スタッフだけでなく、新規顧客への対応に応用することもできます。


オンボーディングの比較


入社したスタッフ

新規顧客

目的

定着率向上・早期戦力化

信頼構築・継続率向上

主な課題

離職防止・業務習熟

初期対応不足による離脱

施策例

メンター制度、研修ロードマップ、文化共有など

初回面談、チェックリスト、フォローアップ

成果

定着率改善、採用・育成コストの削減

継続率向上、顧客満足度強化


このように、オンボーディングは採用した人材を辞めさせない、というものですがそれを「顧客を離脱させない」という施策に応用することができるのです。おんーぼディングを体系的に設計できる事務所は、今後も持続的に成長することができます。



ただ、こうしたオンボーディングを取り入れるのは、なかなか難しいでしょう。これは一つの制度を採用したからできる、というものではないのです。だからこそ戦略的に取り組むことが必要。状況によっては外部のサポートを受けてみるのも一つの手です。

私たち、TaxOffice-Supportは、事務所の体制強化の支援も行っております。

オンボーディングを取り入れたいけど、どうやったらいいかわからない。

そんなときは、まずは無料相談からお気軽にお問い合わせください。



関連記事


コメント

5つ星のうち0と評価されています。
まだ評価がありません

評価を追加
bottom of page