いい人が採用できた、と喜ぶ前に
- 斉藤永幸
- 12月13日
- 読了時間: 7分

採用は最後まで気を抜かない
採用のお手伝いをしていると、面接が終わり内定を伝えて終わった、と考えて気を抜いてしまう所長をよく見かけます。気持ちはわかるのですが、ここで気を抜くと後々トラブルになってしまうこともあります。採用できた、と喜ぶ前に気を付けなければいけないポイントについてまとめてみました。
まずやらなければいけないのが、前職の事務所との関係です。経験者採用の場合、どこかの税理士事務所を退職し、あなたの事務所に入社します。前職の事務所は顧客を取られたりしないように法律に反しないように転職に制限をかけている場合があります。税理士事務所ではそこまで厳しいものを設けていることは少ないのですが、たまに競業禁止規定などを設け、転職した先に顧客が流出しないようにしている事務所もあるので、入社前に確認しましょう。
同時に気を付けたいのが、不採用者に対する通知です。
税理士業界は意外狭く、採用活動で評判が悪くなってしまうと、その噂はなかなか消えません。特に不採用になった人は、そもそも事務所に対して良い印象は持たないでしょう。だからこそ、いわゆる「お断り」の通知は、波風の経たないように気を付けなければいけません。
たまに、面接に通過した人だけ通知する、というやり方をやっている事務所がありますが、それは避けた方が良いでしょう。面接を受けた求職者に対しては、採用・不採用にかかわらず、必ず何日以内に結果を通知します、とお伝えするのが無難です。
メール、電話、手紙など、どのような手法でも良いので必ず本人に伝えるようにしましょう。ただ、あらかじめ通知の文言をしっかり考えることができ、言った・言わないで問題になるのを防ぐためにも、記録にも残しておけるため、メールを使用することをお勧めします。
不採用通知のメールは、単に「不採用でした」では冷たい印象を持たれてしまいます。例えば以下の例文を元に、アレンジして伝えることをお勧めします。
例文
〇〇 〇〇様(応募者のフルネーム)
●●●税理士事務所、採用担当の△△と申します。
この度は、多数の税理士事務所の中から弊社へご応募頂きまして、誠にありがとうございます。
また、先日は弊社までご足労いただいたこと、重ねて御礼申し上げます。
さて、面接選考の結果についてですが、厳正なる選考の結果、
誠に残念ではございますが、今回はご希望に沿いかねる結果となりました。
ご期待に沿えず大変恐縮ではございますが、ご了承くださいますようお願い申し上げます。
尚、お預かりした応募書類につきましては、弊社にて責任を持って破棄いたします。
〇〇様のより一層のご健勝とご活躍を心よりお祈り申し上げます不採用通知は基本的に、簡素な書き方でも大丈夫です。
ただ、事務所からの公式な通知であるので、失礼の内容きちんと挨拶や謝意を伝えるようにしましょう。応募してくれたことや、面接を受けてくれたことに対する謝意を伝えたうえで、結果を伝えるようにするのが無難です。
また、預かっていた履歴書・職務経歴書などの書類の扱いについても必ず載せましょう。
履歴書などは住所や電話番号、学歴・職歴など、重要な個人情報が詰まった書類ですので、採用活動を始める前にどのような扱いにするのかあらかじめ決めておいた方が良いでしょう。
近年では、履歴書・職務経歴書をメールで添付する、という応募も増えています。そのため「事務所で責任をもって破棄する」というやり方に統一することをお勧めします。郵送や持参で預かっていた場合は、希望があれば返却する、くらいのやり方で良いのではないかと思います。
人材紹介会社を使っていた場合は、本人だけでなく紹介会社の担当者にも連絡することを忘れてはいけません。採用は今回のみでなく、この先も人材が不足したり、事務所の成長に伴って行うもの。紹介された人がどのような理由で不採用になったのか、を担当者に伝えれば、その先の紹介を希望した際の参考データとなります。
必ず書面で契約を結ぶ
たまに個人の小規模な税理士事務所であるのですが、いわゆる「口約束」で雇用をしてしまうところがあります。これは非常に危険です。特に、面接でこう言われたのに入社したたら違った、といってトラブルに発展してしまうことも多いですね。ほとんどの原因は互いの認識のズレや記憶違いなどですが、言った・言わない、の問題になると収拾がつかなくなることもあります。
そのため内定を出す段階で、必ずメールや書面で労働条件などを通知し、労働条件通知書や雇用契約書を作成しましょう。雇用契約書にして2通作成し、労使ともに署名捺印し、それぞれで保管する、までできれば大丈夫です。
労働条件通知書として記載しなければいけないものとしては、以下のようなものが挙げられます。
(1)雇用期間
(2)終業の場所、従事すべき業務
(3)始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇
(4)賃金の決定、計算、支払い方法
(5)退職に関する事項(解雇の事由なども載せる)
最低でもこれらの情報は必ず明記しておきましょう。
他にも、できれば載せておきたいのが、次のようなものです。
・退職金などの精度があれば、条件・範囲、計算方法、支払い時期などに関する事項
・手当などに関する事項
・研修などに関する事項
・求職に関する事項
労働条件通知書などは義務ではありませんが、認識のズレをなくし、再確認することでお互いトラブルを防ぐことができます。
雇用契約の際に注意すること
この労働条件通知などでトラブルになりやすいのが、募集の際の条件と違う場合です。
例えば、月給28万円以上で募集をしたのに、面接に来た人が経験などが条件より低かった。でも伸びしろは感じるので26万円だったら採用したいのに…、といったような場合です。
この場合、26万円を提示し、募集条件より低くても求職者が承諾すれば、雇用契約を締結できます。ただ、非常にトラブルになりやすいのです。
税理士事務所ではあまり見ないのですが、時々求人サイトで、求めるスキルが低いにもかかわらず募集する職種の平均給与を大きく上回っていたりする広告を見かけることがあります。こうした募集は、給与の高さで応募を集め、面接などで募集条件を下回る条件を提示し、なし崩し的に採用をする、ということが狙いである場合があります。
そのようなつもりはなくても、そうみられてしまうと一気に悪評が広まります。あそこの言っていることはあてにならない、となり将来の採用に大きなダメージを与えてしまうこともあるのです。
さらに状況によっては、求人を載せた媒体にクレームが入り、関係性が悪化することもあります。そうなると次の募集では採用手法が限定され、採用の幅を自ら狭めてしまうことにもなりかねないのです。
特に労働条件通知書は、その証拠ともなります。
募集の際の条件を下回る労働条件の通知や、雇用契約は避けるよにしたほうが良いでしょう。
いかがでしたか。
採用というと、内定を出して終わり、と感じますがそこからもいろいろと気を遣う作業があります。ここで手を抜いてしまうと、せっかく入社した人がすぐに退職したり、場合によっては事務所の評判に傷がつく、といったことにもなりかねません。
労働契約書や雇用条件通知書や、不採用通知の文面などは、あらかじめひな型を用意しておいたほうが無難です。事前準備ができていれば、最後まで気を抜かず、手続きなどを粛々と進めることができます。
もし採用に関する疑問や質問がございましたら、こちらよりお気軽にお問い合わせください。
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