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税理士事務所で判断ミスを防ぐには(バイアスの怖さ)

ファクトチェックと書かれた写真
情報収集の段階で間違えると、判断もまた間違うことになります

バイアスとは何か


先日上げた記事、『統計データを税理士事務所で活用する』の中で、一次情報の大切さについてお伝えしました。なぜ一次情報が重要かというと、メディアから流れてくる情報には必ずバイアスがかかっている、からです。情報には必ず、なんらかの意図があります。バイアスに気づかず、情報をそのまま鵜吞みにしてしまうと、時に大きな判断ミスを招き、場合によっては事務所の信用問題にまで発展することもあります。

そこで今回は、このバイアスについてちょっと深堀していきましょう。


税理士事務所が関連するバイアスは、大きく分けて2種類あります。一つは受ける情報にかかるバイアス。もう一つは、あなた自身が判断を下す際のバイアス、です。では順番に見ていきましょう。


基本的に高齢な方ほど、メディアに対する信用度は高いといわれています。まずは下のグラフを見てください。


総務省の統計データ、メディアの信頼度のグラフ
各メディアに対する信用の状況

(出典:総務省(2018)「平成29年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」)


20代、30代のテレビに対する信頼度は50%台で低く、逆に60代になるとになると70%を超えます。10代もテレビに対する信頼度は高いのですが、新聞はなじみがないからか信頼度は低く、新聞・テレビ共に70%を超えたのは60代だけです。それに対し、インターネットの信頼度はマスメディアに対して総じて低いのですが、他の世代が25%を超えており、40代では38.6%に対し、60代は24%にとどまっています。つまり高齢になるほど、マスメディアに対しての信頼度が高く、ネットメディアは信頼していない、ということがわかります。


では、果たしてマスメディアはどこまで信頼・信用して良いものなのでしょうか。先日お伝えしたように、マスメディアであっても、発信する情報には必ずバイアスがかかっています。バイアスという言葉はいろいろな言葉に置き換えることができますが、ここでは「意図」と言えばわかりやすいでしょうか。どんなに公正・中立をうたっても、人が情報を発信する時点で必ず「意図」が発生するのです。

ではマスメディアの報道では、どのようなバイアスが存在するのか見ていきましょう。


・表現バイアス

民放では報道といっても、視聴率が求められることも多いです。そのため視ている人の感情をあおる必要があります。ニュースなどで過度に恐怖や不安をあおったりすることが多いのはこのためです。表現が大げさだと感じる際は、注意が必要です。


・サンプリングバイアス

大手メディアではよく、世論調査などを行います。この際に用いられるのが電話調査です。この調査は固定電話を対象としているため、高齢者の意見が反映されやすく、若者の意見が反映されにくくなります。


・選択バイアス

特定の情報を元に、そのデータを裏付けるために間違った対象を元に調査を行う際に発生するバイアスです。例えば「特定健康診断を受けた人は長寿だ」という結論が先にあり、受信者はもともと健康意識が高いそうであるため寿命が長くなりやすい、などになります。


・編集バイアス

さまざまな利害関係がある中で、取材先やスポンサーに気に入られようとストーリーを校正してしまうバイアスです。例えば公共事業の費用対効果を示す統計が、財務省やスポンサーの意向に沿った形で強調されるようなケースもあります。


・両論併記バイアス

実際は圧倒的に片方の意見が正しいのに、メディアは必ず両論併記という原則がありますが、この中立性を強調するためにあえて両論併記をする場合があります。例えば、客観的に正しいと判断できる場合でも、両論を併記することで、片方の意見が必ずしも正しいわけではない、と誤解を招くことがあります。


このように報道などでは、同じ統計データを使ったとしても、数字そのものより切り取り方・表現方法・対象の偏り、によってバイアスが生じやすいのです。特に世論調査のように社会的影響が大きいテーマでは、統計の扱い方が国民の意思決定に直結してしまいます。



税務会計業界でも多い!?統計データのバイアス


ただ、こうした様々な情報のバイアスは、マスメディアに限った話ではありません。特に広告などではわざとバイアスを駆使し、効果を上げようとしている例もあります。実際に税理士事務所のHPなどでもいくつか見かけたことがあります。


・平均値を誤用

「顧客1件当たり、平均売上○○億円」というような表現はよくあります。しかし実際には一部の大口のお客様がいて、平均を押し上げているに過ぎない、という場合があります。例えば、事務所が独立するときに前にいた事務所からのお客様で売り上げ30億の企業があったとします。しかし他は売上1000万円台の中小企業ばかり。この時、中小企業が50社あったとしても、平均は6800万円になります。

中小企業がメインの税理士事務所で、お客様の売り上げが平均6800万円、と数字を出してしまうと事務所の実態が見えず、収益構造を誤解させてしまうことになります。


・割合の抜き取り

「お客様の80%が当事務所のサービスに満足いただき、継続的にご利用いただいています」

これもまた、広告などで欲見る表現です。注意したいのが母数です。回答者が10人だった場合でも、8人が満足と回答すれば80%になります、さらにこうした調査に進んで答えてくれるのは、事務所に好意的なお客様です。サンプル数が少ないのに「大多数」が満足している、という印象を与えてしまいます。


・累計と年次の混同

顧客件数500件突破!というような表現もよく見かけますね。ただ、ここで重要なのはそれが類型か年次か、で話が変わってきます。実際には一昨年200件、昨年180件、今年120件と新規顧客は減少傾向であったとしても、累計で表現すると500件となってしまいます。成長しているように見せて、実際には停滞が起きているのを隠してしまうことになります。


・相関と因果の混同

これはマスメディアのデバイスのところでみた、選択デバイスに似ています。例えば、クラウド会計導入事務所は利益率が高い、という表現があった場合、自分の事務所もクラウド会計を導入すれば利益率が高くなるんだ、と考えてしまいます。しかし実際は、クラウド会計を導入する事務所は、そもそも新しいものを積極的に取り入れ、成長志向の強い事務所が多いため、利益率が高い、ということもあります。クラウド導入が直接の原因と誤解させてしまうのです。


・比較対象の不適切さ

当事務所は地域最大級、お客様は平均の2倍!などはどこが対象なのかわかりません。地域とは事務所がある狭いエリアかもしれませんし、広くエリアを設定しているかもしれません。また実際は、大手の企業は別のところに依頼しており、自分たちのところは小規模事業者ばかり、ということもあります。見せ方次第で優位性を過大に演出することができてしまうのです。


このように、対お客様にアピールする上で、様々な手法があります。税務会計業界では「顧客数」「売上」「満足度」「費用対効果」などの様々な統計が使われますが、平均値、割合、時系列の切り取り方で誤解を与えてしまうことも多いのです。それをしっかり認識したうえで、お客様や求職者にアピールするのであればまだ良いのですが、無自覚にやってしまうと信頼性を損なうことがあります。

これを防ぐには、母数を明示し、平均値だけでなく中央値を示す、時系列で推移を見せる、といった工夫が必要です。



判断ミスを招く認知バイアス


世の中に発信されている情報には、様々なバイアスがかかっていることをお伝えしてきましたが、ここからは受け取る側にもバイアスが働く、ということをお話ししていきます。それが認知バイアスと呼ばれるものです。


認知バイアス自体は、じつは悪いことではありません。脳が情報の負担を軽くするために用いる「思考のショートカット」と言われています。誰もが認知バイアス陥る可能性がありますが、特に優秀な人は過去の成功体験を元に施行を組み立てていることが多いため、認知バイアスが強く作用する傾向があるのです。そして自分に自信を持っているがゆえに、自分と異なる意見や不利な情報を無意識に無視したり、軽視してしまいます。

その結果、判断ミスをしてしまうのです。

税理士事務所の所長は優秀な人が多く、強いリーダーシップを発揮する人も大勢います。そういう人ほど、実は認知バイアスに陥る危険性が高いのです。そして所長という立場で判断ミスをしてしまうと、当然事務所に大きなダメージが発生します。

これをいかに防ぐか、ということを考えていかなければいけません。


・コミュニケーションを活発にし、フィードバック文化を根付かせる

バイアスに陥らないために重要なこと。それは活発なコミュニケーションです。認知バイアスに陥って判断ミスをするのは、他人の意見に耳を貸せなくなったとき。特に異論を封じるような事務所では強くバイアスが作用してしまいます。

積極的に「異論」が飛び交う事務所にするためには、失敗や間違いを許容する文化が必要です。失敗してしまうと強い叱責がある、間違いが許されない職場では、失敗を恐れて「異論」が生まれにくくなります。

逆に、普段からフィードバックなどが根付いている事務所では、バイアスの危険性は減少します。


・多様性を確保する

同じような経歴や価値観ばかり持つ組織の中だと、バイアスは強く働きます。認知バイアスの特徴として集団思考というものがあります。結束誠也同庁圧力を優先するあまり、スタッフが異論を唱えることをためらってしまい、結果として不合理、または危険な意思決定に至ってしまうこともあります。

これを防ぐには、採用基準や組織構成の見直しが効果的です。例えば、ずっと税務会計業界を経験してきた人だけの事務所であれば、企業出身者を採用したり、新卒を採用するなどして、事務所の人材に幅を持たせる、などが効果的ですね。


・判断プロセスの見える化を進める

所長の頭の中だけで意思決定がなされると、ブラックボックス経営の温床となってしまいます。そうなればバイアスがかかっているのか、他の人からは判断できません。

事務所全体に影響を与えるような判断をする際には、なぜその結論に至ったのか、判断の根拠やプロセスを記録し、事務所で情報共有すると効果的です。


・Wチェック体制の構築

スタッフがいるとブレーキ役になってくれる場合もありますが、一人所長などの場合はそれをとどめる人はいません。だからこそ活用したいのがAI 。AIはバイアスを防ぐ強力なツールです。入力されているデータが正しければ、そのデータに基づいた客観的な判断をしてくれます。

人間の経験とシステムの客観性を組み合わせることで、判断の精度を飛躍的に高められます。


このように認知バイアスは個人の能力の問題ではなく、誰にでも働く脳の仕組みです。バイアスを完全になくすことができない以上、その存在をしっかり認識し、コントロールしていくことが重要になってきます。同時にバイアスによる判断ミスを防ぐには、周囲が気づき、止められる環境作りが求められるでしょう。同時に、間違った判断の「元」となるような情報のバイアスをしっかり意識することができれば、情報に振り回される、ということも減ってきます。

経験(バイアス)×チェック体制×AI 、この三位一体の取り組みこそが、あなたの事務所を次のステージへ導きます。間違った判断をして、事務所のリスクを減らすためにも、バイアスにどう向き合っていけばいいのか考えてみてください。


もし、よくわからない、こういう場合はどうしたらいい?など疑問や質問がございましたら、上部にある無料相談ボタンから、もしくはこちらよりお気軽にお問い合わせください。



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