独立後、最初の採用が事務所の成長スピードを大きく左右する
- 斉藤永幸
- 12月6日
- 読了時間: 6分

最初の採用は苦労する
ある税理士から質問が来てました。
「今まで一人でやってきたのですが、仕事も増えてきたのでスタッフを雇おうと思うんですが、最初に雇うとしたらどんな人がいいですか?」
これは非常に重要な問題です。事務所に勤めている状態で、独立・開業の相談をされた時にするアドバイスは「独立後に声をかけることができる人脈を作ってから独立したほうがいいですよ」というもの。最初の段階では、採用は非常に難しいのです。特にスタッフ数が0人から1人にするのは苦労します。
最初は事務所の売り上げなどはそこまで大きくありません。当然、採用にかけるお金もほとんどないでしょう。求職者からすれば、所長一人の事務所で働くのはプレッシャーもかかり、敬遠されがちです。
そのため最初の2~3人くらいまでは、基本的にWebでの募集などではなく、独立前に培った人脈で声をかけるか、知り合いからこの業界に興味のある人を紹介してもらうしかありません。そのため独立前の事前の準備が必要なのです。
しかし全員が事前に最初の採用に当たりをつけてから独立できる、というわけではありません。そのためWebやハローワーク、時にはSNSなども利用し声をかけ、採用するしかありません。ただ、ここでどんな人を採用するかで、事務所の将来が左右されます。
反論もあるかもしれませんが、ここでお勧めしたいのは未経験で人物重視での採用です。
初期段階の余裕がないときに、なんで経験者ではなく未経験者を採用するのか。その理由はいくつかあります。
最初のスタッフは未経験の方がお得?
一つは、最初のスタッフとして良い経験者を雇うハードルが非常に高い、ということです。
独立前に一緒に働いていたり、すでに友人の経験者などであれば問題ありません。困っている友人を助けよう、一緒に働いたら楽しそうだ、などの動機があります。しかし採用活動の時に初めて会う経験者は、わざわざスタッフがほかにいない職場で働くメリットが薄いのです。考えられるのは、自分も近い将来独立を考えていて、そのノウハウを得たい、くらいでしょうか。この場合はリスクも大きいですね。
ある程度の規模になれば、スタッフが独立時にお客様をいくつか連れて行ったとしても、そこまで大きな問題にはなりません。しかし再初期の段階ではまだまだお客様の数も少なく、入社して1年や2年でお客様を連れて独立をされてしまうと、ダメージが非常に大きくなります。それに経験豊富な人材を採用しようとすれば、どうしても給料は高くなります。最初はどうしても、事務所の成長のために投資が必要になるので、給料が高いとそれがじわじわと影響を与えることもあります。
逆に未経験者を採用する場合は、給料も比較的安くてすみます。同時に所長側だけでなく、求職者側から見ても、一人所長の事務所に入社するのにはそれなりにメリットがあります。
この業界は経験者は引く手あまたですが、未経験者が応募できる事務所は一気に減ります。特に地方などになれば、未経験で働ける税理士事務所は限られるでしょう。そのため、スタッフゼロの事務所であっても働きたい、という人がいる可能性があるのです。
また、複数人のスタッフがいる事務所に比べて、二人しかいないので長い時間接することになります。その際、明確な上下関係があると非常に管理が楽になるのです。経験者の場合、時には税理士より経験豊富な部分があります。そうした部分で税理士とスタッフとの間に齟齬が出ると、一気に関係性が混乱します。人数が少ない時は、まず安定させることが急務。どちらが正しく、どちらか間違っている、といった明確でない選択肢は、所長が決定する必要があります。しかし経験者はつい以前の事務所だったら、と比べてしまいそれが事務所を不安定にさせるのです。
その点、未経験者のほうがより安定しやすいのです。人数がある程度増えてきたら、複数いる経験者採用の意見を聞き、それをまとめて事務所の方針などに反映させることは意味がありますし、職場としてより良い方向に向かうでしょう。しかし二人しかいない事務所では、経験のあるスタッフの意見が「重くなりすぎる」のです。特に2~3名の事務所のうちは、所長が皆を引っ張っていく、そうした体制でないと動きは鈍くなり、成長は止まってしまうのです。
さらに付け加えるなら、所長とスタッフ、二人の事務所ではしっかり面倒を見ることが可能です。未経験であっても、所長がちょっと意識をすることで一気に成長を促すことができます。スタッフが増えてくるとそうはいきません。それこそ所長のかばん持ち、丁稚のように手取り足取り育てることができれば、自分と同じ意識を持ったスタッフを確保することができます。これが将来、事務所が拡大してきたときに活きてきます。
経験者の場合、なかなかそうはいきません。業界経験が長いと「この仕事はこれが正しい」というような価値観が固まっています。それを塗り替えるのは一苦労。それならある意味「染まっていない」未経験の方が楽なのです。
最初に採用すべきは気の合う人材
上記のような理由から、最初は未経験の人を採用したほうが有利だと考えます。
もちろんある程度の知識があるに越したことはありません。一から教えるといっても、簿記の用語などは最低限、知っていないと教えるのにも苦労します。ただ、税理士一人で独立した段階では、お客様もそこまで大きいところはないでしょう。そのため会計処理といっても、そこまで複雑ではありません。単純な処理から徐々に経験を積ませることができるので、知識や資格などはそこまで求める必要はありません。せいぜい基礎がわかって、ワードやエクセルが使え、メールやブラウザでHPの検索ができる、くらいで十分なのです。
重要なのは人間性の部分です。これはコミュニケーション力や柔軟性、といった難しい話ではなく、所長と「気が合うかどうか」です。
二人しかいない事務所なので、当然人間関係は濃くなります。その時、互いに気を使いすぎては消耗が激しくなります。所長と同じ方向性を持っている、近い考え方をする、そして何より話していて苦にならない。そんな人材こそ、最初のスタッフとしてふさわしいのではないでしょうか。
初期段階の事務所では、所長には経営を軌道に乗せるため、大きなストレスがかかります。そこでスタッフと気が合わないと、所長にかかるストレスが一気に倍増してしまうのです。
事務所を立ち上げたばかりでは、面接のノウハウなども蓄積されていません。その人が優秀かどうか、判断する基準もないでしょう。であるならば面接では最低限の確認を行いつつリラックスしてお茶でも飲みながら、率直に意見交換をし、自分と気が合うかどうかの確認をした方が有意義です。
採用に関しては正解はありません。この意見が絶対ではないのです。ただ、事務所を立ち上げて最初にスタートダッシュを決める税理士は、このパターンが多いように感じます。
参考の一つにしていただけると幸いです。
何か意見や、こういったパターンだとどうしたらいいの?などの疑問があれば、こちらからお気軽にご連絡ください。
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