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税理士事務所ができる災害対策

災害持ち出し用のバックと備蓄品の写真
災害対策を進めスタッフの命を守るのは、雇用をする事務所の義務です

災害に備えることは義務


日本はもともと、地震大国であると呼ばれるほど地震の多発地域です。

また、近年では豪雨災害なども頻発し、気候変動の影響から極端な天候が増えると予想されています。年々、こうした自然災害のリスクは高まっているといって過言ではないでしょう。

それに対し、税理士事務所もまた、無防備ではいられません。


注目したいのが、労働契約法第5条で「労働者の安全への配慮」を義務付けていること。この安全配慮義務を果たしていないと判断されれば、損害賠償となってしまいます。

例えば、2015年1月の「仙台地方裁判所の第一審判決」です。東日本大震災で被災した自動車教習所うが訴えられたこの事件では、自動車教習を受けていた教習生25名に加え、アルバイトが1名亡くなりました。裁判では、教習所が安全配慮義務を怠ったとして、19億円の損害賠償命令を下されました。

災害によりダメージを受けているところに、さらに賠償となってしまえば致命的です。そうしたリスクを負わないためにも、事前に「備えて」おくことが重要です。


ただ、税理士事務所はどのように災害に備えていけばよいのでしょうか。災害の備えを完璧に行うことは難しいもの。優先順位をつけて、一つひとつ実施していくことが重要です。

そこでお勧めなのが、「やらなければいけないこと」と「やったほうがいいこと」をしっかり切り分けることです。

まず「やらなければいけないこと」から順次取り組み、徐々に「やったほうがいいこと」へと移行することで、災害の備えを進めていきましょう。



やらなければいけないこと、それは命を守ること


まず、絶対に「やらなければいけないこと」は、災害時に命を守れるようにする、ということです。


「やらなければいけないこと」の中で最初に行いたいのが、非常用持ち出し袋の用意です。自宅にいるときに災害が起きれば、それぞれが家庭で用意しておいたものを持ち出せますが、職場で被災した時に非常用持ち出し袋がなければ意味はありません。税理士事務所は所内で過ごす時間も長いので、ぜひ事務所の中にも人数分の非常用持ち出し袋は用意しておきたいところです。

下記は首相官邸が公開しているチェックリストです。これに沿って準備をしておけばいいでしょう。ただ、職場で用意しておくものなので「こどものための備え」や「高齢者のための備え」は必要ありません。また、職場でスタッフから、必要なものと不要なものの意見を聞き、調節するのも良いでしょう。

また、最低限の備蓄を所内で行っておきます。水や保存食は賞味期限もあるので、定期的に確認し、補充や入れ替えができる仕組みを作っておきます。同時に所内の設備を見直し、キャビネットやデスクなどが地震などで動かないよう固定する、などの対策もしておきたいところです。


災害時に持ち出すもののチェックリスト

続いてやるべきは、いざという時の避難ルートの周知です。

住んでいる場所と職場が離れている人は、通勤ルートなどはわかっても事務所の周辺にどんなものがあって、避難場所はどこになるのかわからない、という人もいるでしょう。一度は歩いて、スタッフ自身が避難ルートを確認するようにしておくと良いでしょう。

また、ハザードマップなどの情報を共有し、事務所のある場所の危険度など皆で共有しておきましょう。


それと連絡方法なども決めておいた方がいいでしょう。

いざという時の安否確認をどうするのか、は重要です。特に担当制でお客様先を訪問する頻度が多い事務所では、これは必ずやっておきたいポイントになります。被災時には携帯電話などがつながりにくくなります。一般のスタッフであれば、災害用伝言ダイヤル「171」を利用するなどで十分かもしれません。しかし業務で外出する頻度が高いスタッフに対しては、即応性がある、複数の連絡手段を確立しておく必要があります。

電話回線だけでなく、インターネット回線を使った連絡方法はもちろん、LINEなどのSNSやアプリを使った緊急連絡手法を共有しておきたいところです。さらに料金などはかかりますが、ネット上で安否確認ができるサービスを提供しているところもあるので、検討してみても良いかもしれません。


忘れてはならないのが、判断の基準をしっかり定めておく、ということです。

巨大地震などであれば、すぐに避難などの判断ができますが、台風などの場合は事前に対応する時間的な余裕もあります。これは単に避難の目安を定めればいい、というものではありません。どれくらいの状況であれば出勤を停止するのか、どれくらいのレベルであれば予定を変更しお客様先から即時に戻るようにするのか、どのような状況になったら事務所での仕事を切り上げ帰宅するのか、など事務所の状況によってある程度の基準を定めておきます。

これは一律に基準を定めることはできません。事務所があるのは雑居ビルなのか、マンションの一室なのか、低層階なのか、高層階なのか、などによっても判断は大きく異なってきます。低層階で浸水などの危険があれば、早めに避難を開始する必要がありますし、防災レベルの高いオフィスビルの高層であれば、非難をするよりかえって事務所にとどまっている方が安心かもしれません。

こうした様々な要素を勘案しながら、基準を定めていくのです。

ただ、避難先の情報や緊急連絡、判断の基準など一つひとつスタッフに周知するのはたいへんです。そこで、これらをまとめて防災時の対応マニュアルを作成し、共有しておくとさらに良いでしょう。



税理士事務所だからこそやっておきたい災害対策


ここまでは防災対策としての「基本」であり、スタッフの命を守るために必ずやっておかなければいけないことです。ただ、ここからは税理士事務所としていかにリスクを減らすのか、について考えていきたいと思います。


まず考えなければならないのが、情報の保護、確保です。

災害でデータが失われたから、決算や申告に間に合いませんでした。それでは事務所の信用が失われてしまいます。また、災害時にはトラブルがつきもの。普段は事務所のキャビネットなどに保存されている資料も、被災してしまえば災害復旧などで不特定多数が現場に入り、人目に触れるという危険性もあります。そのため、税理士事務所に集まっているお客様の情報を災害からどのようにして守るか、それを考えなければいけません。


ここでポイントとなるのが、普段どのようにして情報を保存しているか、です。紙ベースで保存している場合、かなり危険です。大雨などで浸水してしまうと、紙の保存性は一気に失われます。インクなどがにじみ、判別できなくなることも。また地震やそれに伴う火災などで焼失、という危険性もあります。よく、業務の効率化やSDG'zなどを目的にペーパーレスを推進する企業がありますが、データ化しておけば複製なども容易になるため、災害に強くなるのです。


また、データ化していたとしても、それがどのようにして保管・保存されているかによっては危険性は紙と変わらないこともあります。CDなどでデータを保管している、それぞれのPCなどで保存している、などの場合は危険性はかなり高いですね。

お勧めなのがクラウドなどを利用し、ウェブ上での保存です。近年、クラウドサービスは非常に安価になりました。以前ならサーバを契約し、そこでバックアップをする必要がありましたが、コストが高いのがネックとなっていました。しかしクラウド上でのデータ保存であれば、かなりリーズナブルです。また、大手の行っているサービスであれば、セキュリティ性能も高いので、個々でデータのバックアップを用意するより安全性は高まります。

フリーやマネーフォワードなどを利用している税理士事務所では、既にデータのバックアップが当たり前のように行われていますが、他の会計ソフトを利用している事務所はそのデータがどのように保存されているか一度確認しておく必要があるでしょう。


また、被災後にどのように業務を継続していくか、についても考えておきたいところです。

コロナ禍を乗り越えた事務所では、リモートワークのノウハウなどがあると思います。これを活用することをお勧めします。ただ、コロナ禍より時間がたつと、徐々にその仕組みが利用されなくなってきています。一度はスタッフ全員がリモートワークに対応できる状況を作ったにも関わらず、その後に入社したスタッフは必要な機器が渡されていない、といったところもあります。

普段は利用しなくても、いざという時リモートワークができる体制は構築しておく必要があるでしょう。そのため半年に一度、年に一度、などを決め、定期的に利用できるかどうかスタッフと確認しておくのがよいのではないでしょうか。



補助金を活用し負担を減らす


そして、「やったほうがいい」災害対策として、最も大きなもの。それが補助金・助成金の活用です。補助金・助成金というと、採用や雇用のシーンで活用している事務所は多いのですが、税理士事務所での防災面で活用はそこまで進んでいるとは言えません。

災害対策はどうしてもお金がかかります。そのため重要性は認識していながらも、なかなか対策を勧められない、といったところも多いのではないでしょうか。しかし、防災については、国も地方自治体も関心が高く、そのため補助金・助成金が充実しています。それらを活用すれば、実質的なコストを大幅に削減し、負担をかなり減らして災害リスクを減らすことができます。

では、どのようなものがあるか簡単に見ていきましょう。


1. 社会環境対応施設整備資金融資制度

2. 中小企業防災・減災投資促進税制

3. IT導入補助金


国の制度として防災に役立てることができるのは、代表的なものはこの3つです。

1,2に関しては、こちらは事業持続力強化計画(BCP)の認定を受けることが前提となります。BCPとは、企業が自然災害、テロ、システム障害などの緊急事態に対して事業資産の損害を最小限に抑え、中核となる事業の継続または早期復旧を可能にするための計画です。中小企業が策定したこの計画を経済産業大臣が認定する制度であり、この「BCPを策定する」=災害対策を進める、といっても過言ではないでしょう。

そのため、税理士事務所が補助金・助成金を活用しながら災害対策を行うのであれば、まずBCPについて情報を集め、認定を受けることができるように対策を進めていく、といった順番になります。

1の融資制度は、施設の耐震化やデータバックアップ用のサーバ、非常用の発電機などの設備導入などで利用することができます。また、2の税制は、特別償却16%の税制措置を受けることができます。

そしてつい忘れがちなのが3のIT導入補助金です。IT導入というと、それが防災とどう結びつくかピンとこないという人もいるでしょう。しかし、前述したように災害対策としてITシステムを導入することは重要です。重要なお客様情報を保護するため、また被災時にスタッフの安否確認やリモート環境の構築など、近年の防災とITは切っても切り離すことはできません。この補助金はかなり大きく、2024年度の補助額は最大で450万円にもなるので、うまく活用できればかなりの負担軽減を図ることができるでしょう。


こうした「国」の制度だけでなく、地方自治体はそれぞれ独自の補助金・助成金の制度があります。例えば東京都では、中小企業振興公社がBCP実践促進助成金を実施しています。これはBCP策定済みの中小企業を対象として、安否確認システムや非常用備蓄品、基幹システムのクラウドかなどに活用することができます。助成金額は中小企業で1/2以内、小規模事業で2/3以内、助成額は10万円~1500万円にもなります。

他の自治体でも似たような補助金・助成金を実施しているところは多く、事務所のある自治体に一度確認してみることをお勧めします。


企業にとって災害対策は非常に注目度の高い話題です。そのため税理士事務所が積極的に取り組み、補助金・助成金をうまく活用することができれば、それを事務所のノウハウとして蓄積することができます。このノウハウをお客様企業に提供し、災害対策を進めれば、事務所だけでなく「地域」の災害リスクを減らすことにもつながります。

災害リスクを減らしスタッフを守り、事業の継続性を高める。そのうえで地域に貢献し、事業の拡大などにもつなげることができます。災害対策は単なる負担が増す防衛的な投資というだけでなく、別の見方をすれば事務所の価値を高めるより積極的な投資ともいえるのです。


災害対策を進めたいけど、どういう順番で進めたらいいかわからない。もっとこの部分を詳しく聞きたい。そんなご要望がございましたらこちらからお気軽にご連絡ください。



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